IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜   作:アリヤ

20 / 24
第十九話

「僕、こんな所にいていいのかな?」

「……何故そう思ったの?」

「ほら、ついこの前まで僕はデュノア社社長の愛人の娘で、生身でIS兵器を使う君を誘拐、もしくは技術を盗んでくるように命令されていた立場だよ? だから篠ノ之束のアジトに来るような立場に思えなくて」

 

 無人島内にある秘密の入り口を入ってすぐに、シャルロットはそのようなことを口に零した。シャルロットとしては地の底にいた人間が這い上がって篠ノ之束に会えるような立場に変わったものだから、驚くのも解らなくなかった。

 しかし、地の底にいたという言葉は、シャルロットの過去見れば思うかもしれないが、他人からしてみれば思うわけがなかった。シャルロットの過去を知っている一夏からも、最初は三人称視点だったので、知らない人からの立場をよく解っていた。

 

「……他人から見たら、デュノア社社長の愛人の娘という肩書きだけでも驚きそうなんだけど」

「確かにそうかもしれないけど、裕福な暮らしなんて一度もしていないからさ。密かに暮らして貧しい生活をしていたのが普通で、唯一違ったのはIS適性が良かったことと、たまにデュノア社に呼ばれたくらいだし……」

「……確かにデュノア社に限らず、篠ノ之束の身近な存在に今後なると考えたら、驚くことなのかもしれないけどね」

 

 一夏は現在の体にされて、束に救出されてからずっと束の下に居るからこそ実感が湧かなかったが、シャルロットに言われて少し改めることにした。束が居なければ現在の世界は存在しているわけでもないし、世の中で一番影響力が強い存在になっているのだ。それこそ、ISが存在していなかったアメリカやロシアの存在による影響力を、たった一つの兵器でその定義を変えてしまえるほどの影響力を束は現在持っているのだから――

 実際、ISという存在が現れてから、世界の情勢は変わったと言っても問題ないくらいだ。元々科学技術に強い日本やドイツはISによって更なる磨きを上げたし、それ以外の他国に関してもISに関してはかなりの予算を費用として使用するようになり、次の時代はISによる時代がやってくると誰もが思ったくらいだ。その結果、世界はISを開発した篠ノ之束を中心に回るようになっていった――

 そんな束の下で動くようになるシャルロットとしては、まるで雲の上にいる存在の下で働けるようなものだった――

 

「……今更だけど、私の名前をシャルロットに言ってないことを思い出したわ」

「あ、そういえばそうだね。それと、僕の名前が長いと感じたら、呼び名を変えても構わないよ。なるべく変な呼び名はやめて欲しいけど」

「ならシャルでいいかな?」

「うん、それだったら構わないよ!!」

「ならよかった。それで、私の名前だけど……」

 

 一夏は自分の本名をシャルロットに言おうとしたが、何者かがこちらに走ってきていることに気づいて、名前を言いそびれる形になってしまった。

 そしてその何者だが、この場所で走ってくる人物なんて、基本的に一人しかいない。正体はまだ解っていないが一夏はため息を吐きつつも、どこから取り出したか解らないハリセンを持って構えた――

 

「いっちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!!!!!」

「……成敗っ!!」

「痛いっ!! だけど、そんなことは関係ないんだぁ!!!!」

 

 うさ耳のカチューシャを被っていた女性が、いきなり一夏を抱きつこうとしたので、一夏は持っていたハリセンで顔面を叩いた。

 しかし女性は痛みを気にせずに、今度こそ一夏に抱きつこうとした。その行動は読めていたが、叩いてから次に叩くまで多少の時間を要するために、一夏は手段がなくてそのまま抱きつかれた。

 

「はぁ~ 久しぶりのいっちゃんの匂いだ~」

「束さん!! 私の胸に埋まって顔を動かさないでください!! あと、なんか鼻息が荒くて気持ち悪いのですけどっ!!」

「だって、いっちゃんに会ったの二ヶ月振り近いんだよ!! 私が耐えられると思っているのっ!?」

「少し前にIS学園で会っていますよね!? それと、私が吐血したことに気づいて、拠点にも来ていましたよねっ!?」

「あれはカウントに入らないよ!! だって抱きついてないもの!!」

「とにかく離れてください!! 話が進まないじゃないですかっ!!」

「嫌だっ!! 当分はここから離れないよ!! もし、私の邪魔をするというのなら……こうだっ!!」

 

 女性こと篠ノ之束は逃げる好きを与えずに一瞬で背後に回り込み、両腕を一夏の両胸に触るように移動し、一夏の胸を揉むように手を動かした――

 

「ちょっ、人がいる前でやめっ、あっ」

「おやおや~ さっきまでの威勢はどうしたのかな?」

「それは束さんが揉むっ、んあっ」

「相変わらずいっちゃんは感じやすいね!! まっ、そんな風にしたのは私なんだけど!!」

「今は、んっ、そんなことをする前に、あっ、やることが、んんっ、あるでしょう!!」

「おっとそうだった!! いっちゃん成分は足らないけど、後で補給しよう!!」

 

 束は一夏から離れることにして、先ほどから居たシャルロットが居る方向へ近づいた。一夏は束に胸を揉まれていたおかげで立っていられなくなり、膝から崩れ落ちていく形でその場に座り込んでいた。しかし束はそんな一夏を気にせずに、シャルロットに話しかけた――

 

「こうして会うのは初めてだね!! 確か名前は――」

「シャ、シャルロット・デュノアですっ!!」

「じゃあ、シャルちゃん!! それと、そこまで緊張する必要はないからねっ!!」

 

 出来るだけ束に言われた通りにしたかったシャルロットだが、ISの生みの親である人物と直接会えるなんて考えただけで、緊張しないなんていう方が無理に等しかった。

 

「さて、シャルちゃんには見せたいものが幾つかあるのだけど……うん、まずはあれにしようか!! ってなわけでついて来て!!」

「あ、あの、彼女は置いていって大丈夫なのですか?」

 

 シャルロットは束の言い方からして、一夏をその場に置いていくような感じに思えたので、思わず確認していた。

 

「もしかしていっちゃんのこと? 別にいっちゃんなら大丈夫だよ。この場所のことも詳しいし、落ち着いたら後から来ると思うから!! というか、いっちゃんの呼び方からして、まだいっちゃんの本名を教えられてない感じ?」

「は、はい。教えてもらおうとしたときに篠ノ之博士が現れたので……」

「あちゃータイミング失敗したか…… じゃあ変わりに私が教えてあげるよっ!! それと、まだ固さが残ってるよ?」

「さ、流石にため口で話すのは無理がありまして……」

「まぁ、それはゆっくり直してもらおうか。それで、いっちゃんの本名を言う前に一つ忠告するけど、他人に漏らさないでね。既に行方不明という名の死亡扱いなっている扱いになっているから」

「はい、分かりました」

 

 束からの忠告を聴き、シャルロットは何故か緊張し、生唾を飲み込んでいた。一夏の名前を知ったら、引き返せなくなるだろうと考えたからだ。生身でISを使う一夏の正体を知れば、束の下から離れる事はできなくなるだろうし、束のやることには従わなければならなくなるからだ。

 しかし、それでもシャルロットは引き返すつもりはなかった。IS学園にいれば安心というのは、デュノア社の事件後に偶然知ったことだが、それ以降の安全性がないことを考えれば、束の下にいることの方が安全と思えたからだ。それに、この世界の醜さを知っているからこそ、世界を変えるために手伝いたいとシャルロットは思っていた――

 

「それじゃあ言うね!! いっちゃんの本名は、織斑一夏。今は女の子だけど、昔は男の子でちーちゃんこと織斑千冬の弟だった人物だよ」

「お、織斑一夏っ!?」

 

 覚悟していたとはいえ、流石にこの場で織斑一夏という名前を聴くとは思っていなかったので、シャルロットは思わず驚いていた。確かに一夏と最初会った際に、元々は男性だったことを一夏本人から聴かされていたが、その正体が織斑一夏という名前だということには、流石に驚きを隠せなかったのだ。

 

「ここで立ち話もなんだし、詳しいことは後で話すよ。シャルちゃんには会わせたい子が居るから」

「は、はぁ、正直さっきのだけでもついていけないのですけど……」

「これでついていえないなら、次のことはもっと驚くことになるのだけど。とりあえず、ついて来てくれる?」

 

 束に言われたとおりに、シャルロットは後からついて行った。未だに茫然自失している一夏を置いて――

 

「そういえばさ、シャルちゃんはフランスで何していたかだけ聴いてもいいかな? あ、嫌な思い出なら言わなくてもいいから」

「……別に大丈夫ですよ。それに、篠ノ之束博士ならある程度は調べてあるのでは?」

「確かにそうなんだけどね。だけどそれは第三者から見た視点にしか過ぎないし、実際に経験した情報ではないからさ。まぁ、加害者がいるとしたら話は別だけど、多数の加害者がいたら一々聴いていくのは面倒じゃない?」

「……要するに、被害者である本人から直接聴けば確実な情報が手にはいると」

「そういうこと。それに、被害者側ってそういう負の記憶は忘れないって言うし」

 

 束と二人で歩いていると、束からシャルロットに質問された。シャルロットは既に知っているだろう情報だという内容に問い返したが、束が言う理由には一理あると思い、納得していた。

 とはいえ、束の言い方は加害者と被害者が存在するという考え方で、その時点でシャルロットが何をされていたのかある程度知っているだろうとシャルロットは考えた。それに、加害者から聴くという言い草からして、既に加害者からは聴いたのだろうと思えた。

 しかし、束の言い方は負の過去を抉られるような言い回しだ。普通にシャルロットから怒られてもおかしくないのに、平然と言ってきていた。別に怒るつもりはないが、言い回し方からして試しているのではないかと疑うまでだった。

 ちなみに、この時の束は特に考えて発言したわけでもなく、一部の人間にしか興味がなかった時期の名残による癖だった。今ではシャルロットに接触して、仲良くするなどのようなことまでは出来るようになったが、簡単に改善出来るわけではなかった。一夏もゆっくりと改善して欲しいと思っているくらいなので、これが今の束の精一杯だった。

 

「……分かりました。あまり面白くない話ですけどね」

「別に気にしないよ。面白い話になると思っていないし」

「それじゃあ、話しますね――僕は、産まれたときから愛人の娘として立場は悪かった――」

 

 シャルロットは歩いている時間を使って、自分の過去を話し始めた――

 

「父親は僕を可愛がってくれましたけど、愛人の娘ということもあって、公に可愛がる事は出来なかった。だから僕は、数年前まで父親を嫌っていました」

「あれ、小さい頃の話は?」

「あんまり覚えてないですね。覚えてない辺りからして、何事もなかったと思いますが。それでは話を続けますね」

 

 幼少期の頃に起きた内容は殆ど残ってなかった。残っていたとしても、母親と一緒に生活をしていたくらいで、母親を困らせたくらいの記憶しか覚えてなかった。

 

「小学生までは普通の人と同じでした。後から知ったのですけど、父親からの仕送りがあったので洋服なども高すぎなければまともな物を買えましたし」

「問題になるようなことは無かったのね」

「だけど、中学生になってから大きく変わりました――」

 

 シャルロットは今でもその記憶は鮮明に覚えていた。忘れようにも忘れられない嫌な記憶で、今でも怯えてしまうような記憶だった。

 

「中学生になろうとしたときに、父親から突然あることを言われました。『お前の学校にアレット・デュノアが行く――』という内容が。この時には愛人の娘だということは知っていましたので、中学生になるまでは特に気にしていなかったのですけどね」

「…………」

「あと、これも後から知った話ですけど、本妻であるアリゼ・デュノアが、娘のアレット・デュノアが通う予定だった学校の行き先を変えてまで僕と母親を陥れようとしたのです。その結果は、アリゼ・デュノアの思惑通りでした――」

「……虐めか。その辺の内容はある程度知っているけど、話せるかな?」

「はい、大丈夫です。中学生になってから、私はアレット・デュノアが率いる取り巻きに虐めが行われた。暴行、盗み、そして恥辱などをね……」

「っ、」

 

 この時束は、シャルロットが恥辱という言葉を使ったことに、かなりの重みがあると知ってしまった。恥辱という言葉で柔らかくしているが、恥辱なんていう言葉で済まされないようなことをされたのだと――

 シャルロットも束の反応に気づき、恥辱という意味を察してしまったのだろうと思った。このままでは誤解思想なので、弁明しておくことにした。

 

「あっ、別に下の方が破られたということまではされてないよ。触られたことはあったけど」

「いやいや、そういう問題じゃないでしょ。というか、触られたことはあったんだ……」

 

 シャルロットが言ったことに対して突っ込んだ後、束は何かを考え始めた。一体何を考え始めたのだろうかとシャルロットは思うが、その前に目的地である扉の前に着いていた。

 

「あ、もう着いちゃった? とりあえず話はこれくらいにして中に入ろうか」

「あ、はい。解りました……」

 

 束が扉を開けると中に入っていったので、その後に続く形でシャルロットは入っていった。

 

「お、お帰りなさいませ。篠ノ之束博士と……なっ!?」

「な、なんで此処に居るのっ!?」

 

 扉の中にいた人物にお出迎えされたとシャルロットは最初思ったが、そのお出迎えされた人物をみて驚きを隠せなかった。

 それもその筈で、その人物こそ先ほどシャルロットが話していた人物こと、アリゼ・デュノアの娘でシャルロットの腹違いにあたる人物――アレット・デュノアだったからだ――

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。