空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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殲滅天使のお茶会の誘い

 

 

「ふん、予想以上だな。瘴気の密度が凄まじい、長時間いると精神が融け切るぞ」

 研究棟に一歩踏み入れた時点で銀が呆れたように呟く。その言葉に伴い、支援課の四人は無意識に口元を手で覆った。まるで大気中に毒素が撒かれたような感覚だった。

 非常灯のみの薄暗い空間はまるでお化け屋敷のよう、しかしそれが苦手なはずの彼女はそんな感想を抱いてはいなかった。そんな日常の恐怖心よりも義務感のほうが強かったのである。ある意味、精神が凌駕していた。

 正面にあるエレベーターに入ると導力こそ途切れていなかったが、動かすには専用のカードキーが必要なようだった。何かの衝撃で非常時設定になってしまったのだろう。カードキーを捜す手も考えたが、それよりは階段を使ったほうが早かった。

 右の通路を抜けて突き当たりの階段を上っていく。そこは四階、ヨアヒムの研究室のあるフロアである。

 しかし一段上がるに連れて瘴気が増していくのがわかった。ティオの額に脂汗が浮いている。長居は当然できないが、ヨアヒムの安否を確認するまでは戻れない。

 

「…………」

「銀、どうかしたのか?」

 ロイドが尋ねる。銀はいや、と否定し、しかし口を開いた。

「ヨアヒム・ギュンター、薬学医とのことだが……」

「何か気になるの?」

「――――止まれ」

 不意に銀が立ち止まり、四人も歩みを止めた。その中でティオが魔導杖の反応を確認する。

「魔獣ですっ」

 言うが早いか、銀は行動を開始した。階段を駆け上がり四階へ、その眼前には蛸のような赤い魔獣が二体待ち構えていた。

「ふ――」

 神速で大剣を振り下ろす。正確にその小さい体躯を捉えた剣閃は容易くそれを真っ二つにし、

「何ッ!?」

 そのまま何事もなく切断面を癒着、戻った体で銀に襲い掛かった。一瞬の驚愕にもしかし銀は瞬時に精神を落ち着かせ後退、魔獣の攻撃を回避する。

 油断なく構えた銀は剣を投擲、二体を同時に切り裂くとともにエニグマを駆動、デススパイラルを放ち掃討する。

「銀っ!」

 次いで四人が到着、銀は剣を掴み、背負った。

 

「物理攻撃が効かない魔獣もいるな、おそらくは実験で生み出された魔獣だろう」

「さっきの紫色の魔獣もそうね、何というか、不自然さみたいなものを感じたわ」

「体を構築するバランスが崩れているようです。おそらく、放っておいても長くは持たないかと」

「教団の実験か、反吐が出るぜ」

「ティオ、反応はあるか?」

 ロイドの問いにティオはこくりと首肯し、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。瘴気に満ちた空間で彼女は精神をすり減らしていたが、それでも集中さえすれば何とか通常の半分ほどの精度で探査を行えた。

 その結果、ほぼ魔獣はいないとのことである。報告に安堵するも、逆にまだヨアヒムの姿を確認できていないことが懸念事項である。もうすぐ彼の研究室だが、銀はそれでもまだ何かを考えているようだった。

 

 そして、ヨアヒム・ギュンターの研究室にたどり着く。ティオと銀の感覚の網に一人の存在が引っかかっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、以前訪れた通りの状態で存在していた。争った形跡などまるでない、ただ不自然に窓が開いていてカーテンを揺らしていた。

 その窓の正面には、人。

 月明かりが逆光となり顔は窺えない。

 だがそれは、彼らが探していた人物ではなかった。

 

「そ、んな……」

 エリィが絶句し、ロイドとランディが鋭い目で対象を見つめる。そんな敵意を柳に風とばかりに受け流して立っているのは見知った人物で、しかし本来ここにいてはならない男だった。

「アーネスト・ライズか、ノックス拘置所にいるのではなかったか?」

「銀か、お目にかかれて光栄だよ。質問の答えだが、まぁそうだね。でも既に警察学校を含めて我々の占拠下にある。そのおかげでこうして私は再び彼女たちに会えたんだ」

 以前と同じ若葉色のスーツに身を包んだアーネストは目を細めて支援課を、エリィを見る。その視線にエリィは咄嗟に自身を掻き抱き後退りした。

「やぁエリィ、久しぶりだね。そんなに怖がらなくてもいいじゃないか」

「アーネスト、さん……」

「アーネスト、どういうことだ」

 エリィの前に立ったロイドが口を開く。警察学校の襲撃という事実に声が出そうになったが、それは相手を喜ばせるだけになるので必死に押しとどめていた。そして今の彼には、聴きたいことが山ほどある。

 

「あんたはやっぱりグノーシスを投与していたんだな、誰にもらった?」

「ん? ……ああそうか! なるほどなるほど、君たちは知らないんだな!」

 アーネストが目を見開いた後におかしそうに笑う。眉を顰めるロイドに対し、アーネストは背中から巨大な剣を取り出した。銀のそれよりも幾分大きく見える漆黒の剣である。

 

 

「では答えよう。グノーシスを私に与え、そしてそもそも作ったのは――――ヨアヒム・ギュンター医師だ」

 

 

「…………………………え」

「氏はD∴G教団の幹部司祭だそうでね、長年クロスベルに留まり研究を続けてきたということだ! そして今回、それが成就したわけだ!」

 高らかに宣言するアーネストに対し、四人は二の句が告げなかった。

 グノーシスの成分調査も、そもそもグノーシスの存在も彼らはヨアヒムに頼ることで知ったのだ。しかし実際、それは彼らがヨアヒムの犯行にまるで気づいていなかったということなのである。

 仕事をサボりよく釣りに行くが、優秀で、そして笑顔を絶やさなかった彼の人物こそが、一連の事件の首謀者だったのである。

 

「御託はいい。アーネスト・ライズ、ここには一人か」

 銀が問う。

 彼女の目的はルバーチェだ、アーネストがルバーチェと関わりのない以上目的対象ではない。自身の感覚でここにはもう彼しかいないことはわかっていたが、それでも気分が高まり口が軽くなっている人物から情報を盗みたかった。

「そうだ。既に氏はここを離れて本来の場所に戻っている。ルバーチェの残りの人員もそこにいるよ。つまりはまぁ、無駄足だったわけだね」

 銀に対しても口調は軽い、どうやら優位に立ちたいようだ。

 しかし銀には関係がない、ここにいないことが確定した以上、次の行動に移るだけだ。

「それでは、その場所を吐いてもらおうか」

 剣を構え、闘気を発する。その威圧感に目を細めたアーネストは自身も携えていた剣を構えた。呼応するように紫色の瘴気が立ち昇る。

「く……っ」

 二人の気に導かれるように支援課も構える。しかし現実問題、二人の空気に入ることは難しかった。

 

 その緊迫した空気は次第に膨張し、やがて、アーネストの吐血で破裂した。

「がは――!」

「な――!?」

 対峙していた銀も驚く。つまりは彼女の攻撃というわけではなかった。

「アーネストさん!」

 エリィが一歩前に出る。それでも駆け寄ることはしないのが二人の現在の距離だった。

 片膝を着き口元を抑えたアーネストはしかしその鮮血を見て歪に笑う。それはまるで悪魔のようだった。

「……ふふ、どうやらまだ、時間がかかるようだ、な――!」

 そこから一気に跳躍、窓の縁に着地する。その濁った瞳が五人を見下ろした。

「今回はこれで退くことにしよう。氏からもなるべくなら研究室を汚さないよう言われているからね」

「……アーネスト、どうする気だ。逃げられるとでも思っているのか」

「逃げる? さっきも言ったように退くだけだよ。それに助かったと思っているのは君たちのほうだ、違うかい?」

「違うわバカ野郎! てめぇ、本気で逃げられるつもりかよ」

 

「――話が通じないな、仕方ない。それではまた会える日を楽しみにしているよ」

 ため息を一つ、アーネストは会話を打ち切ってそのまま縁を蹴って外に飛び出した。慌てて駆け寄る四人の眼下には飛び降りたアーネスト。

 そして、彼を掴んで上昇していく緑色の巨大な飛行魔獣である。

「く、まさかあんなものまで!」

「……目標、ロスト。速いです……」

 その姿は月の中に消えていく。その追跡不可能な逃走術に呆然とするしかなかった。

「ノックス拘置所が占拠下って、それってつまり――」

「……ああ、警察学校がルバーチェに襲撃されたってことだろう」

 ノックス拘置所はクロスベル西にある警察学校に隣接されている。そこが襲われた以上警察本部も黙ってはいないだろう。

 一課か二課、もしくはその合同か。空港の爆破予告に充てられていない人員が駆り出されることになる。

「とにかくまずは連絡を入れたほうがいいんじゃねぇか? 警察がてんやわんやなら警備隊にでもよ」

 ランディの言葉にエリィが通信を開始する。ウルスラ病院にはタングラム門のほうが近い。ソーニャ副司令に繋げるつもりだろう。

 

 そんな中、窓のほうによっていない銀を見てティオが首を傾げる。アーネストが消えたからだろうか、病院に充満していた瘴気は次第に薄れてきていて彼女も他を気にする余裕が出てきている。

「どうしたんですか?」

「……アーネスト・ライズが吐血するのが妙だと思ってな」

「妙、ですか?」

 銀は頷いた。

 そもそもアーネストがグノーシスを服用したのはアルカンシェルを巻き込んだ市長暗殺未遂事件が始めだろう。そこから現在までの時間でも未だグノーシスが馴染まないのだとしたらそれはかなり問題のはずだ。

 そして拘置所を抜け出して新たに服用したのなら久しぶりの投与に体が拒否反応を起こしたとも考えられる。しかし第一の可能性は、彼が飲んだグノーシスの性能に差があるということだ。

 

「奴が最初に飲んだグノーシスと最近飲んだグノーシス、そこに明確な違いが出てくるまでに研究が進んでいたということだ。更に奴は武術を嗜んでいて体が出来上がっていた。その奴が吐血するほどの反動を誇るなら、仮に一般人が完成品を飲んだ場合、最悪死に至るかもしれん」

「それは……」

 ティオが押し黙る。彼女は既にグノーシスを投与したとされる一般人を知っていた。

 その人物が既に死んでいる可能性があるということは密かに考えていたが、事実を基に推測されると真実味が歴然である。知人の死という慣れてはいけない感覚を、彼女はどう受け止めればいいのかわからない。

 

「――副司令直々に来てくれるそうよ、後は警備隊が来るまで警戒を怠らなければ大丈夫」

 通信を終えたエリィがそう告げ、とりあえず病院の解放に目処がついたことを知る。知らず目を閉じていたロイドはしかし、無意識に緩んでいた緊張感を再び引き締める気配を背中から感じ取り振り向いた。

「あれ……」

 しかし彼の視線の先は窓、そして広がる景色である。

 気のせいかと目を瞬かせた彼は、そうして重々しい音とともに現れた少女に度肝を抜かれた。

「――こんばんは。いい夜ね、お兄さん」

「レン!?」

「レンさん、やはり……」

 ティオだけが不思議と驚かない中、少女はそうして窓の向こう側でお辞儀をした。

 少女は浮いているわけではない、彼女の足場が浮いているのだ。それは巨大なオーバルマペット、パテル=マテルと呼ばれるゴルディアス級人形兵器である。

 全長15.5アージュの赤紫を基調としたそれは結社が誇る十三工房がその英知を結集させて造ったものであり、適合者であるレンと意思疎通が可能な兵器だ。

 ちなみに雛形自体はローゼンベルク工房のヨルグ老人が設計したもので、それを改良したものが十三工房責任者であるノバルディスである。

 

「お姉さん、秘密にしておいてくれたようで何よりだわ。でもお姉さんの事情は知っているみたいね」

「……全部、話しましたから」

「そう――――あら、あなたが銀ね」

「……知っているのか」

 レンが漆黒の暗殺者に目を向ける。少女の存在を知らない銀は彼女が只者ではないことを感じつつ慎重に聞き返した。

 そんな銀の考えには興味がないのか、レンはあっさりと情報源を暴露する。それは銀にとって因縁浅からぬ相手だった。

「ヴァルターがぼやいていたわよ、決着をつけられなかったって」

「……痩せ狼の同類か」

「同類だなんて失礼しちゃうわ。彼とは知り合いなだけよ」

 痩せ狼と称されたヴァルターという男、彼は身喰らう蛇の執行者の一人である。リンと同じ泰斗流の使い手でありながら、それを殺戮という手段で振るう事に意義を見出してしまった人物だ。

 同じ共和国出身ということで、銀は彼と一度相対したことがあった。結局勝敗が決することもなく事態が収束してしまったのだが、それはつまり、銀の力は結社の執行者に匹敵するということであるとともに、結社とは銀ほどの実力者が溢れている組織であることの証左でもある。

 

「貴女ほどの実力者がどうして結社のマークから外れていたのか不思議だけれど、今はそんなこといいわ――――今は、そこにある資料に用事があるのだから」

 レンは視線をヨアヒムの机に向ける。そこにはこれ見よがしに置かれた冊子と、それに挟まれるようにして存在する一枚の写真があった。

 アーネストを残していたことといい、事ここに至って、ヨアヒムは釈明する気もないようだった。

 六人が机を囲みながら資料を見つめる。そこにはグノーシスの完成に至るまでに犠牲になった実験対象の少年少女たちの詳細が記されていた。当然、当時のティオ・プラトーの写真も貼り付けてある。

「少しは、ましになったでしょうか……っ?」

 フラッシュバックか、当時の記憶を掘り返して涙を溜めた少女の問いに全員が頷く。その反応に安堵の吐息を漏らした。

 

「…………」

 レンはページをめくり、そして手を止めた。瞳に映るのはすみれ色の髪をした少女、レンが記憶している限り、最も酷い状態だった自分である。

「レンちゃん……」

 エリィが口を開くも次の言葉は出て来ず、それを慮ってかレンは歪に口を歪めた。

「レンも綺麗になったでしょう? そういうことよ」

「君も、教団の被害者だったのか……」

「そ。お姉さんとはロッジが違ったし、助けてくれたのは結社だったけど」

「……なるほどな、その意味では例の結社とやらも意味のあることをしたといったところか」

 銀がわずかな感情を込めて言う。レンは今度は素直に微笑した。

「あら、伝説の凶手さんにもそんな感情があるのね。意外だわ」

「…………」

 銀は何も答えず、そのまま資料は終わりを告げる。グノーシスという存在に対する具体的な情報はなかったが、それでも今回の首謀者を逃してはならないという意志を固めるには十分だった。

 

 そして、資料に挟まれていた写真がヨアヒム・ギュンターの目的を彼らに告げた。

「あ……」

 身を丸め、水の中に浮く少女。

 それは球体のベッド。星見の塔にあったような天球儀を透明にしたようなそれの中で、コバルトブルーの少女が静かに眠っていた。

「キーア……」

「やっぱり先生の……いえ、教団の狙いは――」

「キー坊ってことか……っ!」

「黒の競売会にいた娘か」

 

「――そう、今回の事件は結局そこに行き着くわ」

 レンの言葉に全員が少女を見る。いつの間にか窓の外にいた少女を見つめると月影がスポットライトのようで眩しい。目を細める四人に猫のように笑いかけ、少女は静かにお辞儀した。

 問いかけが始まる。

 

「特務支援課はあの子を守れるのかしら?」

「――守るさ。絶対に」

「ええ、どんなことがあっても」

「必ずです」

「あんな変態野郎に大事な娘を渡せるかっつーの」

 

「本当に? 本当に守りきれるの? 絶対的な根拠があるのかしら?」

「あるさ」

「あの子との約束があるもの」

「それだけで十分です」

「約束は、守らねぇといけねぇからな」

 

 その二つの問いに対し、特務支援課は迷いなく答えた。

 そんな回答を聞き、レンは微笑する。向きを変え、上空に浮かぶ月を見た。

 

「――あの子を守れないなら、この世界はきっと終わるわ。これはレンの勘だけど、でも間違っているとは思わない。つまりは世界の命運があなたたちに懸かっているということ。その重み、耐えられる?」

 

 その問いに返ってきたのは優しい笑い声だった。誰かが息を吸うのがわかる。

 レンはそれだけで、ああ大丈夫だ、と感じた。

 

「世界の命運についてはわかった。君の勘が正しいことも、なんとなくわかる。――――でもさ、俺たちにはそんな大きすぎる理由はいらないよ」

「私たちがキーアちゃんを守るのはただ単純に、あの子と一緒にいたいから。そんな簡単な理由」

「みっしぃがかわいいのと同じくらい当たり前な理由です。世界の重みとか、そんなもの知りません」

「キー坊の重さだけで十分だ。これからいくらでも大きくなるんだからな」

「君も、俺たちと同じような考えをした人を知っているんじゃないかな?」

 ロイドの問いかけにレンは身近な二人を想像し、笑う。おそらくは勝手にいなくなったことを怒られるだろうが、それでも今だけは純粋に嬉しく思った。

「これでレンがクロスベルに来た理由がなくなったわ。後はお兄さんたちに任せてお茶会の準備でもしましょうか。銀、あなたもその時は呼んであげる」

「……光栄だが、遠慮させてもらおう。私も忙しいのでな」

「残念。でもあなたともまた会う気がするわ。ふふ、少しだけ戦ってみたいかも」

 不穏な言葉を最後に残し、少女の姿が次第に空に上がっていく。少女を支えるパテル=マテルがスラスターを噴射してその巨体を押し上げ、殲滅天使はウルスラ病院から消え去った。

 

 

 それを皮切りに病院での事件は終わりを告げる。警備隊が到着、病院の安全を確保すると彼らの肩の荷も一気に降りた。

 警察学校もベルガード門から警備隊が到着して取り返したらしい。ヨアヒム及びアーネストの行方はまだわからないが、それでも今夜の山は越えたようである。

「これで、また私たちの関係は始まりに戻ったというわけだ」

 屋上で銀が口を開いた。協力関係の終わりである。

「銀、次は逃がさない」

「大口を叩くな。やってみるがいい」

「でも今は、ありがとう。協力感謝する」

 一瞬だけ銀の気配が乱れたことにティオは気づいたが、すぐに戻ったためにその記憶を維持することはできなかった。

 やがて銀は夜闇に紛れて消える。その心境を、残された四人が知ることはなかった。

 

「――帰ろう、キーアが心配だ」

「そうね。流石に疲れたし」

「これからは気合入れてキー坊を守らないとな。ヨアヒムの野郎に渡したら世界が終わるらしいからな!」

「なんかランディさん楽しそうですね……不謹慎ですよ」

「場を和ませようっつー男の気配りがわからんとはティオすけもまだまだだなぁ」

 がしがしと頭を乱雑に撫でるランディをじと目で睨み、しかし止めようとはしないティオ。そんないつもの光景に心が表れるような感じがして、ロイドとエリィは顔を見合わせて笑った。

 しかし四人もわかっている、これが感じている以上に大変な状況であるということを。

 それでも壁を乗り越えるために、ただ今は常のように笑っていたかった。

 

 

 


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