空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない   作:白山羊クーエン

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痛み

 

 

 

 グレイス・リンは住宅街を出てマインツ山道にてバスを待っていた。

 クロスベル市から出たらそこは魔獣の出現場所であるので、彼女のような一般人には移動手段に徒歩という選択肢はない。個人の導力車があれば時間の関係なく各地へと回れるが、一介の記者である彼女にそのような高級品は似合わない。というか買えない。

 というわけでグレイスはそこかしこにある小石を蹴っては暇を潰していた。

「全くもう、これじゃあの二人が着いちゃうじゃない……!」

 彼女の目的である二人の新人遊撃士は今頃どの辺を歩いているのだろうか。

 マインツ山道は文字通りの山道であり傾斜も激しく道も荒れている。普通に考えればこうしてバスを待っていたほうが早いことは確実なのだが、しかし、クロスベルにやってくる遊撃士を単なる遊撃士と判断してはならない。

 少なくともBランク、もしくはそれ以上という評価は遊撃士協会の誇る人員の中でも上級に位置されている。それはクロスベルという街の異常性を見せ付けるレベルでもあるが、とにかくクロスベル支部の遊撃士は優秀なのだ。こんな一般人が歩くことが困難な山道でもすいすい進んでしまうことだろう。

 確認の為の行脚というのが気休めにしかならないのが嬉しいのか哀しいのか、一市民としては嬉しく、記者としては、やはり嬉しいのだろう。優秀であればあるほど記事にしたときの反響が凄まじいものなのだ。

 

 その時小さな駆動音が聞こえてグレイスは顔を上げる。それはやがて大きくなっていき、その巨体を見せた。

 黄色の四角い箱。まさしく彼女の待ち望んだ導力バスである。

「待ってましたっ!」

 やっても意味も無いのに手招きするグレイス。

 待ち時間は三分であった。

 運転手の名誉を守るために付け加えると、時刻表通りである。

 

 クロスベルタイムズ記者、グレイス・リン。落ち着きがないのが欠点だった。

 

 

 

 

 

 

 

 空の碧は全てを呑みこみ、それでも運命の歯車は止まらない

 

 

 

 

 

 

 

 

 ばてていた。

 疲れていた。

 そう彼女はティオ・プラトー。待機状態の魔導杖を展開して杖代わりにしようか、それとも荷物になるだけで負担になるのでやめようか絶賛悩み中の14歳である。

 幼さの残る容貌には疲れがありありと見え、見ている側が辛くなるほどだ。

 

 始めは景色を楽しむ余裕があった。レマン自治州出身の彼女はクロスベルの景観を見慣れていないために全てが新鮮で興味深かった。エプスタインの研究所に缶詰であったこともその素晴らしさのスパイスである。

 おのぼりさんよろしくキョロキョロと辺りを見回し、それをロイドとエリィ、ランディは微笑みながら見つめる。ランディも先の鉄橋の件をお兄さんだからと水に流した為に四人は楽しく会話しながら歩いている。

 ティオも会話に参加しているが、彼女が景色に囚われている間の三人の会話は、小声でティオを愛でる会となっていた。

 

 途中で小川が流れており、小さく架かった橋からそれを見下ろす。透き通った水の中を川魚が泳いでおり、ロイドが薀蓄を垂れ流していた。

 ロイドは魚に詳しかった。

 ランディは肴に詳しかったが誰も相手にしなかった。

 

 とは言え何もなかったわけではない。当然の如く魔獣はおり、その度に魔獣手帳に記していった。

 好戦的な魔獣とは戦闘を余儀なくされたが、ただそこで生きている魔獣は記して後でも放置している。今回の目的はアルモリカ村であるのでそこまで重視しなくてもいいという共通認識があった。

 

 今まで戦った魔獣は鳥型魔獣『メタルソーサー』、蛇型魔獣『エッグスネーク』である。

 メタルソーサーは素早い上に羽が刃のように鋭く、エッグスネークは卵の殻のような胴体は固く、また牙には神経毒があるためにそれぞれ危険な魔獣である。

 メタルソーサーは耐久力がないためロイドが振りを小さくした連撃で墜ち、エッグスネークはティオの魔導杖に弱かった。

 

 反対に戦わなかった魔獣はカタツムリのような『ベルガ蟲』と、発見当初は動揺した『グラスドローメ』である。

 後者は彼らが最初に挫折したビッグドローメの縮小版であるが、気づかなかったのかおとなしい気性なのか、戦闘に至ることはなかった。

 これだけ見ると戦闘は二回、さしたる怪我もなく消耗も少なかったのだが、実はもう一種の魔獣がティオの体力を簒奪していったのである。

 

 

 それは舗装された道を少し外れた草むらの中、光り輝いて存在をアピールしていた魔獣。

「ん? なんだありゃ」

 ランディの言葉に全員が目を向けた先では光の球が跳ねていた。

「…………」

「…………」

「…………魔獣?」

「かわいい……」

 エリィの感想はさておいて、この光溢れる白い魔獣は『シャイニングポム』。ポムと呼ばれる魔獣種の中でも目撃の少ない存在である。

 天使の輪っかのようなものを頭上に浮かせたその姿は丸い天使と言えよう。

 ちなみに何故光るのかというと、内蔵するセピスが他の魔獣より何倍も多いからである。種類も豊富で、一説によるとシャイニングポムを捕らえた人には空からセピスが降ってくる、と言われているほどだ。

 

「うっ……!」

 つぶらな瞳にクラりと眩暈がしたエリィを置いておいて、情報を得たティオはそのセピス量に目の色を変えた。

「ゲットです……!」

 魔導杖を戦闘モードに、即座に魔力球を生成し放つ。

 五つのそれがシャイニングポムへと飛んでいき、しかし瞬間、ポムの姿は掻き消えた。

「えっ!?」

 ティオはセンサーの反応に驚き振り返る。そこには先ほどまで目の前にいたシャイニングポムの姿が。

 これまでと同じくただ跳ねている彼?の姿に今までは感じていなかったむかつきを覚えたティオは宣言した。

「絶対に仕留めます!」

 エリィはいたちごっこのティオとポムにうっとりとしていて止めず、ロイドとランディもティオに漲っていたやる気を止められずにいた。

 あっちこっちを縦横無尽に跳ね回るシャイニングポムとひたすら走るティオ。その攻防はティオが肩で息をするまで続いた。

 

 そして現在、息も絶え絶えな彼女は無言で歩き続ける。

 体力と精神力が空っぽの彼女に歩く以外の行動はできない。シャイニングポムに逃げられたティオの目には伏した犬のオーラが宿っていた。

「なぁティオ……」

「…………」

 そこは分かれ道。

 アルモリカ村に続くアルモリカ古道とタングラム門に続く街道の二ルートがある。

 そしてその二又の地点にあるのがバスの停留所。その時刻表をぼんやりと見つめるティオ。

「ここでバスを待とうか」

「…………………………はい」

 こうして特務支援課の初市外研修徒歩の巻は中途終了となった。

 その後のバスの中で彼女が舟を漕いだのは言うまでもないことである。

 

「心地良い震動ね、これ……」

 ティオを乗せた揺り籠でエリィが目を細めて言う。徒歩で疲れた身体にこの乗り心地は反則だった。

「へぇ、なかなかどうしていい感じだな。普通の導力車もこんな感じなのか?」

「俺も乗ったことないからなぁ。捜査一課の人員は個別の導力車が支給されているはずだけど」

「何!? なんで俺たちにはないんだよっ!」

「それはそうでしょう、まだ実績のじの字もないのよ? あと静かに、ティオちゃんが起きちゃうわ」

 捜査一課はクロスベル警察の中でも選りすぐりの捜査官が所属しているクロスベル警察の顔であるので、上層部もそこには金を惜しまないのだろう。

 

 ため息をついたランディは思い出したように呟いた。

「そういやさっきのシャイニングポムだけどよ―――」

「―――っ!?」

「……ぅ」

「それは禁句だっ!」

 エリィとティオの表情が変化したことに気づいてロイドが台詞を止める。ランディはスマンと謝って、しかし話を続けるつもりだった。

「白くて光る球っつったらお前のペンダントと一緒じゃね?」

「え?」

 ロイドはランディの指差す先、自身の胸元に目をやった。黄色の絨毯の上に白い珠がちょこんと座っている。

「あぁ、これか……」

 手に載せてそれを見る。まるで宝石のような純白だ。

 

「前からお前さんのイメージとはちっと違うなと思ってたんだが、誰に貰ったんだ?」

「そうね、とても綺麗だけどどちらかと言えば女性向けのような気がするわ…………へぇ……」

 言ってからジト目で見るエリィに辟易するロイドは、しかし顔を顰めた。

「俺さ、これに見覚えがないんだよな。気づいたら持ってたんだ……」

「忘れてるだけじゃねぇのか」

「…………俺も、そう思うんだけどさ。でもなんだか、とても大切なもののような気がする。それだけはわかるんだ」

「……そうかい」

 目に近づけて見るロイドはそのまま目的地に着くまでそれを眺めていた。

 奥底で渦を巻く感情の波に気づかないという矛盾を抱えて。

 

 

 

 

 

 

 近代化著しいクロスベル市とこの村が同じクロスベル自治州内であることに不思議を覚える人はきっと多いはずだが、この姿こそが始めのクロスベルの姿であると言える。

 中央を川が流れて水を運び、村の稜線を民家で作っているように家々は円を描くように点在する。段々になって高さを増していく村奥には村長宅がある。

 その先に広がるのは紫の世界。村全体に香水を振りまいたかのような香りを送るラベンダーの群生である。

 村の面積よりもラベンダーの面積のほうが広いが、このことを誇りに思わない村民はいない。これこそがアルモリカ村の特産である蜂蜜の源泉だからだ。

 長閑な雰囲気と自然はクロスベル市にはない立派な特徴である。アルモリカ村は小さいが、それでもなくてはならない存在なのである。

 

 導力バスの走り去る音とともに特務支援課の四人は村を一望した。時間がゆったりとしているような、そんな場所。

 魔獣の被害の痕が見当たらないほどにそこは平和だった。

 四人は村長宅に足を伸ばし、事情を聞く。アルモリカ村の村長トルタ老人から被害当初の話を聞いたが概ね警備隊の調書と同じで目立った成果は得られなかった。あえて言うならば、被害総額が予想よりも極度に小さかったことだろう。

 5万ミラにも満たないその被害は、被害にあったどの家屋も僅かに荒らされただけという不可解さによるものだ。

 普通魔獣に荒らされた農作物は全体に大きな損害が及ぶものだ。これでは言うなれば試食のようにしか思えないものである。

 

「―――じゃがわしは思うのじゃ。この魔獣被害は空の女神様による警告なんじゃないかとな」

 トルタ老人の発言は現在のクロスベルの移ろいを嘆いているようにも思えたが、それは彼のとある知識から生まれたものだった。

「クロスベルは昔ひどく荒れた場所での。人同士が筆舌に尽くしがたい行いをし続けていたのを嘆いて空の女神様はとある遣いを寄越したのじゃ」

「遣い?」

「“神狼”、そう呼ばれる存在じゃ。白と蒼の毛並みを持ち、人の何倍もの体躯を持つ」

「白と蒼の神狼……」

「神の狼、ですね」

「神狼は人々の愚行を戒め導き、人間の危機に手を貸したこともあったそうじゃ。しかし今ではその神狼も姿を消した。それはあまりにも人が愚かだったからじゃ。今ならわしは神狼の気持ちがわかる気がする、わかりたくはなかったがの」

 

 

 村長に村人との聴取を許可してもらい、四人は顔を見合わせた。

「―――白と蒼の神狼、つまりは狼か」

「シーカー曹長が目撃したのも白い狼だったわね」

 クロスベルに伝承として残されている神狼の存在、それはノエル・シーカーが邂逅した白の狼と関連性があるのだろうか。

「大きさについては記述されていなかったけど、人の数倍の大きさなら書くはずよね」

 話に聞いた神狼との明確な違いは大きさだ。

 人の何倍もの狼がいれば見つかるだろうし、そもそも被害現場で目撃されたのは黒い狼なのだ。

「……俺たちが今見つけるべきは加害魔獣であって白い狼じゃない。とはいえその狼が事件と関係がないとは言いきれない」

「今言えるのはそれだけ、ですね……」

 神狼というインパクトについ流されそうになったが、ともかくも村人に話を聞くことにする。

 四人は二手に分かれて話を聞くことにし、昼食を取る為の酒宿場で落ち合うことにした。

 

 

 酒宿場のマスターの厚意に甘える形で昼食を取った特務支援課。そのオムライスは新鮮な卵を使った絶品だったので四人は午前の疲れを十分に癒した。

 そのままテーブル席を占領して会議を始める。

 

 さて、村人から聞いた話は実になったのだろうか。

 

「深夜な上に皆早寝だから誰も物音を聞いていない」

「ぐっすりと眠っていて何も気づかなかった」

「新月の晩だったし……」

 

「―――つまり何の情報もない、ということになるな」

 話を纏めてロイドは言う。身も蓋もなかった。

「でもそんなことありうるのかしら。狼型魔獣は群れを作る傾向にあって、今回の被害も複数の魔獣によるものだと窺える。人の住む場所には滅多に来ないのに、物音も立てずに簡単に荒らしていく」

 エリィの言葉は今まで得た情報を纏めたものだが、これだけでも疑問が残る。

 通常のイヌ科に属する獣ならば、複数体の群れの場合ボスと呼ばれる一頭が統率を取る。上下関係のしっかりした社会だからだ。そしてその指示は鳴き声で行われる。

 こんな小さな、しかし統率の取れた被害を出すためにはボスの指示が不可欠なはずなのだ。

 

「単に住民の方が聞き漏らしたということもありそうですが……そうと断定する証拠もありませんね」

「だな。こいつは保留にしたほうがよさそうだ」

「……ここまでだな。戻ろう」

 ロイドは立ち上がりながら言った。アルモリカ村での情報収集はこの辺にして、今日中に聖ウルスラ医科大学にまで向かう予定だからだ。一つの現場に長くいるより、全ての現場に目を通したほうが思考の狭窄にも陥らない。

 椅子を戻して反転したところで、ロイドはうっかり他の客にぶつかってしまった。

「おっと」

「あ、すみません!」

 即座に謝り顔を窺う。ぶつかってしまったのは薄い紫の髪をしたスーツ姿の温和そうな男性だった。

 エリィやティオも謝るが、男性はまるで気にしていない様子だった。

 

 ふと思いついたようにティオは尋ねた。

「あの、この村には観光で来たんですか?」

「え? いえ、仕事ですよ。私は貿易商をやっておりまして、この村の質の良い特産品を卸させてもらっています」

「この村が魔獣の被害にあったことはご存知でしょうか?」

「……ええ、知っています。幸いなことに被害は少なかったようですが、被害の大小は関係なしに村の方々には不安が広がっていることでしょう」

 沈痛な面持ちで話す男性はまるでアルモリカ村の人間であるように見える。他者の被害にこれほどに心を痛めているのは心根の優しい証拠だろう。

「それじゃあ被害当時はこちらにはいらっしゃらなかったんですね」

「ええ、私もクロスベル市の人間ですから。何か私にもできることがないかとは思っているのですが、残念ながらいつもより割高に商品を扱わせていただくことしかできません……」

 聞くところによるとちゃんと打算はあるようだが、商人としては稀有な存在であるようだ。

 心がほんわかする話ではあったが有力な情報は得られず、ティオは少し残念そうだった。

 

 すると今度は男性が当然のことを尋ねてきた。

「あの、つかぬ事をお聞きしますが皆さんは―――」

「あ、失礼しました。クロスベル警察特務支援課の者です」

「そうでしたか。あ、私も挨拶をしていませんでしたね。ハロルド・ヘイワースと申します」

 評判の悪い警察だと名乗っているのにも関わらず丁寧な物腰のハロルドは、席を立ったロイドらに自身の導力車でクロスベルまで送っていくという提案をし、四人は頷いた。

 バス停まで行くとちょうどバスが出た後だったので、四人はハロルドの車に乗り込む。

 外装は緑の導力車だが、中は赤で統一されていた。乗り心地も十分である。

 ハロルドは家族に早く会いたいという一心で購入に踏み切ったということだったが、普通の導力車でも80万ミラはくだらない。貿易商が上手くいっている証だった。

 

 中央広場まで乗せてもらった一行はハロルドに別れを告げ、一度支援課に戻る。

 惰眠を貪るセルゲイに警備隊への連絡を取り付けた後、端末で支援要請を確認した。

「え?」

 カタカタとキーを叩いていたティオが困惑の声を上げ、全員が画面を覗き込む。

 そこには要請されていた支援が全て片付いているマークが印されていた。

「えっと……この三件、全部片付いているのね……」

 今朝確認したばかりの支援はいずれも期間が長く設定されていたのだが、どうやら遊撃士に先を越されたようである。

「こんな先の依頼をこなしちまったのかよ、おい」

 遊撃士は依頼の優先順位を決めなければならないほど忙しいはずだ。魔獣退治などと比べればこれらの依頼は優先されるものではないはず。

 それが午前のうちに終わってしまっていた。

 

「ちょっと、甘く見てたかな……」

 ロイドの言葉には重い感情が含まれていて、全員が黙った。

 旧市街の事件解決や警備隊に依頼されたこと、これらの要素が彼らに無意識な甘えを抱かせていたのかもしれない。

「なんだ、まだ出てなかったのか」

 セルゲイが雑誌を脇に抱えてこちらを見ていた。ロイドはセルゲイの顔を見つめ、言う。

「―――課長は、知っていたんですか?」

 何を、とは言わない。それで通じる確信があった。

「――――――今はウルスラに行ってこい」

「………………わかり、ました」

 踵を返して執務室に戻るセルゲイ。彼が消えるまで、消えた後もその扉を見つめていた。

 

「課長は、知っていたのね」

「……あぁ、だからエニグマにも出なかったんだろう」

 小さな、取るに足らないほどの要請でも軽く見てはならない。それを当たり前と思っていたはずなのに目先の大事に気を取られすぎていた。

 遊撃士のように優先順位をつければ、特務支援課にとってはそれが上になるはずなのに。

「だがよ、警備隊からの依頼も大事な俺たちの仕事だ。サボってできなかったわけじゃねぇ」

「……それでも、話を聞きに行くくらいはできたはずです。そうすれば何を先にすべきか検討できましたし、遊撃士に先回りされることもなかった」

「普段の積み重ねの差ね。トルタ村長もアルモリカ村に来てくれるのは遊撃士だけだって仰っていたわ。クロスベルの遊撃士はここに溶け込んでいる。たとえ依頼を知らなくとも、訪ねてきてくれれば市民は頼りにしてお願いだってするわ。依頼を見てもすぐに来ない警察なんかよりも、ね」

 一人ひとり、自分の意見を言う。それは今やらなければならないことだ。

 医科大学に向かうことよりもすべきこと。

 今やらなければ同じ過ちを繰り返してしまう。

 

「アルモリカ村に向かったことが間違いなんじゃない。俺たちは無意識のうちに市民の要請を警備隊の要請より下に見てしまった。天秤に載せもしなかった、それこそが間違いだ。話し合って先にアルモリカ村に行って、それで先に達成されたならそれは仕方がないと思う。大切なのは俺たちがやることじゃなく、市民の要望が為されることだから」

 ロイドは三人の顔を見た。

 エリィ、ティオ、ランディ。

 これが特務支援課、彼らがロイドの仲間なのだ。

「今回は遊撃士によって依頼者の要望は達成された。今は、それを喜ぼう。そして今度は、俺たちがそれに応えよう」

 決意を込めて、三人は頷く。それを見てロイドも頷いた。

 すぐにこの支援要請は端末から消されるだろう。しかし彼らの手帳からは消えることはない。

 初めて要請を怠った、その戒めとして。

 そしてそれが消えない限り、彼らが同じミスをすることはないだろう。

 

 本日は晴天、特務支援課の四人にはその光が少し眩しかった。

 

 

 

 

 


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