IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜   作:アリヤ

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第二十一話

「ひ、酷い目にあった……」

「いや~久しぶりにすっきりした!!」

 

 翌日、シャルロットとクロエの二人はアレットへの復讐を終え、のんびり紅茶を飲んでいると、ぐったりしている一夏と、肌が綺麗になっている束の姿が現れた。その様子からして、何があったのかシャルロットとクロエは想像できたが、詳しく聴こうということはしなかった。

 ちなみにアレットだが、現在シャルロットによる復讐が続いている状態で、部屋から出さないように閉じこめている。

 

「さて、シャルちゃんはくーちゃんから詳しいことは聴いた?」

「はい、専用機をわざわざ造ってくれるとか……」

「うん!! 丁度別の専用機を造り終えた所だから、今日から作る予定だったよ。とはいえ、渡すのは林間学校の時になりそうだけど」

「そういえば、そんなイベントがありましたね」

 

 シャルロットは学校スケジュールにあった林間学校を思い出し、そこで密かに渡すのだろうと思っていた。IS学園外なので、束としても潜入しやすいというのが理由だろうと。

 

「そういうことだから、IS学園に戻ったら普通に生活しているだけでいいから。外出申請は明日まで取っているから、今日はラボの案内とかをいっちゃんにさせるから!!」

「そのことですが、クロエに頼んで貰ってよろしいですか? IS学園に戻ってやりたいことがあるので」

「……それはなに、あのストーカー女に会うためかな?」

「その妹に接触するためです」

 

 束は楯無に会うためかと思って、一夏を睨んでいたが、楯無の妹である更識簪に接触するためと聴いて、一夏が何をしようとしているのかすぐに理解した。元々一夏と簪が似ているところがあると束は思っていたので、一夏が簪に接触しようとするのは前々から予想できていたことだった。

 余談だが、ここで一夏が楯無に会うためと答えたら、束は一夏を一生ラボから出さないつもりで、束色に染めてやるという、恐ろしいことを考えていたりした。

 

「でもそれ、急いでやることではないよね? ストーカー女の妹は自分の専用機が完成してないから、林間学校に参加しなさそうだし、その時でも良さそうな気がするけど」

「そのストーカー女が謹慎を受けているでしょうから、邪魔されない間にやっておこうかなと。ほら、私とシャルロットを追いかけるために、外出申請せずにIS学園を外出し、さらには外出中に専用機を街で展開したのですから。そんな違反を千冬姉が許すとでも思いますか?」

「……うん。ちーちゃんなら最低でも明日まで謹慎室などで閉じこめてそう」

 

 一夏に言われて束は想像したが、一夏を尾行していたというだけで職権乱用しそうな気がした。一夏が楯無に邪魔をされない今の内にIS学園に行って、簪と接触したいのだと、束は思った。

 

「なら、いっちゃんはここを後にするのね」

「そうですね。次に会うのは林間学校の時に――」

「……あ、いっちゃんに伝えておくこと忘れてた。ちょっと待っててね!!」

 

 束は突然何かを思い出したようで、一旦この場所から離れていった。一夏は一体何を伝えておく必要があったのだろうかと疑問に思っていると、数分もせずに束が戻って一夏の近くまで寄ってきた。

 

「はいこれ、プレゼント」

「……ペンダント? 別に何かの記念日でもないですよ?」

「これは普通のペンダントではないのよ!! 普通のペンダントだったら記念日や誕生日に渡しているよ!! それに、記念日や誕生日なら私を――」

「……で、これは何ですか?」

「……相変わらずいっちゃんは流すね」

「さっきまで色々させられたというのに、これ以上は勘弁して欲しいんです!!」

「お、いっちゃんの顔が真っ赤だね!! そんなに嬉しかったの?」

「…………」

 

 先ほどまで束としていた行為を思い出してしまったのか、一夏は顔を真っ赤にして束から視線をそらしていた。そんな一夏の様子を見て、束はにやけていた。

 

「あークロエさん、砂糖無しの紅茶を貰えますか?」

「奇遇ですねシャルロットさん。私も丁度砂糖無しの紅茶にしようとしていましたので」

 

 もはや蚊帳の外になっていたクロエとシャルロットは一夏と束の甘いやりとりを見て、砂糖無しの紅茶が飲みたくなったようだ。束はクロエとシャルロットの会話を聴いて話が脱線していたことに気づき、いつも通りの一夏に戻すように促すことにした。

 

「ご、ごめんいっちゃん!! 話が進まないから元に戻って!!」

「……私がして欲しいことが解ったら許します」

「い、いっちゃぁん!!」

「クロエさん、やっぱりコーヒーに変更してもらっていいかな? それもブラックで」

「解りました。私もシャルロットさんと同じことを考えていましたから」

 

 クロエとシャルロットはまたしても以心伝心したようで、クロエは一旦この場所を後にしてコーヒーを持ってくることにした。

 また、この時のクロエは一夏によって束の慌てているような様子を見られたことに、内心笑いを堪えるのに必死だった。今まで束をあそこまで慌てさせたような人は、クロエが知る限り居なかったので、束の貴重なところを見られただけでも面白いと思ってしまったのだ。

 また、近くに束が居るから笑いを堪えていたので、場所を移動したクロエは笑いを堪える必要が無くなったわけで――

 

「っく、くははははは」

 

 大爆笑するくらいの笑い声が、クロエがいる廊下で響き回るのだった――

 

 

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「……死にたい」

「それはこっちの言いたいことだよいっちゃん……」

 

 ようやく冷静を取り戻した一夏は今までの様子をクロエとシャルロットに見られていたことを思い出し、穴の中に入りたい気分になっていた。

 束も束で、自分が慌てている光景をクロエとシャルロットに見られたので、一夏と同じように穴の中に入りたい気分だった。

 とにかく、今はそんなことをしているよりも、一夏に渡したペンダントについて説明する必要があったので、束は落ち込んでいた気分を切り替えた。

 

「それで、そのペンダントのことだけど……」

「うん……」

「いつまで落ち込んでいるの!! 私だって恥ずかしかったのだから、いっちゃんもいつも通りに戻ってよ!!」

「……解ったよ。話が進まなそうだから」

 

 一夏はため息を吐きながらも、束の説明をしっかり聴くことにした。真面目に説明を聴かなければ、失敗したときの大変さが身を持って知っていたので、落ち込んでいようが束からの説明だけは、聞き漏らしがないように気をつけるようにしていた。

 

「それで、そのペンダントだけど、いっちゃんが今使っている次元領域(ディメンションバス)を応用したものなの!!」

「どういうことですか?」

次元領域(ディメンションバス)っていっちゃんがIS兵器使うために、いっちゃんが居る座標に転送させているじゃない? そのIS兵器の所をペンダントがある座標に変更して、いっちゃんが居る座標を指定した座標――例えばIS学園やいっちゃんが拠点として使っているマンションとかに変更してあるの!!」

「……要するに、次元転送装置ということですか」

「殆ど正解だね!! 次元に一度転送するわけではないから、持ち運び可能な転送装置というのが正確な正解かな。まぁ、登録した座標しか転送出来ないようになっているから、何処でも転送出来るわけではないし、今はIS学園、いっちゃんが拠点にしているマンション、このラボしか登録してないから。一応、手動で座標を指定できるけど、座標情報は私に聴かないと解らないから、あんまり使うことはないと思うよ」

「なるほど。要するに私といつでも会えるようにするために造ったのですね」

「そうとも言う!!」

 

 転送装置なんて、何故急に造ったのかと一夏は思っていたが、束が何かを造ろうと思うきっかけは大概が自分のためであることが多い。一夏に生身でISを使用できるようにしたのも、シャルロットやアレットに専用機を用意するのも、大きく考えれば束自身を守る要素を増やすためでもあった。

 今回の転送装置についても、一夏といつでも会いたいと思っていたからという理由だけで造ったようなもので、一夏が移動しやすくするようにという考えは、二の次というよりおまけに近いものだった。もし文句などを言われたとしても――

 

『お互いに利点しかないから問題ないよね!!』

 

 ――という束の考えなのだ。

 

「とはいえ、次元という座標を使う必要がないから、次元領域(ディメンションバス)よりは正直簡単に造れたけどね。IS兵器の転送が可能なら、IS兵器より容量が小さい人間だったら簡単だろうってね」

「束さん、ありがとうございます」

「感謝されるようなことはしてないよ。自分のために造ったものだから。ちなみに、シャルちゃんにも同じようにペンダントの形で渡す予定だから!!」

「あ、ありがとうございます!!」

「だから感謝されることはしてないって言っているじゃん!!」

「たとえ感謝されるようなことをしてないとしても、私やシャルロットからしてみれば助かりますよ」

 

 束は思わず苦笑いをしていたが、それでも一夏とシャルロットにとって便利になったことには変わりがなかったので、二人は束に感謝していた。

 束は感謝されていることに慣れていないからなのか、何故か恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

「それでは、私は先にIS学園に行っていますね」

「あ、さっき言うタイミング無くなって言えなかったけど、僕も一夏と一緒に帰るよ」

「せっかく明日まで外出申請しているのだから、シャルロットは気にしなくていいよ。それに、束さんが私にしか渡してないことからして、シャルロット用のペンダントはまだ出来上がってないのでしょう?」

「そうだね。早くても今日の夜になっちゃうから、いっちゃんと一緒に行くのは厳しいね。あ、ちなみにシャルちゃんはIS学園の正門近くと、シャルちゃんの寮室の座標は登録しておくから。いっちゃんの場合はIS学園の屋上に座標を設定してあるけどね」

「わかった。明日IS学園に戻ることにするよ」

 

 途中で束が話を脱線させたが、シャルロットは一夏と束の話を聴いてどうしようもないと解ったので、明日には帰ることにした。

 

「さて……」

「……あれ、いっちゃん行かないの?」

「……束さん、操作説明されてないのですけど」

「あ、忘れてた。てへぺろ」

 

 思わず束を殴りたいと一夏は思ったが、今殴ったらまたしても話が進まなくなりそうだったので、今は押さえ込んで束の話を聴くことにした。

 

「それで操作説明だけど、ペンダントの先にある宝石が右回転するようになっているの。回転させた回数によって移動先が変わる形で、いっちゃんに設定しているのは、一回の回転でこのラボ、二回でいっちゃんが拠点にしている場所、三回でIS学園の屋上に設定してあるから」

「なら今回は三回回転させればいいと。解りました。それでは今度こそ行きますね」

 

 一夏は束に言われた通り、三回宝石を回転させると、一夏が一瞬にして姿を消した。

 

「よし、うまくいったね!! 人間に使うのは初めてだったから不安だったけど」

「……束様、今とんでもない内容が聞こえたのですが、気のせいですよね」

「ん? 別に冗談じゃないよくーちゃん。人型に近い人形相手や人間に近い動物に対して実験はしたけど、人間相手で実験はしてないよ。動物が死なずに済んだことを確認してから実用化させたけどさ」

「……束様、次からは人間を使って実験してください。私たちに関係ない人間を使って」

「……くーちゃん、なにげなく人権問題になるような発言している事に自分で気づいているよね?」

「はて、何のことでしょうか? それと、私は元々試験管ベビーで生まれた存在ですよ」

「その言い方自覚あるよね!? なに自分を棚に上げて正当化しようとしているの!?」

 

 束は自分も人のこと言えないのは理解しているが、流石にここまで堂々と黒い発言をしたクロエに、どん引きする事なんて一度もなかった束が思わずどん引きしてしまうほどだった。

 また、この時のシャルロットだが、束とクロエの発言はどっちもどっちだろと思っていたが、今ここでそのような発言をしたら自分に被害が及びそうと思い、思っただけにしておこうと心に留めておくことにした。

 

「……ま、いっか。とりあえず私はシャルちゃんの転送装置造ってくるから、シャルちゃんとくーちゃんは好きにしていて。放置していふあーちゃんを見てくるなり、ここでのんびり紅茶やコーヒーを飲んでいても構わないから」

「束様、それなら手伝いますよ」

「いや、人手が増えたところで多分時間的には変わらないから大丈夫だよ。それじゃあ、私はペンダント造ってくるね!!」

 

 それから束はこの場所を後にして、クロエとシャルロットの二人だけになった。

 

「……どうしましょうか?」

「とりあえず、今はのんびりしてようかな? アレットの様子を見に行くのもいいけど、もうちょっと後にしようかなと」

「では、私もシャルロットさんと同じようにしましょうか」

 

 二人となったクロエとシャルロットは、シャルロットの一言によって、のんびりとするのだった――

 


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