Monster Hunter Delusion【更新停止】 作:ヤトラ
11/25:バサルモスの食性を忘れていたので、ポポからドスギアノスに変更。
―美しいという感性は、物に宿る。つまりは生き物も美しい
これは、私が雪山のとある村に専属ハンターとして住まうようになる前に、何かの本で読んで覚えた名言だ。
荒っぽい戦い方をするから勘違いされがちだが、私はこう見えても芸術……特に彫刻が好きだ。
だからこそ、モンスターの氷像を魔除けとして置くあの村が気に入って、専属のハンターとなった。
ポッケ村から離れた位置にあるとはいえ交流も深く、氷結晶がよく採れるこの村は恵まれていると私は思う。
そんな私がハンターを勤めて5年たった頃。雪山の奥でドドブランゴを狩り終えた私は、あるモンスターに遭遇した。
それは、氷の鎧を纏った岩竜……水に近い青色をしたバサルモスだった。
もちろん私は自分の目を疑った。何せバサルモスとは、本来は火山に住まう飛竜種だからだ。
それでも私は自分の目で見ているのが本物だと信じ……幻でないことを祈っていた。
雲から漏れる僅かな太陽光を受けて輝くその巨体は、とても美しかった。ポッケクォーツに勝るとも劣らない。
その青いバサルモスは全身を透明度の高い氷で包まれている。
岩の竜というよりは、氷の竜……『
分厚い氷で包まれた内側には、恐らく身を守るべき本来の鎧なのであろう、マカライト色の鎧が見える。
まるで鑑賞用の硝子の置物にも見えるそのモンスターは、私に気づくことなくのんびりと歩いていた。
好機とばかりに私はその後姿を追った。もっとその姿を見続けていたいと思ったからだ。
通常のバサルモスは、その重量感に似合う、ドシドシという音を立てて歩く。
だがこの青いバサルモスは違う。金属ではなく氷だからか、見た目に反して重々しい音はしない。
しかし、その大きさに加え、薄い雲から漏れる太陽光によって淡く輝くのだから、まるで黄金の塊のような印象を受ける。
同じ重量感溢れる姿でも、美しさが違うだけでここまで違えるものなのだろうか。
そしてエリア8にて、バサルモスが一匹のドスギアノスを見つける。ギアノスの群れから逸れたのか、あるいは縄張りを追い出された敗者だろう。
美しいバサルモスだが、ドスギアノスから見れば強敵らしく、逃げようと背を向ける。
しかしどういうわけか、ドスギアノスを見てバサルモスが動き出した。前へ向けて歩き出したかと思えば、其の場で転がり出したのである。
ゴロゴロと転がるものだから雪が体に纏い、一回りほど大きくなった身体がドスギアノスを押しつぶす。
やがて巨大な雪玉からドスギアノスが這い出てくるが、同時にバサルモスも姿を現した。身体が雪に埋もれていて動きづらいが、それでも逃げようと必死で走っている。
そんなドスギアノスの背に向け、バサルモスは何かを吐き出し、その液体が直撃。ドスギアノが動くに雪まみれになっていくではないか。あれはドスギアノスの氷液に近い物質なのだろうか?
やがて纏わりついた雪の重さに耐え切れなくなったのか、ドスギアノスの動きは鈍り、動かなくなる。追い出された際に傷ついていたのだろうか?
敵を倒したことにより、バサルモスは勝利の雄たけびを上げる。
雲から僅かに漏れた光が、バサルモスの氷結晶の身体を照らし、淡く輝かせる。私はその姿を、とても美しいと思った……。
――――
「……ってのが、ハンターを引退して彫刻家になった男の話なんだけどよ?」
「そんなの居るわけねーじゃん。ハンターなんて儲かる仕事をほっぽるなんて、アホだぜそいつ」
―時はしばらくして。
雪山には2人のハンターが笑いながら歩いていた。ランポスSシリーズとゲネポスSシリーズを着こなす男達は、ある依頼を受けてここまで登ってきた。
目標が見えるまで暇だというのである話に盛り上がっていたのだが……その話というのが、冒頭にあった雪山のハンターの話だ。
彼は氷のバサルモスに魅了されてからというものの、様々な事を考えるようになり、ハンター家業がおろそかになってしまったのだ。
以来、彼は自らハンターを辞めて信頼できるハンターに村を任せ、彫刻家となって過ごしている。
歳だったこともあって納得する者は多かったが、その男の変化に皆が戸惑っていた。
まるで憑かれたかのように日々モンスターの氷像作りに力を入れ、氷のバサルモスの話に熱を入れているからだ。
もちろん姿を滅多に見せないため、それは世迷言だと皆が諦めた。それでも男は語るのだ。氷のバサルモスを。
「大体、そんなモンスターがいるのなら目撃者が増えて、ギルドに知れ渡るもんだよな?」
「てーことはよ?そいつは大嘘つきってことか!ギャハハハハ!」
いつにだっているのだ、浪漫や誇りを蔑ろにして、金と名誉に目が眩んだ愚かなハンターが。
この世界は広い。ハンターズギルドですらその全てを把握しきれていないほどに。それを知るハンターもいれば、未だに井の中に留まる蛙のようなハンターもいる。
だからこそ、彼らには夢が無い。浪漫が無い。世界を知らない。危機感がない。
だからこそ……彼らは油断していた。
ドスギアノスを狩る簡単な依頼だったはずが、別のモンスターに襲われると知らずに。
―ズゴゴゴゴ
「な、なんだ、地震か!?」
突然の揺れに戸惑う男。雪崩が来ると思って即座に逃げようとするが、隣の男に止められる。
「いや違う……足元に何かいるぞ!」
ゆっくりと、しかし大きな揺れを起こして膨らんでいく白い地面。
男2人はその膨らみに対して左右に散ると、膨らんでいた白が一気に爆ぜ、その正体が姿を現した。
―氷結晶とマカライト鉱石を二重に重ねた装甲を持つ竜……氷のグラビモスだった。
体を揺すってこびり付いた新雪を払いのけ、翼を大きく広げて威嚇の咆哮を上げる。
透明度の高い氷結晶と、そこに閉じ込められたマカライト鉱石が、暗雲に漏れる太陽光により二重の輝きを見せる。
そんな姿だからこそ、男2人はつい見とれてしまったのだ。宝石のような輝きを持つグラビモスに。
「な、なんて綺麗なんだ……」
「あ、ああ……まるで宝石みたいな……」
ぽかんと口を空け、呆けた表情でグラビモスを見上げるハンター2人。
しかしだからこそ……彼らは欲に目が眩んでしまった。
「ドスギアノスなんかどうでもいい!こいつ狩るぞ!」
「ああ!売ればいくらになるんだろうな!?」
透明度の高い氷結晶と純度の高いマカライト鉱石。金に執着心のあるハンターから見れば、モンスターであろうとも宝石の塊でしかなかった。
本来の目的を忘れ、このモンスターを狩ることに精神を注いでしまった。
だが、氷のグラビモスはそんなことはどうでもよかった。
獲物だから狩るのではない。二人のあまりの騒がしさに目が覚めてしまったからだ。
つまりは苛立ち。苛立っていたからこそ、グラビモスは即座に行動を移した。
氷を纏っているから、火属性武器を持っている自分達は勝てる。そんな油断が、彼らを死に追い詰めた。
武器を振るおうとする前にグラビモスがガス攻撃を仕掛けてくると知ったときには、全てが遅かった。
それは毒ガスでも睡眠ガスでもなく、雪だるま状態にさせてしまう氷属性のガスだったのだ。逃げようにも全身を硬い雪で包まれてしまい、身動き一つ取れないでいる。
(ば、馬鹿な!?こんなの聞いてねぇぞ!?)
当然である。彼らが知っているのは、火山に住むグラビモスの攻撃方法なのだから。
しかし、雪山にいる時点で攻撃方法が違っているということを、傲慢な彼らは気づかなかった。
そんなハンター達の思考が恐怖に染まるよりも先に、力を込めるグラビモスの姿を見た。
―う、美しい……。
それが、太陽の光によって輝くグラビモスの姿を見た、三流ハンターの最後だった。
侵入者を亡き者にし、壁の奥深くまで押しつぶしたグラビモスは、再び地中に潜る。
大昔より雪山に潜むようになった彼らは、静かな世界での平穏を望んでいた。
雪の世界はいい。火山のように騒がしくないし、噴火のような轟音も無い。
吹雪が姿を晦ませ、深く柔らかな雪の層で身を隠し、寒気が静けさを作る。
そんな世界だからこそ、体力を温存する為に睡眠を多く取り、あえて氷結晶を身に纏い低温に保つのも手だ。
氷の鎧竜……『
静かに雪積もる、この山の下で。
―完―
初の二匹同時公開(笑)
ウラガンキン変異種もそうでしたが、重量感のあるモンスターって好きです(笑)
宝石とか黄金とかそうですが、やっぱり大きいものほどいいものだと思いますのでこうなりました。
最初はアイシスメタルで覆うと思っていたのですが、ポッケ地域に生息することにしたので氷結晶になりました。
こらそこ、アクラ・ヴァジュラと被っているなんて言わないで下さい(滝汗)
○本日の防具と素材一覧
●グラビIシリーズのスキル一覧 (共通)
・氷耐性【大】
・ガード性能+1
・泥&雪無効
・火耐性弱化
●主に剥ぎ取れる素材
・氷竜の甲殻
マカライト鉱石が高密度に圧縮された氷竜の甲殻。美しい青色の輝きを持つ。
・氷鎧竜の甲殻
氷鎧竜の甲殻。長い年月を掛けて圧縮し育った甲殻の輝きは宝石にも勝る。