刀奈vsアリサちゃんの勝負は結果的に言えば刀奈の勝ちだ。
ただ、刀奈はその事実が気に入らないらしく医務室で目覚めてから帰国するまでずっと不貞腐れていた。
まぁ、放置したけど。
アリサちゃんはやっと肩の荷が下りたといった具合に清々しい笑顔だった。
ただ、今年いっぱいはロシア代表なのだがモンドグロッソ終了と同時に刀奈に看板を移譲するらしい。
そして俺は今何をしているかというと…
「それでね…一夏がさ…」
「いやな、鈴…一夏が超がつくほどの朴念仁なのはとっくの昔にわかってたことだろ?」
「そ、そうだけどさ…」
プラマイゼロコンビに拉致られて『織斑一夏攻略会議(命名:小さい方)』に強制参加させられている。
ぶっちゃけどうでもいい。
まあ、二人の奢りだから腹が膨れるまで注文するけどね。
「あ、すいません。鶏皮のグリル3人前追加で」
「はい、ありがとうございます!!」
「「ちょっ!?食い過ぎ!!」」
うるせえな…
「てゆうか、あんたも意見出しなさいよね!!」
「あ?姉さん並みのプロポーションになってから出直してこい」
「うわー、バッサリいったな…」
出せというから出した俺の意見(現実)に打ちのめされてテーブルに突っ伏している。
駅前に呼び出されたと思ったら、いきなりファミレスまで連れ込まれて、「奢るから相談に乗って欲しい」と言われたので乗ってやったらこれだ。
「だ、大丈夫よ…せ、成長期だし…」
「人間の体型は大体15歳で止まるから、身長体重は変われてもプロポーションは殆ど変わらんぞ?」
「え…嘘でしょ?」
ミニマムの顔が絶望色に染まる。
「お待たせしました、鶏皮のグリル3人前になります」
店員から料理を受け取り、一人でちびちびと食べる。
やっぱり鶏肉と言ったら皮だな。
セセリも捨てがたいが俺は皮派だ。
焼き鳥なら皮とネギマ以外は食べないぐらいの皮派だ。
「うわー、会計五千超えたし…」
ノッポはレシート見て財布確認して忙しそうだ。
同情の意味も込めて千円置いていってあげようか…
わぁ、俺やっさしー
にしても皮うめえ…
「ほ、他に方法はないの!?」
「薬物とか?」
「止めろ!!」
立ち直ったミニマムに第2案を提示するとノッポからストップがかかった。
まあ、ないだろうな…
薬で記憶消してミニマムの都合のいいように記憶を作り変えるとかできるけど、俺が弟を生贄にすることは有り得ない。今は。
後は媚薬使って既成事実を作って責任取らせるぐらいか…
あ、皮少なくなってきた…
追加注文するか…
「あ、すいません。鶏皮のグリル3人前追加で」
「「ちょっ!?おまっ!?」」
通りかかった店員に追加注文すると二人からツッコミがくるが、対価はキチンと搾り取る。
「注文されたくなければさっさと話を終わらせるしかないぞ?」
俺が残り少ない皮を味わいながら二人に言うと両者は頷いて早めに終わらせようと決意したように真剣に話し出す。
そして、ミニマムが語りだす一夏との出会いにどこでどのように惚れたのか…
時折ノッポが補足を入れたりしているのは何度も語られ協力させられたからだろう。
話してる時のミニマムの顔は輝いていた。とても綺麗だった。
今まで恋をした女の顔は何度も見てきたつもりだったが、今のミニマムの顔に比べれば月と鼈だろう。
不覚にも…その顔に見惚れていた。
追加で来た皮に手をつけずにその顔を見ていた。
この気持ちがなんなのかは多分気付いているが、意図的に無視して皮を頬張る。
味がしない…
話が終わった時点でファミレスを後にして、住宅街にある人気のない公園へ移動する。
「ようは、プロポーズしないと無理だ」
「えっ!?」
「まあ、そんぐらいしないと気づかんわな…」
俺の一夏攻略法は簡単だ。ド直球に行く。ただそれだけだ。
というか、これで無理なら既成事実作るしかないんだよな…
そして、あの
つまりはこれでダメなら背水の陣しかないのだ。
ただ、よくあるテンプレゼリフではあの馬鹿も冗談と受け取りかねないのでオリジナリティー溢れるプロポーズを考えねばならない。
「オリジナリティー…ねぇ…」
「要はお前の得意なものでメロさせろってことだよ、凰鈴音…」
「し、四季が鈴の名前を!?」
まあ、無視しきれなくなった結果だな…
まさかこんなことになるとはな…
自分でも信じられないわ。気付けば鈴の姿を目で追っていることに気付くが、止めようとも思わない。
だが、鈴が好きなのは一夏であって俺ではない。
奪うこと自体は簡単だ。朝飯前というよりも起床前だ。
だが、それは鈴の幸せを奪うことに繋がるだろう。
それは望むところじゃない。寧ろ、笑ってくれないと困るぐらいだ。
なら、俺がすることは鈴と一夏をくっつける事であってわざとフラれさせて慰めがてら合体することじゃない。
「四季…なんで…」
「自分の頭で考えろよ。その頭は飾りか?」
「お前……」
ノッポが意味深に呟いたが知らん。
今は鈴に言葉責めをすることで精一杯だから無視だ。
明日から新学期というよりも2年生だからな…
それにもうじきモンドグロッソだから姉さんは最近家に帰ってこないしアリサちゃんもこれが最後だからとロシアに行ったきりだ。
今年の開催国はドイツだったな…
観光できる場所なんてあったか、あそこ?
ドイツなんてジャガイモとビールとソーセージってイメージしかないんだよな。
偉人で言えば、"空の魔王"と"黄金の獣"と"水銀の蛇"ぐらいか?
アレ、水銀の蛇は違ったか?まあ、いいや。
鈴の告白が成功することを祈るだけだし、こっから先は俺に手伝えることはないだろう。
相談が終わると鈴は告白のセリフを考えるために速攻で家に帰っていった。
「なぁ、四季…」
「なんだ?」
「………好きなのか?」
「黙れ。お前には関係ない」
「…………そっか…」
ノッポはそれ以上は口を開かず俺の方を振り返ることもなく帰っていった。
俺は一人残された公園でブランコに座りながら自分の気持ちについて考えてみることにした。
俺の体重が乗っかったせいで、金属の擦れる音がキィキィと辺りに響く。
はっきりと言ってこの感情は面倒だった。鈴を応援すると決めてからキリキリと痛み出す。
面倒だ。めんどくさくてメンドクサイ。おまけにも一つメンドクサイ。
恋をしている女は輝く。誰が言ったかは知らないが実に的を射ている。
「束姉…あんたには悪いけどこの世界もあまり捨てたもんじゃないかもしれん…」
どうせこの言葉も聞いてるんだろうな…
あの人のことだから俺のことも切り捨てるんだろうけど、それならそれで俺はあの人に勝って従わせるだけだ。
まあ、敵にしたくないんだけどな…
今のこの世界は篠ノ之束の掌の上で転がされているようなものだ。
ISは本来宇宙用のマルチパワードフォームスーツ。要は宇宙へ飛び立つための翼だ。
だが、この世界はISを兵器としてしか見ていない。
現に各国政府はISの宇宙利用への研究は微塵もしていない。
戦争の道具としてしか見ていない。
この現状が束姉にはとても面白くないようだ。俺だってそうだ。
ISのコアには人間にとっての感情のようなものがある。本来の使い方をされず、人殺しの道具にされている。
その現状を俺も束姉も非常に宜しく思っていない。
だから俺は束姉が失踪する時についていった。白騎士事件のせいでこうなったのも確かにあるのだろうが、それだけで宇宙に行くのを諦めるわけがない。
まあ、つまりは束姉と俺にとってのコアっていうのは自分の子供みたいな側面もあるわけで…
各国の首脳陣にミサイルでもお見舞いしてやろうかってぐらいにイラついているわけだ。
「この考えを貴様等に言っても無駄なんだよなぁ…」
そう、俺の前にいる黒服共に向けるが返事は勿論帰ってこない。
今度はどこの馬鹿共だ?
以前からこういう事は起こっていた。姉さんとアリサちゃんは確実に気づいているだろうが特に何も言ってこなかった。
自分で対処できるだろうということなのだろうかはわからないが、信じてくれているのだろう。
つまり俺はその想いに答えるだけだ。
帰って対空兵器破壊ミッションをやらなければいけないし…
まあ、人間相手だし"紅蜘蛛"で十分だな。
量子化を解除して出てくるのは機械仕掛けの紅い大蜘蛛だ。
ISの装備として開発しているので大きさは人間にとってはでかいの一言に尽きる。
IS装備の人間と同等のサイズなので黒服達は"紅蜘蛛"を見上げる。
その顔はサングラスで分かりづらいが、多分恐怖しているんだろう。
一歩一歩徐々にだが後退していっている。
このままどっか行ってくれたらこっちも楽で助かるんだがな…
だが、黒服は行ってくれなかった。
懐から拳銃を取り出し俺に向けて撃つ。
確かにこの"紅蜘蛛"を操っているのは俺で俺をどうにかするのはいい判断だが、無駄だ。
銃弾は俺に中る前に"紅蜘蛛"の足に阻まれ、撃った黒服は"紅蜘蛛"の脚部に搭載された銃口から射出されたトリモチで体の自由を奪われその場で転倒してしまう。
これで一人脱落。
一人が脱落したことで黒服は俺を狙わなくなったが帰ってくれるわけでもなく膠着状態に陥る。
「はぁ…仕方ない」
携帯を取り出しある番号にかける。どうせあいつの差し金だろうしさっさと帰って貰おう。
『あら、貴方から掛けてくるなんて、珍しいこともあるのね』
「冗談に付き合うつもりはない。単刀直入に聞くが、なんのつもりだ?」
『ふふふ。今度会えないと思うのでその代わりよ?』
「モンドグロッソにまでちょっかい掛けるつもりか?」
『さあ?取り敢えず挨拶がわりですからもう下げておきますよ。ではまたいずれ、織斑博士』
「ああ。次に会ったときは覚悟しておけ、スコール・ミューゼル」
通話の途切れた携帯をしまうと黒服達は既に去った後だった。
"紅蜘蛛"によって固定された男は放置されていたが、使い捨てているところを見ると大して情報も持っていなさそうだ。
一応刀奈に連絡して尋問でもしてもらおう。
暗闇の中で通話の途切れた携帯端末を手にした人影がいた。
「ふふふ。楽しみだわ。」
手に持った端末の電源を切り、彼女は部屋の隅に設置されているダブルサイズのベッドまでゆっくりと歩んでいく。
既にベッドには人影があった。
彼女は構わずにベッドに入り既にいた人影と重なり合った。
「本当に楽しみね。ねえ、あなたもそう思わない?オータム?」
人影から返事がすることはなかった。その代わりに嬌声が部屋中に響き渡る。
第2回モンドグロッソ…
そこで、幾多の運命が交錯するとは、この時知る者は誰もいない。
使い捨ての黒服が相手ならシュピさんで十分対応できる。
IS使うとかめんどいし、今はまだ人前で使うわけにもいかないからね。
という訳で次回は本当にモンドグロッソだけど、ただの誘拐事件。
そして、面倒なことに同時に発動。
まあ、詳しくは次回。