転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 短いけど、なんとか予定通りに投稿成功。
 本当は今回の話も前回に続き原作なぞりなので、もうちょっと書きたかったけど、仕方ないね。

 言い訳すると、剣八戦を書いとけば、他の戦いに描写を繋ぎやすいんですよね。

 次回からはちゃんとオリジナル展開も書きます。


第六十九話

 斬りかかって来る剣八に対し、グレミィは鋼鉄のドームで身を覆う。

 やがてドームに斬魄刀を叩きつけた剣八に、そこから生えた刃が襲い掛かる。

 しかし剣八はそれを強引に叩き折り、自身の攻撃をドームの中に身を隠していたグレミィに届かせる。

 

「芸がねぇな! 言ったろ、鉄でも斬るってよ!」

 

 想像力の強さを説いた割りに、似たような戦法を繰り返すグレミィを剣八は指摘する。そして、肩口を裂いた斬魄刀に次の攻撃に移す為、力を込めた時、剣八は異変を感じ取った。

 

 ――抜けねぇっ!?

 

 グレミィの身体に入り込んだ斬魄刀が、一寸たりとも動かなかったのだ。

 

 凶悪な笑みを浮かべるグレミィを見て、剣八は今の一連の流れが罠であった事に気が付いた。不味いと思った時には、時既に遅し。突如として天に現れた、石で出来た巨大な手が剣八を圧し潰した。

 

 とは言え、先程剣八は地割れの中から、何事もなく生還している。故に生半可な攻撃では傷一つ負わせることすら不可能だろうと判断したグレミィは更なる攻撃を与えるべく、思考を巡らせるのだが、剣八の復帰はそれよりも早かった。

 

 刹那、石の巨腕に縦一直線の亀裂が走る。またもやグレミィの攻撃を一刀の下に斬り伏せた剣八は、その亀裂の軌跡を追うように上空へと躍り出る。

 それだけではない。

 

「なにっ!?」

 

 いつの間にか与えられていた、左肩から胸にかけての傷にグレミィは動揺する。最早グレミィにとって、剣八の理不尽なまでの生命力はそう驚くようなことではなかった。戦いが始まってからというもの、剣八は何度も絶望的とも言うべき状況を打開して来ているのだ。今更一撃で仕留めきれなかった事ぐらいで何かを思うような事は無い。

 ただ、攻撃を返されたことだけは予想外だった。それどころか、グレミィは攻撃されたことすら、察知できなかった。

 

 しまったと思った。

 

 想像で傷を治すという性質上、グレミィが自身が負った怪我を治すには、先ず初めにその怪我を認識する必要がある。しかし、グレミィは剣八の斬撃の軌道を追うことができず、そのせいで傷の認識が遅れてしまった。

 

 すると、何が起きるか?

 

 怪我の治療と、次の剣八の攻撃の対応。その二つを同時に処理する必要が出て来るのだ。

 

 『水中で一瞬判断の遅れた君は、そのまま用意されていた地割れに落ちる』

 

 剣八が地割れに飲み込まれた際に、グレミィはこのようなことを言っていた。今起きているのはそれと同じだ。

 傷に気付くのが遅れれば、治すのが遅れる。傷を治すのが遅れれば、次の防御も反撃も遅れる。やがてその遅れは、グレミィに致命傷を与えるのに十分な時間を生み出す。

 

 先程の左肩の傷と、胸で交錯するような傷を負ったグレミィは混乱する。

 

 二つの傷に、次に仕掛けられるであろう剣八の攻撃の対処。あるいは反撃。どれから手を付ければいいか分からなくなったのだ。

 

 それは今まで、彼が余裕のある戦いしかしてこなかった為に起こったことだ。追い詰められた咄嗟の状況で自分が何をすればいいか分からなくなった。

 

 ――嘘だ。

 

 ――なんでこいつの剣を止められない?

 

 ――こいつはホントに僕に勝つつもりなのか?

 

 ――僕はホントにこいつに負けるのか?

 

 ――そんな馬鹿な。そんな馬鹿な。そんな馬鹿な。そんな馬鹿な。そんな馬鹿な。

 

 目の前で起こっている現実が信じられず、重ねる度に思考はネガティブになっていく。そして、そんな思考は想像となり、現実へと反映されてしまう。

 

「何だ? 急に偉く手応えが無くなったな。自分が負けるところでも想像したか?」

「っ!?」

 

 故にグレミィにとって幸運だったのは、ここで剣八が攻撃の手を緩めて話しかけて来たことだろう。

 もし、ここで剣八が畳み掛けに来ていたら、今頃グレミィは生きては居られなかったのだから

 

「……ありがとう」

「何の話だ?」

「今の君の言葉で、僕は完全に自分の死のイメージを消すことができた。僕はもう、絶対に死ぬことはない。後悔するよ」

「したことが無ぇな!」

 

 常人であれば、一度過った後ろ向きな思考を完全に消し去ることなどできやしない。だが、グレミィは違う。そう言った思考を抱かない自分を想像すればいいだけの話なのだから。

 

 まるでスイッチを切り替えたかのように、一瞬にして平静を取り戻したグレミィは、再び不遜な態度で剣八に語り掛け――その姿を二人に増やした。

 

「お礼に僕の」

「一番の力を君に見せるよ」

 

 二人増えたグレミィは、まるで示し合わせたかのように、息の合った発言を繰り広げる。

 

「分身か! 隠密機動みてぇな術使いやがる!」

 

 二人のグレミィを目にした剣八は、それを自身の記憶の中にある最も近しいものに当てはめる。

 

 厳密に言えば、卯月や砕蜂が使用する分身は、卓越した歩法の応用によって形成された残像であるため、術というほど複雑なものではない。また、形成された分身の中で実体を持つ者も使用者本人のみなので、使用用途は敵の翻弄に限定される。

 これを聞けば、過去に藍染が見世物と形容したのも頷ける話だろう。

 

 しかし、グレミィの分身は違う。

 

「分身じゃないよ」

「僕はもう一人の僕だ」

「僕は想像で命を創り出すこともできる」

「どっちも斬れない」

 

 グレミィが創り出すもう一人の自分には実体がある。それ故に歩法の分身では出来なかった同時攻撃など幾つかのことが出来るようになり、戦略の幅を広げることができるのだ。

 

 この間、剣八は片方のグレミィに斬撃を放つが、衝撃で吹っ飛びはしたものの傷を負うことは無い。

 

 すっと立ち上がったグレミィは言葉を続ける。

 

「どっちも死なない」

「そして」

「「想像する力は単純に倍だ」」

 

 刹那、空気が震えると共に、辺り全域に大きな陰りが走る。

 

 なんだと見上げるとそこには、飛来する巨大な何かがあった。

 

「何だ、ありゃあ?」

「隕石だよ。瀞霊廷ごと、消えてなくなっちゃいなよ。ぼくだけは、瓦礫の中で生き残るけどね」

 

 どれだけの攻撃を費やしても倒れる兆しのない剣八。そんな彼に対してグレミィが次に講じた策は、広範囲に渡る無差別攻撃だ。最早グレミィに味方を巻き込むかも、などという考えはない。剣八を倒し、最後に自分が立つことができればなんでも良かった。

 

 そのあまりの質量の大きさに、本来なら瀞霊廷外部からの侵入を阻む遮魂膜も意味を成さない。

 

 迫りくる絶望を背にしながら、グレミィは二人余裕の様子で言葉を紡ぐ。

 

「例えば。そう、例えば。想像じゃなくて例えばの話をしようか。例えば、もし君が今すぐ僕を殺せたしよう。でも無駄だ。隕石は既に現実、消えやしない。ここで落ちて、みんな消し飛んで、僕だけが生き残る。想像通りに。成す術が無いってこういうことさ、更木剣八」

 

 この状況を打開する方法は大きく分けて二つ。一つ目はグレミィ自身が想像によって隕石を消失させること。二つ目が誰かが自力で突破すること。実質二つに一つだ。

 

 しかし、護廷十三隊全員の命を背負ったこの状況でさえ、剣八は笑みを浮かべていた。話しかけて来るグレミィには一切の視線を向けない。どう斬るか、それを考えることを純粋に愉しんでいた。 

 

「成す術がない? そうだな。てめえにはもう、無えだろうさ」

 

 そう言って剣八は天へと駆け上がる。

 

 デケェ。距離を詰めたことで余計にそう思った。隕石の端から端を視界に納めることさえ、今はもう出来ない。

 斬ったことのない、未知との対峙に興奮が抑えられない。隕石との距離に反比例して、その気持ちは高まっていく。

 

 そんな剣八の感情に、一振りの斬魄刀が呼応する。

 

「【呑め“野晒(のざらし)”】」

 

 刹那、衝突。

 

 瀞霊廷中に震撼する轟音と、辺り一帯を包み込む眩い光。何が起きたのか、目を庇っていたグレミィや十一番隊隊士には分からなかった。

 

 だが、男は確かにそこに居た。

 

 無数に砕かれ、散らばりながらも落下を続ける隕石を背にし、無骨で身の丈を大きく超える程の斧へと変貌を遂げた斬魄刀を担ぐその姿は、正に破壊の権化だった。

 

「何だ、何なんだよ……。アレを一太刀で粉々にしたって言うのか……! 化け物め!!」

 

 宙に佇む剣八を見上げながら叫んだグレミィの心の中にあったのは、驚愕でも動揺でもない。畏怖だ。グレミィには更木剣八の力を想像し、観測することはできても理解することができない。

 

 それに対する剣八の答えは至ってシンプルなものだった。

 

「騒ぐなよ。単純な話だ。――俺に斬れねぇものはねぇ」

 

 普通なら、誇張していると取られかねないこの発言も、彼が言えば説得力を帯びる。それを剣八は今までの攻防で証明して来たのだから。

 溶岩を斬った。地面を斬った。水を斬った。鋼鉄を斬った。隕石を斬った。そのデタラメな力に理由付けするのに、これ以上適したモノは無いだろう。

 

 故に剣八の言葉はグレミィの中にストンと落ち、彼の迅速なる次の行動へと繋がった。

 

「なるほど、単純な話だね」

 

 納得を示したグレミィは、その姿を二人から更に追加する。三人、四人。剣八を囲むように配置されたグレミィの数はやがて二桁に到達した。

 

「頭数を増やした所で、何も変わりゃしねえぞ!!」

「変わるさ」

 

 もし、グレミィがたいした力を持っていなかったのであれば、今剣八の周囲に広がる集団は烏合の衆にしかなり得なかっただろう。しかし、グレミィは違う。一人でも滅却師最強と言わしめ、並みの隊長格では相手にならないであろう人物が十名以上。その想像力は通常の二十倍にまで引き上げられている。そんな彼らを以てすれば――。

 

「斬れないものが無いのなら、形の無いもので君を殺す! 宇宙空間に包まれて死ね!!」

 

 新たな空間を創り出すことさえも可能とする。

 

 瞬間、闇の帳が剣八を包み込んだ。満天に広がる黒の中で燦々と光り輝く星々。視覚情報だけならば、それを夜空と断定することができたかも知れない。

 

 だが、ここは生身の人間が生き抜くのが不可能な宇宙空間だ。強大な霊圧を有する霊体と言えども、人体と同じ構造の身体を持つ以上、剣八とてそれは例外ではない。

 

「おおおおぉぉぉおおお!!」

 

 戦いが始まって一番のダメージを負った剣八は堪らず断末魔を上げる。眼球が口内が傷口が、まるで焼き焦げるかのように熱を持ち始める。特に傷口からグツグツと煮えながら噴き出る血液は、噴火する火山を彷彿とさせる。

 

 身体を内部から破壊されて苦しむ剣八を見て、グレミィはこの戦いで初めて自分が完全な優位に立ったことを確信した。

 

「宇宙空間では眼球と口腔粘膜から体液が強制的に蒸発し、傷口から宇宙空間に曝された血液が沸騰を始める。呼吸しようとすれば、肺が破壊され、体組織が崩壊し、緩慢な死を迎える。それまで意識を保てればの話だけどね」

 

 懇切丁寧な解説を繰り広げながらグレミィは思う。恐らく、今の剣八に自分の声は届いていないだろうと。

 あれだけ大きな声を張り上げたのだ。当然呼吸は必要になる。そして、それが命取りになるのは今しがた口にしたばかりだ。死ぬまでそう時間はかからないだろうと予想できた。

 

 そんな思考を巡らせながらも、グレミィは剣八を押し込んだ空間を閉じにかかる。

 

 剣八の死を半ば確信しながらも、グレミィが抱いたのは底知れぬ不安感。斬るという選択肢を排除したこの攻撃を与えても尚、剣八が生還する可能性を捨てきれなかった。故に、油断はない。

 

 だがその判断が正しかったと分かったのは、皮肉にも斬撃を喰らった後だった。

 

「な、にっ!?」

 

 徐々に狭くなる空間の隙間を通すように、横に凪がれた一閃は、その圧倒的な破壊力でグレミィの身体を横に両断する。

 

「どうした? 身体を硬くするのを忘れてるぜ」

 

 そう言った剣八は、隙間を手で強引に広げ這い出て来る。目を充血させながら、暗がりから出るその様は、まるで悪魔のようだった。

 

 しかし、グレミィも空間を移動する剣八をただ見ていた訳ではない。

 

 剣八が違和感を感じたのは既に斬り捨てたグレミィが、胸元で何かを抱える仕草を見せた時だった。

 

「なんだ?」

 

 それに気を取られている内に複数のグレミィが剣八にしがみ付く。こうも簡単に接近を許してしまったのには、眼球が蒸発したことによる視覚の不調も起因しているのだろう。

 

 そして次の瞬間、両断されたグレミィが抱えていた物体が、凄まじい熱量を放ちながら発光し、爆発した。何人ものグレミィを巻き込む盛大な自爆である。

 熱による攻撃は序盤の溶岩で既に試みたが、それとの違いはしがみ付く複数のグレミィが剣八の身動きを封じていることだろう。

 

 結果、剣八はもろに爆発に飲み込まれることになる。

 

「はぁはぁはぁはぁはっ」

 

 上空から舞台に戻ったグレミィは、警戒を続けながら息を整える。あまり激しい運動はしていない彼だが、一度に十人もの命を創り出す奥の手は確実に彼の脳と体力を蝕んでいた。

 

 再び、命を創り出すには無理がある。できればこれで決まってくれ。そう願うが、それが叶うことはなかった。

 

「何なんだ……。ホントに化け物かよ……!」

 

 死覇装は焼失し、全身を黒く焦がしながらもその手には斬魄刀が握られている。更木剣八は未だ健在だった。

 

 そんな剣八を見て、グレミィは一つの結論を導き出す。

 

 最早自分が想像する何かで、剣八を殺し切ることはできないのだと。その考えに達したグレミィの次の策は単純なものだった。

 

「分かったよ。それなら僕がお前より強くなればいいんだ!!」

 

 今の疲弊した状態で、剣八を殺せる策は思いつかない。故に、グレミィはその過程をすっ飛ばした。

 

 強い方が戦いに勝つ……という訳ではないが、それでも強い方が戦いにおいて有利になりやすいというのもまた事実である。

 

 今までの攻防を経て、剣八の力量は把握できている。後はそれを超える自分を想像するだけ。それはある意味、思考放棄に等しい代物だった。

 

 そんな中、グレミィの頭の中にあったのは、勝ちたいというたった一つの思い。今までこんな気持ちを抱いたことはなかった。出会ったことのない自分と張り合える相手が今目の前に居る。自覚したことのなかった勝利への執着が、留めなく湧き出て来た。

 

 もし、その感情を性格に当てはめるとするのなら……。

 

 ――負けず嫌い。そう言うのだろう。

 

「お前を叩き潰して、僕の力を証明するんだ!! お前自身に!!」

 

 ――勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。勝ちたい。

 

 剣八に向かって跳び上がったグレミィは、己の肉体を構築していく。伸びる身長と共に筋肉は膨張し、骨は太く強固なものになる。それらと比例するように霊圧も上昇し、やがて――。

 

 ――まるで空気に耐え兼ね破裂する風船のように、グレミィの身体が弾けた。

 

「あ、れ……?」

 

 身体と霊力の制御を失ったグレミィは、空中での足場を失い、そのまま力なく自由落下を開始する。

 

 そんな彼を見下ろしながら、剣八は徐に呟いた。

 

「……お前ぇはお前ぇの中で俺を化け物にしちまった。その化け物に殺されたんだ」

 

 グレミィはこの戦いで、幾度となく剣八に化け物と言い続けて来た。自分には理解の出来ない獣と、そう断定した。

 そして目を背け続けて来たその化け物は、グレミィを内から食い破ったのだ。自爆という呆気ない終わり方だったが、文句無しに剣八の勝利である。

 

 しかし、グレミィを見る剣八の表情はどこか寂し気だ。

 

 勿体ない、素直にそう思った。強敵だった。グレミィが自分の力で戦っていれば、少なくとも戦いはまだまだ続けられていただろう。

 何故なら、とうに剣八はグレミィのことを認めていたのだから。

 

「馬鹿野郎が」

 

 最後にそう零した剣八は、グレミィを追うようにゆっくりと地上へ降りて行く。

 

 その途中、天へと昇る氷柱と火柱がそれぞれ剣八の視界の端を掠めた。

 

 




~引き続き自分で自身の気を引き締めるのコーナー~

 ってことで次回の投稿は8月16日です。

 次も頑張ります。

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