響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
「…………これは、困ったことになったね」
ふかふかクッションのついたソファチェアをぎしぎしと揺らしながら虚空を見上げながら火野江火々は呟く。
その言葉に傍に控えていた島風が反応し。
「お見合いのこと?」
そう尋ねると、火々が頷く。
そうあの瑞樹葉少将の持ってきた
まず前提として知っておくべきこととして、海軍には三つの派閥がある。
深海棲艦の殲滅を目的とするタカ派。本土防衛を目的とするハト派。そしてそのどちらも重要視している中立派。
タカ派は深海棲艦への遺恨などを原動力として動いているためやることなすことが過激で、味方への被害を無視して暴走する部分があり。
ハト派は政治と癒着し、政治家の言いなりとなっている部分があり、彼らの意見を通すと軍が機能しなくなり、ゆるやかに破滅を呼ぶ危険性が大きい。
中立派はそのどちらの思想も理解できない、余り物たちの集団であり、比較的まともな思考をしている分、その折衷案のような意見が出やすい最大勢力だ。
で、問題は。
中立派は余り物の集団であり。
決して全員が全員同じ思想の元に集まっているわけではない、と言うことである。
結束力、と言う部分で中立派は他二勢力よりも劣る。
それでもここまで中立派はなんとか優勢を保ってこれたのはそれでも中立派が全体の半数以上を占める最大勢力であり。
タカ派、ハト派の極端な意見のどちらも廃し、その中間的な意見を内部ですり合わせてきたからに他ならない。
つまるところ、中立派の内部でも意見をすり合わせなければならないほど思想のぶれはあり。
そしてそれが中立派という一つの派閥の中で、さらに複数の派閥を作っている結果に繋がっている。
中立派のトップは現在澪月始海軍大将、と言うことになっている。
だが実際は、そのすぐ下に他数人の大将、中将が居り、意見調整を行った結果を議会で話しているだけに過ぎない。
そして現在の中立派は二つの勢力が他を圧倒している。
一つは澪月始大将をトップとし、その部下である自身もまた所属している改革主義。
一つは
そう、つまるところ、これが今回の最大の問題なのだ。
「そもそも、今は提督がちゃんとした後継って認められてるのに、狭火神提督にそこまで拘る意味ってあるんですかぁ?」
島風が不思議そうに首を傾げる、だがそれに対して深く息をついて返す。
「ダメなんだなあ…………これが。多分このことは私を含めて、ほんの一握りの人しか気づいてないと思うんだけどね」
机の片隅に置いたマグカップに入った珈琲を呷る。口内に広がる苦味と、冷めてしまって増した酸味に顔をしかめながら、一息の飲み干すと、とん、とカップを机に置いて再び口を開く。
「まあ確かに? 狭火神大将の地位も、名誉も、残してくれた繋がりも、大体は私が引き継いだ。これも立派に狭火神大将の遺産だと言える」
でもねえ、と口にしながら片手でくるくるとペンを回す。狭火神大将が昔やっていたように。
「一番大切なものは、私じゃない、彼が持ってるんだよねえ」
その呟きに島風が疑問符を浮かべる。一番大事なもの、とは何か考えているようだが、答えは出ない様子だった。
「血統…………いや、才能と言い換えてもいいかな」
仕官学院に入る前よりずっと彼のことを見てきたからこそ、分かる。
彼は自分には無い才能を持っている。
現在の海軍の仕官学院の教育の中に、艦隊戦闘の仮想演習がある。
実際に艦娘たちを使って戦うわけではないが、それぞれの性能を設定された艦のデータを使って、電子空間内での仮想戦闘指揮を行う、と言った…………要するに一昔前のPCゲームのようなものだ。
これが現実に全て反映される、わけではない。そもそも勝敗によって成績が決まるわけではなく、指導されたことをちゃんと組み込んで反映できているか、と言った確認程度のものだ。
当たり前だが、彼もこれを過去に経験している。その際、彼がどんな指揮をしたのか、気になってログを見させてもらったことがある。当時すでに狭火神大将の基盤を継いでいたし、将校が青田買いの参考にこう言ったデータを見ることは珍しくも無いので当時行ったおよそ二十戦分のデータログを見て…………そうして驚愕した。
直感的で、理論的で、矛盾しているようで整合されている。
とんでも無い博打のように見えて、それでいてどこまでが計算ずくなのか分からない。
見れば見るほどに自身の上司だった男を彷彿とさせるその指揮。
だがまだ甘い。実戦を知らないのだから当たり前だが、ミスも多い。結果だけ見ればそれなりに優秀、と言った程度。飛びぬけた結果があるわけでもない。だから他の将校たちの目にも留まらなかった。
けれど、自身だけは…………狭火神大将の元でずっと共に働いてきた自身だけには理解できる。
これは大将の指揮だ。
まだ未熟だからこそ大多数は気づかない。
だがいずれ経験を積み、その才を開花されていけば誰もが理解することになる。
狭火神の再来を。
「正直さ、もう十年もしないうちに、彼には指揮で勝てなくなると思う。それくらい才覚…………
狭火神仁の指揮の秘密の一端を火野江火々は知っている。
正直、彼女には全く理解できない事柄ではあるが、恐らく彼には理解できるのだろう。
「計算、なんだよね」
「計算?」
自身の漏らしたその呟きに、島風が何のことかと呟き返す。
そうして返って来た言葉に、一つ頷き続きを話し始める。
「狭火神大将…………そして彼の作戦立案、そして指揮の正体だよ。全部計算してるんだよ、それが他人には理解できない。他人には見えない、他人にはできない。勿論、私にも」
火野江火々の指揮とは、パズルだ。
足りない物があるなら、代わりのもので補うか、もしくはどこからか引っ張ってくる。
全てのピースがはまれば強い、が応用性は無い。補えなければそれだけで瓦解してしまう諸刃の剣。
火野江火々はそれを補うための根回しをする才覚を持っていた。だからここまでやってこれた。
それもまた一つの才能。
だが分かりづらい。そして地味だ。
勿論分かる人間には分かる。必要なことで、重要なことだと理解もされる。
だが大多数に理解されるような才能ではない。戦略を、そしてその先を描く、どちらかと言えば上の人間に求められる資質である。
狭火神大将の、そして彼の才能はその真逆だ。
今ある手札とそして敵の戦力、さらに場の状況、時間、その他全ての情報を理解し、その全てを思考し、計算する。いわゆる、シミュレーションだ。それも精密の極地に至ったような。
狭火神大将のそれはほぼ未来予知と言っても過言ではない、未来予測演算である。
先の状況も、敵の動きも、全て計算し、予測…………否、最早予知した上で味方を動かすのだ、それはもう戦場を好き勝手にできる。さらに味方を動かした場合の敵の反応まで計算し、思考し、予測し、その対処まで考えるのだから、狭火神大将の動かす戦場では奇跡のような部隊機動が何度も見せ付けられると言うものである。
その弱点は、手札が無ければ取りうる対処法が極端に減っていくこと。
だが逆に手札に制限をつけない。
火野江火々がその才覚で手札を揃え、その手札を持ってして狭火神仁がその才覚で手札を切る。
そんな状況にできるのなら、無類の強さを見せ付けることができる。
それは誰にでも分かりやすい、現場の強さ。戦術が戦略を塗り替えるかのような派手さがある。
言うなれば、与えられた手札で最大限のパフォーマンスをし、最大の結果を出すのが狭火神親子の才で。
決められた目標を達成するために、手札を揃えることができるのが火野江火々の才だ。
「そしてこの半年弱の激戦でその才覚がどんどん研ぎ澄まされてる」
先ほど、自身が勝てなくなるのに十年もかからないと言ったが、あと一度か二度、この間の撤退戦や防衛戦のような激戦を潜り抜ければその時点でもう勝てないだろう。
思い出されるのはあの鎮守府の防衛戦。
「あり得ないにもほどがある。艦娘の轟沈を計算に入れてダメコンを積み。そのダメコンからの復帰までの時間まで計算に入れて他二人を動かす…………なんだそれ、と思わない?」
「……………………」
「五日待って何があるのか、彼は知らなかった。それでも何かあることは理解していた。そしてそれを漠然とだけど察していた。そこも計算したんだと思うよ、意識的か無意識的かは知らないけど。そして一番可能性の高い援軍と言う選択肢を頭に入れて、さらに演算。結局彼は、初日から五日目まで終始戦場をコントロールしていた。一度たりとも予想外を入れなかった。そしてその流れは、
「は?」
「だから、初日に防衛命じてすぐに五日間の流れを計算しきって、あとは細かい調整だけ入れながら実際に五日間、一度も予想外を起さずに鎮守府を守りきったんだよ」
その言葉に、さすがに島風も言葉を失う。
そんな島風の様子に、自身も同じような気分だよ、と内心で呟きながら。
「狭火神の血の怖さ、か」
思考するようにそっと目を瞑った。
* * *
「…………こんなところにいたのね、響」
後ろから聞こえた声に振り返ると、自身の姉がいた。
港の端、今日はどうにも海風が強いらしい、帽子が飛ばされないように抑えたままやってくる姉の姿を横目で見つめながら佇んでいた。
「大丈夫?」
「…………何がだい?」
そんな言葉を返すが、何が、なんて本当は分かっている。
「司令官のお見合いのこと」
ズキン、とその言葉を聞いた胸が一瞬痛みを叫ぶ。
けれどその意味を自身は知らない、知らないから理解できない。
だから、どうしてこんなにも心が苦しいのか分からない。
どうしてこんなにも胸が痛いのか分からない。
どうしてこんなにも心が乱れるのかが分からない。
ヴェールヌイはこんな感情知らない。
痛くて、苦しくて、辛くて、けれど甘くて、切なくて、雪のように溶けてしまいそうな柔からかな感情。
ヴェールヌイはこんな思い知らない。
「お見合いって…………やっぱり結婚するのかな、司令官」
口に出して、言葉にして、もしかしてと思っていたその考えを、けれどはっきりしてしまえば、余計に胸が締め付けられる。痛みが増す。思わず表情が歪むくらいに。
そんな自身の様子を、じっと暁を見て…………見つめて…………そうして、ため息を吐く。
「なんだい、暁、何か言いたいことがありそうだけど」
「いやぁ、私もね、本当は放って置こうって思ってたのよ? こう言うのって本人同士の問題だし? 横から余計なお世話焼くのもどうかなって、レディーならそんな野次馬みたいなことしないで、見守るのも大事かな、って思ってたのよ?」
まるで呆れたような…………いや、実際に呆れていると目が告げて暁が言葉を選びながら続ける。
「でもね、ここまでお互いニブニブだといつまで経っても変わらないと思うのよねえ。特に二人の場合、安定してた期間が長かったから、もうお互いが落としどころを見つけちゃって進展させようと言う気持ちすらないのかと思ってたし。だから今回の件、突然だったし、驚いたけど、何か変わるかもって言う期待があったのよ?」
「…………えっと、一体何の話だい?」
まるで意味の分からない、暁の言葉に首を傾げるばかりの自身だったが、それを見て暁がまたため息を付く。
「本当に鈍いんだから…………二人が二人して、お互いの気持ちどころか、自分の気持ちにすら気づいてないんじゃそりゃ進展なんてしないわよね」
本当に、何のことかは分からない、分からないが…………何か憤っているようにも見える。
どうしたんだろうか、と首を傾げる自身を見て、やはり暁が何度目かのため息を吐く。
「本当に気づかないのね。妹ながらここまで鈍いと呆れる以外ないわ」
やれやれ、と言った様子の暁が自身の両肩を掴む。
そうしてその双眸で自身を見据え。
「いい加減気づきなさい。響、あなた司令官に恋してるでしょ」
そう言い放った。
「……………………は?」
突然の問いに、思わずそんな声が漏れ出た自身は悪くないだろう。
それほどまでに唐突だったのだ、自身にとって、その言葉は。
「…………悪いけど暁。私には恋なんて分からないよ」
口から出たそんな反論に、暁がはあ、とまたため息を吐く。
「分からないだけで、知らないだけで、存在しないわけじゃないでしょうに」
あのねえ、と片手で軽く頭を抑えながら暁が続ける。
「司令官のこと好きでしょ?」
「うん」
「司令官にならキスできるのよね?」
「ああ」
「で、司令官がお見合いするって聞いたら胸が苦しいのよね」
「そうだね」
「それを恋以外のなんて言うのよこのお馬鹿!」
そう言われて、初めて気づく。
先ほどから自身を締め付けるこの感情の正体。
嫉妬だ。知らない誰かに司令官を取られてしまうと言う可能性に、そして司令官を取ってしまう誰かに、嫉妬しているのだ。
どうして? どうして嫉妬するのだろうか?
「響は、このまま司令官が誰かと結婚しちゃっても平気なの?」
「っ!?」
ズキリ、と今までに無いくらいに胸の痛みが強くなった。
まるで触れて欲しくなかったことだったかのように。まるで今までずっと考えないようにしていたこと、目を反らしていたことを当てられたかのように。
否、まるで、などではない。
ことここにいたって否定などできようはずも無い。
どうしてこんなにも苦しいのか、どうしてこんなにも辛いのか、どうしてこんなにも痛いのか。
ヴェールヌイは知らない。
けれど、暁は知っていた。
「…………恋、なのかな、これが」
呟いた言葉が、すっぽりと胸の内にはまっていく。
恋。
自身の知らない感情…………いや、
「こんなにも苦しくて、辛くて、痛い感情が恋なのかい?」
「そうよ、その苦しくて辛くて痛くて、それでも暖かくて優しくて触れ合いたくなるような気持ちを世間一般では恋って言うのよ」
暁が言ったそれはまるで自身が司令官へ向ける気持ちによく似ていて。
「…………なるほど」
だからこそ、納得もできた。
「どうやら私は司令官に恋していたらしい」
そうして初めて自覚した。
「あっちはこんな簡単に済めばいいんだけどね」
なんて暁が呟いていたが、それすら気にならない…………否、気にする余裕の無いくらい感情が暴れ狂っていた。
「…………暁」
「何?」
「もしかして私は、これまで司令官にかなり恥ずかしいこと、していたのかな」
「…………ようやく自覚したの?」
以前に船の上で釣りをしていた時、司令官に抱きしめられたことがあったが、司令官への最近の自身の言動を振り返ってみるとあの時と同じ恥ずかしさ…………羞恥心を感じ、思わず帽子で顔を隠す。恐らく今、かあ、っと顔が赤くなっているのだろうと自覚する。
「ところで響。自覚したところでもう一度だけ聞くけど…………このままで良いの?」
このまま…………このまま司令官が自分の知らない誰かと結婚したら。
そう考えたら、自然と体が震えた。
「…………嫌だ」
司令官の隣に、自分じゃない誰かが立っている。
そうなった未来を考え、怖くなる。
その時、自分はどうするのだろう…………どうなってしまうのだろうか。
「嫌だ」
震える唇ではっきりと、けれど弱弱しく。
「お願いだから」
呟いた。
「いかないで」
未来予測演算は某エロゲから引っ張ってきた。一度は使ってみたかった個人的イケメンスキル。
そしてヴェルヌイはすでに地雷撤去済みなので比較的簡単に恋愛スイッチが入る。
そろそろ弥生更新したいなあ。因みにオリ主スレッドは現在80レスあたりまで書いてます。
前書きにも書いたけど、お仕事いそがったり、環境変わって集中できなかったり、アイギス面白すぎたり、シビラちゃんが可愛すぎたり、シビラちゃんが最強すぎたり、シビラちゃんが素敵過ぎたりでいまいち更新滞ってますが、ゆったりやっていきますので気長によろしく。