空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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覚悟

 

 

 

 風が吹いていた。それは冷たく、緊迫した身体に心地よい。

 既に事件は佳境、解決に必要なピースはもう一つだけだ。首謀者の逮捕、ただそれだけである。

 しかしてそれに対し立ち向かう特務支援課と遊撃士。だがしかし、遊撃士には最良の相手が存在していた。

 それは、過去の清算という未来への一歩の体現だった。

 

 

 パテル=マテルが見守る中、特務支援課の四人とヨアヒム・ギュンターは対峙していた。ヨアヒムはその巨体故に上半身しか地底湖から出ていない。それでも大きさという絶対的な差で勝っていた。

 対する支援課が勝っているもの、それは数である。

 一人ひとりが人間の領域を出ず、かつ規格外の大きさを持つものはいない。そのため彼らの攻撃の大きさもその範囲を出ず、結果的に連携で以ってヨアヒムの防御を抜くしかなかった。しかし未だにそれは為されていないのである。

 

「さて、剣帝レオンハルト。私の邪魔をしないように場所を変えてくれるかな?」

 ヨアヒムの問いに偶像の剣帝が頷く。分身だというのに、反応した彼の表情には好意や服従の意はなかった。

 まるで彼自身の意志による行動が結果的に命令を遂行することになった、とでも言いそうで、本当に死した彼が戻ってきたように思える。

「行くぞ」

 レオンハルトの言葉に頷き、エステルとヨシュア、そしてレンが歩き出す。これで彼らの事件に対する役割が終了したことを理解しているのはこの場に二人しかいなかった。

 

「ロイド君、エリィさん、ティオちゃん、ランディさん」

 エステルが去り際、顔を向けずに言う。支援課も振り向くことなく聞いていた。

「大丈夫、あたしが保障するわ。――――絶対勝てる」

「僕達も同じような状況を乗り越えられた。だから僕も言おう、君たちなら勝てる」

 ヨシュアも同意し、そしてレンが言った。

「パテル=マテルはここで見てて、後でレンに教えてね」

 二人より少しだけ遠回りしたが、それも立派な信頼の一言。知らず四人は口端を上げた。戦力の低下が気にならなかった。

「――さて、続きといこうか。じっくりやる時間もないからね」

 ヨアヒムの両の手に熱量が宿る。トンファーを回転させ、気力と意志を高めたロイドが叫んだ。

「最後の戦いだっ、各自全力を尽くして無事に帰るぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「運命とはわからないものだな」

 レオンハルト――レーヴェはそうして変わらない瞳で三人を見た。

 アッシュブロンドの髪、琥珀色の瞳という怜悧な印象を与える容貌。灰色のコートを棚引かせ、左に握るのは異世界の理で創造された魔剣ケルンバイター。

 既に二年前に消えた命、そして今目の前にいる彼が記憶の中の再現であることは知っている。それでも、時の流れに逆らうように変わらない彼の姿が少し淋しかった。

 

「レン、どうやら二人に捕まったようだな」

「……うん」

 小さく頷くレンに、何よりだ、と返す。

「ヨシュア、筋肉が付いたな。線の細さは変わらないが、逞しくなった」

「……はは、レーヴェを越えるつもりだからね。これぐらいじゃ足りないよ」

 苦笑に篭もる感情を敏感に感じ取り、レーヴェは目を閉じる。弟の成長は純粋に嬉しかった。

「エステル・ブライト、誓いに嘘はないか?」

「――――もちろんよ。お義兄さんへの言葉だもの」

「…………そうか」

 優しい口調で返された答え。

 誓い――死する直前、心残りだった弟のヨシュアのことを任せた時に聞いた彼女の言葉、約束。それにより安らかに逝けた彼は、そうしてその言葉に嘘がないことに再び安堵した。

 尤もそんなものは聞く以前の問題であり、一目見た時から誓いに変わりがなかったことは理解できたのだが、そこは兄としての務めだったのだろう。

 

「――俺は、今の状況に感謝している」

 レーヴェはそうして、再び三人を見た。その視線に和やかな雰囲気はかき消され、空気に緊張が走る。レンがごくりと喉を鳴らした。

「成長したお前たちを確認できたこと、本物である俺は知る由もないが、それでもこればかりはヨアヒム・ギュンターに礼を言ってもいいくらいだ」

「レーヴェ……」

「だがそれがこれからの未来に影響することはないということ……わかっているな?」

 剣気が迸る。その威圧感は間違いなく本物のレオンハルト、身喰らう蛇の執行者、その最強クラスと謳われる存在に他ならない。

「剣帝が剣を握った以上、そこに容赦は存在しない。かつてのお前たちならば知らず手を抜くということもあり得たが、そんな場所はもう通り過ぎているのだろう?」

 それは疑問ではなく、確信。レオンハルトはその問いに対する答えをもう知っている。

 彼が手を抜かなければならないほどに弱かったのは二年前の話、時の流れに従うように、三人も二年前の彼らではない。

 

「――影の世界でも戦ったね。あの時はケビンさんとリースさんもいた」

 ヨシュアが双剣を構える。

 彼が発する剣気は目の前の兄に教えられたもの。しかしその中には、確かに彼自身が培ったものもある。

 レーヴェは笑った。

「…………あの時、レンは嘘を言ったわ」

「…………」

「爪が痛そうだから、なんて断ったけど、本当は最後に撫でてほしかった」

 大鎌を持ち、レンは笑う。

「でも、今日はちゃんと撫でてもらうから――」

 今からの行為がまるでゲームであるかのような景品。だがそれでいいのだとレーヴェは思う。レンという少女が本当に解き放たれたのだと実感できる。

 レーヴェの持つ手に力が篭もった。

 

「この剣帝の絶技、今のお前たちなら乗り越えられるはずだ。お前たちの最高の一撃で俺を越えてみせろ。俺に、未来を示してみせろ」

 極限まで高められた剣気が冷気を纏い、周囲を牽制する。理とは逆の高みである修羅に至った青年、その生涯の疑問の答えを見つけるために編み出した剣技『冥皇剣』。

 その必殺に相対し、そしてエステルは笑った。

「レーヴェ……うん、あたしたちの今までを全部込めるわ、だから安心して眠ってちょうだい」

 タクトが軽い。今までにない軽さは高揚によるものか、はたまたその身を包む鳳凰の力ゆえか。

 どちらでも構わない、ただ今は、見守ってくれる彼のために最高の一撃が繰り出せる確信がある。

「ヨシュア、レン。あたしたちはきっとできる。だからやろう――」

 一発勝負、信頼で編むトリプルクラフト。エニグマに登録もしていない、いやそれどころか一度も試したことがないその場の思いつき。

 しかしエステルのこの言葉に驚きを抱かなかった二人がいる。ただそれを、何の理由もなく頷ける彼らがいる。

 レーヴェが後方に跳躍した。彼らの距離が10アージュほどまで広がる。

 剣を回転させ腰溜めに、切っ先を正面に向けた。

 

「来い――ッ!」

 軌跡を残しながら三人が駆ける。

 それを泰然と迎え撃つ剣帝。

 彼の絶技『冥皇剣』は受けの技である。迫る相手に対し絶対零度の空間凍結で封印、地面に剣を突き刺すことでそれらを遍く破壊する。

 当然自分で肉薄して出すことも可能だが、初手である空間凍結の範囲から脱されないためには受けに回るほうが的確である。

 対策を講じ分散する者は今までにいなかった。彼の絶技を知って生き残れるものは片手で数えるほどだったからだ。

 

 果たして今の相手はその僅かな者たち。おそらくは凍結の瞬間を見極めて離脱、その後一斉攻撃するだろう。

 だがそれは平凡で器用な思考、レーヴェはその可能性を切り捨てた。不器用な彼らが、逃げにも見えるその一手を採用するはずがない。自身の意志を、感情をわかってくれているのなら、その方法は選ばない。正真正銘、真っ向から打ち破ってくるはずだ。

 その場合、本気でレーヴェには手加減ができない。

 もしかしたら死者である自分がその生を終わらせてしまうかもしれない。自分が託した希望が潰えてしまうかもしれない。

 そう考え、もう一度レーヴェは笑った。

 そんなはずがないだろうと、苦笑した。

 

 

 

 果たしてその瞬間が訪れた。

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

「――第三者がこの場にいたのなら、その人物は言うだろう。『わかっていたことだ』と」

 ヨアヒム・ギュンターは肥大化した喉で空間を支配するように声を響かせる。清涼な空気は既になく、彼が発する異常な気によって汚染されている。言ってしまえばここは彼の世界、ホームグラウンドである。

 その中で、水の浮力に勝る自重で戦う四人の人間、限られた足場で数の利を生かそうと必死に走り回り、しかし、その限定された行動範囲はヨアヒムの攻撃をかわし続けるには狭すぎた。

「この絶対的な力の差でどうして君たちがここまで食い下がるのか、それは叡智を以ってしてもわからない究極の命題なのかもしれないな。いや、わかりはするが理解しようがないと言ったほうが適切か」

 濁った虚ろな瞳が見下ろす先には、疲弊し膝を着く特務支援課の姿がある。

 ロイド・バニングスはトンファーを右手にしか持っていない。戦いの最中弾かれ、それは湖底に沈んでいる。その空いた左手で心臓を押さえ、オーバーヒートする心臓を懸命に抑えていた。

 エリィ・マクダエルは二挺の導力銃を持ったまま、しかし銃口は地を向いていた。両肩からは夥しい血液が溢れ純白の制服を汚している。息も荒く、視線は下げられたままだ。

 ランディ・オルランドはぎらついた視線をヨアヒムに向け、唯一立ち上がった。それでも気を抜くと倒れてしまいそうなほどに力が抜けている。ハルバードが重い、そう感じるほどに体力を消耗していた。

 ティオ・プラトーは魔導杖を支えになんとか上半身を持ち上げている。頬を伝う冷や汗は攻撃によるものではなく、絶えず仲間を支援し続けた結果の負担に他ならない。もう魔導杖を変形させることも適わない、そんな余力は残っていない。

 

「――あの二人の遊撃士は私ほどの大きさを持つ教授なる存在を倒したことがあるよ。それでも彼らと同等の力量を持つ者があと八人ほどいたがね」

 エステルとヨシュアの二人が身喰らう蛇の使徒“白面”のワイスマンを打倒した時、そこには多くの仲間がいた。七の至宝の一つ輝く環を取り込んだワイスマンの絶対防御はそれでも破れず、しかしレオンハルトの命がけの特攻によりそれを破壊、そして現在生きてこの場にいる。

 その事実はロイドらに僅かな希望を与えもするが、同時に絶望も与えた。

 彼らに劣る自分たちが、彼らよりも少ない人数で果たしてそれができるのか、と。

 

「君たちもわかっていたはずだ。グノーシスの力を得た私を見て、勝てるわけがないと悟ったはずだ。それなのに、どうして君たちは向かってきたんだい?」

「愚問、だ、な……! が……っ」

 ロイドが立ち上がる。満身創痍の身体だが、その意志は微塵も揺るいでいなかった。

 口から血が零れる。それを拭いもせずロイドは言う。

「俺たちには誓いがあるんだっ、守らなきゃいけない誓いが……!」

「っ、そうよ……キーアちゃんと約束したんだから……っ」

 エリィが視線を上げ、片足を踏みしめた。ゆっくりと身体を持ち上げ、銃を掲げる。

「……キーアが、待ってる…………寝てられません……っ」

 ティオが身体を起こし、魔導杖に力を込めた。青い光が灯り、彼女の身体を包み込む。

「……けじめをつけなきゃなんねぇ、それを邪魔させるわけにはいかねぇ……!」

 ランディが赤紫の闘気を纏った。みしみしと各所が悲鳴を上げるが構わない。無茶をせずに未来はなく、無理をしなければ許されない。

 

「誓い、約束……理解できない理由だ。いや、これも立派な動機にはなるのか。外的なものか内的なものか、どちらかといえば後者に近いがさして変わりあるまい。そう、愚かであることに」

 ヨアヒムは未だ戦意の衰えない彼らを愚者と断じる。当然だ、彼らが今までに放った攻撃、その全てが、ヨアヒムにとっては針で刺されるかのような瑣末ごとに過ぎなかったのだから。

 グノーシスによって変異した属性耐久力は上位属性魔法すら突破できないほどの高みへと上り、硬化した外殻は武器による攻撃を寄せ付けなかった。

 既に四人の攻撃の中でヨアヒムを追い詰めるものは存在しない。故にヨアヒムはこれ以上の攻撃の意志はなく、その心を折りにかかっていた。

「それは自分のためなのか、はたまた相手のためなのか。偽善者が言うのは相手のため、独善者が言うのは自分のためだ。それで君たちはどっちなんだ? いや、答えなくていい。答えはわかっている。そう、君たちはこう言いたいんだろう。『両方だ』と。それこそ最悪の答えで、自分が愚かだと言っているに他ならない。どちらのためでもある、というのは動機としては最悪だ。ボーダーラインを跨って存在しては、結局のところそのどちらにも寄りかかれない。迷ったときにどちらかに傾くことを許せない。そう、どちらも選べないのだ! それは選択の、決意の放棄! 自分自身の意志を持っていない半端者が選ぶ答えだ! いや、答えですらない、答えることを先延ばしにして逃げ出している敗北者の証拠なのだ!」

 ヨアヒムの罵声が響いていく。それは物理的な衝撃となって四人の鼓膜を揺るがせた。

「そんな君たちが私を倒すことはできない。未だ答えを見つけられない愚者が、答えを見つけ、叡智を手にした私を阻むことなどあってはならないのだ――ッ!」

「…………」

 高らかに宣言したヨアヒムは天を見上げる。

 空は白み、直に夜が明けるだろう。その時に自分がどうなっているのか、それを想像してヨアヒムは微かに笑った。

 それと同時に、小さな言葉が耳に入ってきた。

 

「――今、何と言った?」

 彼が見つめる先には特務支援課のリーダー、ロイド・バニングス。彼自身釣りという趣味において関わりを持った好感の持てる人物だ。同時に凄まじく反吐の出る甘い男だったのを覚えている。その彼が果たして何を言うのか、ヨアヒムは興味が湧いた。

「――答えを見つけられないことはそんなに愚かか?」

「何だと……」

「答えを見つけられることのほうが少ないはずで、それでも人々は懸命に生きている。あんたはそんな人たちすら愚かだと言うのか? 今まで一緒に働いてきたウルスラの先生だって、釣公師団の人たちだって答えを得られていないはずだ。その人たちすら愚かだと断じるつもりなのか?」

「……何を言うかと思えば。グノーシスという叡智を授かっていない時点で愚か者だ。答えを得た私が、答えを得ていない君たちを圧倒し屈服させている。この事実こそがその答えだよ!」

 内心で興ざめしたヨアヒムは、しかし自身の内で起こる変化を敏感に感じ取った。故に、彼は再び両手に力を集める。

「君にはがっかりだ、ロイド・バニングス。真の神となったキーア様を見ることなく、ここで死するといい!」

 炎を纏った左の掌拿が迫る。ロイドはそれに対し無抵抗で、そして不思議なことに仲間も反応しない。

 

「――――」

 

 そして、ヨアヒム・ギュンターは不意に跳ね上げられた左腕とともにそれに気づいた。

「…………何をした」

 ヨアヒムの睨みを受けてもロイドは動かない。その、右腕を振り上げた状態で止まっている。

 彼の全身を淡い碧の光が包んでいる事実にようやく気づいたヨアヒムは、次いで、その原因を悟り仰け反った。

「くくくく、ははははははははははぁ! そうかそういうことか! ハハハハハハハハハハハッ――!」

 ヨアヒムは撃たれた部位を掴みながら哂った。

 今まで痛痒すらもたらさなかった矮小な一撃が確かなダメージとなったこと、その理由がグノーシスを通じて伝わってきた。

 それは彼の中で最も認められない事実であり、同時に薄々感じていた未来を具現化する事象だった。

 

「……答えを見つけていないことが愚かなはずがない。見つけられないから、それでも見つけたいから、俺たちは懸命に生きているんだ。それを侮蔑することは許さない」

 ロイドは淡々と、自分自身に言い聞かせるように言う。

 それはウルスラ病院で既に出た結論だ、故に他の三人も口を開ける。

「確かにあなたは自分自身の努力で答えを見つけたのかもしれない。でも、あなたのそれは誤った見つけ方。多くの人々を不幸せにするあなたは、きっと本当の答えを見つけきっていないわ……」

「たくさんの子どもを犠牲にして得られた答え、ちゃんちゃらおかしいです……わたしはそれを答えだなんて認めない、叡智なんて高尚なものなんかじゃないです……」

「何様なんだ、てめぇは……キー坊を神にするだとか寝言言って、てめぇのほうが神様気分じゃねぇかよ……」

「約束も、誓いも、守ろうと決めたからそうなんだ。誰かのためだとか、そんなことは関係ない。俺たちは決めたんだ、守ってみせるって決めたんだ。誰のためでもない、約束を約束とするために、誓いを誓いとするために――ッ!」

 ロイドを包む碧の光が一層輝き、強い光を放つ。それはまるで太陽のように周囲を照らし、朝日と共鳴するかのよう。

 その光はしかし目を眩ませることはない、ただの優しい光。ロイド・バニングスという存在を際立たせるための光。

 約束を、誓いを守ろうとする意志の力だ。

 

「越えなければ始まりすらしない! だから俺は――――あの子を救うためにあんたを越えてみせるッ! それが俺の誓いだ!」

 裂帛の闘気が立ち昇る。ヨアヒムの巨体を凌駕せんばかりに充実したそれは周囲に浸透し四人を包み込む。

 その懐かしいような光に四人は刹那自失し、しかし瞬時にそれは槍のような鋭さを以ってヨアヒムに向けられた。

 

「――――くはは」

 

 ヨアヒムは哂う。

 それは対峙する光に対してではない、紛れもなく自分自身に向けたものだった。

 それは自嘲に他ならなかった。

 

「教団の――私の道化ぶりは彼の者たちには大層お気に召すものだっただろうね。ここで私がシナリオ通りに敗北することで全ての計画が始動するというわけだ。…………だが私もその役を演じきるつもりはない。ロイド君、君は知りたいだろう? ガイ・バニングスを殺した犯人を。ルバーチェには一切情報がなかっただろうからね」

「…………」

「ロイド……」

 ロイドは沈黙する。ヨアヒムの言葉は彼がクロスベルに戻ってきた理由である。彼が絶対に見つけてみせると決めた真実である。

 警察徽章を見つけた時、ガイ殺害の犯人はルバーチェであると思われた。しかし実際マルコーニに話を聞いたところ、彼はその詳細を一切知らなかった。

 警察徽章を持っていたのはルバーチェの構成員が現場から持ち帰っただけであり、彼らが見つけたときには既にガイは死んでいたのだ。マルコーニは散々苦しめられた捜査官の遺品を手にして悦に入っていただけに過ぎない小物だったのだ。

 それを聞いたとき、ロイドは特に驚きはしなかった。徽章を見つけた当初には激情が迸り冷静さを失ったが、それもエリィによって救われている。

 その時には既にその可能性を睨んでいた。それが現実になったところで、彼には真実を掴めなかったという結果にしかならない。

 故にロイドは沈黙する。もし本当にヨアヒムが答えを見ることができるなら、この次の言葉が真実である可能性はあるのだ。

 

「彼の者たちにとっては予想外だろうが、もう私には関係ない話だからね。君たちに肩入れするわけではないが、一つ教えてあげようじゃないか」

「あなたは、ガイさんを殺した人を……」

「くく、もしかしたらこれで終わってしまうかもしれないね。君たちが灯した最後の輝きは」

「どういうこと……?」

 エリィが漠然とした不安を抱き、碧の光が僅かに乱れる。それに口元を緩めたヨアヒムはそうして爆弾を投下した。

 

 

 ガイ・バニングスを殺したのはアリオス・マクレインだ――――

 

 

 光が乱れ散る。

 瞬間、ヨアヒムは両腕を振り上げたが、四人に抵抗の余地はなかった。

 

 

 

 


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