IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜   作:アリヤ

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第七話

「う~ん……やっぱり直接見ても解らないよね……」

 

 一夏はアリーナで行われている1年1組と2組の合同授業の光景を双眼鏡を使って屋上から見ていた。

 授業光景から何かを起こそうとするわけでもないのは一夏も解っていたが、なるべく彼女の行動を監視しておきたいと思い、自ら確認することにした。

 アリーナでは凰鈴音とセシリア・オルコットの二人が1組の副担任である山田真耶と戦っていた。

 初めて組んだはずなのに、お互いに邪魔をせずになるべく隙を与えないような攻撃を繰り返していた。しかし、さすが教師であるというべきか、そう簡単に倒されず、一瞬の隙を見つけ一気に攻め返していた。

 

「それにしても、教師相手にあそこまで戦えるのはすごいね」

「そうよね~ もしかしたら私を負かしてしまうかもね」

「…………」

 

 ずっと気にしていなかったが、さすがに見られ続けているのは一夏としても嫌だったため、その人物の方へと振り向いた。

 

「……それで、生徒会長という者がこんなところで授業をサボっていてもいいのかしら?」

「そんなことよりも私にはやることがあるわ。あなたをIS学園から追い出すという役目が」

 

 ――生徒会長である更識楯無が追い出させてみせるつもりでいることに、一夏は思わずため息を吐いた。

 

「勝てないと解っていてそういうのね。まぁ、今回はこの前みたいに大げさに姿を現すことはしないつもりだから」

「それは信用できるのかしら? それに、この前みたいな事態になったらまたしても阻止しようとするつもりでしょう?」

「…………」

 

 否定はしなかった。今年のIS学園は何が起こるか解らないし、一夏が姿を現したことによって組織的な襲撃があるかもしれないという事は考えられた。

 クラス対抗戦であんな演技を起こさなければ良かったのかもしれないが、こうでもしなければ束がやろうとしていることに影響を及ぼす可能性があったからだ。そうならないために、一夏という生身でISを使用する人間が現れた事を世界中に知れ渡れば誰もが彼女みたいに使う方法を探り、酷い場合では一夏を誘拐させようと計画をするだろう。

 要するに、一夏に注目を浴びさせることによって、束がこれから行おうとしている事に悪い方向へと行かないためにも、あのクラス対抗戦での自作自演は行わなければならなかった。

 

「……で、どうやって私を追い出すつもり? 勝てると思っているの?」

「全く思ってないわ。クラス対抗戦で使った武器なんか使われたら、身動きすら取れなくなるもの」

「そう理解しているのなら、どうやって追い出すつもりなのよ……」

 

 またしてもため息を吐く。というか、未だに追い出そうとしてこない楯無をみて、一体何がしたいのかさっぱり理解できなかった。

 一体何を考えているのかと思っていると、突如一夏の携帯から連絡が掛かってきた着信音が響き渡ってきた。一夏の携帯に登録されているのはたった二名しかいないし、基本的連絡が掛かってくるのは片方しかいないので、誰からの電話か解っていた。

 今すぐにでも電話に出たいところであるが、この場には楯無がいる。この状況で電話に出るわけにもいかないが、束の電話に出なかったら後でラボに戻った時に何をされるのかが怖かった。束と長く生活をしていたこともあるからこそ、細かな事でねちっこい性格だという事を知っていた。一度電話に出ればさほど問題ないが、出なければ後で何されるか分かったものではなかった。

 

「あら、電話に出ないの?」

「そう思うのならば、さっさと私の前あら居なくなってくれません? 出ない理由なんてわかっているくせに……」

「ならさっさとIS学園から出る事ね。IS学園に居る限り、あなたの動向を監視する必要が――」

 

 楯無が最後まで言葉を言う前に、一夏は屋上から飛び降りていた。すぐに楯無は一夏が飛び降りたところから下を見るが、すでに一夏の姿はなく、一瞬の間に見失うこととなった。

 さすがの楯無も、一夏の行動には想定外すぎた。生身でISが使えるとはいえ、普通の人間と変わりがないと思い込んでいたからこそ、一夏の行動を推測することが出来なかった。思い込みによる見逃し――暗部の家である更識家の当主がこんなミスを犯してしまったなんて知られたら、恥さらしもいいところだった。

 とはいえ、一夏が普通の人間と変わらないという考えは変わらないでいた。そのことを思い込みすぎたおかげで、ISの武装を利用した移動方法を思いつかなかっただけだった。

 

「……よっぽど聞かれたくない内容だったのかもしれないわね。潜入しているから当たり前のことだろうけど」

 

 聞かれたくないというのは確かだが、それよりも束の電話をでないと酷い目に合うという理由の方が強かったという事を、楯無は知る由もなかった――

 

 

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『おっそい!! なんではやくでなかったの!?』

「すみません。少し電話に出られない状況でしたので……」

 

 屋上から飛び降りた一夏はIS学園を後にしながら、ようやく電話に出ることが出来た。屋上からここに来るまで数秒しか掛かっていないが、電話が鳴ってからは十秒近く経過しているので、束を待たせてしまったことになる。

 

『ふ~ん…… 知ってるんだよ? さっきいっちゃんが生徒会長と一緒に居たのは』

「み、見ていたのですか……」

『調べていたことが解ったからいっちゃんがどこにいるか探していたと思ったら、生徒会長と一緒に居て楽しそうにしているだもん。束さんが調べてあげていたというのに、一方のいっちゃんは生徒会長と仲良くしてて……』

 

 これはまずいと一夏はすぐに理解した。本来ならそんなことで嫉妬をしない束ではあるが、今回は状況が悪かった。一夏の頼みでわざわざ調べていたというのにも関わらず、その一夏が楽しそうに別の女性と話していたらどう思うだろうか。別に楽しそうに会話していたわけではないが、会話の内容を知らない束から見れば、仲が良さそうに話しているようにも見えなくなかった。

 ここで弁明しようとしたところで、多分束が信じるとは思えないだろうと思った一夏は、ラボに戻った時覚悟をするしかなかった――

 

「な、仲良くしていたように思えたのならば仕方ありませんが、と、とりあえず本題を教えて欲しいのですが……」

『……まぁ、とりあえずいっか。それで本題だけど、二人の転入生について調べてきたのだけど、両方とも面倒なことになりそうだね』

「面倒な事?」

『まずシャルロット・デュノアだけど、いっちゃんの言う通りやっぱり裏があったよ。やっぱり、いっちゃんが生身でISの武器を使用したのが理由だね』

「やはりそうでしたか。それで、私はどうすれば?」

『これについては束さんが終わらせておくから、いっちゃんは気にしなくていいよ。それに、調べていて面白いものを見つけたからね』

「なるほど……それで、ラウラ・ボーデヴィッヒの方は?」

 

 電話越しに束が悪巧みを考えているだろうなと一夏は思ったが、そのことについてはあえて聞かないことにした。というより、聞いたところで束が勿体ぶるような気がしたので、デュノア社の一件が全て終えるまで期待していようと思っていた。

 

『……詳しいことは聞かないんだね』

「どうせ教えてくれないのでしょう? それに、束さんがデュノア社の事についてやってくれるという事だから、私にはラウラ・ボーデヴィッヒの方をどうにかしてもらいたいような気がしましたし」

『なんかいっちゃんの反応が面白くな~い。確かにラウラ・ボーデヴィッヒについては任せようとしたけどさ……』

 

 頬を膨らませている姿を想像した一夏ではあったが、笑みを浮かべることはせずにそのまま束の言葉を待っていた。

 

『それで、ラウラ・ボーデヴィッヒについてなんだけど、正直いっちゃんはこっちの方が面倒なことになりかねないかもしれない』

「え? デュノア社のことよりも面倒って、それは一体どういう――」

越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)

「っ!?」

 

 まさか、自分と同じ越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)がラウラ・ボーデヴィッヒにも入れられているとは思いもしなかった。確かに一夏以外にも越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)が入れられていてもおかしくないとは思っていたが、まさかIS学園で遭遇するとは一夏も思っていなかった。

 一夏が驚いていることに束は察していたが、一夏に頼みたいことについて話し続ける。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒが眼帯を隠しているのは、どうやら越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を隠しているらしい。いっちゃんにはラウラ・ボーデヴィッヒに近付いて、ラウラの過去を本人から聞いてくれないかな? 調べていたんだけど、どうしても越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)くらいしか情報が解らなくて……』

「……ようするに、ラウラ・ボーデヴィッヒが危険な人物かどうかを、私が直接見て確認してほしいと」

『うん♪ それで、もしラウラ・ボーデヴィッヒがいっちゃんの越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)に気づき、そのことをドイツに話してしまったら、いっちゃんの身が危なくなるかもしれない―― だからそれだけは一番気を付けてね』

「……解りました。越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を持っていることを気付かれないようにします」

『うんうん。それじゃあラウラ・ボーデヴィッヒの事は頼んだよ~ あと、今度ラボに戻ってきたときは覚悟しておいてね♪』

「わ、解りました……」

 

 それから束は電話を切り、一夏はため息を吐いた。束から頼まれたのは良いが、どうやってラウラと接触するかという事が問題だった。越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)という共通点はあるが、そのことを教えてしまうのは一夏の首を絞めるだけで、特に理由なく近づいても怪しまれるだけだ。意外と難題な事を束から頼まれた一夏ではあるが、頼まれたからには仕方なく、どうにかしてラウラに接触する方法を拠点にしているマンションに向かいながら考えるのだった――




一夏に越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)の設定を入れていて良かったと思うこの頃。

前回の後書きでラウラのせいで先の話が書けないと言いましたが、実は新たに作ったプロットですと、一夏とラウラの接点が一度もなかったという事で書けなかったのですよ。

それを解決してくれたのが越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)だったりしましたw
意外なところで解決策って見つかるものですねww

元々越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)が一夏に埋め込まれていた方が今後の展開で便利になると思って入れていただけの設定なんですけどねw

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