転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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第七話

 三人の指導係になってから二年の時が経過した。最初こそはお互い慣れないことに困惑していたけれど、今では僕が三人を名前で呼んでも大丈夫なくらいに打ち解けていた。

 

 だけど、指導係というものは難しい。いや、三人とも優秀なので事務的な仕事に関しては問題なく進んでいる。

 唯一、あの三人の中で事務仕事が苦手な恋次も肉体労働を中心にイヅルや桃と役割分担する事で上手くやっている。

 

 では、問題は何か?

 

 

 ――それは、僕が彼らの戦闘技術の師範となっていることだ。

 

 

***

 

 

「うおおおっ!!」

「ほい」

 

 恋次の猛攻を避けながら斬魄刀を叩き落とし、彼の姿勢を崩させる。

 

「阿散井君っ!?」

 

 次に来たのはイヅルだった。

 

「【面を上げろ“侘助(わびすけ)”】」

 

 イヅルはつい最近覚えたばかりの始解を早速使い、僕とも間合いを一瞬で詰めてくる。

 普通なら斬魄刀で受け止めたいところだけど、そういう訳にはいかない。イヅルの斬魄刀、侘助の能力は斬った対象の重さを倍にする能力だ。故に、打ち合えば打ち合う程此方が不利になる。

 

 僕は瞬歩で後退するが、次なる問題が発生した。

 

「【縛道の三十七“吊星”】」

 

 今度は桃が僕の進行方向に縛道を絶妙なタイミング仕掛けることで足止めを試みる。瞬歩は直進的な動きを基本としているので、このタイミングで仕掛けられると避けるのは難しい。

 

「【縛道の三十九“円閘扇”】」

 

 避けるのは得策じゃないと判断した僕は足を止めてイヅルの迎撃に入る。斬ったものの重さを倍にするというのは確かに恐るべき能力だけど、鬼道で受けてしまえば問題ない。

 

 そして僕がすぐさま離脱しようとした瞬間――何故かイヅルが小さく跳び跳ねた。

 嫌な予感がしたので僕も同じ様に跳び跳ねると、僕の足元にあった草が刈られていた。

 

「ちぃっ!」

 

 それを見た恋次が舌打ちをした。

 

 ――つまり、今の攻撃は阿散井君の斬魄刀である蛇尾丸(ざびまる)か。

 

 攻撃が見えなかったのは恐らく、桃が曲光で覆い隠したんだろう。蛇尾丸の能力は鋸状の刀を最大三回に渡って伸ばすことの出来る能力だ。それが桃の鬼道で見えなくなるというのは、最早鬼畜の所業だ。

 

 確かに避けることはできたけどこれで安心してはいけない。

 

 ――蛇尾丸の攻撃はあと二回ある。

 

 僕は見えない蛇尾丸の攻撃に当たらないように、僕にできる限りの最速の瞬歩で動き続ける。これでも二番隊で修行をしている身だ。恐らく、三人は目で追うのがやっとだろう。

 

 よし、反撃だ。

 

「【縛道の三十“嘴突三閃(しとつさんせん)”】」

「っ!?」

 

 僕が狙ったのは桃だ。避けられてしまったけど、それでも構わない。

 

 ――今の攻撃で、曲光の制御が疎かになった。

 

「なっ!?」

 

 見えないはず蛇尾丸が見えたことで、恋次が驚愕を露わにする。

 

「動揺しすぎ」

「ぐおっ!?」

 

 僕はその隙に彼の後ろに回り込み首筋に手刀を入れて意識を刈り取る。

 

「【弾け“飛梅(とびうめ)”】っ!」

 

 その瞬間、桃が斬魄刀を解放し、僕目掛けて火球を放つ。始解だけあってその威力は驚嘆に値するだろう。

 

「【縛道の六十七“天縫輪盾”】」

 

 だから、手加減はしない。僕は六十番台の鬼道でそれを確実に防いだ。

 

 攻撃の衝突により、周囲に土煙が巻き起こる。

 

「はあっ!」

 

 それを好機と見たイヅルが後ろから斬りかかってくるけど、甘い。

 

「【破道の四“白雷(びゃくらい)”】」

「ぐっ!」

 

 僕は脇の下から後ろに指を出し、鬼道を放つ。とても、敵を倒せるような威力じゃないけど、怯ませるには十分だ。

 

「【衝破閃】」

 

 吐血などをさせないように加減をした衝破閃でイヅルの意識を刈り取った。

 

「参りました」

 

 煙が晴れた時には、残念そうに肩を丸める桃の姿があった。

 

 

***

 

 

 修行を終えると、僕と桃は二人で協力して気絶してしまった恋次とイヅルを木陰へと運び、休憩に入る。

 一応加減はしておいたので、十分もせずに目覚めるだろう。

 

「お疲れ様です。卯月さん」

「うん、ありがとう。桃もお疲れ」

 

 桃が持ってきてくれたお茶に口をつける。うん、美味しい。やはり運動後なので、身体は水分を欲しているようだ。

 

「いつになったら勝てるんでしょうか私達……」

「まあ、これでも僕は三人の上官だからね。そう簡単に負ける訳にはいかないさ」

 

 とはいえ、三人は優秀だ。当然、危ない時もあった。その最たる場面が三人が始解を習得した時だろう。

 イヅルの時は急に斬魄刀が重くなってヤバかったし、恋次の時は急に伸びた刀に間合いを合わせるのに苦労したし、桃の時は地面に穴を開ける程の威力に驚愕した。

 あの時はもう少し苦戦してたら始解を使う所だったよ……。

 

「そう言えば卯月さん、昇進の話が来ているというのは本当ですか?」

「うん、そうだね。五席昇進の話が来てるよ」

「おめでとうございますっ! じゃあ、お祝いしないとですね!」

 

 桃がまるで自分のことのように喜んでくれるのを嬉しく思う。

 

 ――だけど、それだけじゃない。

 

「そういう桃達だって席官の話が来てるだろう?」

「はい。それはそうですが……」

 

 そう。僕の昇進に伴い、三人にもイヅルが十三席、桃が十四席、恋次が十六席という感じで席官入りの話が来たのだ。

 

「じゃあ、こっちこそお祝いしてあげないとね。ここは僕が上官として奢らせてもらうよ」

 

 こういう時は身分が上の人間が奢るのが習わしだと聞く。だったら僕も三人の上官として甲斐性を見せないとね。

 

「えっ、そんなの悪いですよ!」

「でも、後輩の初めての席官入りだよ。これを祝わずに上官は務まらないよ」

「卯月さんだって上位席官入りじゃないですか。こちらこそ三人で祝わせて頂きますよ」

 

 いや、でもそっちこそ。いやいや私たちがとまるでいたちごっこのように同じような会話を繰り返していく。

 

「ぷっ」

「ふふっ」

「「あはははははは!!」」

 

 それがどうしようもなく面白くて、どちらからともなく笑い出した。

 

「皆で祝おっか」

「はいっ!」

 

 結局、祝い事に大切なのは成果の大小ではなく気持ちだ。

 

 とはいえ、三人の上官としてこのまま何もしないというのは余りにも情けない。

 せめて、何か贈り物をしようと思った僕だった。

 

「あ、やっぱりここにいた!」

 

 何を贈ろうか、と考えていると僕の思考を妨げる声が聞こえて来た。

 

「あっ、蟹沢十二席。こんにちは」

「こんにちは、雛森さん」

「で、どうしたのほたる?」

 

 挨拶もそこそこに本題に入るように促した。

 

「どうしたも何も、今日は四人でご飯を食べに行く約束だったでしょう。もしかして忘れたの?」

 

 四人というのは、僕と修兵とほたると青鹿君のことだ。今日は久し振りに震央霊術院時代の同期で会う約束をしていたんだけど……

 

「覚えてるけど、約束までまだ三十分もあるよ。ここからお店までは一分もかからないんだから五分前に動けば問題ないでしょ?」

「まさかあなた、瞬歩でお店に行こうとしているんじゃ……」

「うん、そうだけど」

 

 というか、僕が瀞霊廷を移動する時は大抵瞬歩を使っている。修行にもなるしね。

 

「せめて汗を流してから行きなさいよ……」

「…………あ」

 

 僕としたことが完全に失念していた。

 

「忘れていたのね……。はぁ、阿散井君と吉良君のことは私と雛森さんでなんとかしておくから早く行ってきなさい。それでいいよね、雛森さん?」

「はい、ありがとうございました。卯月さん」

「ごめんね二人とも」

 

 僕は二人にお礼を告げてから瞬歩で大衆浴場へと向かった。

 

 

***

 

 

 汗を流した後、瞬歩で店に向かうと、もうすでに皆店の前に集まっていた。

 

「あ、来た来た」

「遅ぇよ蓮沼、いつまで待たせんだ」

「ごめん皆。……あれ? 別に僕遅れてないよね?」

「ああ、丁度五分前だ。これは単純に青鹿がせっかちなだけだな」

「昔からそうだよね。青鹿君は」

「そうね。震央霊術院の時だって講義中によく貧乏揺すりしてたわよね」

「ちっ、もういいだろう! さっさと入ろうぜ」

 

 気まずくなった青鹿君が早く店に入るように促す。なまじ僕達は男の比率が多い為、最初は青鹿君と修兵が焼き肉屋にしようとしたんだけど、僕が女性のほたるがいることを考えて色んな料理が出ることに加えて、ある程度清掃が行き届いている居酒屋を選ばせてもらった。

 本当はもっとオシャレな場所にしたかったんだけど、尸魂界にはそんなお店中々ないし、あったとしてももっと格式の高い和食の店だ。今日は同期同士で和気藹々と話すことが目的なので、こういう形になった。

 

「では、少々お待ち下さい」

 

 注文を終えると、早速会話に入る。

 

「最近調子はどうなんだ?」

 

 一番最初に口を切ったのは修兵だった。そう言えば、院に居たときも話題を決めるのは大抵修兵か僕だった。その中でも真面目な話をするときは修兵、どうでもいいような話をするときは僕、と分かれていた気がする。

 

「俺は来年に十一席への昇進が決まったぞ。最近やっと始解の制御が板に付いて来た」

 

 どうやら青鹿君にも昇進の話が来ていたらしい。

 因みに、青鹿君の斬魄刀の名前は“震絃(しんげん)”という斧型の斬魄刀で、その能力は攻撃を当てた際の衝撃を何倍にも強化するというものだ。

 単純な能力だけど、これは使いこなせばただの鍔迫り合いで相手に脳震盪起こさせたりと、凶悪な能力になる。

 

「へぇ、そいつは凄いな。だが、俺はもっと凄いぜ。俺は来年に六席への昇進が決まった。これでやっと卯月を追い抜いたぜ!」

 

 そして、次は修兵が自分の昇進を打ち明けた。……なんか、ごめん修兵。

 

「ああ、それなら僕も五席への昇進が決まったよ」

「「なん……だと……!?」」

 

 僕が昇進のことを告げると、二人は目を見開いた。

 

「くそっ! またか!!」

「ははは、ドンマイ修兵」

「嫌みか!!」

 

 またか、というのは護廷十三隊に入ってからというもの、一度も修兵は僕より先に昇進できていないのだ。

 そして、いつも自信満々に僕に勝ったと告げたと思えば、次の瞬間には僕がそれより上の位に昇進したことは告げるというのが、ある意味お約束のようになっている。

 

「くそっ! こうなったら今日はとことん飲むぞ!!」

「付き合うぜ檜佐木っ!!」

 

 そして、二人は届いたばっかりの酒を豪快に煽った。

 

 ――え? 乾杯は…………?

 

 

***

 

 

 今日の食事で学んだことがある。

 

 ――それは、酒は飲んでも呑まれるなということだ。

 

 これはよく耳にする言葉だけど、今日初めてその意味を実感した。

 

 とは言っても、僕はそこまで飲んでいない。何故かと言えば、単純に自分の知らないところで自分が何をしでかすか分からなくなるような状態になるのが怖かったからだ。

 生前、酔っ払いが女性に猥褻行為に走ったなどという事実をニュースなどで見てからは『大人になったら気をつけよう』と、よく思ったものだ。

 そして、今は僕が尸魂界に来てからもう十年近く経っているので、僕はもうすっかりお酒を飲める年になったんだけど、上記のような理由から終始チビチビと飲んでいたのだ。

 

 ――今、僕はそれを死ぬほど後悔している。

 

 さっき言ったことと明らかに矛盾しているけれど、それも仕方のない事だと思う。

 

「なあ知ってるか? 十番隊に滅茶苦茶おっぱいのデカい金髪美女の副隊長が居ることを」

 

 むっつりスケベの筈の修兵がただのスケベになったり、

 

「♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪~~!!!!!!」

 

 青鹿君が急に頭にお絞りを巻いて大声で歌い出したりしているからだ。

 

 いや、でもこの二人はまだマシな方だ。主に青鹿君の所為で、周りのまだ酔っていない人からの視線が辛くなってきたけどマシと言ったらマシだ。そうじゃないとやっていけない。

 

 この二人とは比べものにならないもっとヤバい奴もいる。

 

「はい、卯月君あ~ん」

「…………」

 

 そう、ほたるである。どうやらほたるは酔いつぶれると、所謂バカップルがやるようなノリや間の延びた話し方になるらしい。その所為か、名前呼びである。

 

「何よ~、私の愛を受け取らないっていうの?」

「いや、普通そこは『私の○○が食べられないの?』って感じじゃないの?」

 

 愛って何だよ、愛って。

 

「細かいことは気にしないの。はい、あ~ん」

「…………あーん」

 

 結局、ほたるの押しに負けて目の前に運ばれた食べ物に噛みついた。

 

「どーう、おいしい?」

「うん、おいしい」

「わーい、よかったぁ~!」

 

 僕の適当な返答にほたるは大喜びする。……何だろう、これ?

 まるで小さい子のおままごとの相手をしているようだ。でも、それとは比べものにならない程の羞恥心が僕を支配した。

 それこそ、いっそのこと自分も目の前にあるお酒をがぶ飲みして、この状況から逃れたいほどのだ。だけど、周りの視線がそれを許してくれない。

 

 ――お前が何とかしろ。

 

 そう言わんばかりの周りの視線が僕の首を絞めているようだった。

 

 どうしようかと思っていた時――不意に何かが僕に向かって倒れかかって来た。

 

「ほ、ほたる?」

「むにゅぅ……すぅ……すぅ……」

 

 どうやら完全に寝てしまったようだ。

 

「こんなところで寝たら風邪引くよ?」

「すぅ……すぅ……」

 

 ダメだ。全然起きる気配がない。

 

 ていうか、この人無防備過ぎません? この場に男しかいないことを分かってやっているのだろうか。

 気にしないようにしてたけど、なんかいい匂いがして来て、ドキドキして来たんだけど。

 

 ん? ちょっと待てよ。もしかしてこの状況、利用できるんじゃないだろうか?

 

「修兵、ほたるが寝ちゃったから家まで送って行くよ。お金はここに置いていくから」

「おーう、きをつけてかえれよー」 

 

 僕がお金を置くと、修兵は酔っ払いらしい呂律の回っていない声で返事をした。

 

「じゃあ、帰るよ。ほたる」

「うぅん……すぅ………すぅ」

「はぁ……。仕方ないか」

 

 僕はほたるを背中に背負って立ち上がった。その時、周りの人々から凄い目つきで睨まれたけれど、気にしたら負け、逃げるが勝ちだ。

 

 僕は周りの視線を無視して、颯爽とお店を去った。

 

 

***

 

 

 ほたるを背負いながら夜道を歩く。背中から感じる女の子特有の柔らかい感触や時折首筋にかかる吐息などに心を惑わされながらも、一歩一歩確実に五番隊宿舎へと進んでいる。幸いここから五番隊宿舎へはそう遠くはない。

 

 にもかかわらず、とてもその道のりは長く感じられた。普段僕が瞬歩を使って移動しているというのもあるんだろうけど、恐らくその原因はほたるになる。

 人間、楽しい時間は短く感じ、つまらない時間は非常に長く感じるものだ。それと同じで早くこの高鳴る鼓動から逃れたいと思っているから今この時間は長く感じるのだろう。

 

 ――まあ、そんなこと分かったところで、どうしようもないんだけどね。

 

 僕にできることは一歩一歩着実に歩を進めるだけだ。

 

「……好きよ。卯月君……」

「…………ふぁっ!?」

 

 今なんて言ったこの人? 寝言で声が小さかった所為で聞き取り辛かったけど、僕のことが好きって言わなかったか?

 

 ……いや、待て。落ち着け蓮沼卯月。所詮は寝言だ。そんな曖昧なものに左右されるなんて愚かにもほどがある。

 それに、あんな小声で聞き辛かったんだ。僕の聞き間違いという可能性もある。

 

「うん? ここは……」

 

 その時、ほたるが目を覚ました。

 

「あ、ほ、ほたるっ!? 起きたの?」

 

 いくら寝言とは言え、やはり恥ずかしいものは恥ずかしく、声が上擦ってしまった。

 

「うん……えっ!? 蓮沼君! どうして私、蓮沼君におんぶして貰ってるの!?」

 

 そして、僕以上にほたるは動揺した。ある感情を抱いている時、自分よりも酷い人を見ると落ち着くことができると聞いたことがあったけど、本当だったんだ。

 

「ほら、今日は四人でご飯を食べる約束だったでしょ? その時にほたる、酔いつぶれて寝ちゃったんだよ」

「……確かに、記憶がないわね。ごめんね蓮沼君」

「別にいいよ。それより体調は大丈夫?」

 

 とても僕とおままごとをしていたとは言えなかった。

 

「少し気分が悪いけど、大丈夫よ」

「そう。じゃあ、このまま寮まで背負っていくけどいい?」

「えっ!? 確かにそれはありがたいけど……」

「なら別にいいじゃん。酔っ払いはおとなしく背負われなさい」

「……分かったわ」

「任されました」

 

 僕はほたるを一度背負い直して再度歩き出した。

 

「他の二人は?」

「まだ飲んで行くってさ」

 

 考えないようにしていたけれど、大丈夫かあの二人? 出禁とかにならないといいけど……。まあ、あそこは居酒屋だ。余程のことがない限りそうはならないだろうと自分を納得させた。

 

「ところでさっきから気になってたんだけど……」

「どうしたの?」

 

 

「――どうして、さっきからそんなに耳が赤いの?」

「えっ!?」

 

 マジかっ!? だいぶ落ち着いて来たと思ったんだけどな。

 

「こ、これはあれだよ。ほら、人と密着してるから暑いだけだよ」

「そ、そう……」

 

 ほたるにも異性と密着しているという今の状況は恥ずかしいものであったらしく、僕と同じように頬を赤く染めていることだろう。

 

 そうこうしている内に、五番隊宿舎が見えて来た。護廷十三隊の宿舎は男女で建物が分かれており、夜間は申請なしに異性の建物に入ることは禁じられているので、ここでお別れとなる。

 

「じゃあ、また明日」

「……うん、ありがと。じゃあ」

 

 ぎこちなく挨拶を交わして僕達は互いに背を向けた。

 

 少し時間をおき、心を落ち着かせてから僕は思考を巡らせた。

 

 それは万が一、いや億が一にもほたるが僕を好いていた場合についてだ。

 

 先程は前世からの中性的な容姿も相まって今までに女性経験が全くないことをさらけ出すような対応をしてしまった僕だけど、よくよく考えてみればそんなに難しい問題ではないような気がする。

 

 人が異性と付き合う上で最も大切なこと――それは互いが互いを想い合っていることだ。人はお互いに好き合って、それを告げることで初めて交際関係に至ることができる。

 いや、中にはそうではないカップルも居るんだろうけど、少なくとも僕は好きでもない女性と付き合うつもりはない。

 

 ――そう。結局は僕が好きかどうかなのだ。

 

 仮にほたるが僕を好いていたとしても、僕がほたるを好きでなければダメなのだ。

 では僕、蓮沼卯月は蟹沢ほたるのことが好きなのか?

 

 ――その答えは否である。

 

 確かに、真央霊術院の時から十年以上一緒に過ごしてきた程の仲だ。好意がないと言えば嘘である。

 でも、それが恋愛的な意味での好意かと訊かれると、首を傾げざるを得ないだろう。

 

 ――僕は彼女のことをまだ友達や仲間としてしか見れていないのだ。

 

 少なくともそうである内は、僕が彼女と付き合う資格はない。そうでないと余りにも彼女に失礼だから。

 

 まあ、あくまで一割にも満たない可能性の話だ。考えても仕方がない。

 

 そう結論づけ、思考を打ち切った。

 




 はい、今回は蟹沢回でした。果たして需要はあるのでしょうか?
 でも、原作を乖離させている以上、こうやって生存していることに意味を持たせても問題ないよね?

 あと、青鹿君の歌が♪だけなのは、ハーメルンの規約に歌詞を書くのはダメみたいな規約があったような気がしたからです。うろ覚えですが……。
 雑でごめんなさい。

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