転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 今回六話ぶりの卯月君の登場です。因みにリアルの時間では二か月ぶり。
 そう考えると随分と久しぶりな気がしますね。

 ……それでいいのか主人公。いや、半分は私の投稿頻度に問題があるんですけどね。本当はより多くの読者の目に留まる為にも、もう少し投稿頻度を上げたいんですが、なにぶんこの作品はプロットのない行き当たりばったりな作品なので、大体の活躍する場を決めている卯月君や彼と近しい人間以外の描写は考える所から始めないといけないので、どうしても時間がかかってしまいます。
 そう考えると、六十話も続けることができてるのは奇跡ですね……。もしこの連載が終わってもう一回同じように連載始めろと言われても、できる気がしないですし。まあ、この調子だと完結はまだまだ先になりそうですが、今まで通りのんびりやっていくので、気長に待って下さればと思います。

 あと、今回の話ですが、恐らくあることに関して疑問を持たれる方が居ると思うので、あとがきにて説明します。

 それでは、どうぞ。


第六十話

 卯月がマユリからの吉報を受けたのは、技術開発局に襲撃して来た滅却師の討伐を終えた後だった。

 ペペを倒し、マユリの護衛としてほたると共に結界の周辺を警戒していた卯月。そんな彼が感知した敵は、マユリではなく技術開発局を襲撃していた。

 

 その滅却師の名はシャズ・ドミノ。星十字騎士団の一員でもある彼が技術開発局を襲うに至った理由は、自身の能力との相性が良さそうな、崩玉の情報を手にする為だった。

 そんな彼の聖文字は 『ϛ(スティグマ)』。能力の名も聖痕(スティグマ)と同じであり、能力者の身体の欠損を、周囲の霊子を取り込むことで無限に再生する力を有している。シャズが崩玉を求めるのは、藍染のように崩玉と融合し、無限に力を高め続ける不死の存在となる為だった。

 

 通常なら、どんな敵が相手でも、生き残ることに特化した彼の能力があれば、少なくとも負けることはない。

 だが、卯月は例外だった。彼の斬魄刀、睡蓮の能力の内の一つに、刀身の三つの穴から発せられる煙を取り込んだ対象の、全能力を停止させると共に眠らせるというものがある。つまり、この能力を前にした時、シャズは星十字騎士団などではなく、他の滅却師より少し強い滅却師でしかないのだ。

 

 結果、睡蓮の煙を体内に取り込んでしまったシャズは不死身の能力を発動する事無く眠りへと誘われてしまった。現在、彼は技術開発局にて雁字搦めに拘束されたまま囚われの身となっている。今後彼はその不死身の能力を生かし、マユリの実験の被験体として活躍することだろう。

 切り刻んでも、薬漬けにしても死なない身体。なんと素晴らしいことか。科学者としての観点で見た時、彼以上の実験材料はないと言える。嘗ては十二番隊の隊士の身体に爆弾を埋め込むという非人道的な行為をしてしまったマユリだったが、その身元が敵であったなら、優しさに脊髄が生えたような存在と自称する彼も心を痛めずに済むことだろう。

 

 技術開発局にシャズを預け、結界の中に戻って来た卯月にマユリは最上級の笑顔を浮かべながらこう言った。

 

「先程といい今回といい本当にご苦労だったネ、蓮沼隊長。確実に敵を捕らえ、私に実験材料を提供する君の手腕は見事なものだ。どうかネ? 君さえ良ければこの戦いが終わった後も、私の助手として働いてみるというのはどうだろう? 勿論、君の隊長としての仕事を妨げることはないし、報酬も弾むヨ」

「あはは……」

 

 実際、敵を捕縛するという観点で見た時、縛道に秀で、更には斬魄刀の能力で敵を無力化できる卯月はこれ以上ない人材と言える。隊長という事もあり、戦闘力も折り紙付きだ。

 

 ただ卯月からすれば、あまり気の進む話ではない。確かに、卯月は殺生を好まない。しかし、彼とてマユリに身柄を明け渡すことが、どういうことを意味しているのかは理解している。今回だって、マユリや技術開発局の要請があったから、仕方なく渡したのであって、別に自ら進んで実験材料を提供したい訳ではないのだ。

 

 こんな状況でもマイペースなマユリに卯月はただただ苦笑するしかなかった。

 

「フン、どうやらあまり乗り気ではないようだネ。まあ、いい。君の働きに免じて今回は見逃してやろう。気が変わったら何時でも言ってくれ給え。その時は歓迎するヨ。――では、説明に入るとしようかネ」

「お願いします」

 

 ただ、マユリ自身もこの場で返事を貰おうとは思っていなかったようで、卯月の態度を見て直ぐにスイッチを切り替える。

 そして卯月も、マユリから聞いた説明を味方に伝えられるように、天挺空羅を発動させた。

 

「結論から述べるとしよう。賊軍の卍解を奪うこの円盤状の道具、これを無効化する為の鍵は虚にある。これは状況証拠に過ぎないが、これまでの報告に賊軍が破面の帰刃を奪ったという報告はなかった。おかしいとは思わないかネ?」

 

 マユリは卯月の思考を促すように話を進めていく。余計な一手間かもしれないが、ただ話を聞いてそれを鵜呑みにするのと、理解して発信するのとでは訳が違う。卯月もまた、マユリの問いに答えるべく、顎に手を当て、思案の表情を浮かべた。

 

「確かにそうですね。破面の帰刃は死神の卍解と同等の力が秘められてるはず……。それを滅却師が奪わないのは不自然な気がします」

 

 破面の力は決して侮れるものではない。それはグリムジョーとネリエルが星十字騎士団を倒していることから十分に理解できるはずだ。

 加えて今回の戦で、滅却師は何人もの破面を捉えて、自らの陣営に連れ帰っている。このことから滅却師が破面を戦力と考えているのは自明の理。

 それにも関わらず、帰刃を奪おうとしない星十字騎士団にマユリは違和感を持ったのだ。

 

 卯月の理解が話に十分ついていっているのを見て、マユリは話を続ける。

 

「滅却師が卍解を奪うのにも関わらず、帰刃は奪わない。考えられる理由は二つ」

「――単純に帰刃自体を奪えないか、滅却師が帰刃を奪えないか……ですかね?」

 

 マユリの言葉を引き継ぐように、卯月は答えた。

 あと一つ、滅却師の誇りが許さないというのも考えたが、これは敵が虚の力を有する一護の卍解を奪おうとしたことから除外した。

 少し不安になりながら、卯月はマユリに目を遣るのだが、マユリは満足気に頷いていた。正解ということだろう。

 

「そして、虚に関する研究からは、卍解が奪えて、帰刃が奪えない理由など思い当たらない。だとすれば、後者だと考えるのが妥当だネ」

 

 自分も思考を巡らせているからだろうか、段々と答えに近づいていくのを卯月はひしひしと感じていた。

 

 そして説明も終盤に差し掛かる。マユリは説明の為に卯月の視線の方向をペペの方へと誘う。するとそこには、先程からは想像もできない程衰弱しきったペペの姿があった。このままでは、命を失うのも時間の問題だろう。

 

 マユリには、かねてより滅却師に対する疑問があった。それは何故、彼らは今になっても虚にあそこまで過剰なまでの憎しみを持ち続けられるのだろうということだ。

 滅却師とは、人間が虚に対抗する為に、修行を積んだことで生まれた種族だ。故に今の滅却師が持つ虚に対する憎しみも、先祖代々言い伝えられたものと解釈することができるのだろうが、それにしては彼らが持つ憎しみは強すぎた。

 

 かつて彼らは三界のバランスを保つ為に、なるべく虚を滅却しないよう死神から要請を受けていたのだが、彼らはそれに従うことなく虚を滅却し続けた。しかし、そんなことをすれば三界のバランスは崩れる一方だ。やがて戦いは死神と滅却師の争いが勃発するまでに膨れ上がり、この戦いで滅却師という種族は大きく衰退した。

 

 はっきり言ってこれは異常だった。三界のバランスの崩壊は、世界の滅亡に繋がる。幾ら滅却師が虚を滅却し、その場の安全を手に入れようとも、それは皮肉なことに破滅への一歩にしかならないのだ。これは少し考えれば分かることなのだが、終ぞ滅却師が虚を滅却することをやめることはなかった。

 故にマユリは考えた。彼ら滅却師には、三界のバランス以上に虚を狩らねばならない理由があったのではないかと。

 

 そして、ペペに対する実験でマユリは確信した。

 

「この滅却師に対する実験で納得がいったヨ。滅却師とは、虚に対して一切の抗体を持たない種族だ。そんな彼らにとって虚の霊力は毒そのもの。虚の力が侵食すれば、霊力が弱体化するのみならず、最終的には魂魄が崩壊して死に至る。虚化なんて道は残されていない」

 

 僅かでも虚の霊力を取り込めば致命傷になりかねない滅却師にとって、世界の滅亡よりも、その時点の自らの命の方が重要だったのだ。そうしていれば、少なくとも世界が滅亡するまでは生き延びることができるから。

 

 ここまで考えが至れば、対策を講じることは容易だろう。

 

「つまり滅却師が帰刃や一護君の卍解を奪えないのは、そこに虚の力が含まれていたから。ということは、僕達の卍解に多少なりとも虚の霊力を混ぜることができれば、敵は卍解が奪えなくなる……ということですね?」

 

 答えを導き出した卯月に、マユリは『ああ』と頷くと、後ろの方で控えていたネムに手を差し出した。ネムはそれに呼応するように、マユリの掌に今まで預かっていた包みを渡す。

 マユリが包みを開くと、そこには白い液体が入ったスポイトのようなものが二つ入れられていた。

 

「これは遮光薬と言ってネ。これを刺した死神は、卍解の際に一瞬だけ虚化する。虚化といっても、卍解を手にした隊長格ならば、誰でも耐えられる軽いものだヨ。ここが屋外ということと、実験に使ってしまったということもあって、虚の霊力が足りなくなってネ。悪いがここにある二つが全部だヨ。私は君の卍解を戻したあと、急ぎ技術開発局に戻り、追加の薬の生成に取り掛かる。そこで蓮沼隊長には、総隊長の元にその薬を転送して貰いたい。もう一つは……君が使うといいヨ」

「はい、分かりました」

 

 そう言ったマユリは素早い動作でメダリオンを操作し、卯月の卍解を元に戻すと、せっせとネムと共に広げた機材の片づけを始める。

 自身の倍の大きさはあろうペペを肩に担ぐネムの姿は、控えめに言っても違和感満載だった。

 

「行くヨ、ネム」

「はい、マユリ様」

 

 結界の外を出るマユリの後ろをネムが追従する。それを見送った卯月は、念のためにほたるを護衛につけ、即座に薬の転送に取り掛かった。

 

 

***

 

 

 そんなことがあって元柳斎は今、卯月から送られてきた薬を手にしていた。

 

「……ご苦労」

 

 鬼道による通信の最後に、卯月とマユリを労るような声をかけた元柳斎は、傷口を炎で強引に接合し、立ち上がる。

 

「そうだ。それでいい。あの程度で倒れられては、こちらとしても興ざめだからな」

 

 まだ闘志を絶やさない元柳斎に、ユーハバッハはそうでなくてはと言わんばかりに頬を緩めた。それだけ、千年という年月は長かったのだろう。彼も先程のロイド・ロイドを相手していた元柳斎と同じように時間をかけて殺すつもりのようだ。

 

 しかし、その悠長がユーハバッハに対して牙を剥く。

 

「判断を誤ったな、ユーハバッハよ」

「……なに?」

「儂と同じように、時間をかけて嬲り殺す算段だったようじゃが、お主は理解しておらんかったようじゃな。時間をかければかける程、自身が不利になっていくということを」

 

 そういうと元柳斎は、送られてきた遮光薬を腕に刺した。白い液体が元柳斎の体内に注入されると共に、彼の持つ霊圧の質が僅かに変容していくのをユーハバッハは感じ取った。

 

「これは……虚の霊力か!」

 

 目を剥くユーハバッハだったが、もう遅い。

 この戦いの早い段階で、卯月は囮としての役割を遂行し、マユリの卍解略奪の解析は始まっていた。そんな中、戦闘に時間をかければ、当然解析も進んで行く。ユーハバッハは意図せず自らの首を絞めていたのだ。

 

「最初の一合の後、直ぐに儂を殺しに来んかったこと、後悔するがいい」

 

 ユーハバッハが最も元柳斎を殺せる可能性が高かったのはそこだった。その証拠に、あの一合で元柳斎はユーハバッハの実力を見極めきれずに傷を負ってしまった。

 つまりユーハバッハは機を逸してしまったのだ。

 

 元柳斎の霊圧が急上昇する。纏っていた炎熱地獄の炎が全て刀身に集束した。

 

「【卍解】」

 

 静かに、元柳斎はその解号を言い放つ。すると、今まで猛々しく燃え盛っていた炎が元柳斎の声音の同調するように粛としたものへと変わっていった。

 

 そして――。

 

「なん……じゃとっ!?」

 

 ――完全に消えうせた。

 

 一瞬、何が起こったのか分からなかった。しかし炎が、解放した“残火の太刀”がユーハバッハの掲げるメダリオンに吸い込まれていくのを見て、嫌にでも分からされた。

 

 ――卍解が、奪われたのだと。

 

「……どういうことじゃ?」

 

 確かに、自分は遮光薬を打ち込んだはずだ。自分の霊圧が僅かに変化していくのも感じ取ったので、効き目がなかったという訳でもない。

 であれば、マユリが対策を間違ったと考えるしかないのだが、それこそあり得ない。涅マユリという男は性格こそ残虐なマッドサイエンティストだが、その知能と実験に対する姿勢は本物だ。だからこそ、元柳斎は対策を任せたのだ。そんな彼がこの大切な場面で失敗するとは考えづらかった。

 

「よくこの短時間で星章化の秘密に辿り着いた。しかし、惜しかった」

 

 故に、ユーハバッハも称賛の言葉を投げかけた。

 実際、マユリの対策は間違っていなかった。実験によって導き出された結果は嘘をつかない。滅却師は虚が弱点という観点も、卍解を虚化させる手段も何ら間違っていない。

 

 ただ、対策する相手を間違えてしまったのだ。

 

「もし私以外の滅却師が相手だったのならば、その手でも十分通用していただろう。だが、相手が悪かった。――何故なら、私は虚に対する耐性を持つ滅却師なのだからな!」

 

 マユリが執った手段は、滅却師という種族に対して行ったものなのであって、ユーハバッハという個人に対して行ったものではない。

 このような屁理屈、普通ならば通用しない。しかし実際に、元柳斎の卍解を手中に収めたユーハバッハの姿が、否が応にもそれが真実だと告げていた。

 

「さて、己の斬魄刀に別れを告げる覚悟は出来たか?」

 

 メダリオンに納めた炎が再び燃え上がる。

 解放される力を、ユーハバッハは自身の持つ剣に宛がった。

 

「【卍解“残火の太刀(ざんかのたち)”】」

 

 炎がユーハバッハの剣へと乗り移る。そして次の瞬間、剣は爆炎を吐き出すことなく、焼き焦げた。しかし、剣から伝わる力は見た目に反して膨大。思わずユーハバッハは笑みを浮かべてしまう。

 

「素晴らしい卍解だ。千年前とは似ても似つかない。腕を上げたな」

 

 卍解を手中に収めたことで、ユーハバッハは元柳斎の卍解がこの千年でどう成長を遂げたのか、詳らかに理解できた。

 その力は以前とは比較にならず、千年彼より強い死神が生まれてないという言葉は伊達ではなかった。

 

「だが、残念だったな。貴様がこの千年斬魄刀と共に積み上げて来た努力も、力も、絆も、たった今全て私の物となった」

「黙れっ!」

 

 千年もの月日の全てを踏みにじるようなユーハバッハの発言に、元柳斎は絶叫しながら流刃若火を振るう。刀身からは爆炎が発せられるが、それらは全てユーハバッハの持つ残火の太刀の一振りによって掻き消された。

 

「貴様の斬魄刀なのだから、敵わぬことも知っているだろう。【残火の太刀・東“旭日刃(きょくじつじん)”】。爆炎を全て鋒に押し留めることで発せられる、超高温の斬撃だ」

 

 始解と卍解の出力の差は、斬魄刀によって違うが、約十倍前後とされている。それは死神ならば、誰もが知っていることだ。

 幾ら元柳斎が炎熱地獄を応用することで、千年前の頃の卍解を再現しようとも、それは始解の域を出ない。今のユーハバッハからすれば、誤差の範囲でしかないのだ。

 

 故に元柳斎にとって今の状況は絶望的。それでも刃を振るうのは護廷十三隊総隊長と、山本元柳斎重國という一人の死神の誇りを護る為。総隊長として、ここで引く訳にはいかないし、例え卍解が奪われようとも、斬魄刀と培ってきた絆は消えない。それだけは、何としても護り抜かねばならなかった。

 決して刀を握る手は緩めず、火の斬撃を放ち続ける。気合で状況がひっくり返るような次元は到に超えていたが、それでも元柳斎がその闘志を絶やすことはなかった。

 

 しかし、その最後の悪足掻きも、残火の太刀の前には無力。元柳斎が放つ炎は、ユーハバッハの纏う炎に全て飲み込まれてしまった。

 

 ――【残火の太刀・西“残日獄衣(ざんじつごくい)”】

 

 術者の霊圧が、超高温の鎧となって触れるもの全てを消滅させる技だ。その温度は太陽の中心のものと等しく、実に千五百万度。

 ただそこに居るだけで、世界を崩壊させかねない程の熱を、ユーハバッハは身に纏っていた。

 

 そのままユーハバッハは、ゆっくりと元柳斎の元へと歩み寄る。一歩一歩、踏みしめる度に消滅していく石畳は、この後の元柳斎や尸魂界の運命を暗示しているかのようだった。

 その間も、元柳斎は刃を振るい続けるが、やはりユーハバッハの歩みは止まらない。

 

「さらばだ、山本重國。――【残火の太刀・北“天地灰尽(てんちかいじん)”】!」

 

 そして、終わりは唐突に訪れた。

 ゆったりとした歩みとは、打って変わった一閃。そこから放たれた三日月型の炎が元柳斎に襲い掛かる。その技の性質は、一護の月牙天衝に酷似しており、刀身から炎を放つという側面では、始解のものと何ら変わらない。

 だが、この一撃は両者共に比べ物にならない程の威力と熱量を孕んでいた。

 

 自分の技であるが故に、元柳斎はユーハバッハが“天地灰尽”を撃つことを察知していた。また、それを防げないことも理解していた。

 

 ユーハバッハが放った“天地灰尽”は元柳斎が最後に放った炎を斬り裂き、彼が構える流刃若火も一瞬にして溶かし斬る。それから元柳斎の身体に到達するのに、そう時間は掛からなかった。

 

 胴を横に両断された元柳斎の上半身が、支えを失い地面へと落下する。しかし、それでも下半身は地に足を着け、立ち続けていた。身体を切り離され、尚且つ近くに回道を扱える者が居ない以上、元柳斎の生存は絶望的だろう。だが、それでもなお彼は敵に立ち向かう。

 

 ――立ちて死すべし。

 

 それこそが護廷十三隊総隊長(山本元柳斎重國)としての心意気だと言わんばかりに。

 

「フ、くだらん」

 

 しかし、ユーハバッハはそんな元柳斎を嘲笑う。

 ユーハバッハは今回の戦いに於いて、警戒すべき五人の死神を特記戦力として定めていたが、その中に元柳斎は含まれていなかった。普通に考えれば、単純な戦闘力では右に出る者が居ない彼は真っ先に警戒するべき人物であろうにも関わらずだ。

 それらの理由は、全て千年前と今とでの、元柳斎の戦いに対する姿勢の変化にあった。

 

 ユーハバッハの知る千年前の彼は、正に戦いの鬼。敵を討つに利するものはすべて利用し、人の命はもとより、部下の命にすら灰ほどの重みも感じない男だった。

 そんな彼が創設した当初の護廷十三隊は、護るという名ばかりが先行した、ただの殺し屋集団だった。

 

 しかし、千年を経てそれは変わった。滅却師を倒し、平和を手に入れた元柳斎は護るべきものを増やし、慈しんだ。一言でいえば、丸くなったということだろう。

 だから、元柳斎は藍染の乱で失った左腕を治さなかった。代償鬼道にて跡形もなく消し去ってしまった為、回道では治せないが、井上織姫の事象の拒絶ならば、それが可能であったのにも関わらずだ。その理由は、本来ならば護るべき存在である現世の人間を、こちら(尸魂界)の事情に巻き込みたくなかったから。それは千年前の元柳斎であったならば、辿り着かなかったであろう考えだった。

 

 それが正しかったかどうかは分からない。だが、事実として元柳斎はユーハバッハに特記戦力から外され、卍解を奪われた上で敗北している。

 故にユーハバッハは元柳斎の変化を哀れだと断じ、鼻で笑ったのだ。

 

「仕上げだハッシュバルト。星十字騎士団全名に伝えよ。――尸魂界を徹底的に蹂躙せよ」

 

 卯月と砕蜂に対する情報の不足や、一護達の加勢などもあって、不利な局面に立たされていた星十字騎士団だが、それも元柳斎というトップが討たれたことによる士気の低下で十分引っくり返せるだろう。

 懸念があるとすれば、特記戦力の一人である一護や死神側の士気の影響を受けない破面の二人だが、それらは自ら向かえば問題ない。

 

 これから先のことを考えながら、卍解を解いたユーハバッハはもう用済みとなった元柳斎から目を離そうとするのだが、次の瞬間、予想外のことが起きた。

 

「なに……!?」

 

 ――元柳斎の身体が巻き戻ったのだ。

 

 先程まで地面に横たわっていた元柳斎の上半身が、まるで何事もなかったかのように下半身と接合していた。しかし、死覇装の損傷だけはそのままで、それがこの嘘のような状況を現実たらしめていた。

 

 回復ではなく、巻き戻ったという表現がユーハバッハの頭の中を過ったのは、そのほうがしっくり来たから。回道などの術を使うならば、まず負傷者を寝転ばせて、楽な姿勢に変えてから行うだろう。しかし、今の元柳斎は上半身の方が両断されてなお立ち続ける下半身に合わせるように接合された。敵を目前にして、時間がなかったと言えばそれまでだが、それを抜きにしても今の元柳斎の回復は早すぎた。

 まるで、壊れた人形を無理やり縫い付けたような、そんな強引さをユーハバッハは感じ取ったのだ。

 

 原因を探るべくユーハバッハは元柳斎に目を凝らす。だが、原因はユーハバッハの注意とは裏腹にあっさりと見つかった。元柳斎の下半身、そこには解けないように何度も巻きつけられた黒い鎖があった。

 

 どんな状況でも対象を死なせない再生能力に黒い鎖。思い浮かぶのは一人しか居ない。

 気付けば、激しい戦闘によって見晴らしが良くなったはずのこの場は、大きな影に覆われていた。

 

 元柳斎に巻き付いた鎖を辿った先に居たのは、空に浮かぶ幾重にも重ねられ巨大な球状の鎖の下で、まるでそれに取りつかれたかのように静かに佇む一人の青年――檜佐木修兵だった。

 

「【卍解“風死絞縄”】」

 

 命を刈り奪る。そんな側面を持つはずの彼の鎖は、今この瞬間、元柳斎の命、牽いては尸魂界の命運を確かに繋ぎとめていた。




 前回の感想欄を見た限りだと、今回の感想欄、大荒れする可能性があると思ったので、前書きにある通りここで弁明しておきます。何についての弁明かと言うと、ユーハバッハが虚に対する抵抗を持っている滅却師だという事に関してです。

 ユーハバッハは、力を与え、回収することができる能力を持っています。
 原作の最終決戦でもユーハバッハはこの力を使い、一護から滅却師と虚の能力を奪っていました。
 そして、この際に虚の力に耐えられたということは、ユーハバッハが虚に対する耐性を持っている滅却師であるということに繋がります。

 Q.E.D 終了。(何のネタかは知らんが、一度言ってみたかった)

 上手く言えたかは分かりませんが、これで説明を終わりたいと思います。それに自信もないので、補足がある方は遠慮なく言ってくれたら幸いです。

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