響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
今回の山を乗り切れば、その先にはきっとほのぼのが見えると作者は信じている!!
「提督」
自身を呼ぶ声に、閉じていた目を開く。
実に十八時間ぶりの休憩は、ものの五分で次の仕事が舞い込む。
「提督宛てに連絡がきてるみたいよ」
自身の秘書艦である少女の言葉に思わず天を仰ぐ。
「これはあれかな…………私を休ませず過労死させようとする新手の殺人の手段なのかな?」
さきほど部下の持っていった山のような書類を思い出し、ようやく片付いた机の上。
綺麗に片付いていたそこに載せられた書類に目を細める。
「私に言われても知りませんよぉ」
そんな自身の愚痴をさらった流した上で、呆れたように呟く少女に体が脱力する。
「休ませて…………」
「これで今日は最後だからもうちょっと頑張ってください、提督ぅ」
「じゃあ島風も手伝って」
「私の仕事じゃありませんから」
「反抗期?」
「私、提督より年上なんですけど」
そんな他愛無い言葉の掛け合いをしながら、一枚、また一枚と書類を捲っていく。
「また上は頭の悪いことを考えているみたいだね……………………反抗作戦だなんて、今のこの国のどこにそんな戦力がいるのやら」
「提督のことを頼りにしてるんじゃないんですかぁ? だって、この国の全戦力の三割は提督が掌握してますし」
「あの娘たちをあの阿呆どもに貸してやれって? それは私にあの娘たちを殺せと言ってるようなもんだよ」
論外だ、またあの時のようなことになったら…………。
ぴしり、と手に持っていたボールペンがへし折れる。意図せず手に力が入っていたらしい…………それも思いきり。
そんな自身の様子に、少女が無表情に見つめてくる。
「大丈夫…………大丈夫だから」
「本当に大丈夫?」
「うん…………大丈夫、大丈夫な…………はずだよ」
俯き、小さく大丈夫、と呟く。荒れ狂いそうになる心を落ち着けようと、手を握り締め口を固く結ぶ。
そうして目を閉じ、ゆっくりと呼吸をする。深く、深く、心も体も冷やしていく。
ようやく落ち着いてきた、目を開き、再度深呼吸し…………。
ジリリリリリリリ
電話が鳴った。
すぐ様受話器を取る、少女もすでにこちらを注視しており、いつでも動ける体勢でいた。
「私だ」
『…………………………!!』
「…………何?」
電話の向こう側から聞こえてきた声に、眉を潜める。
『………………、…………………………!! …………………………………………………!!!」
「っ!!!」
固く結んだ口から悲鳴を漏れそうになるのをこらえる。
「分かった…………すぐに対処する」
受話器を置く、と同時にドンッ、と机を思い切り叩き付ける。
「あの馬鹿たち!!!」
「提督、何があったの?」
「反抗作戦を推奨していたやつらの一部が先走って作戦を敢行した挙句惨敗、敗走しながら
自身の言葉に少女を目を見開く。そうしてすぐに険しい表情になる。
「それで、数は?」
「………………戦艦四隻、重巡八隻、軽巡五隻、駆逐艦十三隻、潜水艦二隻、軽空母四隻に正規空母二隻の三十八隻だそうだよ」
「………………………………」
少女が絶句する。私だって聞いた時は絶句した、そして悲鳴を上げそうになった。
「けどさらに問題がある……………………」
「これ以上まだ何があるって言うんですか!?」
「進路だよ…………東方海域の奥からこっち向かって敗走してるらしいけど、南方と東方の海域の境目には」
「………あっ」
少女も気づいたらしい。そう、
「どうするつもりですかぁ? まさか見捨てるなんて言いませんよね?」
「当たり前だよ…………東のあの人に助力を頼む、そうしてこっちとあっちから挟み撃ちにしようと思ってる、けどそのために、どうしても足止めをする必要がある」
だが三十八隻もの敵艦隊の足止めなどどうすればいいのだ。
こちらの全戦力を使えば可能ではあるが、損害が激しすぎる。
この一回を勝てばいいと言う話ではないのだ。
この一度の戦闘の後もまだまだ自身の守る海域を守り続けなければならないのだ。
ここで全戦力を失うわけにはいかない。
「…………………………頼みがあるんだ」
思考に思考を重ねた上で出した答え。
「前置きはいりませんよぉ…………私は何をすればいいの?」
「彼のところに行って、あの島の人たちの脱出を手伝ってきて…………敵がやってくるまでに」
「了解、島風、出撃します!」
理由も聞かず、必要なことだけ聞くと同時に少女…………島風が走って執務室から飛び出す。
「………………………………っ」
それを唇をかみ締めながら見送る、見送ることしかできない。
ダメなのだ、最速の名を持つ彼女でなければ…………間に合わない。
自身の準備不足、予測が足りなかった、危機意識が低かった。
まさかこんなにも早く彼らが暴走するとは思わなかった。
そんな甘い予測のせいで、また自身は彼女たちを危険に晒す。
「最低だね、私」
そしてこれから、さらに最低なことをするのだ。
ぎりっ、と歯を軋ませる。
受話器を取って番号を押していく。
『もしもし』
出てきた相手、彼の声に申し訳なさを感じながら。
「やあ、私だよ…………こんな時間に悪かったね」
『これはこれは中将殿。私に何の御用で?』
ごめんね、心の中でそう呟いて。
「キミに命令を伝える、尚これは私の最上位権限を持っての命令であり、貴官に拒否する権限は無いと知った上でのものであると理解しておいて欲しい」
その言葉を呟いた。
「鎮守府を破棄せよ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。
告げられた言葉のあまりの唐突さに、思考が、理解が追いつかない。
「…………………………は?」
疑問、疑心、疑念、疑惑。様々なものが渦巻く胸中、そこから搾り出たのはその一言だった。
『聞こえなかったのかね? それとも、聞こえないフリでもしているのか? もう一度言おう」
鎮守府を破棄せよ。
瞬間、全身の血が沸騰する。
「ふざけるな!!!!!」
鎮守府中に響くのではないか、そう思えるほどの大音量。
こんな夜に出すには非常識な声。それは分かっていても抑え切れない。
「いくらなんでもそんな命令には従いかねます!!!」
『キミは先ほど聞いた言葉をもう忘れたのか? 貴官に拒否する権限は無い、これは命令だ』
「承服しかねます! 一体何故そんな命令を仰るのですか!」
理由を尋ねた自身の言葉に、中将が一瞬躊躇する、だがすぐに返答する。
『東方より敵の大群がやってくる。実に三十八隻もの大群だ。キミの鎮守府で受けきれるはずも無いだろう?』
そうして返って来た答えに絶句する。
どういうことだ? そんな疑問すら吹き飛ぶ。
深海棲艦と言うのは確かに徒党を組んでいる。だが密集はしないはずだ、凡そ三から六体で編成を組み、特定海域を動かない。つまり縄張りのようなものがあるはずなのだ。基本的に一度定めた縄張りからは出てこない。こちらから攻撃を仕掛けても撤退が容易なのはそう言う理由もある。
だから、本来ありえないのだ…………三十八隻もの敵がやってきた、などと言う事態。
「冗談だろ……………………」
『冗談かどうかはもう一時間もすれば分かることだ。現状が非常事態であることを認識したのなら早く全員の非難を優先したまえ』
無意識に飛び出た言葉を中将が拾い、そうして現実を叩きつけてくる。
「……………………一つ聞きたい」
『何かね?』
「この鎮守府を破棄した場合、俺たちは…………いや、駆逐艦ヴェールヌイはどうなるので?」
『大した錬度のようだからな………………別の鎮守府で働いてもらうことになる』
「…………そう、ですか」
自分でも声に力が無いことを自覚する。けれどそれが一体何故なのか、その理由が今の自身には理解できなかった。
『さて、理解したなら迅速に行動してくれたまえ、時間は刻一刻と最悪へ向かって過ぎていくのだから』
「…………了解しました」
最早反論の言葉は無かった。状況の絶望性が分かってしまったから。
受話器を置く手が震える。歯が軋り、握った拳に痛いくらいに爪が食い込む。
「…………………………くそったれ!!!」
そうして俺は、思い切り机を叩く。
最早、それしかできなかった。
受話器を置くと同時に深くため息を吐く。
「……………………最低」
自己嫌悪で死にたくなる。自分で自分に唾を吐きかけたくなるほど、自身のやっていることのひどさが理解できてしまう。
この状況を招いたのは自身なのに、その負債は全て他人に払わせようとしている。
もしかしたら、彼なら…………あの人の息子である彼なら、この状況を何とかしてくれるのではないだろうか、などと勝手に期待して、けれど彼の答えに裏切られた気分になった。
「勝手な女…………最低だよ、死ねばいい」
心底をそう思う。だがまだ死ぬわけにもいかない。
まだ、死ねない。
だってまだ…………約束は果たされていない。
『約束…………破ちゃってごめんなさい』
まだ、この国は危機に瀕している。
『約束…………勝手に押し付けちゃってごめんなさい』
だから、まだ死ねない。彼女との、最後の約束を果たすまでは。
『勝手なやつで…………面倒な女で、ごめんね、司令官』
「…………まだ死ねない、そうだよね…………雷」
『大好きよ、司令官』
「…………私の耳がおかしくなったのかな? 今何て言ったんだい?」
目を見開いたヴェルが、自身へと問い返してくる。
けれど何度問われようと、答えは変わらない。
「…………現時刻を持ってこの鎮守府を破棄。駆逐艦ヴェールヌイは鎮守府の全員の避難を遂行した後、別の鎮守府に配属されることとなる」
「………………冗談、にしては面白くないよ?」
ヴェルが帽子を手で抑え、顔を隠してそう言う。
その帽子の下で、一体どんな表情をしているのか。
それが想像できてしまい、けれど告げるべき事実を変えることができない自分が惨めだった。
「冗談でもなんでもない……………………凡そ一時間後、三十八と言う数の敵深海棲艦がこの島にやってくる、それまでに全員の避難を終えなければならない、時間が無いんだ」
「……………………………………に」
ぽつり、とヴェルが呟き、部屋から出て行く。
バタン、と扉が閉められ後には自分一人が残される。
「…………………………くそっ」
『ここでなら、私は見つけられると思ったのに』
最後に呟いた、ヴェルの一言が…………やけに耳に残っていた。
びゅうびゅうと風が吹く。
遠くに見える工廠でいつも自身を助けてくれている人たちが慌しく動いていた。
「……………………どうして」
そう呟かずにはいられなかった。
折角、ここでなら変われると思った。
兵器としてではない…………ただのヴェールヌイとしての自身を見つけることができると思っていた。
自身の中で何かが変わっていくのが好きだった。
それが何なのか、名前をつけることはできなかったけれど。
いつか、それに名前をつけることができるようになるのだと、そう思っていた。
けれど、そんなもの、幻だった。
所詮、戦わなければ何もかも失ってしまう世界だった。
そんな当たり前のこと、今更思い出して…………。
「とうちゃーく!! さすが私、はやーい!」
声が…………聞こえた。
聞き覚えのある声。
懐かしい声。
まだ昔、自身が「響」と呼ばれていた頃の…………。
「あれ? 響、こんなところで何してるの?」
「…………島風」
駆逐艦の最高峰島風。
自身の…………以前の職場の仲間。
「どうして島風が?」
「提督が避難の手伝いをしろって言うから、まあ島風は速いから」
変わってない、どこも変わっていない。
どこか自慢げに、けれどいつもより表情は固い。
「本当なのかい? 敵がやってきている、と言うのは」
そして。
「この鎮守府が破棄される、と言うのは」
その問いに。
彼女は。
こくり、と頷いた。
「
Неплохо(ブローハ)
ご機嫌どうですか? と聞かれて、良くない、と答える場合にНеплохо(ブローハ)と言います。
今回の場合、この状況に対してヴェルが「最悪だ」って言ってるわけですね。
因みにこれが中将ツンデレ説。別にツンデレでもないっていうか、むしろ病んでるけど。
多分、誰かしら感想で言うと思いますが、中将は女ですよ? ただし主人公提督は男だと勘違いしています。声がきっとアルトなんですね。