IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜   作:アリヤ

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第十六話

「いきなり何するの!?」

「束さんがいけないのでしょ!! いきなりおっさん見たいな変態発言をしたのが」

「それはおっさんに対する偏見だ!! 誰もが変態だと思っちゃだめだよ!!」

「さっき変態発言した束さんが言うな!!」

 

 突然現れた束と一夏の二人だけで話し始めたが、束が自己紹介したおかげ状況把握することが増えてきた。

 そしてある程度が状況把握したところで、黄色い歓声がアリーナを響き渡らせた――

 

『きゃ、きゃああああああああああああああああああ!!!?』

「お、みんな良い声で鳴くね!!」

「……束さん、さっきからわざと言ってるでしょ」

「その通り!! あっ、でも私を鳴かせていいのはい――」

 

 束は最後まで話すことは出来なかった。なぜならとんでもない発言をしようとしていたことに気づいた一夏が再度殴ったからだ。

 

「また殴った!! 今日は何でそんな殴るのっ!?」

「さっき私の名前を言いそうになりましたよね!? 正体を表しても名前だけは言わない筈でしょう!?」

「あ、そうだった。てへぺろ」

「もう一回殴りましょうか?」

「わ、解ったからこれ以上は殴らないで!? あんな強いものを何度も殴られたら流石に死んじゃうから!?」

 

 殴られるかと思ったのか、束は無意識に防御の姿勢を構えていた。しかし、一夏は殴る事はせずに、そろそろ本題に入ることにした。

 

「それで、何で来たんですか?」

「ほら、現在私って狙われている身でしょう? それでクラス代表戦や今回のことでそっちも目立ってしまったじゃない? そろそろ束さんの下にいる人物だと公開したほうがいいかなって」

「なるほど。しかしそれだと尚更狙われるような気がするのですが」

「その点は抜かりないよ!! 遂にあれが完成したから、それに合わせて私とあなたの関係を公表しようかなって思ってね。あ、あなたっていうと――」

「殴りましょうか?」

「ごめんなさい。調子に乗りました」

 

 またしても一夏が殴る構えをすると、束は一夏に対して土下座し始めた。あの篠ノ之束が土下座をする光景なんて他者からすればかなり珍しいことで周りの人間は驚いていた。そして、あの篠ノ之束を土下座させることが出来る一夏は一体何者だろうかと、誰もが思った。

 このままでは本当に話が進まないと感じた一夏は、ため息を吐きながらも束に立つように促した。

 

「……束さん、話が進まないのでさっさと立ってください。今日は帰ることにしますから」

「それ本当!? よっしゃぁ!! やる気出てきたぁ!!!!」

 

 単純過ぎると一夏は思ったが、最近直接会ったのは一夏が吐血したことを心配して家に突入してきた時だけなので、流石に帰るべきと思っていた。正直帰ったら束に何されるか想像出来るため、あまり帰りたくないと一夏は思っているが、そろそろ帰らないと束が暴走しかねないので、仕方ないことだと一夏は思い切っていた。案の定、帰ってくることを知って、束は大喜びしていたが……

 

「それで、どこまで話したっけ?」

「私が束の下にいる人間の事だけです。それで、狙われた時の対策があると言ったところで話が脱線しました」

「あ、まだそこまでしか話してなかった?」

「はい。それにしても、遂に完成したんですね……」

「うん!! まぁ、テストも兼ねてフランスのIS一機を完全停止させる事になったけど。ISコアを完全停止させることによってね……」

 

 束の言葉に、周囲の人間はざわついた。束が言ったことはあまりにも衝撃的なことで、その意味は束が世界を牛耳っていることに等しい意味を持っていたから――

 しかし、束はなぜみんながざわついているのか理解出来なかった。確かに今まで開発していなかったが、本来なら対抗策として開発しなければ意味がない筈なのだ。世間にISを広めた篠ノ之束だからこそ、科学者(化学者)として当たり前なことをしていただけなのだ。

「……あのさ、本来なら当たり前のことだよ。例えばある生物兵器を開発した時、世界を牛耳るには対抗策として、生物兵器の抗ウイルス剤が絶対に無ければ意味がないよね。私がわざわざISコアを世界中にばらまいたというのに、その対抗策として用意するのは当たり前じゃない? ISコアを完全停止させるシステムを用意することは必然とも言えるけど?」

 

 篠ノ之束は世界征服ができる――というところまでは力を持っていないが、世界を変えるだけの力は持っている。現に一度、ISという兵器(・・)を持ち込んできた人物であり、それを元のISがなかった時代に戻すなんて造作もなかった。その人物を超えようとすること自体が、愚かで滑稽なことで、可笑しくて腹が痛くなるくらいだ。

 例えば、ISコアを篠ノ之束以外に造れたとしよう。確かに世界の中心であるISの中枢を造れたら、世間は注目するだろう。けどそれ以上のこと難しいだろう。その人は一から考えてISを作った訳でもなければ、既にある物を自分で複製する事が出来たに過ぎない。その時点で篠ノ之束はそれ以外の分野に手を出しているだろうし、現に篠ノ之束は次の段階へ準備を始めていることを、世間は勿論、束の近くにいる一夏ですら知らないことだ――

 

「あ、ちなみに確認したいならフランスに行けば解ることだよ。フランスはそのことを隠しているようだけど。デュノア社の動きに気づかなかった時点で自業自得だよ」

「……そういえば、束さんが怒った理由って?」

「倉――っていえば通じるよね?」

「……あぁ、そういうことですか。てか、そんな理由ですか……」

 

 理由を知って一夏は頭が痛くなった。あまりにもくだらない理由でデュノア社を潰したのかと思うが、束にとっては重要な事であり、頬を膨らませて怒っていた。そんな束が可愛いと一夏は思いつつも、束の言葉を待っていた。

 

「そんな理由ってなにさ!! 呑気に言ってるけど誘拐されたかもしれないんだよ!!」

「私が誘拐されないのは束さんが一番知っていることでしょう。ていうか、結局隠していないし、そもそも隠す意味ってあったの?」

「正直隠す必要なんてない!! それと、もしものことを考えたら対処すべきだと思うのだけど」

「……まぁ、いいです。それで、この状況をどうしますか?」

 

 一夏が周りを見渡すと、未だにざわついていた。束がとんでもない発言をしたものだから、誰だって気になるだろう――ISコアを停止させる物がどんなものか。

 

「うーん、デバッカー(・・・・・)については話し終えたからね……正直帰っていいかな? くーちゃんにお土産を任せている状態だし、そろそろ心配だし」

「それで、私は一緒に帰った方がよろしいです?」

「いや、あの子を連れて来て欲しいから、準備出来次第で大丈夫だよ。あの子にもお土産を見せたいし」

「……束さんが言うお土産ってまさか――」

 

 あの子というのはシャルロット・デュノアだろうと一夏は考えたが、シャルロットにも見せたいお土産って聴いて、何のお土産を持ってきたのか想像が出来てしまい、なんていう物をお土産にしているのだと思い、またしても頭が痛くなってきた。

 

「……何を想像したのか知らないけど、お土産についてはお楽しみということで。それでは私はこれで――」

「待ちなさい!!」

 

 先ほどまで殆ど束と一夏の話しかしてなかったが、束が乗ってきた人参の乗り物で帰ろうとすると、束を呼び止める人物がいた。束は呼び止められたことに不機嫌になったが、その呼び止めた人物の方向へ振り向いた。

 一夏は束を呼び止めた人物が声を聴いただけで解ってしまい、面倒事を持ってこないでくれと、呼び止めた人物である鳳鈴音に対して思っていた――

 

「……何かな? 私はさっさと帰りたいのだけど?」

「二つだけ篠ノ之束に質問したいことがあるわ」

「ふーん。まぁ、私に対して媚びた口調ではないから、話だけは聴いてあげる。それで、聴きたいことって何かな?」

 

 束に話しかけてくる人間は大抵の人が自分や自国の利益しか考えていない人物ばかりで、鈴みたいな場合によっては敵意を向けるつもりだという表情を向けられたのは珍しいことだった。その珍しさと、篠ノ之束に対して直接敵意を向けるつもりだと解るくらいに教えている鈴に、束は質問を許すことにした

 

「一つ目、あんたたちはこれから何か世界をひっくり返すようなことをするつもりではないよね? 先ほど話していた……デバッカーだっけ? とにかく、それを使って何かするつもりは無いのかということ」

「答える必要もないけど……まぁ、答えてあげようか。今のところは考えていないかな。どちらかといえば私たちを守るための保身で作っただけだから」

「そう――なら二つ目、というよりこっちが一番聴きたかったことなんだけど……」

「それでなにかな?」

「あんたなら知っているじゃないの? 織斑一夏がどこに居るかを――」

 

 その質問は、周りにいた人達全員がざわついた。

 織斑一夏――織斑千冬の弟であり、現在行方不明となっている。世間的には既に亡くなっている人物とされているが、鈴は生きているという前提で話し始めた。

 その質問を聴いた束は――笑みを浮かべていた。鈴の素性については自分で調べるや、一夏から直接聴いているからこそ、ここまで一夏を探し続けていると考えただけで一途だと束は思ったのだ。最も、一夏を渡すつもりはないけども。

 

「うん、君に興味が湧いちゃった。名前なんて言ったっけ?」

「え、鳳鈴音だけど――」

「なら鈴ちゃんで。それで、さっきの質問を答えるけど――」

「束さん、その質問は私に答えさせて貰ってもよろしいですか?」

「え? まぁ、別に平気だけど、大丈夫なの?」

 

 束が答えようとしていると、質問の張本人である一夏が話に割り込んできた。まさか一夏自身が答えると言ってきたことが束にとって少し予想外で、素っ頓狂な顔を最初見せたが、すぐに元の表情に戻り、一夏に問いかけた。

 そんな、束に一夏は笑みを浮かべ、そのまま鈴の方向へ顔を向けた。

 

「それで、先ほどの質問を答えるけど、一夏は生きているわ。何処にいるのかも私と束さんは知っている」

「じゃ、じゃあ一体何処に!?」

「それは教えられない。一夏は狙われている身でもあるから、教えたら絶対に何者が襲撃される可能性があるから」

 

 あながち間違った事を一夏は言っていない。鈴と話している張本人が一夏であり、生身でIS兵器を使っているから、狙われていることは間違いではなかった。

 そしてまた、織斑一夏という男性(・・)は、篠ノ之束と生身でIS兵器を使う一夏によって保護されていると言っているようなもので、突破するには二人を倒さなければならないことを意味していた。さらに束がデバッカーについて公表したことによって、敵の意欲を落とすという点もあり、束を怒らせたらシステム一つで全てのISを機能停止させることが出来るという、世界に対する宣戦布告で脅迫だった――

 

「話は終わりかな? 束さんはあの人参で帰るの」

「そんだよ!! なんか問題ある?」

「特には」

「さて、今度こそ帰るからね!! それでは皆の衆、ごきげんよう!!」

 

 束は乗ってきた人参の形をした乗り物に乗り、人参が根っこから噴射するかのように上空へ登っていった。その光景はシュールだったが、誰もそのことについて突っ込む人はいなかった。

 

「さて、私も帰りましょうか。確か入っていた筈――」

 

 そういって一夏は、人間一人を宙に浮かせる機械らしき物を突然出現させ、それを背中に背負った。

 

「よし、これで大丈夫なはず――」

「ま、待ちなさい!! 逃がすわけにはいきません!!」

 

 一夏の準備が終えたと同時に、IS学園の教師たちがアリーナ内に突入してきた。まるで束が居なくなった直後に現れたが、束が居た間は衝撃的な事を続けてあったものだから、突入するタイミングをなくしていたからだ。勿論一夏にとってどうでもよいことで、そもそもこの状況だと追いつく前に逃げられた。だから一夏は教師たちの話を無視して、先ほど用意した機械で上昇していくのだった。

 

「追って来るのなら構わないけど、果たして追って来られるかな?」

「ま、待ちなさい!!」

 

 一夏はアリーナを離れ、教師たちと追いかけっこを始めるのだった――

 




デバッカーと聞いて、あるものを思い浮かんだらいろいろと察しますw

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