IS〔インフィニット・ストラトス〕 〜復讐か叛逆を選択する少女〜   作:アリヤ

14 / 24
遅くなりまして本当にすみません……

その代り、第十三話と第十四話を同時に投稿します。


第十三話

(更織……簪だとっ!?)

 

 一夏に話しかけた生徒――布仏本音が連れてきた生徒が、まさかの更織楯無の妹である簪だとは思わず、内心驚いてしまった。また、先ほどから使用していた越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を解除してしまい、一夏はラウラの様子を確認することをやめてしまった。

 さらに、越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を解除したことによって、瞳の色が変化することを一夏は失念していた。簪の方向を見ていたこともあって、瞳の色が変わったところを、簪に見られていた。

 

「……そっちの人、瞳の色が変わらなかった?」

「っ!? き、気のせいでは――」

「あれー? さっきまで瞳の色が金色だった気が……」

 

 簪の言葉に本音が一夏の方へと振り向き、瞳の色が先ほど席を離れたときと違っていると気づいた。先ほど本音と話していたこともあって、本音の方はすぐに気づいたようだ。

 この状況は、一夏にとってとてもまずい状況だった。もう一度越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)を使用するわけにも行かず、この場を離れるのもただ怪しまれるだけだ。けどそんなことよりも今は越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)についてどのように誤魔化すかを一夏は考えなければならなかった――

 しかし、運が良いのか悪いのか解らないが、ちょうどアリーナでは異変が起きていた――

 

 

--------------------------------------------

 

 

 時間は少し遡る――

 

 鳳鈴音、セシリア・オルコットの二人組とラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之箒の二人組の試合は、鈴とセシリアが考えた作戦通りに、鈴がラウラと、セシリアが箒と戦うようにすることができた。

 セシリアと箒の戦いは箒を近づかせないようにビット兵器であるブルー・ティアーズで足止めしつつ攻撃を行っていたため、セシリアの優勢だった。

 一方の鈴とラウラの戦いだが――

 

「……あんた、やる気あるの? この前戦った時の方がよっぽど強かったわよ」

「くっ、お前には関係ないことだ!!」

 

 ラウラが一夏のことを気にしすぎて、試合に集中できていない状況だった。

 意識が試合に集中していないこともあり、ラウラの専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンの一つ、AIC( アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)を今のラウラの状態であれば使用することができる精神状態ではなかった。

 軍人としてはあるまじき行為だった。もしこれが戦場であれば確実に殺されるだろうし、訓練だろうとも怒鳴られる一因だろう。

 そのラウラのことで苛立っているのは戦っている相手である鈴だ。鈴は自分一人ではラウラに勝てないことを自覚しているし、何としてでもセシリアが箒を倒すまで倒されないように気をつけていたが、あまりにもラウラの動きがいつもと違うことに気づいていた。何かしらの理由で試合に集中できていないことはなんとなく把握する事ができたが、鈴にとって侮辱以外の何者ではなかった。

 

「……何で悩んでいるか知らないけどさ、今は試合に集中しなさいよ!! それともなに、ドイツ軍は対戦相手に毎回情けをかけるのかしら?」

「なっ!? 貴様、ドイツ軍をバカにしているのかっ!?」

「だってそうでしょ? それに、あんたは私と同じ代表候補生。ドイツの顔として来ているのだから、そのあんたがふざけた戦いをしていたらドイツに泥を塗っているし、他国から侮られるだけよ。まぁ、わざと侮らせる行為をしているのかもしれなけどね」

「……いいだろう。そこまで言うのならば本気を出してやる!!」

 

 ラウラが試合に集中させる作戦は成功し、これで本気を見せてくれると鈴は思った。自分の実力を上げるためには、ラウラのような実力が上の相手から戦い方を盗み、それを自分の戦い方に組み込もうと考えていた。すべては、一夏の居場所を見つけるためにも――

 だからこそ、鈴はラウラへの挑発するのに対して、怒り任せにならないような言葉を選んでいた。案の定、鈴の挑発に乗ってしまったラウラだが、その割には冷静だった。

 自分の思惑通りの結果になったことに、自分が恐ろしいとも鈴は最近思い始めた。実力がそこまでないのであれば、頭を使って状態分析、事前情報、相手の実力差、仲間の実力などを把握し、それらの総合して勝てる見込みを探る。勝てないのであれば最低限度として、相手の技を盗む。どんな試合だろうと手を抜かないのが、鈴の戦い方だった。

 余談だが、鈴の言葉にダメージを受けていた人物が一人いる。鈴のパートナーであるセシリア・オルコットで、鈴と会う以前のセシリアは自国のことを考えているつもりではいたが、自分の言動が国の言動となると鈴に言われてから気をつけるように振る舞うように始めたのが一月くらい前のことだ。鈴がラウラに伝えたことは、まるで自分に言われているともセシリアは思ってしまい、隙を見せてしまった。その隙を箒が見逃すわけがなく、セシリアへと一気に詰め寄った――

 

「隙ありっ!!」

「っ!? しまっ――」

 

 意識がビット兵器である「ブルー・ティアーズ」に集中できていなかった隙を箒は見逃さなかった。伊達に剣道をやっていたわけでもなく、相手の行動を先読みしなければ勝ち上がることは難しい。その培った努力はもちろん剣道以外にも発揮することは可能だ。

 特に箒の場合、中学の剣道大会で優勝したことがあるが、あの戦い方は自分でも酷く、醜い戦い方だったと後悔している。あの時は姉のせいでやけになっていたということもあるが、あの後冷静になって後悔した。だからこそ、実力を持った戦い方を手に入れるために努力し、先ほどからセシリアの隙をずっと窺っていたわけだ。

 後に織斑千冬はこう評価している。

 

『ISとしての実力はまだまだではあるが、剣を扱う点については代表候補生に劣らないだろう。洞察力についても、剣道で培った力を使えば、人によっては苦手な相手になるかもしれない』と。

 

 現在の箒は、ISに慣れていないこともあるが、自分の力を完全に発揮できていなかった。とはいえ、代表候補生であるセシリア相手に一撃を与えられただけも、評価できることだった。

 

「くっ、まさか一瞬の隙を見抜くなんてっ!?」

「伊達に剣道をやっていたわけではないからな。隙を見つけたりカウンターをすることは慣れている。」

「でしたら、二度とそんな隙を与えませんわ!!」

 

 セシリアは「スターライトmkIII」を箒に向けてはなった。

 銃口が箒を向いていたこともあって、箒は簡単に避けてみせるが、セシリアはその避けた方向に合わせてすぐさまビット兵器の方向を調整し、隙を与えずに箒に放った――

 

「くっ、ここまでか……」

 

 隙を与える前にかなりのダメージをセシリアから受けていたこともあり、箒のシールドエネルギー残量は残りわずかだった。セシリアがビット兵器から放ってきた事にはすぐに気づいたが、避けた後にさらに避ける行為はあまりにも難しいことだった。

 そして、箒はビット兵器からの砲撃を受けてしまいシールドエネルギー残量は0となってしまった。

 

「ふぅ、一撃受けてしまいましたが、これくらいなら大丈夫でしょう。それにしても、私が近接特化のIS……いえ、ビット兵器がないISでありましたら、こんなダメージでは済まなかったでしょうが……」

 

 箒と対戦して、セシリアは箒を高評価した。意識が集中していなかったからこそ、一瞬の隙を与えることになったが、その隙を見つけた箒の恐ろしさを実感した。多方向から放たれるビット兵器でなければ、箒は自身の洞察力で全て避けていたかもしれないとセシリアは思った。

 だとしても、ISの経験歴からしてセシリアが勝ったことは間違いないと自我自賛するが、この後鈴と共にラウラを倒すことまで考えると、ラウラを倒せるのかということは難しいと思った。

 

「とにかく、ボーデヴィッヒさんに気づかれないように鈴さんに援護しないといけませんね…… 鈴さんがボーデヴィッヒさんの意識を、鈴さんに向けさせている間に」

 

 セシリアはラウラに気づかれないように、ラウラの背後へと回り込むことにした――

 そのラウラと戦っている鈴だが、ラウラの攻撃から避けているだけの防戦一方の戦いとなっていた。

 想定内の範囲だと鈴は最初思っていたが、後に撤回するレベルでの被害を受けていた。

 

(完全に容赦する気はないってことは嬉しいけど、この状況は何なのよ!!)

 

 あまりにも一方的で、鈴の思い通りに動くこともできず、以前鈴とセシリアがラウラと戦った際に鈴を動かなくさせた、Active?Inertia?Canceller(アクティズ・イナーシャル・キャンセラー)――通称AIC、またの名を停止結界を使用して、鈴の動きを完全に止めてはレールカノンやプラズマ手刀で的のように攻撃を受け続けた。

 

(このままではダメージを与えられずにやられるっ!? 何とかしてチャンスを――)

「ふん、貴様らの策は前に経験済みだ。気づかれない内に攻撃を狙っていることなんてなっ!!」

 

 突然ラウラは鈴に使っていたAICを解き、まるで避けるかのように移動した。するとラウラが居た場所に、レーザーが通り過ぎていた。どうやらラウラは箒が倒された事をすぐに確認し、セシリアがスナイパーのように攻撃してくることを予想していたようだ。

 これは鈴にとっても予想外の展開ではあったが、この一瞬の隙を見抜く程の能力を身につけた鈴にとってチャンスだった。しかし、ここで龍砲を放ったところで大したダメージにはならないし、後が続かないことは把握していた。しかし鈴はそれでも龍砲を放つことにした。

 

「ふん、それも予測済み――っ!?」

 

ラウラは隙ができたと思わせて鈴が攻撃仕掛けてくることを予測していたが、本来なら繋げることで投擲武器として扱う 双天牙月を、ラウラが避けるだろう左右(・・)に投擲していたのだ。元々双天牙月を繋げている状況ではなかったこともあったが、確実に避けるだろうどちらかに投擲したわけだ。

 それはラウラにとって衝撃的なことだった。国の代表候補生だとしても、代表候補生兼軍人相手に先読みした攻撃を仕掛けてくることは、ラウラが一番想像をしていなかった攻撃だ。さらに言えば、上下にも避ける方法があるにも関わらず、迷いもせずに左右に投擲したことからして、確実に左右に避けると想定した攻撃だった。

 もちろんそんな想定外の攻撃に、ラウラは避けることすらできず、直撃を受けた。

 

「ぐっ」

 

 直撃を受けることとなったが、ラウラはすぐに機体をずらし、ある程度のダメージ軽減をした。とはいえ、双天牙月は元々二つを繋げた状態で投擲するものであって、繋げた状態よりもダメージは少ないが、投擲する武器であることには変わらず、直撃ということもあって大きく減らすとこができた。

 しかし、これ以上ダメージを受けるつもりはなかったラウラは、セシリアがさらなる追撃を行おうとしていることは見なくても容易に想像できたため、そのままセシリアの方向へと接近した。もちろんそのことに鈴も気づいたが、双天牙月が手元に無い状態で、動いている相手に龍砲が当たる可能性が低いこともあり、当たる可能性を祈って龍砲をラウラに向けて放つ。しかし、当たるわけもなくセシリアへの接近を許してしまった。

 

「イ、インター――」

「遅いっ!!」

「きゃぁっ!?」

 

 ラウラはスピードを落とさずに、セシリアにプラズマ手刀で攻撃した。直撃を受けたことにより、シールドエネルギー残量は大幅に減らされ、そのまま壁まで飛ばされた。その後ラウラはセシリアの確認をせずに鈴の方向へ機体を向け、それに対して鈴は攻撃の構えをするが、ラウラの顔を見て思わず攻撃の構えをやめてしまった。なぜなら、ラウラの顔はまるで面白いと思っているかのように笑みを浮かべていたから――

 

「ふくくく、以前戦った時も思ったが、やはり節穴ではなかったか……」

「……なによ、急に笑みを浮かべて」

 

 突然の笑みに鈴は気味が悪いと思った。何を考えているのか解らず、鈴としてもどうしていいのか困惑していた。

 しかし、その鈴の疑問に答えるかのようにラウラは話し続けた。

 

「元々教官をドイツに連れて行くつもりで来たが、才能を勿体ない使い方をしている人物がIS学園にいるとは」

「……もしかして、私のこと言ってる?」

「そうだチャイニ……いや、鳳鈴音と呼ぶべきだな。君の才能はこんなところで使っていること自体が勿体ないくらいだ」

「あ、ありがとう……」

 

 実力的にはどうみてもラウラの方が上でありながらも、ここまで評価されてしまうと鈴はどのように反応していいのか解らず、思わず感謝してしまった。しかし、自分自身何が評価されているのか鈴は理解できておらず、ラウラに対して思わず尋ねて見ることにした。

 

「そ、それで、一体私の何を評価しているわけ?」

「自分で理解していないのか? すぐさま現状を把握する状況判断力。体で相手の視線を自分に向けさせる能力。そして相手の行動を読む先読みする能力。どれを見ても才能としか私には思えないが」

「……確かに、そのあたりは自分の実力が無いからという理由で身につけたものだけど、そこまで言われるとは……」

「そう謙遜するな。あの戦術は私が軍人だということを逆手に利用したことくらい、想像できる。でなければ、上下に避けることができるのに、確信をもって左右のみ投擲するなんてありえないからな」

「……気づいていたのね」

 

 そう、鈴が双天牙月を左右に投擲した理由はラウラが軍人でもあることを利用した戦術だった。軍所属の人間であれば、ISを使った訓練も行うと考え、生身で戦う訓練も行っているだろうと推測した。もし生身で戦闘を行う場合、前方からの攻撃という仮定をすると、防ぐか避ける選択肢を取ることになる筈だ。そして避ける選択肢を取ったとすれば、左右に避けるしか方法は無いと鈴は思っていた。

 人間というものは、軍人でもスポーツ選手だとしても、それぞれ特有の癖というものがたとえ小さいことであろうと存在する。今回のことで考えると、ラウラは鈴の攻撃から避けようとしたとき、無意識に軍人の癖で左右に避けてしまったということだ。上下に避けるなんていう行動は、ラウラ本人ですらしなかっただろうと思えるほどだ。他の代表候補生であれば通じない戦い方ではあるし、相手の経歴から戦術を考えるということは常識なことだ。しかし、相手の癖を利用するなんていう戦術は、そう簡単にできることではないからこそ、ラウラは鈴をかなり評価していた。

 そんな人物が、ISでの実力をもっと上げれば、あまりにも頼もしい人材になるとラウラは思った。だからこそ、IS学園に居ることが勿体ないと考え、なんとしてでもドイツへ引き抜きしたいと思っていた。

 

「だから鳳鈴音、ドイツに来るつもりはないか?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。