転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 テストとレポートから解放されたので、急いで書き上げ投稿。流石に前の投稿から月を跨ぐのはマズいと思った。

 六千字程度で全然話も進んでないけど、キリは悪くないと思います。


第六十八話

「ああ……よかった」

 

 戦場一帯に広まる暴力的なまでの剣八の霊圧。それをひしひしと感じ取った四番隊副隊長、虎徹勇音は涙と共にそう呟いた。

 

「更木隊長、あなたは受け継がれたんですね……。卯ノ花隊長の名を」

 

 一次侵攻が終わってから、彼女の上司である卯ノ花烈が、“初代剣八”卯ノ花八千流として剣八の修行をつけていたことは、卯ノ花がしたためた手紙を読んで知っていた。剣八同士が剣を取れば、どちらかが帰ってこなくなる、ということもだ。

 

 そして今、剣八が戦場に戻って来たということは、つまりそういう事なのだろう。

 

 それを理解した時、勇音の目からは涙が零れ落ちた。

 勿論、尊敬していた隊長を失った悲しさもある。だが、それと同等かそれ以上に喜びにも似た安堵があった。

 

 卯ノ花の心には、一つ大きな凝りがあった。それは自身が、剣八の力を封じる原因となってしまったことだ。

 

 過去に、十一番隊の隊長であった卯ノ花は自身の戦闘意欲を満たす為に、警邏と称してよく流魂街に駆り出していた。

 

 そしてある日出会った、屍の山に座する少年。それこそが今の更木剣八だった。

 半ば本能で刃を取り、斬り合った二人は歓喜した。このままずっと続けばいいのに、そう思った。

 

 確かに共有した二人の思い。しかし、それは最悪の形で現れることとなる。

 

 それは剣八が卯ノ花の喉元に突きを喰らわした次の瞬間に起こった。

 

 ――剣八が長く戦いを楽しむ為、無意識に自身の力をセーブしたのだ。

 

 結果、勝敗は卯ノ花に軍配が上がったが、剣八というかつてない強敵と渡り合った卯ノ花の心を支配したのは、戦いの愉悦でも剣八の座を護った安堵でもない。そこにあったのは、ただただ後味が悪いだけの後悔だった。

 無理もない。自分の力が及ばなかったが為に、剣八は全力で戦うことができなくなった。

 だが、それと同時に一つ確信した。

 

 ――この少年こそが剣八の名に相応しい、と。

 

 故に、剣八との修行は卯ノ花にとってある種の贖罪だった。そして、卯ノ花はしっかりと剣八としての役目を果たし終え、逝ったのだ。

 

 卯ノ花の苦しみを知っていただけに、勇音は卯ノ花の気持ちを汲み取ることができた。

 

 ただ、そう簡単に割り切りがつかないのが感情というものである。勇音の心の中では、行き場のない複雑な感情がぐるぐると渦巻いていた。

 

 しかし、はっきりと分かっていることもある。

 

 ――それは、今の剣八が前とは比べものにならない程強いということだ。

 

「頑張って下さい、更木隊長」

 

 窓から空を見上げ、勇音は剣八の姿を思い浮かべた。

 

 

***

 

 

「……剣ちゃん」

「「隊長っ!」」

 

 剣八の姿を見た十一番隊が、次々に喜色を含んだ声を上げる。

 

「ふぅん。これが更木剣八かぁ」

 

 対して、初めて剣八を目の当たりにしたグレミィは、剣八の実力を見定めるようにじっと観察を始めた。

 

 今までに見られなかったその態度から、彼がある程度剣八を認めているであろうことが感じられる。

 流石は、ユーハバッハに定められた特記戦力の一人といったところだろう。

 

「更木から来た剣八で、更木剣八。うん、強そうだ。想像通りに、ね」

「「っ!?」」

 

 そして、グレミィが剣八の力を把握した次の瞬間――辺り一帯の地面が地響きを鳴らしながら、グレミィと彼の近くに居た剣八、やちる、一角、弓親、青鹿を巻き込み、天へとせり上がった。

 

 やがて地面がその動きを止めた時、そこには巨大な四角い搭が聳え立っていた。

 

 さしずめ、二人の最強が雌雄を決する為の闘技場といったところだろう。

 

「はい、舞台を用意したよ。何しろあの更木剣八だ。立派な舞台でお迎えしないと失礼でしょ」

「……何だこりゃ? まじないの類か?」

「違います、隊長。あいつの能力は自身の想像の具現化。つまり、この搭もあいつの想像が作り上げた産物です」

 

 先程まで場に居なかった剣八に、弓親がグレミィの能力について説明する。

 

「そういうこと。君は僕と戦えてラッキーだったと思うよ。星十字騎士団で一番強いのは、僕だと思うから」

 

 弓親の言葉を引き継ぐように、グレミィは剣八に語りかけた。

 

 その言い草からして、グレミィは剣八の戦いを愉しむという性質を理解しているのだろう。

 

 また、彼の想像したものを現実に反映するという能力は、確かに星十字騎士団最強の名に恥じない能力だ。なるほど、戦いに愉しみを見いだす者にとって、彼との戦いは愉しいに違いない。

 

 だが、口ではどうとでも言えるものである。

 

「そうかよ」

 

 どうでも良いことかのように、相槌を打った剣八は一息にグレミィに斬りかかった。

 

 いや、実際剣八にとって先程のような御託はどうでもいいのだ。戦いにおいて、彼が興味を示すものは強さのみ。

 そして、強さは戦いの中でしか証明できないのだから。

 

 そうして、グレミィの不意を突いた一撃は彼の肩を斬り裂――かなかった。

 

「分かっていないみたいだから、僕からもう一度言うよ」

 

 纏う服にすら傷をつけられない剣八の斬魄刀に目を遣りながら、グレミィは言葉を紡ぐ。

 

「僕は空想を現実にできる。この世界で一番強い力は想像力だ。ほら、今だって僕の身体が『鋼鉄を遥かに超える硬度だったら』って想像するだけで――っ」

 

 君は僕に傷一つつけられなくなる、などと言おうとしたのだろう。だが、その言葉は途中で断ち切られることになる。

 

 先程までグレミィの肩でその動きを止めていた剣八の刃が通ったのだ。

 突然加えられた衝撃に対応できなかったグレミィは思わず膝をついてしまう。

 

「鋼鉄ぐらいの硬さならそう言っとけよ。最初から鉄斬るつもりで斬ってやるからよ。言っとくぜ。てめえごときの想像力で俺に斬れねぇものなんざ創れねぇ」

 

 ――俺が『剣八』だからだ。

 

 正式な継承を終えたからだろうか、その言葉にはかつてない程の重みや凄みがあった。

 

「す、凄ぇ」

「ああ、流石は隊長だね」

「はっ。何驚いてんだ、青鹿? 俺達の隊長だぜ、アレくらい当然だろうが」

 

 そして、その迫力は周りも者達へと伝播する。青鹿、弓親、一角の順で剣八に対する称賛を口にした。

 

「ちっ、うるせぇぞお前ら! さっさとやちる連れて退いてろ!!」

 

 ただ、それは剣八からすれば鬱陶しい以外の何ものでもない。彼としてはそんなことよりも、負傷してしまったやちるを安全な場所まで連れて行ってくれた方がありがたかった。

 

 しかし、それはできない相談というものである。

 

「無茶言わないであげてよ。彼女は今、僕の能力で全身の骨がクッキーになってるんだ。無理に動けば全身の骨が砕けて死ぬよ」

 

 やちるの安全な場所に移動させてあげたいというのは、一角達も思っていた。だが、やちるの身体が非常に脆い状態になっているが為に、躊躇っていたのだ。

 

「……くっきーってのぁ、何だ?」

「何だ、知らないの? 落雁とかにしとけば良かったかな?」

「落雁か。要するに茶菓子みてぇに脆くなってるって事か」

「そういう事。そして、今までのことは僕の力の一端に過ぎないよ」

 

 剣八と言葉を交わしながら、立ち上がるグレミィ。いつの間にか彼が受けた傷は、纏う服も含め、完全に癒えていた。

 

「ほぅ。お前ぇ、傷を手前ぇで治せるのか」

「そうかな? そうかも。これを治してると言うなら治してるのかもね。僕はただ『斬られた傷がもう治ってる自分』を想像しただけなんだけど」

 

 傷が治るという結果こそは変わりないが、その過程は通常の治療と全く異なる。

 グレミィの想像による治療は、傷が治ったという結果のみが現実に反映されるので、その治療速度は迅速。卯ノ花や瞬閧状態の卯月をも上回るだろう。

 

「冗談みたいな能力だ。そう思ったでしょ? 君みたいなタイプは、きっと自分が負けるまで僕の力を理解できない。だからさ、かかっておいでよ更木剣八。指一本で相手するなんてチャチなことは言わないよ。――指一本だって使わない。頭の中だけで君を殺して見せよう」

 

 刹那、凄まじい熱気が場を支配した。

 突如として這い出た紅は、まるでグレミィを守護するかのように彼の背後で蠢いている。

 

「何だと思う? 溶岩だよ」

「見りゃあわかる」

「じゃあどこから出て来たんだろうって? 僕の頭の中からだよ!」

 

 そして、溶岩は剣八に覆いかぶさるように襲い掛かった。

 ただでさえ人体が生きていくには劣悪な自然に、霊圧も加えた猛攻に――剣八は嗤っていた。

 

「無茶苦茶だな……。だが、理屈が通じねぇのは嫌いじゃねぇぜ!」

 

 理屈なんて関係ない。彼にとって重要なのは敵が強いか否かだ。そう己の考えを口にした剣八は斜め下から一閃。両断された溶岩は、彼を避けるように後ろへ通過した。

 

 道を文字通り切り開いた剣八は、そのままグレミィへと跳びかかる。すると今度は直接水が剣八とその周囲を包み込んだ。

 

「ごぼっ!?」

「わけがわからないでしょ。君の跳び上がった空中は、既に水中だったよ」

 

 呼吸を失い瞠目する剣八に、グレミィは自分が何をしたのかを伝えた。そして、対応が遅れた剣八に更なる攻撃を仕掛ける。

 

 塔が、割れた。

 

 まるで念入りな準備をしていたかのようなその地割れに、剣八を擁した水が吸い込まれるように入り込んで行く。

 

「水中で一瞬判断の遅れた君は、そのまま用意されていた地割れに落ちる。そして……」

 

 塔が、閉じた。

 

「何も地割れに潰されたくらいで君が死ぬなんて思っちゃいないよ、更木剣八。だけど水に包まれたままならどうかな。息さえできなきゃ皆死ぬんだ。水に包まれ、地割れに潰されそのままゆっくり死ねばいい。君が幾ら化け物でも、一時間もあれば十分でしょ?」

 

 今の剣八の状況を例えるなら、地震による地割れの中で津波に呑まれているようなものだ。そんな状況下で一時間も放置されて、生き残れる可能性は万に一つもないだろう。……常人であれば、だが。

 

 ――そして、彼は剣八だ。

 

 瞬間、内側から塔が破壊された。飛び散る無数の瓦礫の影から姿を現したのは、あれだけの攻撃をまともに喰らっておきながら、未だ消耗の色が見えない一人の化け物。

 剣八は、自身に飛び散る瓦礫の処理に追われるグレミィの不意を突いて再度斬りかかった。

 

 だがグレミィは、僅かに反応に遅れながらも、硬化させた瓦礫を自身と剣八との間に挟み込むことで対処して見せる。次の行動を頭で思い浮かべるだけでいいグレミィにとって、多少の反応の遅れは問題にならないのであろう。

 

「まさかアレでも傷一つ付けられないとはね……。流石は更木剣八といったところかな? ――だけど、君以外はどうだろうね?」

「ああん?」

「ほら、さっきまで後ろに居たじゃないか? ――君の部下が」

 

 確かに、剣八の身体はこれだけの攻撃を受けた後でも無傷で居られる程に頑丈だ。

 だが、彼の後ろに居た一角達はそうではない。特にやちるは骨がクッキーのように脆くなっているのだから、生存することは難しいだろう。

 

 そして今この瞬間、四人の姿はなかった。

 

「てめえこそどこに目ぇつけてんだ? あいつらなら今頃下に降りただろうよ」

「……ふーん、あの状況で部下のことちゃんと見てたんだ。そして、全員で降りたってことは、僕のあの子に対する想像が途切れていたことにも気づいていたみたいだね」

「当たりめぇだろ、続く訳がねぇ。それに見てもねぇよ」

 

 グレミィの能力は想像したことを現実に反映すること。もしそれを辞めてしまえば、当然その効力はグエナエルのように消え失せてしまう。それを剣八はこの戦いが始まった早い段階から気づいていた。

 剣八を殺すために、あれだけの規模の攻撃を起こしたのだ。その中でやちるの骨の想像を継続するなどということはまず不可能だろう。

 

 また剣八がそれを告げていなかった以上、下へ降りた四人の内の誰かもそのことに気づいていたということになる。

 尤も、彼らはグエナエルが消える瞬間を見ていたので、剣八よりも答えに辿り着くのは容易であるが……。

 

 刃をグレミィに向けた剣八は、諭すように強い語気で話を続ける。

 

「で、結局お前ぇは俺と何がしてぇんだ? 戦いてぇんじゃねぇのか?」

「……戦い?」

「お前ぇ、自分を何つった? 最強の滅却師じゃねぇのかよ? 最強なら、最強を叩き潰してぇんじゃねぇのかよ!」

 

 この戦いから始まってからというもの、剣八はどうもグレミィの在り方が腑に落ちなかった。

 

 グレミィは先程、堂々と自身が滅却師で最強であるということを宣言し、その実力を剣八相手にも発揮して見せた。

 既に剣八も彼の力を認めており、口先だけの奴とは思っていないだろう。

 

 しかし、そんな力を持っていながら、正面の敵以外に意識を反らし、折角の強敵との戦いをまるで消化試合のように戦う行おうとするグレミィに、剣八は納得がいかなかったのだ。

 

 流石にこの考えは、戦いを愉しむことに重きを置く剣八ならではの考え方だが、普通に考えても戦いの最中、それ以外のことに意識を向けるというのは迂闊である。

 

「戦いを始めようぜ。目の前の敵以外に気を向けられるようなもんを、戦いだとは呼ばねぇだろ!!」

 

 どこまでも彼らしい、戦いを愉しむ為の言葉。グレミィからすれば、今まで考えたこともない盲点というべきものだった。しかしどうしてか、その言葉はグレミィの何かを突き動かした。

 

 接近してくる剣八に対し、地形を操作し、四方八方から挟撃する。だが、剣八はこれを意にも介さず破壊し、更にグレミィとの距離を詰める。

 そんな中、グレミィは思考を巡らせる。

 

 今まで彼は、剣八のような戦いを愉しむといった考えを有していなかった。何故なら、グレミィの能力を知ってなお、彼に戦いを挑むような人物が居なかったから。また、それこそがグレミィが一番強いと裏付ける証拠でもあった。

 だから、この戦いのように自身の力を証明する必要もなかった。誰かを叩き潰したいなんて考えが過ることもなかった。

 

 ――それなのになんで、僕はこんなにこいつを叩き潰したいと思っているんだ!!

 

 しかし、剣八という自身と渡り合える敵と出会ったことで、それは変わった。圧倒的な力によって今まで認識することすらなかった闘争本能が、剣八に触発される形で芽吹いたのだ。

 制御しきれない高揚感に、思わず頬が吊り上がる。

 

 そして次の瞬間、グレミィが展開した無数の銃器が一斉に火を噴いた。ライフルからロケットランチャー。様々な種類の武器によって引き起こされた爆発はグレミィの抑えきれない興奮を表しているかのようだった。

 

 だが、辺り一帯を包み込むこの爆発ですら、剣八を殺し切ることはできなかった。

 

 グレミィがそれを察知したのはロケットランチャーの弾が一つ両断されるのを目にした時。それを皮切りに爆発は何かを避けるように四方へ分散し、それによって起こった爆風がグレミィの身体に叩きつけられる。

 思わず顔を手で庇いながらも、目を閉じることはしなかったグレミィはその何かを目視することができた。

 

「手ぇ使ったな?」

 

 まるで開けられた道を通って来たかのように、悠然と再び姿を現した剣八は、自分が負った傷には一切の気を向けず、グレミィが彼自身の宣言を違えたことを告げる。

 

 そして、互いの目が合った。

 

「いい顔だ」

 

 闘争本能丸出しの、人によっては狂ったと形容しかねないその表情を、剣八はいいモノと褒める。目を合わせただけで悟った。もう、グレミィには剣八という目の前の敵しか見えていないのだと。それは剣八が望んでいた戦いの在り方で、気付けば彼も同じ笑みをグレミィに返していた。

 

 初めての感情に突き動かされるグレミィには、いい顔と言われても今自分がどんな顔をしているか分からない。しかし、不思議と悪い気分ではなかった。

 

 それは表情など、どうでも良かったからかもしれない。

 

「漸くこいつも、悦んでくれそうだぜ」

 

 今はただ、目の前で斬魄刀を掲げる剣八との戦いに身を委ねていたかった。

 




 最近モチベが全然上がらないので、試験的な意味を含め、次回の投稿日時を宣言することで一度自分のケツを無理やり叩こうと思います。

 次回の投稿は8月8日の0時です。

 守れるように頑張ります。

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