空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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星を見る夢

 

 

 

 クロスベルの、いやゼムリア大陸の経済情勢にとってなくてはならない存在がクロスベル国際銀行、通称IBCだ。

 近代化の進むクロスベルで現在最も技術がつぎ込まれている建築物と言っていいこのガラスの塔は、一階こそ通常の銀行業を営んでいるが、それ以外の階、つまり地下五階から十六階の計二十一層の内のほとんどを一般に開いていない。

 そこには幾つもの外部の会社が入っていたり、IBCビルのメンテナンス機関やその他のスペースになっていたりするのだ。入って右の専用のエレベーターに乗らなければ他の階に行けず、また行くためにはフロントからカードキーをもらわなければならない。そのカードキーも止まる階が限定されている厳重さだ。各所に配置されている警備員もその強固さに拍車をかける存在である。

 

 時代の最先端をいくこのIBCビル、その十六階にて特務支援課はとある人物に相対している。四十代半ばでありながらそのエネルギッシュな行動力と容貌を持つ現IBC総裁、ディーター・クロイスである。派手な赤いスーツに青のネクタイ、金色の髪と白い歯を光らせる彼は自室の椅子に座り、組んだ両手を机の上に預けた。

「つまり、その銀という人物からの導力メールがこのIBCのメイン端末から送られているので調査したい、と。そういう理解でよろしいのかな?」

「その通りです。何分非公式な調査ですので捜査令状などはないんですが、是非とも協力をお願いしたく」

「いや、こちらとしてもその銀なる人物が潜入したとなれば信用問題。よろこんで協力させてもらうよ。それになによりエリィの頼みだからね、ここで断ったらベルにどやされてしまうよ」

 ハッハッハ、と爽やかに笑うディーターに頭を下げるエリィ。

 

 銀からのメールの出所を探ったティオによりその発信元がIBCであることがわかった特務支援課はその総裁と知り合いというエリィの伝手を利用して現在に至っている。建物前では市長秘書のアーネストと記者のグレイスに入れ替わり会うことになったが、エリィがアーネストに意思を伝えた以外は何事もなく別れを告げている。

 一頻り笑い終えたディーターはしかし困ったように言った。

「スタッフは信頼できる人員を選んだつもりだが、もしくはハッキングでもされたのか……」

 ハッキング技術は導力ネットワーク計画が始まったばかりのクロスベルにおいて稀な存在だがいないわけではない。ディーターは立場上そちらの可能性のほうが高いと言うしかなく、また現実的にもそちらのほうが高かった。

 

 四人はハッキングの線を第一に置いて情報の共有を自然と行う。

 ディーターはそんなエリィの充実した表情、そしてロイドら同僚の姿を見て一度頷くと席を立った。背後を埋め尽くす窓から窺える景色を眺めながら口を開く。

「クロスベルという街は難しい、きっと少なからずそれを痛感したことだろう。しかし真に問題なのは正義という概念が形骸化してしまったことにある」

「正義の形骸化……?」

「奇麗事と同一視されることもあるこれはもちろん人の数ほどの形が存在しているはずだ。それは人間というものがそれだけ正義を求めているということになるのだよ」

 ディーターは振り返った。

「何故か、それは正義が人間社会を信ずる根拠となるからだ。正義という秩序があって初めて、人は社会で生きていける。そうだろう?」

 

 警察や遊撃士はそれぞれの正義を体現する組織だ。人は困ったらそれに相談する。それは人が生きる社会に平和という秩序をもたらしてくれるからだ。

 仮に警察や遊撃士がいなくなればそこに人は住めなくなる。犯罪が横行するそれは野生の動物と同じだ。人間は、そこにいない。

「だがクロスベルはその正義が形骸化している。しかし豊かであるが故に人々は気づかず、滅びを免れた悪は根付いていく。それでも人々は正義を求めるのだ。遊撃士の人気があるのは社会への安心を求められる存在であるからだろう」

「…………」

「確かにあっちは正義の味方って感じがするねぇ」

「だが遊撃士の正義は限定的なものだ、この街の根幹には届かない――――だからこそ、私は君たちに期待したい。君たちが正義を追い求める姿、それが市民の目に映ってくれればと思う」

「警察にも正義はある。それを信じる契機としたいのですね」

「そうだ。クロスベルタイムズもその点では大いに役立っているね。未熟な君たちが必死になっている姿は簡単には否定されない」

 皆、期待しているのだよ。そう纏めたディーターはそこで少年のような表情をして目を瞑った。

 

「少し話しすぎたかな、悪い癖だ」

 端末室への入室許可を出そう、というディーターはしかし案内はできないらしい。そこでスタッフを呼ぼうとするが、開け放たれた扉によってそれは阻まれた。

「わたくしが案内しますわ」

 ディーターと同じ金髪を頭の両側で巻いた派手な女性がそこにいた。

「ベル……!」

「お父様、ただ今戻りました。久しぶりですわね、エリィ!」

 エリィがベルと呼んだ女性は言うなりエリィに抱きつく。ディーターを除く全員が困惑に支配された。

「二ヶ月ぶりですわね……でも手足が少し固くなっていてよ?」

「それは筋肉がついたからだと思うわ」

「確かにしなやかさも感じますわね。ふむ、これはこれでなかなか」

 エリィの身体のあちこちを撫でながらそう評価する女性、彼女はディーターに言われてようやくエリィを放した。彼女はマリアベル・クロイス、ディーターの娘でありエリィの幼馴染でもある。

 エリィは同僚の三人を紹介しようとしたが、マリアベルはそれを制して一人ずつ真剣に眺め始めた。整った顔立ちながらそのつり目は人を萎縮させる。

 赤褐色の瞳がそれぞれを捉え、そして彼女はロイドとランディからティオを引き離した。

「あなたは合格、そこの二人は不合格ですわ。こんなムサ苦しい男どもがエリィの傍にいるなんて女神も許さない所業ですわ」

 突然の不合格宣言に戸惑うロイドとランディ。そこで空気を読んだのか読まないのか、時間だと告げてディーターは去っていく。

 残された五人、いやマリアベルとその他の四人はまるで言い争うかのような会話を続ける。専ら攻撃対象になったロイドとランディだが、ランディの夜二人っきり発言でマリアベルの牙はロイドに限定された。

 吊り上げられたロイドを見捨てる二人と沈黙するエリィ。それはタイムロスを考えたティオによって収束されるまで数分を要した。

 

 

 ***

 

 

 IBC地下五階、そこにメイン端末がある。

 エレベーターでその最下層を訪れた支援課はその光景に息を呑む。円形を象って置かれた無数のディスプレイ、そしてその背後に控えるその数倍の大きさの巨大ディスプレイが高速で緑色の文字の羅列を飲み込んでいる。

 人間の動体視力では到底読みきれず、またコード化されているためにただ凄いという表現しか許されないそれは正しく大陸の最先端である。

 エプスタイン財団の最新情報処理システムらしいそれは、飛行船で有名なリベールの誇る高速巡洋艦『アルセイユ』にも使用されているらしいが、こちらにあるそれは莫大なネットワーク情報に対応すべく処理容量を数倍に強化している。

 

 研究員のダビットとクレイはその端末室に常駐する専門のスタッフだ。マリアベルは彼らに話をつけメール送信の痕跡を辿らせたが、送信システムがクラッキングされたことが判明したこと以外はわからなかった。

「……端末を一つ貸していただけますか?」

 するとティオが何を思ったか口を開き、中央にある椅子に座る。

「アクセス――――エイオンシステム、起動」

 頭部につけたマシンが赤く明滅する。正面にある三つのディスプレイが赤い文字を今までとは比べ物にならないほどの速さで咀嚼していく。

「不審と思われるログを抽出しますので調べてください」

 二人の研究員は驚きに身を包まれながらもティオの指示に動き、マリアベルは得心したというように頷いた。どうやら彼女は財団で導力工学を学んでいたらしく、状況の推移を冷静に見つめている。

 やがて低い機械音が響き捜査は終了した。侵入者はジオフロントB区画『第8制御端末』からアクセスしたらしい。

「お疲れさま、ティオちゃん」

「流石だぜ」

 賞賛の声にティオは言葉を詰まらせたがマリアベルに勧誘されると空気が変わり、四人は礼を言って場を離れた。目指す場所はジオフロントB区画の入り口がある住宅街である。

 

 

 

 ***

 

 

 

 市庁舎から鍵を借り受けジオフロントB区画に潜入する。A区画とは異なり水流の上を通路が走っており湿度も高い。環境が異なっているのだから当然魔獣も種類を変え、その度に魔獣手帳を埋めていった。

 しかし不可解なのは、その魔獣に紛れて度々姿を見せる自立型の機械である。

 どういうわけかそれは四人を確認すると襲いかかってくる。とはいっても自分から突っ込むといった猪のようなものではなく掃除機のようにこちらを吸い込んでくるのだ。

 その吸引力の凄まじさはランディすら引きつける。トルゾーBと呼ばれるそれはどうやら印象どおりの掃除用ロボットらしいのだが誤動作を起こして魔獣化しているとのこと。事実時折吸い込まずにショートして自壊し、そのたびに周囲を巻き込む爆風を起こすという厄介極まりない代物だ。

 

 B区画は水によって道の形を変える。レバーを回すことで水が引き通れるようになるが、疑問なのはどうして手動にしたのかである。いちいち回さなければ通れないそれをランディは面倒くさがり、しかしエリィやティオに蔑まれて回している。

 その不満を魔獣が現れるたびに爆発させるランディ、そのせいか初見の場であるにもかかわらず歩みは順調極まりなかった。

 

 そして彼らはトルゾーBの大型版トルゾーDXと遭遇した。人を容易く飲み込んでしまいそうだほどの大きさのそれは一体どこ用に作った掃除機械なのか見当がつかない。周囲を満遍なく吸い込んでしまいそうな、いや実際に吸い込まんと大口を開けるトルゾーDX。吸引力はBの数倍、Bに吸われている最中DXに掻っ攫われるという不思議な現象が起きるほどに強力だ。

 とにかくこうも容易に体勢を崩されてはたまらないと思った彼らだが、しかし対策は思いのほか少ない。が、それは極めて有用だった。自分の代わりにBを吸い込ませて爆発させることである。

 全自動爆撃機(自爆用)と化したトルゾーDX、その締めは身動きの取れない吸引中におけるクラフトの発動だった。

 導力により無理やりに動作を完成させるクラフト、エリィの3点バーストを至近距離で放ち、止めはティオの新クラフトであるビームセイバーである。魔導杖が精製する魔力弾に形状を与えたもので、前方範囲を一薙ぎで一掃する強力なクラフトだ。

 

 吸引による加速が威力を高めたのかはさておき、その一撃で致命傷を負ったトルゾーDX、瞬間に怖気の走ったティオをランディが横抱えにして退避し、その一瞬後にそれは爆発を起こした。

 トルゾーという機械は最後に爆発する運命なのだろう。パラパラと破片が落ち、ドボドボと水の中に消える。

 トルゾーに襲われた場所は随分高い位置にあるようだった。元来た道と反対方向、つまりは進行方向だが、更に上へと登る階段が設置されている。このままでは地上に出てしまうのではないかと危惧したが、どうやらその先は終点のようだった。

 

 正面に見えるダクトは更に上へと伸びている。しかしその左手にある一室には光が灯り、何ともいえないお気楽な音楽が漏れ聞こえてきた。

 つまりは、ここが第8制御端末である。

 

 

「金髪、の、ガキ……?」

 ドアの小窓から見える後姿にランディは思わずと言った風に呟く。ハッカーがいる制御室には人影は一つ、椅子に座り多くのディスプレイの前で鼻歌を歌っている少年である。ティオは目を細め、やっぱりと呟いた。

「っかし太っ腹だよなー、メール送るだけで銀耀石の結晶、これ換金したら一万ミラはいくんじゃねー? 全く、このヨナ様がかぎつけられるヘマなんてするとでも――」

「やはりあなたでしたか、ヨナ・セイクリッド」

「へ?」

 驚きはどちらの声だったのか、気づくとティオはドアを開けて部屋へと侵入しており、ヨナと呼ばれた少年は口を半開きにして少女を見ていた。

「てぃ、ティオ・プラトー!? どうしてここに……ってうわっ!?」

 口に入っていたピザの欠片を汚らしく吐き出して驚いていたヨナはバランスを崩して落下する。その様をティオは冷たい眼で見つめ、ようやく事態を把握したロイドら三人が会話に参加してきた。

「ティオ、知り合いか?」

「エプスタイン財団のシステムエンジニアのヨナ・セイクリッド、13歳です。悪戯好きが仇となって財団に巨大な損失を被らせ、怒られるのが嫌で雲隠れした根性なしです」

「辛らつね、ティオちゃん……」

「つーことはこいつがメール送ったのは間違いなしか? なんつーかアレだな」

 アレではわからないが、とにかく支援課はヨナを追い詰めたことになる。ヨナは地団駄を踏んで悔しがっていたがティオに論破されると大人しく負けを認め、一枚のカードを差し出した。

 

 

『今こそ門は開かれた。いざ星の塔に挑み我が望みを受け取るがいい』

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ウルスラ間道を少し進んだ場所、ちょうど最初の小橋を渡った直後だろうか、右に抜ける道がある。そこから先は森林部、魔獣が跋扈する獣の世界だ。鬱蒼と茂った木々はそのどれもが生存競争の中で生きる方法を確立したものばかり、魔獣もその食物連鎖の中で必死に生きている。

 動物種の魔獣に比べ植物種の魔獣は絶対数が少ないが、それでもこの地帯では世界全体の比率を裏切る形を取っている。途中ゴーディアンも見かけたがうまく回避することができた。目的はまだ先にあるので消耗は避けたい。

 

 森を抜けると吹き降ろしの景色が見えた。青空をバックに広がる短い草の絨毯。所々露出した土もその美しさを際立たせるアクセントになっている。その先にある自然界のものではない黄色の物体を越えた先に古びた塔、通称星見の塔がある。銀が指定した星の塔とはこれのことだろう。

 違法占拠中のヨナは折を見て様子を伺うという結論に達している。彼は情報屋、今回の件に絡んだのは銀からの依頼によるものだ。

 ヨナの場所にまで辿り着いたならこの場所を教える、という簡単な依頼であったが、彼としては突き止められた時点でゲームに負けたことになる。その顔には不満がありありと見て取れた。

 

 そして現在、ヨナを置いてきた特務支援課の四人はまた別の人物と顔を合わせることになっていた。

「皆さん、この先に行かれるのですか?」

 ノエル・シーカーが問う。警備車両を脇に停めて塔を眺めていたこの女性隊員は、侵入防止のために張ってあったバリケードが破壊されたことを訝しく思っていたそうだ。

 そこに現れた四人に驚く彼女だが、彼らのことは熟知しているのですぐに悟る。頭の回転は非常に速い。

「あぁ、銀はこの先にいるからね」

「……そうですか。私はこれより塔の捜索を開始します。できれば皆さんと行動を共にしたいのですが、よろしいですか?」

 よっこらしょと車両からスタンハルバードを取り出したノエルはそう言い、四人は驚く。その反応にノエルは眉を顰めた。

「どうかしましたか、皆さん」

「い、いや。曹長も行くのか?」

「当然です。警備隊として見過ごせません」

 凛とした表情で言い切る彼女、なんとなく女性ファンが多そうだ。

「そういえばここはタングラム門の管轄なのか?」

「えぇそうです。とはいえ巡回のルートがそう決まっているだけでベルガード門との間に厳密な区切りはありません。魔獣事件ではマインツを私たちが警備しましたが実際にはベルガード門の方々が基本的に巡回していますのでそちらが担当します」

 東西を司る両門に常駐する警備隊の定期巡回によって大雑把な担当を決めているが、実際はそこまで固執するものではないらしい。事実ベルガード門の司令は仕事をしないのでソーニャ司令の元に連絡が行きやすく、その為にタングラム門警備隊が出張ることもあるのだ。

 

 周囲の塔の残骸に四人は知らず息を呑んだが、意を決して行動を開始した。扉を潜ると石畳の道が続き、その中央には祭壇のようなものが置かれている。陽射しも入っていて明るく魔獣の気配はなかったが、何かを侵している様な漠然とした不安を抱いていた。やがて塔内部へと入る扉が見え、ノエルは厳しい表情で振り向いた。

「塔は危険ゆえに封鎖されていました。何があってもおかしくはありませんので覚悟してください」

 

 

 そこは、宇宙に庭園を造ったような場所だった。

 

 

「これは……光っているのは蛍でしょうか」

「随分趣の変わった場所だな、本当に塔の中なのか?」

 夜空を落としたような暗い空間に光が浮き沈みを繰り返している。円をモチーフにして設計したのか通路は円を繋げたように敷居が置かれ、光を灯した透明の天球儀があちらこちらにある。

 およそ塔内部とはかけ離れた空間に全員が呆けていると、現実に引き戻すように奥から重い足音が聞こえてきた。

「何、この音……」

「あそこです!」

 ノエルがサブマシンガンを構えた方向、通路が続く空間から現れるは中世の甲冑を纏った巨大な騎士。兜の隙間から見えるのは闇であり人が入っている様子はない。

「ゆ、ゆ、幽霊……!?」

 エリィが冷や汗を流して後ずさる。思わずと言う風に銃を構えている様が彼女らしいが、騎士の持つ無骨な剣はこちらに敵愾心を持っているようである。

「ティオ!」

「名称不明っ、四属性オートバリア……弱点は時属性です!」

「そんな!? ありえないっ!」

「ありえなくとも目の前にいる、集中していくぞっ!」

 ロイドの掛け声で五人は散開する。ノエルがダブルマシンガンを掃射して反応を確かめると、どうやら甲冑の耐久度は落ちているらしく弾丸がめり込んでいく。しかし痛みはないのか進行は止まらない。

 

 二体の騎士はゆっくりと歩を進める。加速という概念がないらしく、故にロイドとランディはわざと射程内に侵入し相手の攻撃を促した。金属音を出しながら歪に振り上げた剣に二人は後退する。それから二秒の間を経て剣は振り下ろされ、二人は地を蹴って急加速した。

 ランディは振り下ろしを胴体に、ロイドは連撃を右足に集中させる。思ったとおり甲冑に武器は食い込み、その形状を変形させる。そのままの勢いで駆け抜けた二人は同じ地点で回転、無防備な背中を蹴り込んだ。バランスを崩し横たわった騎士に再び銃撃を浴びせ、その後に詠唱を終わらせたエリィとティオが時の刃を放射した。

 ソウルブラーが甲冑の隙間に入り侵略する。その反動か一度中から膨らむ素振りを見せた甲冑だが、その後魔獣のように光を立ち昇らせて消滅した。

 

 騎士が消え去った後も五人はそれぞれの姿勢で固まり、ホルダーにトンファーを仕舞ったロイドが堅い表情で呟くことで状況は進行する。

「――ティオ、弱点属性に間違いはないのか」

「クオーツで得られた情報では間違いありません、登録されていませんのでアナライザーは行いませんでしたが」

「で、でも上位属性は全ての魔獣に一定のダメージを与えるはずです、弱点や耐性を持つ魔獣なんて今まで発見されていません!」

 地水火風の四属性は魔獣によっては弱点も耐性も備えているが、上位属性のそれらを持つ魔獣は現在確認されていない。なればこその上位属性であるのに、先ほどの騎士にはその常識が当てはまらない。ティオは言った。

「古代の錬金術師が造ったと言われている塔ですから、どうやらここは通常の空間とは異なる霊的な場でもあるようです。それなら上位属性に干渉することはできますし、わたしが感じている違和も説明がつきます」

 原因は不明ですけど、と纏めるティオにノエルは咳払いを一つ、真剣な顔で全員を見回した。

「どうやら警備隊がここを放っておいたのは完全に間違いだったようですね。皆さんには弁解のしようがありませんが、どうか協力をお願いします」

「お前の責任じゃねぇし俺たちにも銀の野郎と会う約束があるんだ。そんな気にすんな」

「先輩、ありがとうございます……」

 

 銀がこの空間に関わったことは可能性としては低いらしい。しかしここに銀がいることも事実、五人は未知の世界の住人に留意しながら足を運んでいく。全八層の古代遺跡、その真意を知るのはこれより半年の時を必要とする。

 

 

 

 


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