響が可愛いと思ったから勢いだけで思わず書いちゃったような艦これ二次 作:水代
現実を見ることの辛さを忘れたのはさて…………いつからだっただろう。
死んでいないことと生きていることは違うのだと…………あの人は言った。
その意味を、けれど自分は今でも理解していない。
今でも理解できない。
閉じられた部屋に独り取り残された少女。
開け放たれた部屋に独り居残ることを決めた男。
さて、どちらが孤独だろうか?
現実に生きながら夢を見続け、現実の見えない少女。
夢に生きながら現実を見続け、夢を見ることさえ許されない女。
さて、どちらが辛いだろうか。
* * *
「随分と強引ね」
冷めた目で俺を見ながら、暁が呟いた。
突然の旗艦交代を聞き、暁が突然のごとく執務室へとやって着て――――
「説明してもらうわよ!!!」
――――と
「強引…………なあ。強引か?」
そんな自身の言葉に、暁がハッ、と鼻を鳴らして答える。
「命令、なんて言葉使っておいて良く言うわ、司令官と響の関係なら、一から説得していけばそんな言葉必要ないでしょうに」
呆れたような、冷めたような、そんな目でこちらを見ながらそう答える少女に、少し感心する。
良く見ているものだ、いつも妹たちに弄られているが、それでもこの少女はこの鎮守府で一番回りを良く見ているかもしれない。
「それに、もう戦うなって、司令官が響に何を求めてるのかは知らないけど、もし響がこのままだったら本当に解体するつもり?」
軽く漏らした言葉、けれどその目は真剣そのもの。自身の妹のことだ、当たり前と言えるのかもしれない。
そして、だからこそ。
「
正直に答えた。
そんな自身の答えを意外だった、とでも言うように暁が目を丸くしている。
「何を驚いてる? するぞ、するに決まっている。今のままのあいつじゃこの先、戦闘には出せない、戦えないなら解体するしかないだろ?」
戦うことが、艦娘の役割なのだから。なんて、そんなことは口には出さないけれど。
内心の動揺をようやく治めた暁が、恐る恐ると言った風な様子で尋ねてくる。
「本当に、本当にそれでいいの? 響がいなくなって、司令官大丈夫なの?」
そんな彼女の問いに、本当に聡い少女だと、笑いながらけれど俺はいとも容易く答える。
「ああ、問題ない。その時は責任取って俺も辞職するからな」
今度こそ、暁の表情が完全に凍った。
* * *
分からない。
ただ頭の中でぐるぐるとその言葉だけが渦巻いていた。
“分からないか? もしこのままずっと分からないのなら――――――――お前、もう戦うな”
司令官が言った言葉の意味が分からない。
いや、分からなくも無い。と言うか理由自体は冷静になればすぐに分かった。
“いざと言う時、盾くらいにならなれる”
あの一言が引き金だったのは間違い無い。
どう考えたって悪いのは自分だろう。
だけれども……………………。
「私はもう、誰も沈んで欲しくない」
その考えだけは、どうしたって変えられそうに無い。
分からないのなら――――――――お前、もう戦うな
分からない。分からない。分からない。
どうして司令官がそんなことを言ったのか。
なのに、どうしてそんなことを言うのだろうか。
「分からないよ、司令官」
考えてみる、けれど答えは出ない。
だからと言って、思考を止めるわけにもいかない。
“考えろ、考えて、考えて、考え抜け響”
司令官がそう言ったのだから。だから、考えるのだ。
考えて、考えて、考えて、考えて、考えて。
「……………………………………分からないよ、司令官」
けれど答えは未だ出なかった。
* * *
『キミは………………雷なのかい?』
彼女のその問いに、けれど私は
「私が誰か、なんて…………そんなの私が知りたいわよ」
波打ち際。海面に浮かぶのは弧を描く月。
少しだけ、自身の話をしよう。
駆逐艦雷の始まりの記憶は、暗いドッグの中だ。
目を覚ましたそこは、暗い場所だった。
鼻腔をくすぐる鉄と油の臭い。そして響いてい来る重低音な機械の駆動音。
カラカラの喉が一つ息を吸っては吐き出し、また吸っては吐き出すを繰り返す。
密室の淀んだ空気に、咳き込みそうになったが、何とか抑える。
上体を起こすと、薄らぼんやりと見える周囲に光景に首を傾げる。
「……………………ここ、どこ?」
見覚えの無い景色。まるで異世界に紛れこんでしまったかのような。
いや、そもそも、だ。
「……………………私、誰?」
呟いた瞬間、頭が沸騰した。
直後。
コンセントの抜けたテレビがぶつん、と音を立てて切れるかのように。
意識が暗転に包まれた。
恐らくその時だったのだろう。
彼らが前任と呼ぶ
そのあまりの情報量に、処理の追いつかなくなった脳が、強制的に意識を断って自己を保った、と言ったところか。
意識が戻る、と同時に、僅かな頭の痛みを感じ、思わず頭に手を当てる。
気休め程度だったが、痛みが和らいだ気がして、ようやく周囲を見る余裕が出来る。
工廠だ。見覚えがある。
この薄暗さと鉄と油の臭い。響き重低の機械音。間違いないだろう。
「……………………どこの工廠かしら」
ふと呟いてみるが、けれど答えは出ない。
体を起こしてみるが、特に異常は無い。先ほどまであった頭の痛みもすっかり消えている。
起き上がり、工廠から出ようと記憶を頼りに歩く。薄暗くどこに何があるのかおぼろげにしか見えないが、まあだいたいどの鎮守府も同じような構造をしているので大丈夫だろう。
一度気を失っていたせいか、まだどこかフラフラとする体を引き摺りながら工廠の出口へと歩く。
どうやら記憶に遜色は無かったようで、無事工廠の出口らしき扉が見える。
取っ手に手をかけ、ゆっくりと引いて――――――――
「……………………えっ」
「あっ……………………」
扉の前に少女が立っていたことに驚き、そしてその少女の顔に、二度驚いた。
それは、目の前の彼女が、自身の姉妹であることを直感的に理解したのもあるし。
目の前の彼女の顔を、初めて会ったはずの私が知っていることに対する驚きでもあった。
その時、初めて自分の中に自分の知らない自分があることに気がついた。
それからの日々は他の皆が知っての通りである。
そして時間は飛んで、昨日の出撃である。
記憶の中の自分はともかく、今の雷には初めての出撃である。
広がる海、遠く遠く彼方に見える水平線。
覚えたのは感動、それから憧憬。
自分じゃない自分の記憶、だけではない。
駆逐艦雷としての記憶。
覚えた懐かしさに、自然と口元が緩む。
だがそれも長くは続かない。
自身の前を行く少女の存在をすぐに思い出す。
駆逐艦響…………いや、今はヴェールヌイだったか。
自身の記憶の中にもある少女。
“記憶の中の雷が轟沈する原因ともなった少女”
それに関して、思うところが無いわけではない。
けれど沈んだ雷が自分のことである、そんな自覚も無い以上、彼女を責めるつもりも無い。
そう自覚は無いのだ。以前の自分が自分であると言う、そんな自覚は。
けれど、記憶も、思いも、意思も、何もかも持っているのだ。
だからこそ、分からなくなる。
“私は一体誰なのだろうか”
「聞いてもいいかい?」
そして、そんな自身の内心の動揺を読み取ったかのようなタイミングで、ヴェールヌイが口を開く。
一瞬、有耶無耶にして誤魔化そうかと思ったが、ここは大海原の只中。
煙に巻いたところで、逃げ出すことも出来ない。
タイミングを計った、と言うよりこの状況をセッティングされたと考えるべきだろう。
まあつまり、いっぱい食わされた、と言ったところか。
「何?」
諦めて口を開く。漏れ出る声は、記憶の中の自身よりもずっと冷たい。
それは過去の自分に対する精一杯の抵抗だった。
私は彼女とは違うのだ、自分でも疑念を抱きながら、必死にそう思い込もうとしている、故の抵抗。
少しでも過去の自分とは違う自分でいること、それが今の自分の態度だった。
そんな自身の態度に、ヴェールヌイが僅かに瞳を揺らすが、表情を崩さず続ける。
「雷は…………雷は、前の雷のことを覚えているのかい?」
揺れる瞳。隠しきれない内心の動揺。だがそれはお互い様である。
「前の私って…………一体どの私のことかしら?」
口から出た言葉は、けれどそんなどこか言い訳染みた、誤魔化したような、けれど底の浅い言葉で。
「火野江司令官の秘書艦だった雷のことに決まっている」
当然誤魔化せるはずも無い。
「……………………………………それは」
覚えている。正確には、
当然過去のヴェールヌイ…………響と過ごした日々も記憶している。ただ、そこに実感は無い。
だからどう答えればいいのか、一瞬迷った。そんな自身の様子をどう考えたのか、ヴェールヌイがさらに言葉を重ねる。
「キミは………………雷なのかい?」
今度こそ、私は完全に言葉を失った。
もし答えるならば、私はなんと答えたのだろうか。
彼女のその問いに、けれど私は
それでももし答えるならば…………きっと私は、何かの答えを出せていたのだろう。
だって。
記憶の中の雷にとって、響は間違いなく特別だったのだから。
結局、答えを言葉にする間も無く。
やつらが現れた。
深海棲艦。
私たち艦娘が戦うべき敵。
人類から制海権を奪った敵。
どうして気づかなかったのか。
それほどまでにヴェールヌイの言葉に動揺していた。
気づけばもう敵はすぐ近くまで迫っていて。
まるでいつかの焼き直しだった。
放たれる深海棲艦たちの魚雷。
そして。
私の前に立ちふさがるヴェールヌイ。
結果は、知っての通りである
* * *
「ひーびーきー? 元気ー?」
こんこん、とドアをノック。そして返事が返ってくるより先に扉を開く。
部屋の中には、部屋の隅に置かれたベッドですやすやと眠る妹の姿。
「ってあら…………寝てるのね」
ここ数日毎日のように様子を見に来ているが、時折こうして寝ていることがある。
そう言う時は大抵の場合。
「…………ずっと考えてるのね」
考え込んで、考え込んで、疲れてしまった時だ。
枕元に置かれた響の帽子に手を伸ばす。
少しだけよれてしまったそれを伸ばしてもう一度置き直す。
「………………ん…………」
身じろぎした時、漏れた声にふと視線をやる。
何とも安らかな寝顔だ。いっそこのままずっと寝ていたほうが幸せなのかもしれない。
けれど。
「それじゃ、ダメなのよね」
司令官はそう考えている。
実際問題、自分ではそこまで深く、響の心に立ち入ることは出来ない。
姉妹艦でも…………否、姉妹だからこそ、余計に。
自分にはやれることが無い、なんてあの司令官は言うが、司令官にしかもうどうにも出来ないのだ。
司令官にそう言ってみたが、反応は良くない。
けれどあの司令官が響のことを考えてないはずが無い。
“その時は責任取って俺も辞職するからな”
少なくとも、その覚悟は見せてもらったのだ。
その上で司令官が自身たちに言ったことはたった一つだけだ。
“一日一回でいい、響の様子を見に行って、大丈夫そうならあいつと話してやってくれ”
そんなこと、言われるまでも無くするつもりだった。
そしてそんなことをわざわざ命令する、と言うことは。
「これに何か意味があるのかしらね?」
所詮自分ではあの司令官の考えていることなんて分からない。
頭の回転が違う、とかそう言う問題ではなく、また自分ではあの司令官と確固たる絆を結べていないからだ。
目の前の彼女と比べて、単純に過ごした時間が違いすぎる。過ごした時間の密度が違いすぎる。
だから司令官がどんな考え方をしているのか、どんなことを思いつくのか、その想像が全く出来ない。
けれど、それでも。
「信頼だけはしてるのよ? 司令官」
そっと眠る妹の頭の上に手を載せる。
そのままゆっくりと撫でてやると、響が小さく声を漏らす。
そんな妹の様子に苦笑しながら、手は止めない。
司令官には恩もある、義理もあるし、謝辞もある。
だからと言ってそれだけなら信用はしてもここまで信頼することも無かった。
暁が自身の司令官を信頼する理由はたった一つだ。たった一つのシンプルな理由。
司令官は響たちに…………艦娘に対して真摯に向き合う。
それこそ、人として対等に向き合って見せる。
それがどれだけ凄いことで、どれだけおかしなことなのか、本人は分かっていないのだろう。
だがそれで良い。そんなもの自覚して欲しくない、する必要も無い。
そして、だからこそ、安心して妹のことを託せる。
「だから…………お願いよ司令官」
どうか、お願いだから。
「響も、雷も、電も…………どうか私の妹たちを泣かせないで」
それが今の暁の、
やっと手に入れた平穏の中で祈る、
“たった一つの願いなのだから”
暁ちゃんマジ聖女。
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