空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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戦技、邂逅

 

 警察本部で受付のレベッカと話した際、同じく受付のフラン・シーカーが支援課の補佐を担当することを聞いた。支援要請を達成した後の報告を分室ビルの端末から行うと彼女が対応してくれるとのことだ。

 明朗な彼女の挨拶に和みながら、ビルに戻って報告することで今回の要請は終了とのことだったので四人はビルへと戻る。

 報告の仕方をティオに教えてもらいながらロイドは始めての報告を終えた。すると突然音が響き支援要請が追加された。

「追加された要請は三件か」

「市庁舎からの住宅の確認、旅行者からの落し物の捜索、それとこれは……」

「魔獣退治、ですか」

「ああ、一昨日のジオフロントだな」

 

 四人でディスプレイを眺め、捜査手帳に記す。

 バラエティ豊かな支援要請に四人は感心するとともに、一昨日の映像が蘇る。

 アリオスがいなかったら少年二人を守りきれなかったかもしれない苦い記憶、それは四人の脳裏に鮮明に生き続けている。

「魔獣の討伐は、本来遊撃士の仕事なのよね……」

 

 エリィが小さく呟くが、それが事実だ。

 警察は平和の維持と規律の保持を目的としているが、それは主に人為的なものについてである。それ以外、特に魔獣関連となると警察以上の専門家である遊撃士がいるのだ。

 共存を望むのならそれぞれの専門に別けて依頼をこなしていけばいい。捜査官は戦闘が仕事ではなく、与えられた情報でいかに真実を見抜くかという点にこそ力を発揮すればいい。ロイドは捜査官になる時にそう教えられた。

 

「――この魔獣、俺たちで退治してみないか?」

「え?」

「この間は情けない思いをしたけど万全の準備をすればなんとかなったと思う。内容を見る限りこの間の魔獣よりは弱いみたいだし、これを一つの試金石にするのはどうだろう」

 しかし特務支援課は捜査官として仕事をするだけの場所ではない。遊撃士との共存を望むまでの実力も経験もない。

 ならば、できる限りのことではなくできる以上のことをやっていかなければならないのだ。

 

「ロイド…………そうね、私もこの間は情けないところを見せちゃったし」

「ここらでいっちょ俺たちもできるってところを見せなきゃなんねぇな」

「……わたしも賛成です」

 ロイドは三人の顔を見て頷いた。

「よし、先に二件終わらせてからジオフロントに潜ろう!」

 役所のちょっとした手伝いも、旅行者の落し物の捜索も欠かせない大事な仕事だ。魔獣に万全の態勢で臨む為に彼らは気合を入れて要請に応えた。

 

 

 

 

 

 

 空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない

 

 

 

 

 

 

 市庁舎の依頼で街中を歩く羽目になったがついでに落し物についての情報も聞くことができた。奇しくも似たような捜査状況になったことで予想外に早く終わり、特務支援課はジオフロントに再びやってきた。

 百貨店で回復薬も買っており、今できる万全を期した。

 

「メガロバット。察するに蝙蝠の魔獣だと思うんだけど……」

「……この間も蝙蝠の魔獣はいましたね。確かグレイブバットでしたか」

 ジオフロントのどこにいるかまでは情報に入っていない。故に彼らは慎重に進んでいた。

「しかし手配魔獣ってことはそのクレープバットよりかは強いんだろ?」

「そうね。確かに通常の魔獣も危険だけれど、それでも討伐の依頼が出るほどのものとなると手強いことは間違いない。こんなところで無闇に襲うような魔獣よりは、ねっ」

「…………」

 エリィは向かってきたグレイブバットを撃ち抜く。片羽をもがれたそれは地へと落ち、やがて動かなくなる。ランディも動かなくなる。

 

「こういう魔獣の特徴は素早いこと。もしかしたらアーツ主体の攻撃にした方がいいかもしれないわ」

 素早い魔獣を一発で撃ち抜くエリィも、これ以上の速度となれば命中率は下がる。物理的な攻撃力で言えば前衛の二人に一日の長があるので、エリィも常より後方に下がることにする。

「ま、こんくらいのヤツなら一撃でなんとかなるから手数を増やせばいいさ。これでタフならちょいとキツいがな」

 復活したランディがハルバードをくるくる回しながら言う。大型の武器をまるで手足のように扱う様は見ていて頼もしかった。

「……それにアーツも使ってこないと思います。前回の魔獣より安心かと」

 ティオの目には暴風に曝される仲間の姿が焼きついている。

 あのような光景を目にしないのならそれだけで精神的に余裕ができるというものだった。

 

「それに今回はCPも溜めてある。今まで以上に対応できるはずだ」

 クラフトポイント。

 エニグマは導力魔法を使えるようになることと身体能力を上げることの二点以外に、特定の技を“戦技(クラフト)”として登録できるというものがある。

 予めエニグマをつけた状態で型をやり、それを登録すると、クラフトポイントをエネルギーに変換することで身体を強制的に操作することができるのだ。ロイドが一度見せたアクセルラッシュも登録したことで容易に繰り出せる戦技の一つである。

 

 戦技として登録することの利点は、例えば疲労により動けない状態でも通常のスペックで繰り出せるということである。

 しかし逆に型どおりにしか動けないのでそれが隙になることもある。

 どちらにしても全ての力に言える、要は使いようという言葉に尽きる。

「考えてみれば俺たちはまだ味方の戦技すら知らないんだよな」

「それを知るいい機会だと思おう」

 ランディがぼやき、ロイドはポジティブに考えた。

 

 

 ジオフロントA区画の最奥、つまりは一昨日リュウを救出した場所にメガロバットはいた。存外簡単に見つけられたのは偏にその大きさによる。

「でけぇな、おい」

 グレイブバットの十倍はあろう巨体で地べたに座り込んでいる。素早さが売りの蝙蝠型魔獣にあらぬ光景であった。

「おい、お嬢」

「言わないで。私も混乱してるんだから」

 何か言いたそうなランディを制してエリィは頭を抱える。あれで攻撃を避けられるとは思えない。

「……しかしアーツ主体なのは同じでいいと思います。あれだけの大きさでは打撃は通りにくそうです」

 どこから見ても肥満体な身体はそれ故に打撃による痛みに鈍そうだ。理由は異なるが戦法は変えなくていいだろう。

「あれじゃ豚だろ」

 

「それでも蝙蝠なのは違いない。奇襲はほぼ無理と考えていいだろう」

 蝙蝠は自身から発する超音波の反射によって物体を捉えている。聴覚による探知は既に支援課を補足しているだろう。

 もとより実力試しの機会、奇襲はなしである。

「よし、行くぞっ!」

 リーダーの指示により四人は散開した。得物の攻撃範囲を反映した布陣は前後二人ずつであり、右にはランディとティオ、左にはロイドとエリィである。

 見る見る内に距離を詰めた四人を迎撃するためグレイブバットが殺到する。その数は支援課に合わせて四匹、しかし後衛の二人とは距離があるためロイドとランディに二匹ずつ向かってくる。

 

 顔の半ばまでが裂け開いた口には鋭い牙がある。肌に刺さればその瞬間に体液を吸い尽くさんとするので注意が必要だ。

 ランディはハルバードを槍のように用いることで空気抵抗を少なくし命中率を上げる。一撃の威力は振り下ろしより劣るが、もとよりこの魔獣に威力は必要ない。

「らァっ!」

 右手を弓のように引いて突き出されたハルバードは二匹のうち一匹を射抜き吹き飛ばす。その隙に迫るもう一匹を首を曲げて避けるがかわしきれずに肩に裂傷が走った。

 後方に飛び抜けたもう一匹を振り向き様になぎ払おうとするが流石に素早く、既にそれは攻撃範囲から退避していた。

 

 しかしランディの後ろにはティオがいる。そのまま突進してきたグレイブバットの予測行路を魔導杖から生み出す魔力球で囲む。髪と同じ色の魔力球は大気を振動させ、やってきた獲物を捕獲する。

「ギィィィッ」

 蜘蛛の巣にかかった蝶のようにもがく魔獣にティオは止めの一撃を与える。一発に凝縮された巨大な球が魔獣を包み、そのまま蒸発するように消滅した。ふうと息を吐き、手配魔獣に向かったランディを見た。他の敵による妨害はもうない。もうアーツの詠唱にかかっても良かったが……

「……テスト1、ですね」

 魔導杖を更に変形させ、その性能の一つを示してみせる。

 

 

 左右両方から迫るグレイブバットにロイドは視線を集中、両者が一斉に噛み付くタイミングで以って後方に跳躍、その両撃を片手で受け止めた。突き出されたトンファーについ反応してしまった魔獣は根元と先端にそれぞれ噛み付き甲高い音を奏でる。

 ギチギチと響くそれに不快感を示しながらロイドはもう片方のトンファーを振るう。

 根元に噛み付いた方には一撃浴びせるが、もう一方には寸でで回避されてしまう。

 一度上昇した魔獣はとんぼ返りのままにロイドの懐に飛び込もうとする。ロイドは右足を一歩引いて半身になり、タイミングを合わせて斜め上から一閃。相手の口内を正確に薙いで、そのまま投げ下ろす形で叩きつけた。

「ギィッ!」

 地面に叩きつけられた魔獣はバウンドして後方にいたメガロバットの腹に当たる。瞬間メガロバットの上体がぶれ、グレイブバットの足以外が消え去った。くちゃくちゃと口を動かすメガロバットにロイドは驚くが、口を真一文字にして構える。

「来いっ!」

 

 意志を口にして視線を引きつける。ロイドに身体を向けたメガロバットは故に死角に潜り込んだランディに反応することなくその一撃を受ける。

 エニグマのCPを消費して淡い光に包まれたランディは、同時に起動するスタンハルバードの心地良い振動を腕で感じながらそれをメガロバットの後頭部に振り下ろす。柔らかい感触と共に衝撃波が内部に浸透し、次いで吹き飛ばされる。

 “パワースマッシュ”はスタンハルバードの威力を内部に伝えることで一時的な麻痺を起こすことができる。メガロバットはその影響で只でさえ遅い行動が遅れている。

 すると身体の中心に照準のような模様が現れた。その色が連想させるのは彼女である。

「――“アナライザー”」

 重力に引っ張られるように落ちる光は魔獣に重圧を与えているように見える。アナライザーは魔獣の情報を瞬時に読み取ると共に魔力耐性を低下させ、更に攻撃の精度が上がり急所を狙いやすくなる。

 

 痺れが取れたのか雄たけびを上げるメガロバットだが、その上空に小さな雷雲が作り出されていた。メガロバットはセンサーに反応したのか、上を見上げる。

 しかし既に雷を纏っていた黒雲はその鉄槌を振り下ろす。

「スパークル!」

 風属性の導力魔法スパークル。小型の雷を落とす低級のアーツである。しかしアナライザーによって下げられた耐性に加えて、元々この魔獣はアーツに弱かった。打撃を軽減する脂肪も電気は無効化できない。

「ギァァアア!」

 メガロバットは絶叫し、肉が焼け焦げる匂いを放つ。

 

 四人は様子を見つつ油断なく構える。

 ブスブスと音を放つ魔獣は沈黙し、動く意思を見せない。しかし七耀脈の光を放っていない以上まだ生きているはずだ。

 前衛のロイドとランディに続き、エリィとティオも少し間合いを詰める。するといきなり目を剥いたメガロバットが跳躍した。

「っ! みんなっ!」

 ロイドは三人に呼びかけるが、しかしメガロバットの跳躍は真上、前に進むベクトルは皆無だった。その巨体に似合わぬ小さな翼ではおそらく飛ぶことはできない。

「何を……」

 エリィは宙空のそれと目が合った気がした。ぞわりと怖気が走るが遅い。

 まるで地に向け突進するようにメガロバットは降りてくる。その姿は弾丸のようだった。

「ガァァアアッ!」

 メガロバットが降りた瞬間地面に激しい揺れが起きる。地点をへこませるほどの着地は周囲にいた四人をまとめて衝撃の波に包み込み、その体勢を破壊する。

「うぅ……!」

「つッ、これじゃ立てねぇ!」

 

 地面から逃れられない人間が立てるような規模ではない。ハルバードを支えにしてランディはなんとか膝を着く程度に収めているが、足が共振したかのように身動きが取れない。

 スタンハルバードの一撃を返されたような気分だが、その範囲は広く大きい。

 視界が波間のような中、まるで影響を受けていないメガロバットが動く。この状況では満足に動けず、こちらの利点を潰され相手の弱点を消されたようなものだ。

 しかし揺れも長くは続かない。その間にメガロバットが近づけるのは前衛の二人のみだ。

 一時的な麻痺が回復する時間もなく、メガロバットは小さく跳躍、そのまま体当たりを仕掛けた。

「ぐっ!」

 ロイドは防御姿勢もとれずにそれを浴び、吹き飛ぶ。後衛のエリィ・ティオを抜き、一気に距離が開いた。

 

「ロイドッ! ――よし、これで動けるぜ!」

 ランディの声が聞こえ、ロイドはその身体を持ち上げる。揺れは収まり、それぞれが動けるようになる。

 しかしメガロバットは再び大きく地を蹴った。高く浮き上がるそれを見て、同じ手を食わないようにそれぞれが反応する。

「させないっ!」

 エリィは空中に静止した魔獣に銃口を向ける。エニグマがCPの消費を確認した時には淡い光は導力銃に宿っていた。

 エリィの目に映るのはメガロバットの腹部の、更にその下部分。

 人間で言う丹田をズームしたように注視した彼女の指が引き金を二度引く。僅かな時間を置いて同箇所に当たった銃弾はその衝撃を体内に浸透させる。

「シュート!」

 間断なく放たれた三発目は緑光を纏い着弾と同時に衝撃の余波を周囲に撒き散らす。

 その本体は勿論魔獣の体内を駆け巡り、その身体が大きく後方に流される。

 

「ギィァアアアッ!」

それでも絶命しないメガロバットは先よりも加速して降下を開始する。そのまま着地すれば多大な力の波が彼らを襲うが、しかしそれが叶うことはない。

「――遅いですっ!」

「――行くぞ!」

 エニグマを駆動したティオが詠唱を終え、その前方から水刃が飛んでいく。

 アイシクルエッジは着地寸前のメガロバットを襲い、動きを一瞬止める。そしてその一瞬のうちにエニグマのCPをフルスロットルにまで上げたロイドが接近する。

 

 エニグマのCPが一気に零になるとともにロイドの世界は色をなくし、スローモーションになる。

 そこを透明なジェルを抜けるように滑らかに流れていくロイドは今までの速度を超えて魔獣に迫る。両腕がしなり、体中の力が集まる。

「うおおおおおおおおおお!!」

 グレーの世界から抜け出したロイドはその二本の武器を一気に解放し、残像が見えるほどの速度で前方を打ち据えていく。

 風船のような身体が一撃ごとにへこんでいき、それが戻る間もなく次々と打ち込まれる。原型の四分の一をへこまされた魔獣に、ロイドは乱打を中断し後方に跳ぶ。

 そして姿勢を低くして足に力を込め、自身を砲弾にして魔獣を突き抜けた。

「タイガーチャージッ!!」

 摩擦熱で肌がピリピリするが、そこには確かな手ごたえがある。

 

「ギ、ガガ……ッ! ガァッ!」

「な……!」

 しかし魔獣はロイドの一撃を耐え、背中を見せている彼に詰め寄った。

 完全に油断していたロイドは自身に迫る敵意を見つめ続ける。ロイドが見つめる中、魔獣はロイドに飛びつき、そしてランディに叩き付けられた。

「詰めが甘いぜ、ロイド」

 地面にめり込むメガロバットは数瞬痙攣していたが、やがて光とともにその巨体を消した。

 

「…………」

「…………ふぅ」

 ロイドは大きくため息を吐き、彼に集まるように四人は集まった。

「助かったよ、ランディ」

「なんのなんの。困った時はお兄さんがなんとかしてやるってな」

「はぁ、それにしても疲れたわね」

「……手配魔獣の討伐に成功、これで支援要請は達成ですね」

「それにしても皆戦技を使ったな」

 ランディのパワースマッシュで始まり、ティオのアナライザー、エリィの三点バーストは各々の通常クラフトに分類される。そしてロイドのタイガーチャージはSクラフトと呼ばれるものだ。

 

「ロイド、さっきのは貴方のSクラフトよね?」

「おぉそうだ、結構な威力だったな」

ロイドは首肯し、エニグマを眺めた。

「ああ、CP全部使っちゃうけど行動を中断されることはないし、ある程度の距離なら一足飛びで行ける……まぁ決め切れなかったのはちょっとショックだけどさ」

 SクラフトはCPを全て消費する代わりに通常クラフトとは一線を隔す威力が出せる。仕組みは通常クラフトと同じだが、SクラフトはCPが高ければ高いほど反応速度が上がり威力も増す。いざという時のとっておきである。

 故にロイドはあの一撃に自信を持っていた。しかしあっさりと耐えられ、それに少々皹が入っているようである。

「へこむなへこむな、はっきり言っちまえばあいつは既に死に体だったさ。俺が何もしなくても勝手にくたばっていただろうよ」

「…………」

「……とにかく魔獣退治は完了しましたし地上に戻りませんか?」

 ティオはそう言い、更に別ルートのロックを解除したそうだ。ロイドらはティオがいつやったのかわからなかったが、行きよりも容易に地上に戻ることができたのでそれは流した。

 

 

 

 

 

 

 地上に戻ってきた特務支援課はエニグマにかかってきたセルゲイからの通信により、旧市街に向かうことになった。なんでもその区域を根城にしている二つの不良集団が諍いを起こしているという苦情が来たようだ。

 ジオフロントA区画入り口は駅前にある。四人は中央広場から東通りへ、そして旧市街へと急いで向かった。

「あれかっ」

 東通りから繋がる金網状の通路を渡り、足を踏み入れた彼らの目に入ったのは赤ジャージの青年と青い装束を来た青年だった。それぞれ二人ずつ、明らかに雰囲気の険悪な彼らが苦情の元だとは警察官でなくてもわかる。

 手には釘付きのバットやスリングショットがあり、一般人には手におえそうもない。

 

 仲裁に入った四人はしかし警察であることを明かしたにも関わらず歯向かってくる不良に辟易し、仕方なく武力介入を行った。

 先の魔獣とは違って行動が読みやすく、訓練の差が如実に現れる形で四人は不良を一蹴する。

 膝を着いてなお悪態をつく不良たちだが、両者のヘッドが出てきたことで状況が変わった。

 

 赤ジャージのグループ『サーベルバイパー』のヴァルド・ヴァレス。

 黄色と茶色の髪を逆立て、黒のラインが入った赤い上下。そして手に持つのは鎖を巻いた木刀である。正に不良という風体だ。

 

 一方青い装束の『テスタメンツ』の頭ワジ・ヘミスフィアは涼しげな黄緑の髪に腹部を出した青の上下。白いブーツが特徴的である。

 こちらはヴァルドと違い得物を持っていないようだ。その脇にはスキンヘッドにサングラスという怪しさ満点の大男アッバスが佇んでいる。

 

 両者とも配下である二人に中止を言い渡し、争う気はなさそうだ。しかしホッとするロイドを前に勢い良く笑い出した。

「俺たちがここで引くのは場が整ってねぇからだ」

「こんな木っ端な争いなんかじゃなく、もっと大規模な抗争が待ってるんだよ」

 二人は警察のことを歯牙にもかけない様子でそう言い、それぞれの配下を従えて消えていく。

 それをロイドらは呆然と見ているしかできなかった。

 

 

 ヴァルド・ヴァレスとワジ・ヘミスフィア。

 両名との最初の遭遇は、特務支援課の最初の試練の始まりを告げるものだった。

 

 

 


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