転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 モチベが戻らないうちに大学が始まってしまった……。
 この話で60万字を突破するのに、未だ完結してないのはおかしいと思うの。


第七十三話

「何だてめえら!?」

「降りて来やがれ!」

「女とはいえぶっ殺すぞクラァ!!」

 

 突如として十一番隊の上空から放たれた雷撃は、多くの命を刈り取った。落雷から逃れた面々は、宙に立つバンビーズの内の一人、キャンディスに向かって声を荒げる。

 

 そんな彼らの様子を見たジゼルが、キャンディスに話しかけた。

 

「全然一網打尽してないね。まだまだワラワラ出て来るよ? キャンディちゃんだけ、ここに来る前に敵を倒せてないし、しょっぱい能力だにゃーん」

「べっ、別にそんなの湧いた数だけ、ブチ込んでやりゃいーんで……!?」

 

 揚げ足を取られたのと、失態を指摘されたことで気まずくなったのだろう。そして、どちらもがキャンディス自身の言動によって生まれたものなので、抗議することもできない。それならばさっさと終わらせてしまおうと、再度右手を帯電させたキャンディスだったが、その動きは途中で静止させられることになる。

 

 なんと、グレミィとの戦いで大きく消耗していたはずの剣八が、キャンディスの不意を突ける程の速度で背後に回っていたのだ。

 

 攻撃を中断したキャンディスは、雷を纏った移動で剣八の斬撃を回避。そのまま彼の側面へと躍り出ると、左手を凪いで雷撃を浴びせた。そして剣八の痺れが抜けない間に、ミニーニャが拳での追撃を喰らわせる。

 

「あっぶね! グレミィとやった後でなんであんなに動けるんだよ。バケモンかよ」

 

 地面へと叩き落とされた剣八を見下ろしながら、キャンディスは内心胸を撫で下ろす。手負いとは言え、油断ならない。そう認識し、気を引き締めた。

 

「た、隊長に何しやがる!」

「オウお前ら、隊長を守るぞ!」

 

 戦場とは言え、既に死んでいてもおかしくない程の怪我を負った者に大勢で襲い掛かるのを見てるのは腹が立つ。それが自分達の尊敬する隊長ともなれば、相当なものだろう。

 

 怒りで自らを奮起させた十一番隊隊士達は、剣八の下へ向かおうとするが、その進路にバンビーズが立ち塞がる。

 

「ガタガタ言うなよ。相手は更木剣八だ。そのくらいは予想の内だろ。だからボロボロになってる今、一気に殺しちまおうって話になったんじゃねーか」

 

 キャンディスの言葉に答えながら、リルトットは地上へと降り立った。どう見ても華奢な少女にしか見えない彼女の風貌は、見る人が見れば、この戦場にそぐわないものに感じたことだろう。

 

「どけぇ、ガキが!!」

「邪魔だ、ぶっ飛ばすぞ!!」

 

 だが、十一番隊隊士にとってそんなことは関係ない。彼らは罵声を浴びせながら、リルトットに接近するのだが…

 

「喚くなよ、すぐに邪魔じゃなくしてやらー」

 

 次の瞬間、リルトットの口の片側を裂くようにして現れた大口によって、上半身を食い千切られることになる。

 目や鼻などはないものの、リルトットの口内にはない牙を生やした大口は、リルトットとは別の生物にも見えた。

 

「ほら、な?」

「「な、なんじゃあああああ!?」」

 

 人を食べたのにも関わらず、まるでそれが何という事でもないかのように振る舞うリルトットに、十一番隊隊士は驚愕を隠せない。

 

「オイオイ、頼むぜ逃げんなよ。美味くはねーけど、おやつぐらいにはしてやっからよ。何せさっきは毒入り羊が相手だったかんな」

「何言って……ぎゃっ!」

「あぎゃ!」

「ぐぇ!」

「ちっ。それにしても、腹減ったなあー」

 

 食べても、食べても、食べても、リルトットの空腹は満たされない。気付けば彼女の前には、十一番隊隊士の血痕しか残っていなかった。

 

「やめろ……てめえら……」

 

 まるでザルに水を通すが如く、簡単に命が零れていく悲惨な状況に、剣八は己の身体に鞭を打って立ち上がる。

 

「あ? まだ起きれんのかよ。さっさと死んでろよっ!」

「が……ッ」

 

 だが、それを見逃す程、キャンディスは甘くはなかった。一度背後を取られたことで、身に染みて学んだのだろう。そこに油断や隙は一切なく、容赦ないまでに雷撃を叩きつけた。

 

「隊長おっ!」

「うおおおおお」

 

 一方その間にも、別方向から十一番隊隊士が剣八の下へ駆けつけようとしていた。しかし、そんな彼らに巨大な影が落とされる。

 見上げればそこには、影に見合う巨大な岩らしき物体を、片手で軽々と持ち上げるミニーニャの姿があった。物体の大きさ故に、狙いを定める必要もない。ミニーニャはただ力任せに、それを投げおろした。

 

 “力”の能力を以て投擲された岩は、重力加速度も相まって、一瞬毎にその威力を増していく。このままでは、影の中に居る十一番隊隊士は皆、物体の質量に押しつぶされることだろう。

 

「させるかあああああ!!」

 

 しかし、その圧倒的なまでの質量攻撃に、立ち向かう者がいた。

 

「【揺らせ“震絃”】!」

 

 斬魄刀を解放し、身の丈を超える大斧を両手に持った青鹿は、迫りくる岩に向かって、思いっきり斧を衝突させる。

 

 ――隊長は隕石だって砕いたんだ……。なら俺だって、これくらいやってやらぁ!!

 

 この時、彼の脳裏を過ったのは、グレミィが想像によって瀞霊廷に落とした隕石を始解の解放によって粉砕した剣八の姿だ。

 

 同じ始解。

 

 同じ斧型の斬魄刀。

 

 そして、威力は目の前の岩の方が下だ。

 

 であれば、同じことができない道理はない。そう自分に言い聞かせながら青鹿は、震絃に腕力と霊力を込める。それが、震絃の能力が発動するトリガーだ。青鹿の霊力に反応した震絃は、激突した衝撃を岩の全体へと浸透させる。

 

「うおおおおおお!!」

 

 やがて青鹿が大斧を振り切った時、岩は粉々に砕かれ、まるで雨のように地上に降り注いだ。

 

「へぇ。思ったよりやりますねぇ。だけどぉ、ほんの一撃防いだくらいで安心してるようじゃいけませんよ~」

「ぐほぉっ!?」

「青鹿四席っ!?」

 

 岩の投擲は防いだ青鹿だったが、その次のミニーニャの拳をやり過ごすことはできなかった。ミニーニャの言うように、安心していた訳ではない。岩を砕いた後も、青鹿は決して気を抜かず、そのままミニーニャの相手を務めるつもりで居た。

 

 ミニーニャは滅却師の基本能力に加え、聖文字の能力により、肉弾戦も得意とする万能型だ。この内遠距離攻撃は置いておくとして、肉弾戦に限って言えば、青鹿は経験豊富だった。何故なら彼は、白打を主な攻撃手段とする同期生の卯月と何度も何度も手合わせを重ねて来たのだから。

 そんな彼の感覚から言えば、ミニーニャの速力は卯月と比べて遅く見えた。

 

 故に動きは目で追えていた。大斧の側面で防御も図った。しかし、彼にはミニーミャの拳を防ぐだけの力が備わっていなかったのだ。

 

 衝撃を殺すことができなかった青鹿は、そのまま建物に叩きつけられる。余程ミニーニャの力が強かったのだろう、その勢いは一つ程度で収まらず、一つ、また一つと建物を突き破っていく。勢いが死んだのと、青鹿が動きを止めたのは同時の出来事だった。

 

 そして、それを確認することなく、ミニーニャは地上を走る十一番隊隊士の掃除に取り掛かる。霊力の足場を解き、頭から真っ逆さまに落ちたミニーニャは、その勢いのままに、拳を地面に叩きつける。すると、衝撃で地面はめくり上がり、その余波だけで辺りに居た十一番隊隊士は吹き飛ばされた。文字通り、一掃である。

 

「だめですよぅ。隊長さんはもう死ぬんですぅ。駆けつけたって無駄ですよぉ~」

 

 着地の姿勢から、腰を上げたミニーニャは、間延びした口調でそう告げた。

 

「おいおい……何だ、こりゃあっ?」

「これは……っ!?」

 

 一方、ジゼルとバンビエッタが降り立った場所に辿り着いた一角と弓親は、その顔を驚愕に染めていた。

 彼らが目にしたのは、十一番隊隊士達が同士討ちをしている姿だ。片や正気を失った様子で、残りは戸惑いを隠せない様子で剣劇を交わしていた。

 

「あはっ♪ その調子だよバンビちゃん。もっとやっちゃって!」

 

 それだけではない。バンビエッタによる空中からの爆撃は、今この瞬間も十一番隊隊士の数を減らしていた。

 

 同士討ちの状況を作り出したのは、ジゼルの“死者”。横槍はバンビエッタの“爆撃”。結果、同士討ちでも、爆撃でも、十一番隊隊士が殺され続けるという凶悪な状況が形成されていた。

 

「やめろおおおおおお!!」

 

 そして、それを黙って見ている一角ではない。雄叫びと共に斬魄刀を解放した一角は、四方八方に散りばめられるバンビエッタの霊子球を躱しながら、彼女との距離を詰める。

 一角が突き出した槍は、見事バンビエッタの胸を穿った。

 

「うしっ!」

 

 これでこの場に居る滅却師は一人のみ。バンビエッタの胸から、槍を抜いた一角はジゼルに目を据える。

 

「一角っ!」

「っ!?」

 

 だが心臓を貫いても、バンビエッタが動きを止めることはなかった。完全に一角の不意を突いたバンビエッタは、霊子球を宿らせた右手を一角の横面に叩き込まんとする。

 俯瞰で見ていた弓親は、それを一角に伝えるが、彼の回避は間に合いそうにない。

 

「【裂け“藤孔雀”】!」

 

 そう判断した弓親は、斬魄刀を解放するや、即座に瞬歩で接近し、バンビエッタの腕を切り落とす。

 霊子球を宿らせていた腕は、地面に落ちると、その場を抉る爆発を引き起こした。

 

「ちっ、どうなってやがるっ……!」

 

 一度着地をした一角は、汗を拭いながら疑問を口にする。戦いを好み、これまで多くの戦場に飛び込んで行った彼だったが、心臓の鼓動を止めても死なない敵というのは、流石に想像の埒外だった。

 

 実際には、崩玉と融合したことで不死身の存在となり、それが理由で処刑されずに無間へと送られた藍染がそれに該当するが、彼と同等の存在がそう簡単に出て来られては上がったりだろう。

 

「……一角。多分だけど、あの娘、既に死んでるよ」

「は?」

「それと同士討ちをしてる片方の隊士達も、あの娘と同じ状態に陥ってる」

「へぇ、よく分かったね。どうして分かったの?」

 

 突然弓親から伝えられた情報に一角は呆然とするが、酔狂と言われても可笑しくないその言葉は、敵であるジゼルによって肯定された。

 

「開き切った瞳孔。生気を感じさせない表情と雰囲気。理性の欠如。これだけ揃っていれば、仮説を立てることは難しくないと思うけど? それと、彼らを操ってるのは君だね? 遠目で見た感じだと、発動条件は君の血を浴びることってところかな?」

「っ!? え、血? そ、そそそそそんなことないけどっ!?」

「フっ、猿芝居だね」

 

 数少ない情報で、正確な答えを導き出した弓親。彼の考えがそこまで及ぶと考えていなかったのだろう。ジゼルは動揺を隠せず、弓親はそれを嘲った。

 

 ――不味いな、戦える人が足りない……!

 

 そんな弓親だったが、内心では深刻な現状に焦りを抱いていた。

 敵幹部である星十字騎士団の実力は、死神で言えば隊長格に匹敵する。それがこの場には五人居るのだ。順当に考えれば、それと同数かそれ以上の隊長格がバンビーズを討つには必要である。しかし、この場に居る隊長格は一角と剣八の二人のみ。加えて剣八はグレミィとの戦闘での消耗と怪我が大きく、まともに戦えるような状態ではない。

 力が及ばずとも、十一番隊士として戦いに背を向けるつもりはないが、状況は絶望的だった。

 

 そして違う場所では、剣八も弓親と似たようなことを考えていた。

 仰向けで倒れている彼の視界には、三人の女性滅却師が映っている。キャンディス、ミニーニャ、リルトット。何れも剣八に近づく十一番隊隊士を仕留め終えた者達だ。そんな彼女達は、剣八の周りに集まりながら、誰が留めを刺すかを話し合っていた。

 

 平生なら、そのような口論をさせる前に、凶悪な笑みを引っ提げながら、斬りかかっている自信がある剣八だが、今この時に限っては、身体が言うことを聞かなかった。

 

 ――クソッ、ここまでかよ……。

 

 剣八の名を託されたばかりだった。死んだ彼女に恥じないような戦いを繰り広げ、愉しむと誓った。にも関わらず、自分はこんなにも早く彼女を追うことになるのか。

 

 諦念と共に、そんな後悔を抱いた――その時。

 

「「っ!?」」

 

 空から、膨大な霊圧が瀞霊廷中に広がった。

 それは、霊圧を感じることが苦手な剣八でもヒシヒシと感じ取ることができる程の大きさで、バンビーズは誰からともなく息を飲む。

 

 しかしその霊圧からは、強大さとは裏腹に、まるで夕日のような暖かさが感じられた。

 

 そんな霊圧の持ち主を判別すべく、バンビーズは一斉に空へと視線を向ける。辺りへと伝播する巨大な霊圧の、その中心に居る人物は、凄まじい速度で地上へと急降下し――建物の一つである時計台に墜落した。

 

「……あれ? 墜ちたく見えなかったか?」

「堕ちたな」

「うそぉー……」

 

 自分達の目の前の光景が信じられなかったのだろう。キャンディス、リルトット、ミニーニャの三人は口々にそう零した。一瞬前までの自分達の戦慄は何だったのか。そう思わずには居られなかった。

 

 ただ、どれだけ間抜けな行動を取ろうとも、新たに登場した人物の霊圧は本物である。であれば、気を抜いている暇はないだろう。三人は再度気を引き締めた。

 

「痛ってー。ちょっと勢いつきすぎてたな……」

 

 しかし、その霊圧の持ち主である死神は、三人の警戒を嘲笑うかのように剣八の傍――振り向いていた三人の後ろに出現した。

 燦々とその存在を主張するオレンジ色の髪は、何時でも変わらぬ彼のトレードマークであるが、死神としての彼のもう一つのトレードマークであった身の丈ほどの無骨な大刀は、背中と腰に一本ずつ差さった大きさの異なる双刀へと持ち替えられていた。

 加えて、死覇装の上に羽織るように着られているマントと頭に包み込むターバンが、どこか異国の者のような雰囲気を醸し出している。

 

「こいつ……何時の間にっ!?」

 

 独り言の内容と霊圧から判断して、時計台に墜落した人物はこの男と見て間違いないだろう。だがそれ故に、自分達が男の接近を見逃したことが信じられなかった。

 

 男は、三人のことなど意にも介さず、戦闘不能となった剣八を見下ろしていた。

 

「何だよ、ボロボロじゃねぇか。剣八」

「……何しに来やがった? ――一護?」

 

 本当は訊かなくても、一護がこの場に何をしに来たかなど、剣八には分かっている。それでも問いかけたのは、今の自分の姿を、好敵手の一人と定めた者に見られたのが気に食わなかったからだろう。

 だから、これはほんのささやかな、抵抗とも言えない抵抗だ。

 

「……あんたに、こんなことを言う時が来るとはな」

 

 一護がそう前置きしたのは、剣八がこうも無惨にやられる姿を想像することができなかったからだ。今まで逆の立場になったことはあったが、まさか今のような状況が訪れるとは、夢にも思わなかった。

 

「――助けに来たぜ」

 

 一拍置いた一護は、声高々にその言葉を口にする。自身に満ち溢れたその(かんばせ)からは、霊王宮に行く前の悲愴感など微塵も感じられなかった。

 

「はっ、まさかてめえに助けられる時が来るたぁな」

 

 一護が何を言うか、手に取るように分かっていた剣八は、用意していた言葉を口にする。笑みを浮かべたのは、悔恨を隠す為の強がりだった。

 

「立てるか?」

「……立てるかだと? 馬鹿言え。――俺よりてめえの心配しやがれ」

 

 そしてこれも、強がりだ。

 

 霊王宮に行く前と比べて、霊圧も出で立ちも見違えた一護である。そんな彼が、この程度の不意打ちに反応できないなど、あるはずもなかった。

 

 次の瞬間、一護は剣八の想像を再現するかのように、背後から雷を纏った手刀を突き出して来たキャンディスの腕を手に取り、そのまま建物へと投げ飛ばした。彼女を皮切りとして、ミニーニャとリルトットも後から攻撃してくるが、二対一でも、一護は引けを取らない。

 

「あれぇ?」

 

 ミニーニャの拳を、大きい方の斬魄刀の腹で受け流すと、隙だらけの鳩尾に膝を叩き込み、

 

「【月牙天衝】」

 

 近接戦を繰り広げる二人の合間を縫うようにした放たれたリルトットの神聖滅矢は、もう片方の斬魄刀から放たれた月牙天衝で打ち消し、そのままリルトットに反撃を喰らわした。

 

「油断しちゃいましたぁ~」

「油断じゃねぇ。妥当だろ」

 

 比較的近くへと飛ばされたミニーニャとリルトットは言葉を交わす。

 

 ミニーニャは、今の攻防であしらわれた理由を、一護が時計台に墜落した時に一度気を抜いてしまったからだと判断したようだが、リルトットは口の中の血を吐き捨てながら、それを否定した。

 

「こいつぁ黒崎一護だ。このくらいやってもらわなきゃ困るぜ」

「特記戦力筆頭っ!? どーりで……」

 

 リルトットからもたらされたその情報に、ミニーニャは納得を示す。星十字騎士団の中でも上位の実力を有していると自負している彼女だが、やられた相手がユーハバッハが定めた特記戦力、更にはその筆頭ともなれば、合点がいった。

 

「うるっせえええええ!! 特記戦力!? 黒崎一護!? 知るかんなもん! ただ……、あたしを埃まみれにしたことだけは、絶対に許さねぇ!! 卯月といい、てめえといい、毎日みんなより何時間早く起きて、髪巻いてると思ってんだクソがー!!」

「えぇ……」

「怒るとこそこかよ……」

 

 ただ、キャンディスからすれば、相手が誰かなどどうでも良かったようで、そんなことよりも乱れた自身の髪を気にしていた。卯月との戦闘の際は、手を抜かれたことを疑っていた為言及していなかったが、その時も本当は腸が煮えくり返るような思いを抱いていたのだろう。

 

 キャンディスは、その怒りを発散するかのように、雷の矢を番えた。

 

「【ガルヴァノブラスト】!!」

 

 放たれた矢は、バチバチと放電しながら一直線に一護下へと宙を駆ける。それに対し一護は――一切の回避行動を取らなかった。

 

「五ギガジュールで灰になってろクソが!」

「馬鹿、神聖滅矢の一発や二発で死ぬかよ」

 

 雷に飲まれた一護を見て、キャンディスは決め台詞のようなものを吐くが、それに対してリルトットは冷静な判断を下す。そして、彼女の言う通り一護は健在だった。

 

「何だよ。どいつもこいつもピンピンしてんじゃねぇか。女相手じゃ戦いづれえなと思ったけど、そんな心配もいらなそうで、安心したぜ」

「ほら、な?」

 

 ローブとターバンこそ焼き消されたものの、一護は傷の一つも負ってはいなかった。それどころか、攻撃して来たキャンディス達が一定の力を持っていることに安心する始末である。一護の態度からは、彼の余裕がダイレクトに伝わって来た。

 

 それを見た三人は、即座に矢を番え、神聖滅矢を射る。一本ずつで三本……ではない。一護の接近を許さぬよう移動しながら、何本も矢を放ち続けた。三本の矢という言葉があるが、現在一護に向かう矢の数は、それとは比べ物にならない無数の矢だ。

 

 しかし、それでも一護を傷つけるには至らない。キャンディスの矢が放電しようが、ミニーニャの矢が鉛の如く重かろうが、リルトットの矢が大口を開けようが、彼はそれがどうしたと言わんばかりに、矢を弾いていく。

 

 結果、怪我を負ったのは、攻撃を弾き返された三人の方だった。先程の焼き増しの如く、三人は建物に叩きつけられる。先程と違うのは、三人が同じ方向に飛ばされたことだろう。

 

「クッソ……!」

「ぶえっ!?」

「ぶーーっ!」

 

 上からキャンディス、キャンディス、キャンディス。不幸にも、一番最初に飛ばされてしまったキャンディスは、後に飛ばされた二人の着地台代わりにされてしまった。

 

「わざとやってんだろてめーら! ぶっ殺すぞ!!」

 

 故に、そうキャンディスが怒りを募らせるもの、当然のことである。二人もそれが分かっていて意地悪をしたのだろう。キャンディスが怒りに身を任せて無差別に雷を拡散させる前に、二人はそこから逃げおおせていた。

 

「強いですねぇ」

「全くだ。あんだけ神聖滅矢ぶっ込んで全部弾きやがるとか、腹が減ってしょうがねぇ」

「ムカつきますねぇ」

「同感だ」

 

 二人は、出鱈目とも形容すべき一護の力に悪態を吐く。同じ特記戦力の剣八が、グレミィを倒す程の力の持ち主なのだ。であれば、その筆頭である一護がそれと同等以上の力を持っていても、何ら不思議ではないのだが、元より彼女達は弱った剣八に留めを刺すというごっつあんゴールを決めに来たのだ。それが万全の特記戦力筆頭と交戦することになり、それがこうも軽くあしらわれては、文句の一つも言いたくなるというものだろう。

 

「全員一致なら、話早いじゃん! 処刑、決定でしょ!」

 

 しかし、文句を言ったところで状況は何も好転しないというのが現実である。

 

 このまま通常状態で戦っていては、手も足も出ないまま負けてしまう。そう判断したキャンディスは、先んじて完聖体を発動した。

 

「マジかよ」

「いくらムカついても、惨殺は良くないと思うの……」

 

 だが、ミニーニャとリルトットがそれに乗ることはなく、それどころか今にも一護に襲い掛かりそうなキャンディスを見て、ドン引きしていた。

 

「ゴチャゴチャうるさいっての! あんなヤツにコケにされて、どの面下げて陛下に会うのさ!!」

「えっ、別に……」

「そんな気にしなくてもいいんじゃね? 会ってもボーっとしとけば」

「……」

 

 それでも、自分の主張の方が正しいと思ったキャンディスは、ユーハバッハの名前を出して説得を試みるのだが、二人は決して靡かない。先程に引き続き、弄られていることは明白だった。普段は星十字騎士団であることをいいことに、幅を利かせ、マイペースに動いている自分達ではあるが、この時ばかりはそれを呪わずには居られなかった。

 

「わかったよ! そこで眺めてろ。あたし一人でやる! 特記戦力筆頭ぶっ殺しゃ、陛下はどんな願いでも叶えてくれるだろうからな!」

 

 しかし、物事には限度というものがある。まさか敵に自分達の攻撃が全く通用しないという中で、ここまで弄られると思ってなかったキャンディスは、二人に痺れを切らし、一人一護へと接近を始めた。

 吐き捨てるように言った言葉が、二人を焚きつけるということに気付かずに……。

 

「!!」

 

 キャンディスの言葉を聞いて、二人は石で頭をガツンと叩かれたかのような錯覚に陥った。煌びやかな家に、大量の料理。ミニーニャとリルトットの頭の中を、それぞれの欲望が駆け巡る。マイペースなバンビーズは、現金でもあったのだ。

 

 ミニーニャとリルトットは、アイコンタクトを取り、互いに頷く。二人が完聖体を発動した時、キャンディスは既に一護へ攻撃を繰り出さんとしていた。雷の双剣を背中の翼から引き抜くようにして握ったキャンディスは、一護の上から全体重をかけた斬撃を振り下ろす。

 対する一護も、二刀でそれを受け止めようとするのだが、その両者の武器が衝突することはなかった。

 

「「っ!?」」

 

 刹那、まるで鉄の板を扇いだような音が鳴り響く。その音は、キャンディスの刃を受け止めたことの証左だった。

 

 突然の乱入に驚いた一護とキャンディスは、周囲に目を配らせる。乱入者は、隠れるような素振りもなく、空中に二人で直立していた。

 

「卯月っ!?」

「蓮沼さんっ! 蟹沢さん!」

 

 乱入者の名前を知っていた一護とキャンディスは、それぞれ反応を示す。

 卯月とほたるが、逃走したキャンディスに追いついたのだ。

 

 




「BURN THE WITCH」全四話読みました。この作品の為だけに、四週続けてジャンプを購入しました。
 映画勢の人も居ると思うので、ネタバレになるような具体的な感想は控えますが、三話の一コマが、四話の最後の最後で生きていたのと、一話の最初のニニーちゃんの嫌いなものを述べる独白が読み切りで好きなものを述べたのえるちゃんとの対比だったり、物語の重要な部分に関わっていたりしてたのは、流石だなと思いました。

 あと、相変わらず絵が綺麗でしたね。絵は人によって好みが分かれると思いますが、私は師匠の極限まで無駄を省く、洗練された絵が大好きです。

 映画の観賞と単行本の購入は、必ずします。

 あと、2Seasonも楽しみですね。

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