IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜   作:アリヤ

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第二話

「……ここだね」

 

 一夏は束に行くようにと言われた場所である高層マンションの階までエレベーターで上がり、タブレットパソコンに書かれてあった番号のドアの前に立っていた。

 束からもらっていた鍵で、部屋の中へと入る。中に入ってすぐにキッチンに手に持っていた袋を置き、それからリビングへと向かうと、段ボールで積まれた山が一ヶ所に纏められ、ベッドなどの家具などはすでに置かれていた。窓を開けてベランダに出ると、IS学園や海を一望できる絶景が広がっていた。。

 今日から一夏がここから暮らしていくことになる場所だ。毎回束がいるラボへと戻るのは面倒という事もあり、そのために移動式のラボをIS学園に近付けるのは束の方が危険になりかねない。一夏も毎回ラボへは帰りたいという気持ちがあったが、束の身の危険を考え、束がわざわざ用意してくれた高層マンションで暮らすこととなった。

 ここは、IS学園が見える場所に束が用意した、一夏の拠点となるマンションである。タブレットパソコンの映像でも監視できるが、このマンションからならば、IS学園に侵入者が来た時もすぐに対応でき、越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)と束が用意した特殊な双眼鏡を使えば、IS訓練用のアリーナまで見えるため、何が起こっても即座に対応できる絶好の場所だった。

 

「さて、まずは段ボールに入っている荷物を片付けないと」

 

 一夏はベランダから戻ると、まず、タブレットパソコンを常に画面が見えるように、専用の台を置いて立たせた。タブレットパソコンの画面を見える限り、普通に授業が行われ、これと言って問題はなさそうだった。

 

『それでは、この時間は実習で使用する各種装備の特性について説明する』

 

 それから一夏は段ボールに入っている荷物を空けて、整理していきながらも、タブレットパソコンから聞こえてくる音声を聞いていた。どうやら、次の授業は千冬が担当するようだ。マンションにつくまでは、山田という副担任がしているのをずっと見ていたため、千冬の教師としての姿は、一夏にとっても初めてだった。正直言えばその教えている姿を見てみたいところだが、今は荷物の整理をすることが優先すべきだと思い、仕方なく声だけを聞きながら作業を進めた。

 

『その前に再来週行われるクラス対抗試合に出る代表者を決めなくてはいけないな。クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席――まぁ、クラス委員長みたいなものだな。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで』

『あの織斑先生、対抗戦というのは?』

『入学時点での各クラスの実力推移を測るものだな。今の時点では大した差はないが、競争は向上心を生む。自薦他薦は問わないぞ』

 

 千冬の言葉を聞いて、生徒たちは近くの生徒同士で小さく話し始めた。本来ならそんな姿を千冬の前で小さく話し合えば、出席簿で叩かれるところだったが、今回に限っては話し合うのもありだろうと思ったのか、千冬は何もしなかった。

 そんな生徒達がみんな悩んでいるさなか、一人の少女が手を挙げ、席を立ちあがった。それを見た生徒達はそちらを振り向き、千冬や山田先生もその人物に向けていた。一夏も突然静まったことに気になり、一度手を止めてタブレットパソコンの画面を見た。その人物とは、先ほど一夏が面倒な人物と言ったイギリスの代表候補生――セシリア・オルコットだった。

 

『わたくしが立候補しますわ』

『ほう、他に立候補者はいるか? 他薦でも構わないぞ』

 

 セシリアが代表候補生だという事もあってか、誰も手を挙げる者はいなかった。個人的にはなってほしくないという気持ちが一夏にあったが、IS学園の生徒ではない部外者である自分が文句を言うのはおかしいため、様子を見ているしかなかった。

 

『誰もいないな。それでは、クラス代表はセシリア・オルコットでいいな。何も言わないは沈黙の了解とする』

『…………』

『それでは授業を始める!!』

 

 誰も反論もせず、クラス代表はセシリア・オルコットと決まり、それを確認した一夏は荷物の整理へと戻ることにした。

 千冬が授業している声が聞こえつつも、一夏は特に問題ないと思い、そのまま荷物の整理を続ける。大きめの家具はすでに置かれているので、段ボールの中に入っている物は軽いものが多く、段ボールの数はあっという間に減っていった。

 途中で昼時になったため、先ほどキッチンへ置いた袋の中に入っている、近くのコンビニで買った弁当とお茶を取り出し、リビングの床に座って昼食をとることにした。それまでの間にタブレットパソコンは台に立たせてから一度も触っていないため、画面には1組の映像が大きく移り、小さく他のクラスの映像が映っていた。その映像の様子を食べながらも見ていると、他の教室を見てふと何かに気付いた。

 

「あれ? まさか……」

 

 思わず食べていた弁当を置いて、タブレットパソコンの近くへと歩み寄った。近付くとタブレットパソコンを手に取り、画面を弄って1組ではない他のクラス――2組の教室を大きくした。教室ごとに教卓側と生徒の背後からの前後にカメラが付けられているのだが、2組の教師の教卓側にあるカメラの映像を大きくしていた。そして2組に居た一人の女子生徒を見て、一夏は驚いていた。

 

「……鈴。帰ってきたんだ」

 

 一夏がラボで暮らすようになった後、誘拐される前まで友達が、中国に行ってしまったという事を束から聞かされた。どうして束が他人についての事を一夏に教えたのかという事は今も分かっていないが、とにかく鈴が日本に戻ってきていることについては一夏にとって嬉しいことだった。

 しかし、鈴――凰鈴音(ファン・リンイン)が中国に行ってしまったという事は一年前に聞いた話だ。たった一年で日本に帰ってこられるようなはずがないと思ったし、IS学園に入学している点から何となく察しがついた。

 

「……中国の代表候補生にでもなったのかな? そう言えば、IS学園の生徒の情報を束さんから貰ってなかったな」

 

 後で連絡してもらおうと思った一夏は、とりあえず食べている途中であった弁当を食べ終えることにした。

 弁当を食べ終わり、ペットボトルに入っていたお茶を飲み干してから、残りの荷物の整理を終わらせるために再開を始める。それからはあっという間で、昼食を取ってから一時間近くで終わらせることができた。

 

「ん~ 終わった~」

 

 ようやく終わったことに一夏は腕を頭の上に伸ばし、そのままベッドへと仰向けにダイブした。段ボールはすべて折りたたんでリビングの一か所に纏められており、それを捨てたら部屋は綺麗になるほどにまで終わらせていた。段ボールの回収日まで家に置いておかないといけないため、当分の間はそこに置いておこうと思った。

 このままベッドで昼寝したいところだが、今日の授業が全て終わるまでは寝るわけにはいかないと思い、一夏はベッドから起き上がり、タブレットパソコンを取った。1組の教室へと画面を戻し、何も起こらないことを監視し続けた。

 

「それにしても、入学初日から学校に潜入したことは失敗だったかな…… 生徒会長に会うかなとは思っていたけども、まさか千冬姉にまで会うこととなるとは……」

 

 生徒会長に会うことに関しては自分の方が強いという事を見せることができるため、会ったとしても問題がなかったが、千冬に会うことは想定していなかった。

 別に会ったところでさほど問題があるわけではないが、束が一夏を使って何かをしようとしているという事を知らされることが問題だった。箒の監視という事については、千冬にばれてもさほど問題のないことのようにも思えるが、その監視の為に一夏がIS学園へと潜入してきたという事が問題だった。千冬も束の性格を知っているため、束が何かをIS学園で起こすのではないかという不安をしてしまうために、邪魔をしてくるのではないかというそちらの不安だった。束の事だから他の事で一夏が何か任されるのではないかという事を、完全に否定することが一概に言えない。IS学園を襲撃するなどの命令を束から言われる可能性も考えられたため、なるべく千冬には気付かれたくなかった。

 しかし、一夏は千冬と会ってしまったため、既に過ぎたことだ。過去の出来事を後悔するのは意味がない――そう思った一夏はすぐに千冬に見つかった事について考えることをやめた。

 

「とにかく、今日は何も起こらずに終わりそうだね。とりあえず束さんに生徒の情報でも貰っておこうかな?」

 

 タブレットパソコンの画面を弄り、メールでIS学園の生徒の名簿と個人情報が欲しいという文面を束に送った。

 数分もせずにメールで返ってきて、メールの中身にはIS学園の生徒の情報が書かれたデータも送られていた。とりあえずデータの中身をざっと見て、要注意しておくべき人物などを確認していくことにした。

 

「……あの生徒会長。妹いたんだ」

 

 一年の生徒から順々に見ることにして、まず一夏が気になったのは1年4組に居た日本の代表候補生――更識簪(さらしきかんざし)だった。鈴が中国の代表候補生だという事も気になったけども、一夏が予想していた通りでもあったので、さほど気にすることでもなかった。

 簪のことについて調べていくと、今現在姉と仲違いをしているらしい。どうしてそこまで調べてあるのか束に聞きたいところでもあったが、詳しいことについては書かれていなかった。

 

「時間があるときに、会ってみようかな?」

 

 簪のことはこれで終えて、他に一年の生徒で気にしておく人物を確認しておいた。

 代表候補生であるセシリアや鈴についてはすでに知っていたが、代表候補生という事もあって注意しておいた方が良いと考え、他に気を付けるべきだと思った人物は一人だけだった。

 

「……布仏本音。のほほんとした雰囲気をしているけども、簪の専属メイドでもあるか……」

 

 布仏家は代々更識家に仕えてきたということも考えて、一年の中でかなり注意するべきではないかと考えた。

 これと言って何か書かれているわけでもないが、更識家に仕えていると書かれているし、生徒会書記をしていることも考えると、他の人間よりも注意しておくべきだと一夏は思った。

 それから二年の生徒についても調べるが、一年よりも注意しておくような人物は少なく、生徒会長の更識楯無くらいだ。他の生徒に関しては特に気にする必要もないと一夏は思い、IS学園最強である楯無だけは特に注意しておくべきだというのは対面した時からも理解していた。

 三年の生徒については生徒会会計をしている本音の姉である布仏虚(のほとけうつほ)のみで、たった一人ではあるが、本音と同じくらい注意しておくべき必要があった人物だった。

 これらの事からして、一夏が次にIS学園にまた潜入するときは、生徒会長と布仏姉妹の三人を特に警戒しておく必要があるかもしれないと一夏は思った。

 そして生徒の情報をざっと確認し終えたところで、表示されていた画面を閉じて1組の教室の映像に戻した。

 

「さて、後は授業が終わるまで監視しているだけでいいかな?」

 

 IS学園の生徒の情報をざっと見終わった後、一夏はベッドに背もたれを寄りかかりながらも、タブレットパソコンを授業が終わるまでずっと見続けるのだった――




鈴がすでに居ることについては次回か次々回に。

追記、虚の学年を間違えてたので修正しました。

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