転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 前回のあとがきにも書いたように、今回から大幅カットが始まります。


第七十九話

 死神、滅却師、破面。敵対していた三つの勢力が手を取り合って作成した門が、今完成を迎えようとしていた。

 最初は大まかな枠を囲うだけのものだったものが、こうして重厚な門を形成しようとしているのだから、驚きだ。

 

 大勢で作成したので、一人一人の霊力の消費も少ない。これならば霊王宮に突入しても、問題なく戦うことができるだろう。

 

 門の完成が近づくにつれて、皆の闘志や士気が充実していくのを感じる。これも、皆がユーハバッハという共通の敵を目標としているからだろう。

 ただ、僕は闘志のような感情とは無縁のためか、皆から一歩離れた地点から場を俯瞰することができた。

 

 だからだろうか、この場でただ一人誰とも違う服装をしている彼女が目についた。

 

「大丈夫?」

「あ、蓮沼君。うん、大丈夫だよ」

 

 突然の僕の言葉に、井上さんは笑顔で答えてくれたが、その笑顔はどこがぎこちない。この場でたった一人の人間というのもあるのだろうが、やはり先に霊王宮に行った一護君達や、敵となってしまった石田君のことが気がかりなのだろう。

 

「やっぱり、一護君達が心配?」

「う、うん……。わかる?」

「まあ、井上さん分かり易いしね」

 

 基本、井上さんは分かり易く、嘘が下手なタイプだ。目の前にご飯がある時などはその筆頭だろう。

 

「きっと一護君達は大丈夫だよ。根拠があるわけじゃないけど、今までだって何度も死線を乗り越えて来てるし、そう簡単に死ぬようなたまじゃないはずだ」

「うん……。ありがと」

 

 さて、ここまでの会話だと、単に冷やかしに来た奴みたいになっているが、当然それは僕の本意ではない。僕はちゃんとこの場で伝えたいことがあって、井上さんに話しかけたのだ。

 

「それに、今度こそは絶対に君を一護君の下に連れて行ってみせるから」

「……え?」

 

 今から二年前、僕は藍染の乱で井上さんを現世に送り届ける役目を請け負った際、道中の断界で十刃であるウルキオラに大敗を喫し、井上さんは虚圏に囚われてしまった。

 あれがなければ、井上さんに辛い思いをさせることもなかったし、藍染の策略によって護廷十三隊の戦力が分散することもなかった。

 

 既に井上さんには謝罪を済ませ、有難いことに許しも貰っているけど、そのことは今も後悔として僕に重くのしかかっている。

 だからこそ、次に井上さんを護るような機会がやって来たのなら、僕は必ずそれをやり遂げると決めていたし、その為の修練も積んで来たつもりだ。

 

 けど、井上さんはきっとそんなことは気にしていないだろうし、なんなら今みたいに一方的に告げられても、却って迷惑でもあるだろう。

 現に、井上さんは僕の発言に戸惑っている様子だ。少なくとも、既に許しを与えたはずの僕が、今になって話を蒸し返すと思っていなかったことは確かである。

 

「そのことなら、もう気にしなくてもいいのに……」

「分かってる」

「え?」

 

 案の定、井上さんは気にすることはないと言ってくれる。

 ここまでは想定内。故に、僕はこう言おうと決めていた言葉を声に出した。

 

「井上さんがもうあの事を気にしていないことも、自分を護ることで誰かに傷ついて欲しくないことも分かってる。でも、これは僕が自分で決めた事だから。一度失敗した手前、情けないかも知れないけど、僕に君を護らせてくれないかい?」

 

 何も言わず、淡々と井上さんを護るという選択もあった。この方法を取れば、彼女を戸惑わせることもなかったし、僕は僕で勝手に自分が決めた通り、彼女を護るために動けるのでいいことづくめだ。

 だけど、僕はその方法を取らなかった。何故なら、それは僕を許してくれた彼女に対する裏切りに他ならないと思ったからだ。

 

 もし、僕が井上さんを護って死ぬようなことになれば、彼女は悲しむだろう。許したのになんで……。そう怒るかもしれない。

 そしてそれが、何も言わずに勝手に行われたこととなればなおさらだろう。

 

 だから僕は、自分の心の内を包み隠さず井上さんに語った。それが許してくれた彼女に対する誠意であり、再び護る資格を得る為の条件だと考えたからだ。

 

 井上さんの意思を無視して、そのクセ誠意などと言っ形に拘る。どっちつかずの中途半端な態度で、決して上手い会話とも言えないけど、僕はこれが正解だと信じてる。

 

「うん……分かった。それじゃあ、お願いします。だけど、無理はしないでね?」

「最善は尽くすよ。ありがとう」

 

 暫し熟考した後、井上さんは僕の護衛を認めてくれた。僕の気持ちが通じたのか、それとも断って無駄だと諦めたのかは分からないけど、了解さえいただけたのならば、後は行動で示すだけだ。

 故に、互いに頑張ろうと告げ、一旦元居た場所に戻ろうとした僕だったけど、それは思わぬ事態によって遮られることになる。

 

「なっ!?」

 

 突如として、あらゆる場所から轟音が響くようになった瀞霊廷。

 それから、空に浮かぶ瓦礫を目にするのにそう時間はかからなかった。

 

 

***

 

 

「何故だ……何故こんな事が起きている……っ!? 滅却師共は何をしようとしているんだ……っ!?」

 

 戦闘によって破壊された建物の瓦礫を中心に、見えざる帝国の町並みが剥がされていく。

 空へと浮かぶそれらの行き先は、恐らく霊王宮。そこまでの距離的や瓦礫の量を考えて、これを行っている者が類いまれなる霊力と、その操作技術を持っていることが見て取れた。

 

 目の前に広がる光景は正に天変地異。故に砕蜂にはその原理と目的が読み取れなかった。

 

「何やねん……。こっちがどんだけ必死こいて、ようやく門の一つもできようかっちゅうとこやのに……。敵サンはどんだけのことしてくれてんねん!!」

 

 そこに込められた霊子の密度や、作られる門の術の難易度という点ではこちらの方が上回るのだろうが、術の規模で言えば比べるまでもなく敵の方が上だ。

 そして、視覚が印象に与える影響は大きい。平子が声を荒げてしまうのも、仕方のないことだった。

 

 しかしこの動揺の中でも、門の作成の為の霊力の供給を怠った者は居なかった。

 

「完成っス!」

 

 霊王の死、黒い天蓋に群体、そして天変地異。三度に渡る異変を経て、ついに門が完成の時を迎えた。

 時間にすれば短時間であるが、この場に居る者は、それが何時間にも感じられたことだろう。

 

「開門しますよ! 準備はいいっスか!?」

「「おお!!」」

 

 だが、本番はここからである。

 一度戦いに身を投じてしまえば、時間など気にしている暇もなくなるのだから。

 

 そして門が開いた時、彼らの目の前に広がるのは、霊王宮本来の姿ではなく、異国情緒溢れる滅却師の街並みだった。

 

「な……何や、これは……っ!? 霊王宮に繋がったはずなのに、なんで滅却師の街に着いてん……! どないなっとんねん喜助ェ! 霊王宮に着くんとちゃうんか!」

「いえ……、座標は瀞霊廷の真上。ここが霊王宮の筈っス」

 

 光景だけならば、見えざる帝国となった瀞霊廷と何ら変わらない。それ故に平子は自分達が霊王宮に移動できたとは思わなかったのだが、喜助の言うように、座標から判断すればここは間違いなく霊王宮だ。

 

「……つまり、さっき瀞霊廷から持ち上げた街を、霊王宮を潰して組み直したってことなんじゃないの?」

「アホな! さっきの今でそないな事……」

「だから、それ程までの力を手に入れたって事だよ。敵さんがさ」

「確かに、霊王宮から離れた瀞霊廷の瓦礫を、あれだけ一度に持ち上げている時点で、敵が霊圧とその操作に長けていることは明白です。であれば、霊王宮内で新たに街を作り上げたとしても不思議じゃないかもしれません」

 

 京楽の推測を卯月が補足する。大量の瓦礫が宙に浮かぶ光景を、この場の全員が見ているだけに、彼の言葉には説得力があった。

 

「見ろ。街並みの縁が円になっている……。恐らくここは、霊王宮の下に浮かんでいた五つの零番離殿の一つだったのだろう。だが、空を見ても、霊王宮は浮かんでいない。これは、霊王宮が落とされ、その全てが敵の手に落ちたということだ」

 

 続けて、周囲の観察をしていた砕蜂が、知識にある霊王宮の地理と当てはめて、現在の霊王宮の状態を述べる。

 

 彼女の言うように、現在の霊王宮には以前のような上下の位置関係はなく、全てが地続きに繋がっており、それらは五芒星を描いていた。

 

 霊王宮に突入するなり、凶報にしか目が行かないが、一つ吉報があった。それは先遣隊として霊王宮に突入した、一護達の霊圧が感じられたことだ。

 

「これは……ねえさまの霊圧です! 今そちらに向かいます、ねえさま!!」

 

 その中でも夜一の霊圧を真っ先に感知した夕四郎は、早速合流しようと、宙へと躍り出るのだが――

 

「あれ……? うわああああああああ!!」

 

 霊力の足場を作ることに失敗した夕四郎は、そのまま瀞霊廷に向かって落下を始めた。

 

「バっ、馬鹿野郎! 何してんだてめえええ!!」

「す、すみません……。なぜだかその、足場ができなくて……」

 

 このまま落ちれば死は免れなかったが、辛うじて恋次が夕四郎の手を掴んだことで、一命を取り留める。そのまま説教を始める恋次だったが、夕四郎が足場を作るのに失敗したのには、歴とした理由があった。

 

「……どうやら、ここでは足場を作ることは難しいようだな」

「……どういう事っすか?」

 

 夕四郎の一連の行動を見て、分析を始める白哉を見て、一旦説教を止めた恋次は夕四郎を引き上げながら、白哉の話に耳を傾ける。

 

「兄も感じているだろうが、霊王宮の大気に満ちる霊子濃度は極めて高い。だが本来ならば、これ程の霊子濃度で足場を作れぬ訳はない。ならば、それができぬ理由は一つ。この一帯の霊子全ての支配権を滅却師が握っているということだ」

 

 既に街を作り上げている以上、滅却師が霊王宮の霊子を隷属化していたとしても何らおかしくはない。

 死神は自らの持つ霊力を外に放出することで足場を作成するが、その足場を構築するまでの霊力操作を滅却師が隷属化した周囲の霊子によって阻害されたのだとしたら、先程の夕四郎のような目に遭うのも頷けた。

 

「迎え撃つ側がこちらに不利な戦場を用意するのは当然の事。その上周囲の霊子を操り戦うのが滅却師の本質ならば、その頭目ともなればこの位のことはやってのけよう。霊王を殺す程の者とならば、尚の事」

「……確かに、いざ霊王宮に入ってみても霊王の霊圧は感じぬ。やはり霊王は殺されたということか……!」

 

 瀞霊廷に居た時に起きた異変を感じた時点で、半ば分かっていたことだが、実際に霊王の霊圧を感じられないとなれば、やはり来るものがある。浮竹が命を懸けていたが為に、それはなおさらだろう。砕蜂は顔を歪めた。

 

「まあまあ。遠くではあるけど、幸い一護クン達の霊圧は感じる事だし、先遣隊が全滅してなかったってのは朗報でしょ。敵の手によって霊王が死んだのなら、敵を倒して新しい霊王を決めればいい。浮竹が今喋れたら、多分そう言ったと思うね」

 

 会話を交わせば交わすほど、雰囲気が淀むのを見かねた京楽が、ポジティブな部分に目を向けつつ話を進める。

 彼の言うように、一護達が生きていたことは朗報であるし、物事には優先順位がある。霊王の死に悲観するよりも、次の霊王を据え、世界を安定させることが必要であるし、その為にはまず敵を打倒しなければならない。

 

「その通りじゃ。そして、黒崎一護達と合流できず、宙を歩むこともできぬ今、儂らはこの目の前の道を進む他あるまい」

 

 京楽の言葉を引き継ぐ形で元柳斎が行動の指針を定める。そして出発しようとしたその時――。

 

「「!?」」

「何だあれは……っ!?」

「何だも何も……アレが敵サンの本陣ってことでしょ……」

 

 進行方向に一瞬にして白亜の城が聳え立った。

 

 これで街が完成したということなのだろうが、わざわざ本陣の建築を遅らせた理由は、自分の力を見せつけるようで……。

 

「しかし、こりゃまた随分とデカいっスねぇ。逃げも隠れもしないどころか、まるで早く来いって言ってるみたいっス」

 

 そしてそれは、護廷十三隊に向けた挑発に他ならなった。

 

「ユーハバッハめ……やってくれおる」

 

 刹那、元柳斎の発した声によって空気が変わる。ユーハバッハの挑発は、元柳斎に闘志に火を点け、そして総隊長である彼が纏う雰囲気は、そのまま護廷十三隊の皆へと伝播した。

 

「儂に続け! 征くぞ!!」

「「「はい!!!」」」

 

 号令と共に、元柳斎を中心とした進軍が始まる。

 

 対するユーハバッハは白亜の城――真世界城(ヴァールヴェルト)と名付けたその城で、決戦の時を待ち構えていた。

 

 

***

 

 

 進軍から半刻程の時が過ぎた。その間、滅却師達の先行やマユリ、ネム、剣八、一角、弓親、青鹿、花太郎の姿が見えなくなるというアクシデントがあったものの、元々滅却師はユーハバッハという共通の敵が居るというだけで味方ではなく、マユリや剣八の協調性の無さも今に始まったことではないので、問題はなかった。

 むしろ、門を開き直して別の座標へと転移したマユリが重症を負いながらも親衛隊の一人を倒したことから、概ね順調と言っても良かった。

 

 そう、概ねである。

 

 わざわざこの言葉をつけたということは、多少なりとも問題が生じたということであり、それは今現在も進軍中の護廷十三隊を苦しめていた。

 既に護廷十三隊は、敵に遭遇していたのだ。

 

 どうやら、敵は遠距離攻撃を得意としているようで、最初の攻撃から十分以上過ぎた今も姿を見せることはないが、怪我の癒え切っていない者や、慣れない高濃度の霊子によって、隊列を乱したり、進軍について行くことができなくなった者を確実に撃ち抜いている。

 

 どこに居るかも分からない敵から一人、また一人と徐々に戦力が削られていく状況は精神的につらいものがあった。

 

「被害は!? 報告せよ!!」

 

 先頭に居る元柳斎が、視線を前から動かさずに声を張り上げる。後ろを振り向くことすらしないのは、ここで僅かにでも進軍の速度を緩めれば、敵に攻撃の機会を与えてしまうという事が分かっていたからだ。

 

「二番隊は私だけです」

「三番隊、平子隊長が離脱しました!」

 

 各隊の隊長がそれぞれ代表として報告を上げる。その内容は、二番隊は大前田が離脱したものの、砕蜂は無事。三番隊は平子が脱落したというものだった。

 続いて、四番隊、五番隊と順番に報告を上げていく。それらを纏めると、現在の戦力は次のようになった。

 

 一番隊 元柳斎

 二番隊 砕蜂

 三番隊 イヅル

 四番隊 隊長、副隊長共に脱落

 五番隊 卯月、ほたる

 六番隊 白哉、恋次

 七番隊 隊長、副隊長共に脱落

 八番隊 京楽、七緒

 九番隊 修兵、雛森

 十番隊 隊長、副隊長共に脱落

 十一番隊 別行動

 十二番隊 別行動

 十三番隊 ルキア

 仮面の軍勢 全員

 滅却師 別行動

 破面 グリムジョー、ネリエル

 その他 喜助、夕四郎、織姫

 

 やはり回復したとは言え、それは最低限の処置に過ぎず、瀞霊廷での戦いで重症を負った隊長達やそんな彼らを護る形で留まった副隊長達は隊列からの離脱を余儀なくされていた。

 

 それだけならまだ良かった。

 

 戦力が削られたとは言え、敵の数に対し、此方はまだ四倍近くの戦力が現状残っている。だが、未だ敵に一方的に狙われているという状況が変わらない以上、この先もどんどん戦力は削られているだろう。そうなってしまっては、最早手遅れ。それこそ、全副隊長を脱落させ、そのまま全快の隊長に魔の手が及ぶほどに。護廷十三隊は地の利も数の利も失い、この戦争に勝つことが更に難しくなってしまう事だろう。

 

 故に、そうなる前に何かしらの手を打つ必要があった。

 

「まさかこれだけ犠牲者を出しても敵の位置が全く分からないなんてね……。それじゃあ、次の手を打つとしようか」

「京楽隊長っ!?」

 

 そんな中、いち早くその判断を下した京楽は、斬魄刀を抜きながら身体を翻した。

 

 だが、身体の向きを変える為に、一度減速した京楽は、敵にとって格好の的だった。戦闘態勢に入った京楽と、そんな彼の突然の行動に混乱する護廷十三隊の様子を遠目から観察していた滅却師、リジェは銃口を京楽に向け、そのまま引き金を引いた。

 彼の能力は“万物貫通(The Xaxis)”。彼が引き金を引いた時、銃口の射線上にあるにある物質は、その強度を度外視して貫かれる。

 

「見つけ……っ!?」

 

 目が合ったがもう遅い。リジェのことを見つけ、移動を始めようとした京楽だったが、彼が動き始めるよりも早く、リジェの銃撃が京楽の胸を穿った。

 

「愚かだな。どんな美しい統制を保って来た群も、たった一人の馬鹿の愚行で瓦解する。そんな群れを幾つも見て来た。君達死神はそうではないと思いたかったのだけれど」

 

 京楽が地面に倒れるのをしかと見届けたリジェは、彼を馬鹿だと嘲る。

 そして、次なる標的を、京楽の独断の行動によって統率が乱された死神に定めた時――。

 

「【だぁ~るまさんがこ~ろんだ】」

「っ!?」

 

 背後から、何者かの声が聞こえた。

 振り向くと、たった今殺したはずの京楽が、始解を済ませた状態でそこに立って居た。何故生きているのか、どうやってリジェの霊圧感知をすり抜けて、彼の背後まで移動して来たのか。疑問は尽きないが、今はこの不意討ちを躱すことが先決。

 京楽の攻撃を認識したリジェは、振り向き様に銃を刃に当てながら、後退する。これにより、銃は真っ二つに斬られてしまったが、もし斬撃に銃を挟んでなければ、避ける間もなくリジェは京楽に殺されていた事だろう。

 

「よく躱した。流石に速いね。けど、武器は貰った。お次は命だよ」

「…………」

 

 仕留めそこなったものの、初撃で武器を破壊できたことは大きい。一先ず、優勢に立つことができた京楽は宣戦布告する。

 それに対し返答こそはしなかったものの、京楽に向けるリジェの視線は真剣そのもの。不意討ちを躱すことができたリジェは、何が起こったのか思考を巡らせる。既に先程蔑んだことは撤回していた。

 

 

***

 

 

 一方その頃、京楽の行動によって進軍を止めることを余儀なくされた死神と破面達は、京楽の接敵を感じ取っていた。一時はリジェに撃たれた京楽が、霊力を固めただけの囮であるという事を知らなかった為、殺されたと勘違いしてしまった者も居たが、とりあえずは落ち着きを取り戻せたと言っていいだろう。

 となれば、当然次の行動を取る必要が出て来る。

 

「それで、どうします? 敵を京楽サンに任せて先に進むのか、それとも援軍を送るのか。いずれにせよ、ここに留まれる時間は多くありませんよ」

 

 口火を切ったのは喜助だった。彼はどの陣営にも属さない、所謂中立の立場なので、話し合いの進行役を務めるには適任と言えるだろう。

 

 それに答えたのは、卯月だった。

 

「僕は、ここは京楽隊長に任せて先に行くべきだと思います」

「そうですっ! ここは京楽隊長を助けに……ってええっ!?」

「意外だな。てっきりお前は援軍を送ると言い出すと思ったんだが。理由、訊いもいいか?」

 

 卯月の性格を考えるに、助けに向かうと思ったのだろう。昔からの彼を知る雛森は、彼女自身が援軍を送る意見に賛成だったこともあり、驚愕を露にする。

 彼との付き合いが一番長い、修兵からしてもそれは同様だったようで、説明を求めた。

 

「勿論僕も、京楽隊長のことは心配だよ。接敵したことで、漸くはっきりと霊圧を感知できるようになったけど、今度の敵は、瀞霊廷で戦った敵より数段強そうだしね」

「だったら……」

「だけど、京楽隊長だってそれは分かっていたはずだよ。あの人は、普段こそおちゃらけてる部分があるけど、それでいて誰よりも聡明だ。そんな人が、何の打ち合わせもなく勝手に飛び出したってことは、一人で十分って事なんじゃないかな?」

 

 卯月の意見を聞いて、彼とは反対の意見を述べていた雛森が押し黙る。彼の意見には納得したが、それはそれとして心配が拭い切れない。そんな顔だった。

 それを見た卯月は、後輩を安心させるべく、優しい笑みで語りかける。

 

「それに援軍なら、既に伊勢副隊長が向かってることだしね」

「……え?」

 

 周囲を見渡してみれば、確かにいつの間にか七緒が姿を消していた。驚くべきことに、殆どの死神が京楽の突拍子の無い行動に戸惑って居た中、七緒はたった一人京楽の動きに付いていくことができていた。

 単純な戦闘力では見ることができない、隊長と副隊長の関係がそこにはあった。

 またそれは、亡くなった浮竹と、師である元柳斎を除いて、最も京楽と連携が取れるのは七緒であるという証左でもあった。

 

 対滅却師用の結界を習得した一人である彼女が居れば、戦闘の補助は勿論、いざという時は連絡を取ることもできる。一先ずは安心といったところだろう。

 

「話は済んだかの? であれば、先を急ぐぞ」

 

 そして、話の終息を感じ取った元柳斎は行軍を再開すると声をかける。

 半分前を向いていた身体を見るに、元々元柳斎には、京楽の加勢に向かうという選択肢が無かったようだった。

 

 それには、卯月が挙げたのとは別に、もう1つ理由があった。

 

「儂らが居ては、却って邪魔になるからの」

 

 その言葉の意味を、真に理解できる者は、果てしてこの場に何人居ただろうか。

 




 ということで、早速今回は一護サイドの話と、マユリVSペルニダの話をカットしました。

 原作と変わることと言ったら、一護サイドにグリムジョーが居ないこと、夜一の腕を直したのが織姫じゃなくて、喜助特製のお薬なこと、それと青鹿君が居ることくらいです。

 そして、次回も京楽VSリジェはカットします。

 なお、瀞霊廷に堕ちたリジェは孔に響くイヅルではなく、待機してたマユリに骸部隊が片付けた模様。

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