IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜 作:アリヤ
「や、やっぱりIS使って追ってきた!?」
一夏が予想した嫌な予感は的中し、楯無は校則違反なんか気にもせずに追いかけてきた。
何故今日に限って追いかけ回してくるのだろうかと一夏は思いつつも、正直追いかけてくると思っていなかったので、楯無の行動はさすがに想定外の範囲だった。
さらに言えば、この状況は最悪だ。すでにモーターボートは陸からかなり離れていて、海の上に居る状態だ。先ほどみたいに周囲に障害物などの建物があるわけでもないし、逃げ道も存在しない。このままモーターボートで逃げ切るしかないが、楯無がつかうISの性能によっては追いつかれてしまうと一夏は思っていた。
このモーターボートは基本的に普通のモーターボートと変わらないが、篠ノ之束製のモーターボートではある。束から聴かされて、操作説明については普通のモーターボートと変わらないが、束が何の変哲もないモーターボートを作るとは思えない。一応モーターボートの中でも最高速度が凄いことは、何度も使っている一夏が解っている。しかしそれだけしかモーターボートの機能を知っていなかった。
このまま追いかけられるのは束のラボが何処にあるか知られてしまう。知られる前に追い払いたいところで、一応追い払える手段として一夏が持つ兵器を使えば問題ないが、楯無に対してあまり兵器の使用を避けたいところでもあった。
「ど、どうするのよっ!!」
「今考えてる!! けど、私もモーターボートの操作で手が離せない!!」
というより、一夏が兵器を使う以前の問題だった。一夏はモーターボートを操作しているため、兵器なんて出している暇ですらなかったからだ。現状、楯無と対峙できるのはシャルロットのみで、シャルロットにモーターボートの操作を頼むことも考えたが、行き先が解らない状況だし、現在楯無に追われていることもあって、ラボがある方向に進んではいなかった。一夏が操作しているからラボの方向が何処にあるか把握できるが、シャルロットに操作を任せている間に一夏が楯無を対処していたら、ラボの方向を見失うだろうと考えていた。そうすれば海の上で遭難なんていう恥ずかしい結果になるため、その方法はすぐに諦めた。
こうなったら兵器を隠しているよりも、この状況を打破する手段を考えようと一夏は思い、とにかく兵器を使える状況を作ろうと考えた。
「ねぇ!! 僕がISを使って生徒会長を倒すのはどう!!」
「それは駄目よ!! それに、あの楯無に勝てるとは思ってないのでしょう!!」
「確かにそうだけど…… こういう時に取り替えようの兵器があればな……」
「……まてよ」
そこで一夏はシャルロットのIS――ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの機能について思い出した。ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIは
「シャルロット・デュノア!! 一つ確認したいことがある!!」
「な、何かな?」
「ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIの
「別に問題はないけど、そもそもその兵器がないよ……」
「あるわ。そもそも、シャルロット・デュノアがIS学園に来た目的は私だったでしょう?」
「あっ、そっか!! 生身でIS兵器を使用していたなら、その兵器を持っているということだね!! でも、その兵器って一体どこに――」
「今から取り出すから、それをラファール・リヴァイヴ・カスタムIIに追加しなさい!! 使い方は準備が出来次第教えるから!!」
「と、とりあえず解った!!」
シャルロットから了承を貰うと、一夏はハンドルを左手だけで持つように変え、手が空いた右手付近に謎の空間が現れた。シャルロットはその空間を見て驚いたが、一夏は気にせずにその空間に右手を入れ込んでいった。
「船が揺れるから捕まってて」
「えっ、それってどういう――」
そしてその空間の中から目的の兵器を見つけた後、一夏はシャルロットに忠告した。シャルロットは一夏に問い返そうとしたが、シャルロットの言葉を言い終える前に、一夏は空間から取り出したIS兵器をモーターボートの上に乗っけた。いとも簡単に一夏はIS兵器を持ち上げているが、それは一夏だからであり、IS兵器というのは普通に考えてかなり重い。それこそ、このモーターボートでは重量に耐えきれなくなるほどに――
「ちょ、このままだと沈むって!!」
「だから早くその兵器をラファール・リヴァイヴ・カスタムIIに追加しなさい!! 部分展開でも取り替えられるでしょ!!」
「でも、取り外した兵器はどうするの!?」
「私が一回預かるから、沈む前にさっさとしなさい!!」
「わ、解ったよ!!」
このまま乗せていては確実に沈むと一夏は解っていたので、シャルロットに急がせた。
シャルロットはラファール・リヴァイヴ・カスタムIIを部分展開させ、部分展開させたところにあった兵器を取り外し、すぐさま一夏から渡された兵器に付け替えた。そして付け替えたことを確認した後、一夏は外されたIS兵器を先ほどの空間の中に片づけた。
「それで、これから僕はどうすれば?」
「さっき渡した兵器は鳳鈴音の専用機――甲龍に搭載されている龍砲と同じ衝撃砲――雷鳥よ。威力は龍砲に比べてかなり高く、自分にすら反動を受けるくらいにね」
「って、それってかなり危険な兵器だよ“”」
「反動といってもダメージを受けるわけではなくて、反動で吹っ飛ばされるという意味」
「いや、そっちの方が危険だよ!!」
「だけど今回はその反動を利用する。IS兵器であれば反動を受けてもある程度飛ばされるだけど、生身で行えば一キロ以上は吹っ飛ばされる。勿論それはISの部分展開でも同じようになるけど、今私たちが乗っているものはモーターボートだということ――」
「あっ、なるほど。反動を使ってスピードを無理やり上昇させるのね」
「そういうこと。でも転落する可能性があるから、座っているところにあるシートベルトで固定しなさい……何故付いているのか謎だけど」
シャルロットに一通り説明した一夏だが、シートベルトについては一夏としても未だに謎だった。落ちた際の救命胴衣を備えておくなら解るが、なぜ救命胴衣がなくてシートベルトが付いているのかよく解らなかった。もしかしたら無理やりスピードを上昇させずに、モーターボートの機能でスピード上昇を行えるのではないかと一夏は思ったが、今は楯無から離れられることを最優先に考え、あるか解らない機能に頼るわけにはいかなかった。
一方のシャルロットは、後ろ向きで座るような形に変え、一夏に言われたとおり近くにあったシートベルトで自分を固定した。そして先ほど入れ替えた兵器である雷鳥を部分展開させ、楯無がいる方向に向けた。
「……あら、逃げられないと思って遂に反撃してくるのかしら?」
一方の楯無は自分に砲弾が向けられたと思ってしまい、いつでも受け身ができ、体制をすぐさま戻せる状態に戻した。攻撃を受ける相手からしたら、妥当な判断ではあるが、攻撃する目的でない場合はまるで意味がなかった。
「あっ、シャルロット・デュノアに言い忘れていたことがあったけど、その兵器は放つのに数分掛かるから。放つときは自分の好きなタイミングでお願い」
「了解。逆に落ち着けられるから助かったよ」
そのシャルロットだが、一夏から更に説明を聴かされて理解し、チャージ時間に深呼吸などをして、自分を落ち着かせるようにした。さすがに自分も吹っ飛ばされることもあると言われたから、内心不安になっていた。そのため、自分の好きなタイミングで放たれると知って、少しは安堵ふることができたわけだ。
そして数分後、雷鳥のチャージ時間は終了し、あとはシャルロットのタイミングで放つだけとなった――
「……いくよっ!!」
シャルロットが合図をした刹那、チャージした雷鳥を海に衝突させるくらいに方向を変え、数秒の間に雷鳥から衝撃砲を放っていった――
案の定、シャルロットは反動で飛ばされそうになるが、シートベルトでモーターボートに固定されていたため、飛ばされることはなかった。
そしてそのモーターボートだが、衝撃砲による反動をもろに受けることとなり、先ほどまで出していた速度よりも倍以上の速度となって海の上を飛び跳ねながら進んでいった。
「なっ、攻撃するためではなく、逃げ切るため――って、きゃぁ!!」
楯無は砲撃が逃げるためだと解った瞬間に、即座に追いかけようとしたが、それが仇となってしまった。衝撃砲の威力は楯無が思っていた以上の威力で、離れていた楯無の所まで衝撃が飛んできたのだ。ここで少しでもその場に立ち止まるなどのようなことをすれば飛ばされずに済んだかもしれないが、追いかけようとしたばかりに、衝撃砲を防ぐ手段を捨ててしまったのだ。その結果、楯無らしからぬ悲鳴を上げてしまい、ISごと後ろに吹き飛ばされてしまった。
シャルロットには伝えてなかったが、雷鳥を放つことによって実はメリットが二つ存在していた。一つは先ほどシャルロットが理解していたように反動によって距離を遠くさせる方法だが、もう一つは本来の雷鳥を使い方によるものだった。
元々雷鳥の使い方としては、相手の行動を一時的に麻痺させるために使用される。衝撃砲によるダメージもかなり大きいが、その後に追い討ちさせるのに適していた。
しかし、先ほども言ったが自分にも反動が返ってしまう欠点があり、そもそもこの雷鳥、生身で使うと腕が複雑骨折で済まされないので一夏では使えない兵器だった。部分展開したところで後ろに吹き飛ばされてしまうので推奨する事ができないが、今回みたいに海や宙に浮いていたりすれば、部分展開でもISが衝撃をある程度は受けてくれるので問題なかったりする。
「くっ、一体どこに行ったのよ……」
衝撃砲による衝撃も落ち着いた後、楯無はすぐさま周りを見渡すが、すでに一夏たちが乗ったモーターボートは見渡した限り居なくなっており、このまま探しても見つからないと考え、IS学園へと戻ることにした。
余談だが、このあと楯無は無断外出をし、さらには外出中にISを使用したことが教師――しかもよりによって織斑千冬に知られ、反省室で原稿用紙四百枚の反省文を書かされ、解放された後は生徒会の業務を無視して外出してしまったので、一睡もせずに翌日の授業に出ることになったが、自業自得なので誰も同情する人なんて居なかったとか――
--------------------------------------------
「ふぅ、なんとか逃げきれたわね……」
後ろを振り返り、楯無が追ってきていないことを確認すると、一夏は進行方向を目的地へ転換させた。
今回に限ってしぶとく追いかけてきたなと一夏は思ったが、自分が篠ノ之束の下にいることを公表したからなのかは解らなかった。暗部の楯無からして、それは考えられないし、それにフランスで起こった事件後にシャルロットが外出する事を不振だと思って尾行してきたのかもしれないとも考えられた。しかし、どの考え方でも答えにたどり着くのか解らないので、これ以上模索するのは時間の無駄だと考え、推測することを止めた。
「うぅ……腰が痛いよ……」
「……それについては言い忘れていたから謝るわ。まぁ、シートベルトが膝までしか止められなかった仕方ないよ。背もたれなんかなかったし、頭をぶつけなかっただけ良いとしましょう……?」
シャルロットはシートベルトで膝元は固定していたが、雷鳥の反動によって腰より上が後ろに持って行かれ、椅子より後ろに倒れそうになったので腰を痛めたようだ。そうなることは一夏も想像ついていたが、楯無から離れることで精一杯になってしまい、シャルロットに忠告しておくことを忘れていた。
腰を痛めたおかげで、シャルロットは現在シートベルトを外し、椅子の上で仰向けの状態で横になっていた。
「……それで、後どのくらいで着くの?」
「さっきの雷鳥のおかげで後少しで着けるわ。元々目的地より方角を少し東よりにずらしていただけだから。さて、見えてきたよ」
一夏に言われてシャルロットはゆっくりと腰を上げて、進行方向側に顔を向けた。
そこにあったのは何の変哲もない島だったが、一夏が言うからにはあそこが目的地何だろうとシャルロットは思った。
そして、一夏はモーターボートを近くの浅瀬に寄せて停めることにして二人は島に上陸するのだった――