響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次   作:水代

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こんなの間違ってるよ

 

「あーあ…………もったいないことしたかなあ」

 人気の無くなった和室で、女…………瑞樹葉柚葉が呟く。

 誰に聞かせるわけでもない、ただの独り言。

「当たり前でしょ…………言質取ったならさっさと結婚まで持ち込めばよかったのに」

 呆れたような声音が返って来たことに、けれど柚葉は驚きもしなかった。

「いたんだ、おねー」

「弟と妹が結婚するかもしれないって時にのんきに仕事なんてしてられないわよ…………まあ結果はこの通りだったわけだけど」

 うぐ、と言葉に詰まった柚葉を、瑞樹葉歩は見やる。

「………………本当に、いいのね?」

 そしてふと素に返り、呟いた一言に、柚葉が首を傾げる。

「良いって…………何が?」

「灯夜くんのこと…………それでも柚葉が望めば、きっと彼は居てくれると思うわよ?」

「あはは…………そんな愛の無い結婚は嫌だよ」

 苦笑しながら、呟く柚葉の言葉に、けれど歩は目を細め。

「辛くない?」

「もう終わったんだよ、私じゃ灯夜くんを振り向かせられなかった、そう言うことなんだよ」

 笑みを貼り付けたまま答える。ぴくりとも動かないその笑みはまるで、能面のようでもあった。

「………………………………」

「もう、そんな顔しないでよ、おねー。本当に…………これで良かったんだよ」

「…………納得してるなら、そんな顔するはずないでしょ」

 本当に良かったのなら。

 

「涙なんて流すはずないでしょ」

 

 告げられ、柚葉が初めて気付く。

 

 自身の目から零れる熱いものに。

 

「………………あれ…………どうして…………」

 堪えようとするほどに、止めようと思うほどに。

 溢れる、堰を切ったかのように、止め処なく溢れ出す。

 

「それだけ本気で好きだったから…………そう言うことでしょ」

 

 呟かれた姉の言葉に、心がきゅっと締め付けられた。

「…………………………」

「だから、聞いたのよ…………本当に、良かったの?」

 ぐっと、歯をかみ締める。

 痛いくらいに締め付けられた胸の苦しみは、自身が手放したものの大きさを雄弁に語っているようで。

 

()()()

 

 それでも、と、そう呟く。

 

「良いんだよ、私は…………何よりも、灯夜くんに幸せになって欲しい。出来るなら私がしてあげたかった。でも灯夜くんはもう見つけたんだよ、幸せを。だから…………良いんだよ。これで…………良いんだ」

 

 それもまた本心。

 過去に彼がくれた幸せ以上のものを、彼に返してあげたい。

 自分はもうたくさんもらったから、それ以上を彼にあげたい。

 それもまた、瑞樹葉柚葉の偽らざる本心。

 

「…………それでも」

 

 やはり。

 

「胸が痛いよ。おねー」

 

 痛いものは、痛いんだ。

 

 内心の呟きに代わるかのように、つぅ、と涙が頬を伝った。

 

 

 * * *

 

 

「で、司令官と何があったの?」

 鎮守府に帰投して早々、姉妹全員を自室に連れ込んだ暁の開口第一声はそれだった。

「何って…………何が」

「昨日の晩、私たと解散した後、司令官と何かあったんじゃないの?」

 出切れば触れてほしくない部分をそのままずばりと切り込んできた暁に、思わず顔をしかめる。

 いつも表情の変化に乏しい自身のその様子に余計に確信を抱いたらしい暁が。

「で、何があったの?」

 そう尋ねてくる

 

 何気なく、簡単に聞いてくるものだ。

 

 そうは思うが、姉のその様子を見る限り、何かがあったことを確信しており、その上でこちらを心配してくれているようでもある。

 ことここにいたってだんまり…………と言うのは無いのだろう。

 

 数秒の沈黙、そうして諦めたようにヴェールヌイが息を吐き出し。

 

「昨日、正直に気持ちを打ち明けただけさ」

 

 昨日のやり取りの全てを話し始めた。

 

 

 …………………………。

 

 ………………………………………………。

 

 ………………………………………………………………。

 

 

 ヒトロクサンマル。

 すでにお昼を回り、夕方も近づいてくる時間。

 司令官が鎮守府に戻ってきたとの知らせに、秘書艦であるヴェールヌイが出て行き、特Ⅲ型駆逐艦の姉妹三名だけが残される。

 全て話して少しだけ心の整理がついたらしいヴェルとは対照的に、眉根を顰め、訝しげな表情になってしまった暁と雷、そしてそれを不安そうに見ている電。

「どう思う?」

「ばっさり切り捨てた…………とも見えるし、動揺して追い返した、とも見えるわね」

 雷の答えに、暁が頷く。

「今朝の様子を見る限り、脈有りなんじゃ…………とも思うけど」

「私もそう思うわ」

 

 ただ、分からないのが。

 

「どうして拒んだのかしら?」

「そこよね、問題は。多分、艦娘だから、なんて理由じゃないと思うんだけど」

 あの司令官は艦娘のことを人として扱っている。だからこそ、そんな理由ではないとは思うのだが。

「響のこと女の子として見てない、とか?」

「それは…………無いともうけど」

 色々想像は出来るのだが、どれもいまいち不透明でこれだ、と言えるものが無い。

「電はどう思う?」

 ふと暁が会話中ずっと聞き役になっていた電に尋ねてみる。

 問われた電が驚いた表情になり、けれど数秒考えて答える。

「良く分かりませんけど…………けど、一緒にいると司令官さんも響も幸せそうなのですよ」

 だから、二人には一緒になって欲しい、それが電の願い。

 

 かつての出来事で、電は心を壊した。

 何もかも投げ捨てた、けれど幸か不幸か投げ捨てたからこそ、何もかも忘れ、苦しむことなく生きてきた。

 

 けれど響は歯を食いしばって耐えた。

 罪の意識に苛まれ、失ったものの大きさに苦しみ、家族が一人居なくなった悲しみに打ちひしがれ。

 それでも拳を握り締め、歯を食いしばって、心を固くして、壊れることなく生きてきた。

 

 響は電に罪悪感を感じているのだろう。

 雷が許した今でも、完全には拭い切れてはいない。

 電の心が壊れる決定打となったのは雷本人だったとしても、その切欠となったのは響自身なのだ。

 自分の油断が原因で姉妹を傷つけた。その事実は永劫響の心に重しとなってのしかかる。

 

 だが同時に電もまた響に罪悪感を感じている。

 何もかも投げ出した、その中に響もまた入っていたのだから。

 響が苦しんでいるのも忘れて、自分だけ何もかも投げ出して過ごしていたこと。

 姉妹が苦しんでいる時に助けて上げられなかった、支えてやれなかったことを悔いていた。

 

 だから、せめて。

 

「響には…………幸せになって欲しいのですよ」

 

 戦時中、姉一人残して逝ってしまった妹の、小さな願いは。

 

 人の身となった今でも、確かに受け継がれているのだから。

 

 

 * * *

 

 

「おかえり、司令官」

 鎮守府に戻り、執務室の扉を開けると、中にいたヴェルの姿を見て自然と気が抜けていく。

「ああ、今戻った」

 

「本土は…………どうだったんだい?」

 そう問いながら、ヴェルが隣にある給湯室から二人分の急須と湯のみを持ってくる。

 それを机の上に置くと、部屋の端にある椅子を引っ張り出してきて向かい合うように座る。

「本当に久々に鎮守府から出たからな、中々様変わりしてた…………ああ、それと土産買ってきたんで後で全員に持って行ってくれ」

 疲れた、と呟きながらハンガーラックに上着をかけると、そのまま自身の椅子に深く座り込む。

 

「お疲れかい? これでも飲んで、落ち着くと良いよ」

「ああ、助かる」

 ヴェルの差し出してきた湯のみを受け取る、湯気立った緑茶が注がれており、息を吹きかけながら一口含む。

 喉を通る焼け付くような熱さが、けれど胃に落ちると同時に体全体に熱を広げてくれるようで、どこか安心感を生んだ。

「ああ、美味い」

「そうか、慣れない緑茶だが入れた甲斐があったよ」

 そんなヴェルの言葉に、そう言えば紅茶類は良く飲む(ロシアンティーなどで)が、緑茶を飲んでいる姿は珍しいと思った。

「そう言われれば今日はロシアンティーじゃないんだな」

「まああれもいいんだけど…………司令官が以前飲みたいって言ってたからね、先週頼んでおいたんだ」

 これでも日本国籍だからね、緑茶も嫌いじゃないさ。そんなヴェルの言葉に苦笑する。

「お前のその容姿で日本人って言われても違和感アリアリだけどな」

 まあそんなもの艦娘の半数以上に言えることではあるが。

 

 いつも通りの空気だった。

 昨日あったことをまるで感じさせないような。

 けれど、それは無かったことにはならない。

 確かにそれは、あったことなのだから。

 その事実は覆らないのだ。

 

「ところで司令官…………ご結婚おめでとう、と言ったほうがいいのかい?」

 そんなヴェルの問いに、思わず渋面を見せる。

 俺の表情から何かを察したのか、ふむ、と考え込んだ様子を見せる。

 

「…………フラれたのかい?」

「ちがっ……………………いや、そうなのかもしれないな」

 

 次いで発した言葉に、思わず反応しかけるが。けれど良く考えるとそうなのかもしれないと思い直す。

「結婚申し込まれて了承したらフラれた」

「………………………………???」

「いや、そんな首傾げられても俺にも良く分からん」

 事実を端的に言ったまでなのだが、何故かヴェルには首を傾げられた、いや当然か、実際俺自身にも良く分かっていないのだから。

 

「……………………つまり、結婚しないのかい?」

 

 その問いに答えようとして、気付く、気付いてしまう。

 自身の答えを待つヴェルの真剣な眼差しに。

「……………………………………」

 関係ない、と切り捨てることは簡単だった。昨日だって驚きと動揺の余りそうしてしまっているから。

 けれど待って欲しい、今更俺とこいつはそう簡単に切って捨てられるような間柄だっただろうか。

 だからこそ、悩む。

 

 正直に言えば、俺はこいつとそう言う関係になることを全く考えられない。

 

 ヴェルでは無いが、俺には恋なんて分からないのだ。だからこいつのことは大事な家族としか扱えない。

 まさかここにいたってこんな風にすれ違ってしまうとは思わなかった。

 だから決めかねている、俺とこいつの関係性の落とし所を。

 

「あのなヴェル」

 

 しっかりと、ヴェルを見つめ。今度は逃げずに答える。

 

「俺はお前と共に生きていくことは出来る、けれどそれは提督と艦娘と言う関係でだ。共に死んでやることも出来る、けれどそれは戦友としてだ。俺にとってお前は大切な家族だ、だからどうやったって俺はお前の想いには答えられない」

 

 ――――だってもう好きな人がいるでしょ?

 違う。

 

「だからもう、諦めろ…………捨てろ、なんて言わない。簡単に捨てれるものでもないだろう、けど、もう諦めろ。俺はお前のその思いを受け入れることは出来ないから」

 

 ――――だから。

 

「諦めるんだ」

 

 そんな俺の言葉に。

 

()()()

 

 震えるような声が返って来た。

 

 

 * * *

 

 

 ねえ、どうして?

 

 そんな少年の言葉に、少女は答えることができなかった。

 

「……………………あーもう、何やってんのよ私!」

 どん、と八つ当たりに廊下の壁を殴ってはみても、何も変わらない。

 

 どうして?

 

 そんなこと、分かりきっているのに。

 他の誰かに聞かれれば即答できていただろう答え。

 けれど、少年にだけは答えることができないのは、少女の…………瑞鶴の弱さか。

 

「………………あーもう、これも全部提督さんのせいじゃない!」

 

 八つ当たりの次は責任転嫁。

 とは言う物の、確かに瑞鶴に責任がある、と言うものではない。

 

 結局、決めたのは当人同士なのだ。

 

「なんでよ…………どうしてなのよ」

 

 けれど、当人たちだって決して望んでいたわけではないだろう。

 それでも、切っても切れぬ宿業と言うものがある。

 

「どうして私たちは平穏に過ごすことが許されないのかしらね」

 

 きゅっと、唇をかみ締める。

 ただただ無力感が辛い。自身たちの不甲斐なさ、と言うよりもそれを許さない現状に対して毒づきたくもなってくる。

 けれど天に唾を吐きかけてありったけの呪いの言葉を呟いても何も変わりはしないのだ。

 

 迫り来る敵の侵攻に対して、やらなければならないことはシンプル…………たった一つだけである。

 

「……………………敵を倒す、それ以外に私たちの役目はないわ」

 

 そんな自身の内心の声を拾ったかのように、余りにもタイミング良くかけられた声に、思わず振り向く。

 そこにいたのは一人の女性。銀の髪を腰まで伸ばし、瑞鶴と同じ袴をはいて弓を持った…………。

 

「翔鶴姉…………」

「瑞鶴、そんな顔しないで…………これは私が決めたことなのだから」

「でも!」

 

 瑞鶴の抗議に翔鶴が首を振る。

 それでも瑞鶴は止まれない、どうしようも無いくらいに溜まった想いがあふれ出して。

 

「でも!!! ()()()()()()()()()()()()()()()!!!?」

 

 そんな瑞鶴の言葉に、けれど翔鶴は首を振る。

 

「あの人も戦っている、あの子がここにいる。だったら、私がもう一度戦わない理由なんて、どこにも無いわ」

 

 呟いた瞬間。

 

 ぶー、ぶー、とブザー音が鳴り響く。

 

警報(アラート)?!」

要警戒自体(シグナルレッド)…………いよいよ、と言うことね」

 

 それは凶兆の証。

 

「お別れね、瑞鶴」

「待って、翔鶴姉! 本当に、本当にこのままで良いの?!」

 

 瑞鶴の言葉に部屋を出ようとした翔鶴が立ち止まる。

 

「…………ええ、良いわ。私が戦って、あの子の未来が守れるなら」

 

 何度だって命を賭けて見せる。

 

 振り返り笑うその笑みに瑞鶴は絶句する。

 

 翔鶴が出て行く。

 

 その後ろ姿を見ながらも、容易に想像が付く。

 

 彼女はきっと笑っているのだろう。

 

 この世の何よりも強い。

 

 母親の笑みで。

 

 だからこそ、瑞鶴は呟かざるを得ないのだ。

 

 こんなの。

 

「こんなの間違ってるよ」

 

 




ちょっとずつネタバラシなう。

でも今回の話で気付いた人はきっと気付いた。それほど明確に書いたわけでもないけど、やっぱり隠してるわけでもないし。
なんのことか分からない人は次を待て。



ところでE5攻略中に嵐出た。
代わりにつぇっぺりんがでない。
あとツェッペリンだけ出ればそれで終わりだけど、燃料が足りないので遠征なう。

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