空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない 作:白山羊クーエン
「きっと、貴方はここに来るんじゃないかって思ってた」
振り返らずに言った彼女がどうしてそう思ったのかはわからない。それでもその言葉だけで来た意味があると感じた。
何も言わず、青年は空を見上げた。星が瞬いている。それは手の届かない過去の光、それを美しいと感じるのは届かぬものへの羨望か、ただ過去を美しく見てしまう人間の性か。
そのまま歩みを進め、彼女と景色が見える位置、風上である南側に立つ。なんとなく、話を聞くには彼女と同じ景色を見ていたほうがいいと思ったし、彼女を見続ける必要があるとも思った。
「風邪、ひくよ」
それは会話のきっかけに過ぎない。それがわかっているからこそ、彼女は搾り出すような声で返答した。
「……わからなくなってしまったの」
白い髪は夜風に揺れている。それはまるで彼女の心を映し出しているかのようで、そしてその髪を押さえている彼女の手は小さな子どものようで。
「クロスベルという街の歪み、それは前から知っていて、だからこそ変えたいと思った。その気持ちは今も嘘じゃない」
彼方を見つめる瞳は電飾豊かな貿易都市を俯瞰し、しかしその光景は彼女の心に綺麗に映らない。まるでただの映像を見ているかのように味気なく、自身が異物に思えてしまう。
「政治を学んで、各地に留学して、いろんなものを経験して。議会という通常の政治手段から離れた所からこの街を見て、そうしたら新たな道が開けると思っていた。でも、私みたいな小娘が簡単に答えを得られるならおじいさまだって苦労はしていないわよね……そんなことも、今までわからなかった」
ただ話してくれるままに聞くことしかできない青年は、本当にそのままで、だからこそ彼女も心のうちを吐露していく。
「――今回の一件は私に壁の大きさを見せ付けてくれたわ。途方もない、クロスベルという大きな闇。それに対抗するどころかその前に圧し止められている今の私」
手すりに寄りかかるように前かがみになった。青年は彼女の後姿を見る。それはとても小さい背中だった。消えてしまいそうな、子どもの背中。
「私が今までしてきたこと、今こうして貴方たちと共にいること。その全てが――」
「意味のないことのよう、か……」
沈黙を続けていた青年は相槌を打ち、振り返った少女は静かな瞳で見つめた。
夜空に星はあっても、街に明かりが灯っても、この空間はとても暗い。外界から切り離され、孤独なまま生きているかのよう。その場所はとても、とても静かだった。
「――俺は、捜査官として三年ぶりにクロスベルに戻った」
「…………」
「その理由、聞いてくれるかな」
空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない
静けさに倣うように外気温は肌寒い。今こうして感じている冷たい風がそのまま世界の在り様を表しているのなら、その中で少しでも風を遮っている青年とは何なのか。 エリィはそれを知りたいと思った。
ロイドは沈黙していた。話し出すのに最適なタイミングがあることはエリィにもわかっていて、だから話し出すのをただ待っている。
ふと、遠くで列車の音が聞こえた。今の時間帯だからこそ聞こえる遠くの人々の息吹だ。
「憧れていた人がいたんだ」
そして青年は話し出す。ただその一言で、エリィはとある彼女を思い出した。
「その人は優しく全てを包んでくれるような人で、小さな頃から一緒だったからそうあるのが当たり前で、ずっと好きだった」
「…………」
「でもその人には好きな人がいて、それは俺の兄貴だった。近所でも評判のカップルでさ、俺も兄貴が好きだったから、兄貴にならいいって思えたんだ」
話すロイドの顔は楽しそうで、幸せそうで。兄弟のいないエリィにその感覚はわからなかったが、それでも仲の良い兄弟だったことは理解できる。
「その人を幸せにしてくれるって信じていたからそう思えた――実際そうなったと思うよ……誰かが、それを壊さなければ」
そして、青年は表情を曇らせてしまった。彼の中であまり見えない、悔恨と憤怒の感情だった。
「兄貴は優秀な捜査官だった。正義感が強くて行動派だったからいろんな事件に首を突っ込んでいたらしい。でもどんな時も元気で周りを励ましてくれるような人だったから、死んだって聞いたときは嘘だと思った」
ガイ・バニングス。ロイドとは十も離れた兄にして、セシル・ノイエスの婚約者。幼い頃に両親と死別したロイドにとってかけがえのない存在。
「葬式にはたくさんの人が来てくれた。それだけで兄貴がすごい人だったんだってわかって、そして…………隣を見たら、許せなかった」
ロイドは手すりを握り締める。握りつぶさんとするほどに力が込められていた。
「誰よりも悲しいのに泣くこともなく俺を気遣ってくれるその人の、全てを諦めたような顔が忘れられない。そんな顔をやめさせたいけどできないガキの俺が考え付いたことは一つだけだ」
「――兄貴を、ガイ・バニングスを殺したヤツを絶対に許さない。必ず見つけ出して、セシル姉に謝らせる――ってね」
静寂が舞い降りた。それは痛く、刺々しい。だからロイドはそれを作った原因として明るく振舞う。
「これが俺の理由ってヤツかな。復讐みたいなものだから褒められるようなものじゃない」
エリィは青年の告白を心の奥底で受け止めた。自分はもう彼の事情を知る立場にいるのだと気づいた。
だからこそ、彼は彼女の事情を知ってもいいのかもしれない。
過去を話すことは弱さだと思うが、それでも相手が先にそれを見せてくれた。ならば彼女も、この雰囲気に流されて話してもいいのかもしれない。病院ではティオにそれを否定するようなことを言っておいて自分はこう、そんな事実が少し苦々しい。でも、ティオのそれとは違う。
エリィ・マクダエルは、彼に聞いて欲しいから話すのだ。
「父と母がいたの。これじゃ死んでいるみたいだけど、ちゃんと帝国と共和国で暮らしているわ」
「…………」
「父は政治家だった。クロスベルに来て、その姿に衝撃を覚えたんでしょう。クロスベルを良くするために様々な政策を提案し、でも派閥関係なく全ての議員に潰された。友人から見捨てられ、政敵に嘲笑され、市長であるおじいさまも中立な立場である故に助けることはできなかった。そんな父はクロスベルに絶望し、共和国に去っていった。そんな父を憎み、それ以上に愛していた母も、クロスベルにいられなくなった」
彼女が政治家を志望していたのはロイドとは異なり復讐ではない。ただ単純な疑問の答えを知りたかった。どうして家族は離れ離れになってしまったのか、どうしてこの幸せはなくなってしまったのか。
そんな他愛もない、けれど困難きわまる疑問。
「クロスベルの代表が誰だかわかる?」
唐突な疑問。ロイドはマクダエル市長と答えた。エリィは首を振る。
「正解は『クロスベル市の市長』と『自治州議会の議長』の二人。おじいさまと帝国派のハルトマン議長が共同代表なのよ」
同格の代表が二人いる理由、それこそがクロスベルの歪みを是正できない原因の一つである。代表の政策はもう一方の代表に潰される。それは政治力学において当然のことなのだ。
クロスベルは帝国と共和国が二大宗主という稀有な自治州だ。その二国の関係ゆえにクロスベルは常にどちらが完全支配するかの対象にしかならない。つまりクロスベルの意志など関係ないのだ、結局は従属される存在が自立しようとするのを防ぐためのものなのである。
70年前、両国の法律家が定めた自治州法、それこそが今もクロスベルを苛んでいるのだ。
「まるで呪いのよう……」
エリィが呟いたそれが、政治の世界に入らず、新たな切り口を見つけようとする彼女を蝕んでいることは確かだ。クロスベルの政治に絶望した彼女は警察官としてもその余波に苦しんでいる。
「結局私は、今尚一人では何もできない幼子に過ぎない。それが今日のことでよくわかった。でもわかったところで、もう私には、先に続く道が見えない……」
消えてしまいそうな声、しかしそれを繋ぎとめる為に青年は口を開いた。
「エリィ、俺がどうして支援課に入ったのか忘れたのか?」
その呪いは確実に迫ってくるだろう。それでも、完全に屈しないための方法はいくらでもある。
「え?」
「俺はエリィと、ランディやティオと一緒にいられれば目的を達成できる。そう思ったから今ここにいるんだ。つまりさ、俺だって一人じゃ何もできないんだよ」
「ロイド……」
「エリィは何でも一人でやろうって思っている。でもこうして仲間がいるんだ、それに頼ったって何もおかしくないし、むしろ……」
ロイドはエリィの肩に手をやり振り向かせた。困惑した白緑の瞳と力強い茶色の瞳が交錯する。
「俺は、エリィに頼られたいよ。こうして話だって聞きたいし、力になってやりたい」
「あ……」
「俺たちはまだ世界を知らないかもしれないけど、それでも少しずつ成長していると思う。今日あった壁は乗り越えることができなかったけど、でも明日なら乗り越えられるかもしれない。実はさ、脅迫状の件は独自に動こうって決めたんだ。課長のお墨付きで」
目を丸くするエリィになおロイドは力強く話しかける。
「捜査一課は正式な本来の方法でイリアさんを守る。そして俺たちは普通とは違う切り口で捜査する。ほら、さっきのエリィの目的と一緒だ。ならさ、これで俺たちがこの事件を解決したら、エリィの方法は間違っていないってことにならないか?」
ロイドの言葉にエリィは呆然としていたが、やがて瞳から混乱が消え、やがてクスクスと笑い出した。問題の異なるそれを解決したところでもちろん彼女の命題が解決することはない。しかしそれでも希望を持つことはできる。今までの過程に疑問を持ってしまった自分がいなくなる。
そして何より、何より懸命になって励まそうとしている青年が純粋に嬉しかった。
ロイドは自分がおかしなことを言っているという自覚はないので彼女が笑い出した理由が思いつかず困惑気味。だがエリィがそれまでの様子と違った表情をしてくれたので、別にいいかと思った。
「なんだよ、急に笑い出して」
「いいえ、ふふ、なんでもないわ。うん、ごめんなさい…………そうね、確かに、もし本当に解決できたなら私はここにいてもいいのかもしれない……いえ、私の、私たちの考えが正しいことを証明するために、解決しないといけないのよね」
「あぁ、今度は自分たちで、だ」
二人して笑い合う。
いつの間にか静まっていた風が再び二人を包んだ。夜風であるにも関わらずそれは心地良い。心が温まったから、というのは流石に言い過ぎだろうか。
「ふふ、でも吃驚しちゃった。貴方って女垂らし?」
「へ?」
いきなりの発言にロイドは疑問符を浮かべ、エリィは思い出すように目を閉じて歌うように話す。
「いきなり振り向かせて、頼られたい、力になってやりたい、なんて」
「な、あ、いや……」
「そのうち私も宝石か何かあげちゃったりするのかしら?」
そう言って彼女が見るのはロイドの胸の上で今も輝いている白の宝石だ。バスの中で邪推した彼女はずっとこれを女性からの贈り物だと思っていたのだろう。ロイドは慌てて弁明する。
「ちょっと待ってくれ、これは俺だってわからないんだって言ったじゃないかっ」
「そう? それにしては貴方いつも身に付けているじゃない」
エリィはロイドの胸元に顔を近づけた。驚いたロイドは硬直し、彼女は至近距離でそれを見つめる。
「材質は、真珠に近いのかしら。でもそれにしては光り方が違うのよね……」
触ってみてもいいかという願いに動揺したまま頷き、エリィはそれを手に取った。冷たく、しかし確かに温かい。それはまるで少女の心のようで――
「え?」
「あ……」
手から宝玉は離れ、揺れる。
よろめくように後ずさったエリィの顔には驚愕の表情が浮かんでいた。ロイドも信じられないものを見たように呆然としている。
「今の、は……」
呟く彼女には今も鮮明にその光景が焼きついている。ただそれは、どうしても信じられない類のものだった。ロイドを見る。混乱の極致にある互いの瞳が合わさった。
「ロイド…………?」
震える声でその名を呼ぶ。呼ばれた彼はしかし、応えることができなかった。そして二人は同じ光景を見たことを確信した。
「ありえない、ありえないわ……」
エリィは自身を納得させるように言い続ける。そんな彼女をロイドはただ眺めていた。
ありえない。
ロイドは呟いた。
エリィ・マクダエルがロイド・バニングスに銃を向けることなんてありえない。
引き金を引くなんてありえない。
それが幻覚だとしても、ただ、そう信じ続けるしかなかった。
* * *
翌朝、いつものように四人は朝食を摂る。しかしロイドとエリィ、隣り合う二人の様子がどこかおかしい。彼女は昨日明らかに調子を崩していたが、どうやらそれとは別の理由がありそうだった。
「怪しい」
「妖しいです」
音は同じ、しかし意味の微妙に異なる発言をしたランディとティオに件の二人は手を止めて見やる。
「な、なんだよ」
「……?」
ロイドとエリィはどこかぎこちない。昨日の内に何かが起こったことは明らかだ。ランディが茶化すように言った。
「なんだロイド、お嬢と夜に語ったりでもしたかぁ?」
「ランディっ」
「なるほど、おめでとうございます。ロイドさん、エリィさん」
「で、どこまでいったんだ?」
ランディの一言にロイドとエリィが咳き込んだ。
「どこまでいった? あぁ、お付き合いの過程で様々な段階を踏むというやつですね」
「い、いやいや、そんなのないから……!」
二人してひゅーひゅーと茶化す。瞬間的にエリィ大明神様が再臨してその場は治まった。しかしそれを無自覚に盛り返すのがロイドである。
「全く、そんなのあるわけないだろ? なぁエリィ」
「………………そうね、確かにそうはならなかったかな」
「…………エリィ」
にぎやかで浮いたような会話は唐突に途切れる。ロイドはエリィに何事かを伝え、エリィは頷いた。
そんな掛け合いをどうしてか茶化す気になれなかったランディは話を元に戻し、自身の安堵を伝える。ティオも心配が杞憂に終わってホッとしたようだ。
改めて特務支援課が万全になったところで本題である。
「――それでロイド、昨日は何か方針があるように言っていたけれど」
ロイドは頷き、昨日セルゲイに話した推測を繰り返す。それを聞いたエリィは頤に手を当てて確認するように呟いた。
「銀は別人の誰か、ルバーチェにも黒月にも真犯人はいない、本当の目的がある……大まかに言うとそんなところかしら」
「あぁ、あくまで俺の推測でしかないけど」
「でも本人だった場合に備えて一課が動いているのなら私たちは偽者の線で捜査してみるべきだわ。そしてその場合に重要なのは――」
「本当の目的、ですね。確かにロイドさんの言うように脅迫状の文面を成し遂げるには難しい現状です」
「黒月でもルバーチェでもないヤツってことは一課をどーこーしようって目的じゃねぇだろう。するとイリアさんでなくアルカンシェルの誰かを狙っているとかか?」
「アルカンシェルの人員は皆捜査一課の警護下にある。その線は薄いな」
確かに、と頷くランディ。
ロイドは停滞する状況を打開する為に、またしても紙とペンでカードを作り出す。犯人、目的、手段、結果のカードだ。するとランディが真っ先に手を伸ばし、犯人に銀(偽)と書き込んだ。目的は不明、手段と結果も未然の事件では書き込めない。
「おい、もう終わっちまったじゃねぇか」
「……いや、今回は事件そのものではなくもう少し小さくして考えてみよう」
ロイドは手段のカードに脅迫状と書いた。左手に持ち、掲げる。
「犯人である偽の銀は脅迫状を使った。目的は不明だから書けないけど、現時点の結果で考えてみよう」
「現時点の結果ですか?」
「あぁ、脅迫状が明るみに出てから起こった状況の変化を書き出してみるんだ」
ロイドは更に数枚の紙を用意した。忌憚ない情報を出すために書き手を回すことにする。
まずはランディだ。
「変化っつーと、まずアルカンシェルに一課の警備がついた」
次いでティオ。
「ルバーチェも一応疑われましたね」
そしてエリィ。
「黒月も疑われた、特に銀のことで最有力とされたわ」
最後にロイド。
「そして俺たち支援課は依頼を取り上げられた」
「それは書き込まなくてもいいのでは?」
「万一を潰すためにやってるんだから痛くても書かないと」
「さてお次は、つか大まかな変化はこんなもんじゃね?」
「一応アルカンシェルに不安要素が出てきた、とも書いておこう」
「じゃあお嬢が迷ってロイドとくっついた、とも――はいすいません」
ランディの悪ふざけは止められたが、こうすると脅迫状による変化は五つである。
「これらの中に犯人と、その目的に繋がる何かが隠れているはずだ」
ロイドは言った。四人はカードを眺める。
「確かに犯人はルバーチェ・黒月両陣営にはいなさそうですね」
今回の騒動でこの両組織は不利益しか被っていない。特に黒月はその銀の契約主なのだ、より一層警戒される火種を放り込まれたようなものである。
「その両組織を疑わせるのが目的って可能性は?」
「黒月はともかくルバーチェ側の嫌疑は大したことはなかった。そもそもリーシャがいなければ悪戯で終わっていたはずだし……」
「――それよ」
エリィが呟く。三人は顔を上げてエリィを見つめ、エリィは引っかかっていた事を口にした。
「銀が黒月と契約してクロスベルに来たという事実を知らなければこの脅迫状は書けないわ。黒月とルバーチェ、その両方に所属せずその事実を知っている人物こそが真犯人……」
銀という存在に辿り着いてもその銀がクロスベルにいることを知らなければ結局は悪戯にしかならない。捜査一課が銀の存在をおぼろげながら知っているからこそ今の状況が出来上がっているのだ。
そしてそれは一課がアルカンシェルを警備するという状況が狙いである可能性を高める。
「そして、黒月を恐れていない人ですね」
ティオが口を挟む。
「リンさんが言っていた『黒月がいる中で銀を騙る危険性』――それは黒月に恨みを持たれることです。ルバーチェと同等クラスの組織に恨まれることを苦にしない人物で、共和国寄りでない人です」
「すると帝国派、ルバーチェに銀の存在を知らされる可能性があるのはハルトマン議長ね」
「その議長本人なんてことはないだろう。なら繋がりを持つ一般人、いや政界の人間か? だとしたら特定なんてできねぇぞ」
ランディはぼやく。帝国派のハルトマン議長の周りには当然帝国派しか存在しない。つまり的が多すぎて絞りきれないのだ。
犯人像は限界なので、今度は目的について考えてみる。
「仮に共和国寄りでない政界の人間だとして、本当の目的は何だ?」
「……それなら心当たりがある」
ロイドは口を開く。カードに記し、見せた。
「プレ公演だ。プレ公演にはそれに見合う観劇人が来る、政界からも来るだろうし犯人像の人物の関係者もいるはずだ」
「確かに脅迫状の内容はイリアさんに危害を加えると書いてあった。だからこそ観客には目がいかない、か……でも警察、しかも一課がいる中でそんな大胆なことを――」
突然電子音が響き、全員が顔を向けた。支援要請の来る汎用端末である。ティオが端末を操作すると、どうやら電子メールが届いているらしい。文章だけを送るこの機能は確かに便利なのだが、警察ではあまり使われていない。
しかし警察からではないなら誰からのものであるのか。ティオはメールを開き、そして驚きに目を剥いた。
「銀……」
「な!?」
青天の霹靂か、ディスプレイに表示された文面は四人に急展開を告げるものであった。
『銀より支援要請あり。試練を乗り越え我が元へ参ぜよ。さすれば汝らに使命を授けん』