転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 中々モチベーションが上がらなくて、気づいたら前回の投稿から二週間も経ってました。

 ……来週からテストがある教科もあるので、次回の更新も遅れるかもです。

 ただ、作品やアカウントが消えない限りは、絶対に完結させるので、そこだけは安心してください。


第六十七話

「今までどこ行ってたんすか、副隊長?」

 

 帰還したやちるに、一角はすかさず話を切り出した。

 

 いつも剣八の肩に乗り掛かっているので忘れがちだが、彼女も歴とした十一番隊の副隊長だ。

 まだ幼いので指揮を執ることはできないだろうが、副隊長として恥ずかしくない戦闘力は有している。故に剣八が居なくとも、戦いが始まればその地位に相応しい立ち居振る舞いを見せるとばかり思っていたのだが、いざ戦いが始まれば、彼女は一角達が目を離した隙にどこかへと行ってしまった。

 

 剣八がやちるのことを大切に思っているのは、十一番隊だけではなく、護廷十三隊の周知の事実であり、もし剣八が不在の間にふらっと何処かへ行ったやちるが命を落とすようなことがあれば……。考えるだけで恐ろしかった。

 

 こうして戦闘を行う裏で、十一番隊の面々はそんな恐怖とも戦っていたのだが、やちるはそんなこといざ知らず、子供らしいたどたどしい口調で言葉を紡いでいく。

 

「えっとねー。最初はずっと一人で走ってたんだけど、途中でこてちーに会って、こてちーのこと手伝ってたの!」

 

 やちるの言うこてちーとは、四番隊副隊長の虎徹勇音のことである。

 

 どうやら話を聞く限り、やちるは持ち前の方向音痴で戦場を彷徨い、たまたま勇音達四番隊が待機する場所に流れ着いたようだった。

 

 そこから十一番隊に下に帰って来られたのは、ここが四番隊隊舎であった場所からほど近かったからだろう。

 

「ねーねー、つるりん。あのおじいちゃん、あたしが倒しても……あれ? ――おじいちゃんって誰だっけ?」

 

 これ以上一角の質問に答えるのが面倒になったのだろう。やちるは敵と戦っていいか訊くことで強引に話を逸らした。

 追及の場を逃れる為に吐いた言葉だが、それはやちるの本音でもあった。

 

 普段、彼女は剣八の肩に乗っている為、例え獲物が来たとしても、それは必ず剣八のものになる。

 それに対して不満を持っている訳ではないのだが、剣八が不在の今この時、一度敵と戦ってみたくなったのだ。

 

 だが肝心のグエナエルの存在は、何故かやちるの頭の中から、スッポリと抜け落ちていた。

 

「急にどうしたんすか、副隊長? 痛っ!?」

「一角、その傷……」

「ああ、どうやら俺も知らず知らずの内に、喰らってたみてぇだ。……それにいつの間に始解したんだ、俺?」

 

 そして、それはやちるだけではない。一角も、弓親も、ここに居る十一番隊の皆が、今の今まで戦っていたグエナエルの存在を忘れていた。否、この場合は消されたというのが正しいのだろう。

 

(ざぁざぁざぁざざーっざーっざぁ。どうやら上手くいったようじゃの。)

 

 周囲に居た人物が自分のことを忘れているというこの状況に、グエナエルは内心ほくそ笑む。

 

 突如として行われた記憶の消去。それはグエナエルの能力によって引き起こされたことに他ならなかった。

 

 先程、グエナエルの能力に姿の消去と存在の消去の二段階があることは話したが、実は彼の能力にはもう一段階上の力が隠されたいた。

 

 ――それは、術者のグエナエルに関する記憶の完全消去だ。

 

 その性質故に、グエナエルとあと一人を除いて、誰にも知ることができない、正に奥の手である。

 なお、弓親は先程の攻防だけで、三段階目の存在自体には勘づいていたようだが、記憶が消された以上、その鋭い考察も彼の頭の中から消え失せていた。

 

(では、仕切り直すとしようかの)

 

 今までの戦闘を無かったことにしたことで、再び完全なる優位性を確保したグエナエルは悠々と姿を現す。

 

「さて、もう一度初めましてかの――っ!?」

 

 そうして、未だ動揺を隠せていない十一番隊に声をかけたグエナエルだったが、次の瞬間には再び存在を隠すこととなった。

 

 その原因は、草鹿やちるにある。

 

「あれ? いなくなっちゃった。当たったと思ったのになぁ」

 

 なんと彼女は、グエナエルが姿を現すや、即座に殴りかかって来たのだ。

 

(な、なんじゃこいつはっ!?)

 

 これにはグエナエルも驚きを禁じ得ない。

 

 やちるがグエナエルのことを忘れていなかったのならまだ分かる。だが、それはあり得ない、何故なら、やちるは確かに「おじいちゃんって誰だっけ?」と口にしていたからだ。

 

 であれば、やちるは彼女にとって初めて見るグエナエルを敵と判断してから殴りかかったということになるのだが、それこそあり得ない。

 グエナエルは瞬時に能力の段階を切り替えることが可能だ。それは即ち、グエナエルが切り替えると脳に命じれば即座に切り替えることができるという事であり、意表を突かれない限りは、彼が攻撃を喰らうことはまず無い。

 

 しかし、最大限に敵を警戒していたはずのグエナエルの頬からは、やちるの拳が掠めたことにより、血が滴り落ちていた。

 これは、やちるはグエナエルが能力を発動するよりも早い反応速度。つまりは反射で攻撃したということに他ならなかった。

 

 これだけでも口から心臓が飛び出そうなくらいグエナエルは驚いて居るのだが、それは更に続く。

 

「今のは敵ですか、副隊長?」

「うん! ザワッとしたから、そうだと思うよ!」

「見えない敵か……。面白ぇじゃねぇか!!」

「ダメだよつるりん。あの人はあたしの敵だよ!」

 

(な、なんて非常識な奴らじゃ!?)

 

 敵か味方かも分からない人物にいきなりザワッとしたという、なんとも抽象的な理由で殴りかかるやちるの見た目にそぐわぬ野蛮さ。

 それを疑問に思うことすらなく、冷静に状況を把握した弓親。

 不敵な笑みを浮かべながら斬魄刀を構えた一角。

 そして挙げ句の果てには、本来大勢で戦うべき敵を仲間内で取り合う始末。

 

 それら全てがグエナエルの理解の外で、まるで獣の群れのようなその様子に、グエナエルは確かな戦慄を覚えた。

 

(ええい、何を恐れることがある! 奴らが考えることを知らぬ獣なら、勝つのは人間である儂の方じゃ)

 

 ヒトが食物連鎖の頂点、あるいは外れた場所に位置することができているのは、その頭脳があったからだ。例え、他の動物のような強靭な肉体や、毒などを有して居なくとも、ヒトは知略でその尽くを打ち破って来た。

 

 ならば、慄くことなどない。グエナエルはそう自分に言い聞かせ、やちるの背後から襲いかかる。

 

「なん……じゃと!?」

 

 振り向き様に凪いだやちるの刀に、簡単に斬りつけられた。

 

「な、なにぇっ!? バカな!? 今の剣は確実に躱したぞ! 絶対に当たってない、絶対にだ!」

 

 攻撃に移るまで実体がないという絶対的な優位に立ちながらも、グエナエルは今までに二度も攻撃を当ててきたやちるを最大限に警戒していた。

 だからこそ、やちるの斬撃にも反応し、躱してみせた……はずだった。

 

 油断も隙もなかった。それ故にグエナエルは今までで最大限の動揺を露にした。

 

「そうだよ! あたしの剣は、かわしてもかわさなくても当たるの」

「どういうことじゃっ!?」

 

 やちるは斬魄刀を掲げながら、彼の疑問に答えてみせるが、要領を得ない説明にグエナエルは困惑する。

 だがそれは彼女も分かっていたようで、話を続けた。

 

「あたしの剣はね、まねっこの剣なの。あたしの剣の前と後ろにまねっこしてる子がついてくるの。だから、間合いを見切れば見切るほど、間合いがズレてあたっちゃう」

 

 それはさしずめ自動の連撃。やちるが一度しか剣を振るわなくとも、その前と後に寸分違わぬ攻撃が生み出される。二度振るえば六連撃。三度振るえば九連撃。

 戦いが長引けば長引くほど、手数で圧倒し、敵の感覚を惑わせ、流れを引き寄せる。

 

 そんな彼女の斬魄刀が、今初めてそのベールを脱いだ。

 

「ほら――【出ておいで“三歩剣獣(さんぽけんじゅう)”】」

 

 解号と共に現れたのは二体の獣。片や体毛に全身が覆われ、片や骨身だけの獣は、まるで背後霊のようにその身を連ね……。

 

「な、なんじゃそりゃーっ!?」

 

 ――やちると同時に、手に持つ刃を振り下ろした。

 

 全く同じ軌道を描く、三本の刃。しかし、そのタイミングはバラバラで、グエナエルは目測を誤ってしまう。

 

「はぁ、はぁ……。げほっ、げほっ、げえっ」

 

 なんとか致命傷は避けたものの、顔面を縦に斬り裂かれたその傷は今までで一番大きく、些か大袈裟に見えるが、膝に手をついてしまうほど、グエナエルは消耗していた。

 

「あれっ? へんなの。まっぷたつにしたつもりだったのに……」

「バっ、バカがっ! わざわざタネを明かしおって。わしが避けられんとでも思ったか?」

 

 真っ二つに斬ったと言ったやちるの感覚に間違いはない。実際、グエナエルが何もしていなければ、それで勝負は決していただろう。

 

 彼が生き残っているのにも、見かけ以上に消耗しているのにも歴とした訳があったのだ。

 

「【消尽滑体(バニシング・スライダー)】。わしの存在を消すのではなく、僅に後ろにずらすことだけに、全霊力を集中し、あらゆる反応速度を超えた速度で敵を躱すことができ――!?」

 

 自身の能力を明かしたやちるを馬鹿にした矢先の発言ではあるが、反射に程近いやちるに反応速度を上回るという点と、記憶を消去することができるという点から、グエナエルは自分の能力に絶対の自信を持っていた。

 

 故にこの発言は半ば勢いで出た、彼の自信の裏付けとも言えるものなのだが、その言葉は突如遮られることになる。

 

 刹那、グエナエルの左肩が胸に届くほど、大きくえぐり取られた。

 

「あ、う……嘘じゃ!」

「――嘘じゃないよ」

 

 視線を下に向け、手を傷口にあてがいながら、まるで譫言のように呟くグエナエル。

 

 そんな彼の言葉に答えた声は、聞いたことのない者のモノだった。

 

「っ!? いつの間に!?」

 

 誰からともなく声のした方に目を向けると、そこには戦闘中なのにも関わらず、深くフードを被り、ポケットに両手を突っ込んでいる一人の少年がいた。

 白一色の服装と霊圧の質から鑑みて、この金髪の少年は滅却師ということで間違いないだろう。

 

「そんな、わしは終わりなのか……? わし、わしは頑張ったじゃろう?」

 

 誰もが突然の少年の登場に動揺していたのだが、一番それが顕著に現れていたのは味方であるはずのグエナエルだった。それは最早怯えていると言っても過言ではない様子だった。

 

「うん、凄く頑張ったよ。――僕の空想の産物としては」

「空想? どういうことだ……!?」

 

 あまりにも不可解な少年の発言に、一角は思わず敵同士の会話に割って入ってしまう。

 

 ただ、わざわざ会話を止める気は起こらないようで、二人は話を続けた。

 

「待ってくれ。わしはまだやれる。わしの能力があればこんな奴ら――」

「うん。凄い能力だよね。グエナエルさんの能力って、自分の存在を視界からも、意識からも、記憶からも消せるんだもん。そして今、僕の記憶からも消えちゃった」

 

 命乞いをするかのように、グエナエルは少年に訴えかけるも、少年は淡々と答えるのみ。そこに情などは一切なかった。

 

 そして、この少年に発言には一つ嘘がある。それは、彼の記憶からグエナエルが消えてしまったという部分だ。

 どういう訳か少年は、グエナエルの三段階目の能力である、記憶の消去を知っていた。もし、少年がグエナエルのことを忘れてしまったのなら、グエナエルの能力の詳細を覚えているはずがないのだ。

 

「グレミィ~っ!!」

 

 からわれているということが分かったのだろう。怒りを募らせたグエナエルは少年――グレミィの名前を叫びながら斬りかかった。

 

 しかし、それに対してグレミィが動くことはなかった。

 

「ごめんね。君が誰だか知らないけど、もう君の未来を想像できない」

 

 彼がしたのは、迫り来るグエナエルに対して語りかけた程度。だがそれだけで――グエナエルの身体が血飛沫を散らしながら破裂した。

 

「……なっ!?」

 

 誰のものかも分からないような、消え入りそうな声。しかし、その声はこの場に居るもの全員の耳が聞き取っていた。十一番隊の面々でも凍ってしまうほど、衝撃的な出来事だったのだ。

 

 そんな中一角、弓親、やちる、青鹿は真っ先にグレミィに向かって行った。普段の彼らなら、誰が相手をするのか決めてから戦っていたのだろうが、今回に限っては全員が話すことを忘れ、自らの感覚の赴くがままに刀を振りかぶっていた。

 それだけ目の前の少年がヤバいと、本能で感じとっていたのだ。

 

「【揺らせ“震絃(しんげん)”】!」

 

 先ず、一番最初に仕掛けたのは青鹿だった。彼は解号と共に斧の形に変わった斬魄刀を、思いっきり地面に叩きつけた。

 すると地面が抉れ、捲り上がりながらグレミィの元へと接近する。

 

 青鹿の斬魄刀、震絃の能力は接触の際に、その衝撃を込めた霊力に応じて何倍にも膨れ上がらせること。この地面を介した遠距離攻撃は、彼の精密な霊力操作によるものである。

 

「おっと……」

 

 しかし、グレミィは余裕を持ってこれを躱す。ポケットに突っ込まれた手は未だ抜かれていないので、まだまだ余裕ということだろう。

 

 次にやちるが攻撃を放つ。始解状態を維持したままだった彼女は、グエナエルとの戦いでも見せた、反射に近い恐るべき反応速度でグレミィに斬りかかった。

 

 だが、この攻撃もグレミィには通じない。

 徐にポケットから片手を出したグレミィは、刀を握るやちるの手を掴み取った。言葉にすれば、一撃を受け止めたに過ぎないが、実際は違う。

 今のやちるに攻撃は、始解の能力により一撃が僅かなタイミングが違う三連撃となっている。つまり、グレミィは一瞬でやちるの攻撃を見切り、手を掴むことで三撃分を一度に防いで見せたのだ。

 

 グレミィはグエナエルの戦いを見て、その攻略の糸口を見つけていた。

 

 それは、一番最初に攻撃を繰り出す獣の攻撃を受けとめる、あるいは躱すことだ。

 

 やちるの始解はまねっこの斬魄刀。彼女の後ろに控える二匹の獣はやちるの攻撃を見て、その前と後に全く同じ軌道の攻撃を繰り出す。

 故に、最初の一撃さえ対処することができれば、後の二撃も自動的に対処したことになるのだ。

 

 今回グレミィが行ったのは前者。やちるの攻撃よりも僅かに早いタイミングで手を出したグレミィは、しっかりと三撃分の攻撃を受け止めていた。

 

 そして、グレミィがこの一合で行ったのは防御だけではなかった。

 

「あれ? なにこれ……腕がバキバキ」

 

 突如、グレミィに攻撃を仕掛けたやちるの腕がベキベキと音を立てながら捻じれ曲がった。攻撃を受けた訳でもないのに起こった不可解な負傷にやちるは動揺し、膝をついてしまう。

 また、彼女の後に続こうとしていた一角と弓親も足を止めてしまう。

 

 自分に攻撃をして来る者が居なくなったのを確認して、グレミィは口を開く。

 

「想像してごらん。もし、君の腕の骨がクッキーだとしたら」

 

 何故今この状況で、そんなことを訊かれたか分からなかったが、素直なやちるは思考を巡らせる。

 

「――今、折れて当然だと思ったでしょ? そしてこう想像したでしょ? 腕の骨がクッキーなら、他の骨も全部クッキーじゃないんじゃないかって」

 

 悠然とやちるの下に歩み寄りながら、グレミィはやちるの思考を赤裸々にしていく。

 近づいてくるグレミィに対抗するべく、やちるは折れてない左腕を支えに立ち上がろうとするのだが、今度はその左腕も、右腕と同じように折れてしまった。

 

「副隊長っ!?」

 

 立ち上がることすらできないやちるを見て、一度は動きを止めていた一角と弓親が動き出す。

 三人よりも比較的後ろで様子を伺っていた青鹿も遠距離攻撃で前を行く二人を援護しようとしたのだが、寸での所で止めた。今、斬魄刀の能力を使えば、やちるを巻き添えにしかねないことを悟ったからだ。

 

「【破道の五十七“大地転踊(だいちてんよう)”】!」

 

 まず仕掛けたのは、鬼道による攻撃を放った弓親だった。

 

 攻撃を受け止められたやちるの腕がボロボロにされてしまったので、遠距離からの攻撃を試してみたのだろう。十一番隊において、数少ない鬼道の使い手である彼ならではの判断だった。

 

 今までの戦いの余波によって、壊された建物の瓦礫が一度にグレミィに襲い掛かる。

 

 だが、無数の瓦礫は瞬く間に粉々に砕かれ、砂へと姿を変えてしまう。殺傷能力がなくなってしまったそれを、グレミィは上空へと払い飛ばした。

 

「見えてるよ」

「ぐあっ、ぺっぺっ!」

 

 そして、そこには今にもグレミィに槍を振り下ろそうとしていた一角の姿があった。

 彼は突如として目や口から入り込んで来た砂に戸惑いながらも、咄嗟の判断で後退する。

 

 先程の弓親の鬼道はグレミィの視界を遮る為の牽制でしかない。本命は、鬼道によって浮かび上がった瓦礫を足場に上空へと駆け上がった一角の一撃にあった。

 

 目深にフードを被ったグレミィは平常時よりも視野が狭いはずである。その弱点を見つけ出し、打ち合わせを一切していないのにも関わらず、即座に完璧な連携を取った一角と弓親だったが、彼らの攻撃はグレミィに届かなかった。

 

 切り札を出すしかないのか。そんな思考が二人の頭の中を過った時、グレミィは更なる絶望を叩きつける。

 

「何をしようと無駄だよ。僕の能力“夢想家(The Visionary )”は僕が考えた幻想を現実にする。この世界で一番強い力は想像力だ。僕が思考を働かせる限り、君達は一太刀も僕に入れることはできないし、逆に君達は僕の攻撃を躱すことができない」

「……無茶苦茶だね」

 

 グレミィが思考をすることを放棄したから、彼に創り出されたグエナエルはその存在が無くなった。

 

 グレミィが想像したから、やちるの骨はクッキーみたく脆くなってしまった。

 

 何かの冗談だろう。あまりの理不尽さから、そう思いたくなってしまうような発言だった。

 しかしそれならば、今までの不可解な出来事や言動にも納得がいく。……納得がいってしまった。

 

 最早グレミィが関与する戦いに他者の行動は関与しない。彼が想像すれば、それは必ず現実へと反映される。どこまでも絶対的な理不尽がそこにはあった。 

 

「だからって……退く訳にはいかねぇなぁ!!」

 

 そんな中、不敵な笑みを浮かべながら叫んだのは、粗方砂を払い終え、視界を復活させた一角だ。彼はこの状況でも、何時もと同じように斬魄刀を構えてみせる。それができるのは、戦いで死ねるなら本望という十一番隊ならではの価値観を持っているからだろう。

 彼らにとって、敵より自分が劣っているということは怖気づく理由にならないのだ。

 

 そうして再び一角が足を踏み出した時、彼とグレミィとの間に何者かが舞い降りた。舞う、と表現するには着地の際に地面を陥没させるという荒々しい登場を披露したその男――更木剣八は刃こぼれが激しい刀を肩に担ぎながら、グレミィと対峙する。

 

「なんだぁ? やちるの霊圧がグラついてやがるから探して来てみりゃ、ガキが一匹騒いでやがるだけじゃねぇか」

 

 言葉と共に発せられる猛々しい霊圧は、十一番隊に所属する者達にとって、何よりも絶対的な力の象徴だった。

 

 理不尽と理不尽が、今衝突する。




 本作の最初の方で名前だけ出てた青鹿君の始解がついに登場。
 本作では十一番隊に所属している彼ですが、原作では四番隊に所属しているので、少しだけ斬魄刀を鬼道系に寄せてみました。

 正直出しても出さなくても良かったけど、流石に主人公の同期だし、少しぐらいは出番を設けないとねってことで採用。
 原作で元々副隊長だった修兵や、本作でヒロインのほたると違って中々出番がない不遇な存在。

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