転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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第六話

 僕が五番隊に入隊してから四年が経過した。始解の制御はある程度できるようになり、縛道も最近では七十番台が撃てるようになってきたし、白打の訓練も最近では七席となった楠木さんから偶に一本を取れるようになってきた。

 

「おはようございます、蓮沼十席っ!」

「うん。おはよう」

 

 そして、僕は五番隊十席へと昇進していた。

 

 

***

 

 

「すぅぅ……はぁ」

 

 五番隊隊首室へとついた僕は緊張を解す為に深呼吸をしていた。席官の仕事にも慣れてきた僕だけど、藍染隊長と話すことだけは未だに慣れないし、多分これから未来永劫慣れる時は来ないのだろうと思う。

 

 意を決した僕は扉を三回ノックした。

 

「どうぞ」

 

 すると、中から相変わらずの低音イケボが聞こえて来る。

 

「失礼します」

「やあ、蓮沼君。とりあえず座るといい。紅茶でも淹れるかい?」

「え? あ、いやいやいや! 何をしているんですか藍染隊長!? 紅茶なら僕が淹れますから、藍染隊長は座っていて下さい」

 

 急に何を言っているんだこの人? 

 

「いいんだよ。丁度現世でいい茶葉が手に入ってね。他の人にも飲んで欲しかったんだよ」

「……じゃあ、そういうことなら」

 

 僕は渋々引き下がり、腰を下ろした。

 久し振りに飲んだ琥珀色の液体は今までに飲んだことのないレベルで美味しかった。……ホントにこの人何でもできるな。

 

「ところで、席官の仕事にはもう慣れたかい?」

「はい。……その、仕事自体にはもう支障がないくらいには慣れたんですが、ついこの間まで上司だった方が急に部下になったのが少しやりづらくて」

 

 昇進したこと自体は嫌なことではない。寧ろ嬉しいくらいだ。だけど、考えてみて欲しい。つい昨日まで敬語を使って話していた人が急に敬語を使って話して来るのだ。十席になって一ヶ月が経とうとしているけれど、こればっかりは未だに慣れなかった。

 

「ふむ。僕もそうだったから気持ちは分からなくはないけど、蓮沼君のように昇進した者はこの護廷十三隊には何人も居るよ。だから、昇進した蓮沼君を悪く思うような人物は少なくともこの隊には居なかっただろう?」

「はい、それは重々承知しているのですが……」

 

 藍染隊長の言うことに嘘はない。実際僕のように、或いはそれ以上に劇的な昇進を遂げることは護廷十三隊ではそう珍しい事ではない。

 例えば、この五番隊の副隊長である市丸ギンさんも真央霊術院にいたころからその頭角を現し、護廷十三隊入隊当初から三席の座に就いていたという鬼才ぶりだ。それに比べたら僕の昇進なんて正に月とすっぽんだろう。

 

 そう理屈では分かっていた。

 

 だけど、僕は前世の記憶を残した根っからの日本人だ。こんな急な昇進、日本なら絶対嫉妬や反感を持たれていただろう。故に、落ち着かなかったのだ。

 

「直ぐに慣れるさ。どうしても落ち着かないというのなら……」

「言うのなら?」

 

 ここで、間を作る藍染隊長。台詞の言い回し一つを取っても完璧だった。

 

「蓮沼君が誰にも文句を言われないように努力をすればいい」

「努力、ですか……」

 

 確かに、言っていることは理にかなっていた。納得できていないのは僕自身なのだから、要は僕が納得できるまで努力を積めばいいのだ。寧ろそれ以外に方法があるのかとさえ思った。

 

「それでも行き詰まった時は僕で良ければ相談に乗るよ」

「藍染隊長、ありがとうございます!」

 

 やはり完璧だった。きっと、原作知識がなければ僕は藍染隊長にこれ以上ない程の尊敬の念を抱いていただろう。

 

「礼には及ばないよ。隊士の悩みに耳を傾けるのも、隊長の仕事だからね」

「はい。……あのー、それで藍染隊長、話というのは?」

 

 一段落ついた所で本題に入る。事前に聞いた話では、僕に仕事を頼みたいそうだけど、詳しい話は聞いていない。

 一応、席官になったので、現世駐在任務は流石にないだろうけれど、不安は拭えなかった。

 

 そして、藍染隊長が僕に持ちかけた話は僕の予想を遥かに超えるものだった。

 

「教鞭を執ってみるつもりはないかい?」

「……はい?」

 

 ――どうやら僕は、入隊して僅か四年で首が切られるようです。

 

 

***

 

 

 四年ぶりに真央霊術院への道を歩く。男女で色違いの制服に、道の左右に植えられた植物。視界に映るもの全てが懐かしかった。

 

 結論から言うと、クビという訳ではなく、僕は本日、特別講師として真央霊術院に招かれていた。

 

 以前にも言ったように、真央霊術院では時折護廷十三隊の隊長格が講師として招かれる事がある。

 別に僕は隊長格という訳ではないけれど、そんな事は関係ないと言わんばかりに僕の六回生の時の担任教師が僕を招いたのだ。

 

 ――その理由は今年の六回生が僕が在院していた時の一年生だからという所にある。

 

 自分で言うのもなんだけど、僕は真央霊術院時代はかなりの有名人だった。成績が良かったというのもそうだけど、それに拍車をかけたのは間違いなく、五年前の現世遠征だろう。

 だけど、その当時の後輩達は殆ど卒業し、今の六回生が僕をよく知る最後の後輩となってしまった。

 そして、それに気を使った学年主任となった僕の元担任が僕に特別講師を依頼したというわけだ。……どうせそんなものは建前で本当は自分がいい顔したいだけだろうけど。

 

 まあ、僕としては別にそれでも一向に構わないんだけどね。懐かしい顔も見れることだし。

 

「着いたか」

 

 僕は思考を打ち切り教室の前に立った。その扉には六回生一組と書かれたプレートがかけられている。因みに、真央霊術院の一組とは特待生を指す。

 

 もう、分かっただろうか?

 

 そう、今回僕が授業を受け持つ六回生一組は五年前の現世遠征で僕が付き添ったクラスだ。

 

「すぅぅ……はぁ」

 

 僕は一度深呼吸をする。やはり大勢の前に立つのは緊張するし、ましては授業をするとなるとちゃんと教えられるかどうか凄く不安だからだ。

 

「よしっ」

 

 意を決した僕は勢い良く扉を開いた。それと同時に生徒達が一斉に僕の方に視線を向ける。

 その表情は様々で、驚愕する者もいれば、困惑する者もいるし、中には笑顔を浮かべる者もいた。

 

 僕は教卓の後ろに立ち、口を開く。

 

「久し振り。……って言ってももう忘れられてるかな? 護廷十三隊五番隊十席の蓮沼卯月です。今日は一日よろしくね」

 

 瞬間、教室中に拍手が鳴り響いた。

 

 

***

 

 

 僕が今日任せられた授業は縛道の実習だ。故に場所を演習場に移していた。

 僕は半円状に生徒を集合させ、説明を始める。

 

「僕もそうだから始めに言っておくけど、この中には縛道或いは鬼道が苦手な人もいると思う。だけど、今日はそんな人でも為になる授業を考えて来たからしっかり聞いて欲しい」

 

 僕の発言に何人かの生徒がこくりと頷く。

 

「その理由は二つあるんだけど、分かる人いる?」

 

 別に僕としてはここで答えを言ってしまってもいいんだけど、これは授業だからね。できるだけ生徒中心に進めて行かないといけない。

 

「はいっ!」

 

 すると、元気よく手を上げた生徒がいた。

 良かった。手を挙げてくれる人が居て、と少しホッとしながら僕はその生徒の名前を呼ぶ。

 

「じゃあ、雛森さん」

「はい。それは例え鬼道が不得意だとしてもその鬼道の事を知っていれば戦闘時の対処も比較的やりやすくなるからです。また、鬼道には例え番号が低い下位の鬼道でも十分に有用なものも存在します」

「うん。その通りです。よく勉強してるね」

「いえっ、それほどでもないです……」

 

 僕が褒めると雛森さんは顔をほんのりと赤く染め、モジモジする。……何をそんなに恥ずかしがっているのだろうか? 寧ろ誇っていいことだと思うんだけどな。

 そして、吉良君。どうして君はまた僕をそんな形容し難い顔で見てくるのかな? 

 

「僕が言いたいことは雛森さんと同じなんだけど、やっぱり百聞は一見に如かずだからね。誰か鬼道が苦手な人で僕と模擬戦をしてみない? 因みに僕は縛道は三十番台までしか使わないし、瞬歩も相手と同じくらいの精度まで落とすけど」

 

 刹那、場が凍りついた。

 

 でも、その方が一々説明するよりも楽だし、頭にも入り易いからね。

 

「じゃあ、俺が行ってもいっすか?」

「うん、よろしくね。阿散井君」

 

 そして、手を挙げてくれたのは、雛森さん、吉良君に引き続いて原作キャラの一人である阿散井恋次君だった。

 

「じゃあ、誰かに審判をお願いしたいんだけど……」

「はいっ、私がやります」

「うん。それじゃあ、雛森さんよろしく」

 

 僕に頷いた雛森さんは審判の位置に就いた。僕と阿散井君も所定の位置に着き、雛森さんにアイコンタクトを送る。

 

「これより蓮沼卯月さんと阿散井恋次君の模擬戦闘を始めたいと思います。二人とも、用意はいいですか?」

 

 僕と阿散井君はほぼ同時に頷いた。

 

「それでは、用意」

 

 阿散井君は木刀を抜いて、僕はいつも通り白打の構えをとる。

 

 最近では、僕は模擬戦の時に木刀を腰に差すことすらしなくなった。剣道三倍段と言う言葉があるけど、それは最早僕には関係のないものとなってしまった。

 始解をしたことで僕の斬魄刀は極端に短くなったので、剣術の修行が白打の修行の延長線上で済むようになったのだ。

 

「始め!」

 

 号令と同時に、お互いが全力で接近した……なんてことはなく、お互い摺り足で動く様子見と言った感じで試合は幕を開けた。

 だけど、今回の模擬戦で僕から仕掛けるつもりは全くない。――何故なら、僕の初手はもう決めてあるからだ。

 

 暫し同じ状態が続くと、痺れを切らした阿散井君が斬りかかってくる。

 

「【縛道の八“(せき)”】」

 

 そして、僕はその攻撃を手の甲に展開させた盾状の鬼道で防ぐ。もし、この模擬戦が斬魄刀で行われていたら話は別だったけど、木刀なら一桁の鬼道で防げる。

 

「ちぃっ!!」

 

 阿散井君はそれでも諦めずに木刀を振り続けるけど、僕はそれを両手に展開した“斥”で防ぎ続けた。

 ……さて、そろそろいいだろう。 

 

「ふっ!」

「くっ!?」

 

 僕が白打で反撃に移ると、阿散井君はそれをなんとかかわし、すぐさま体勢を立て直した。

 

 だけど、これで縛道を撃つための距離は稼げた。

 

「【縛道の二十二“赤煙遁”】」

 

 僕は赤い煙を放ち、阿散井君の目を眩ませる。

 

「【縛道の二十六“曲光(きょっこう)”】」

 

 次に霊力で覆った対象を見えなくする鬼道である曲光を自身に施し、その後自身の霊圧を消すことで、ほぼ完全に気配を絶った。

 

 そして、赤煙遁によってできた煙が晴れる。

 

「なん……だと……!?」

 

 先程まで僕が居たところを見た阿散井君を始めとする院生の皆が驚愕した。

 

 とはいえ、こんな技本来なら奇襲以外ではなかなか使えない。何故なら、一つの鬼道をずっと維持しながら動き回り、戦うことはとても難しいことだからだ。そして、これは別の鬼道を同時に使おうとした時に難易度がまた跳ね上がる。

 また、格上や実力が拮抗している相手と戦う時にも使えない技だ。それらの相手には攻撃する際に霊力を解放する必要が出てくるため、結局攻撃を入れる前に相手に感知されてしまうのだ。

 

 ――だけど、逆に言えば攻撃をする必要のない隠密行動や模擬戦闘では絶大な効果を発揮する。

 

「それまで!」

 

 次の瞬間、僕の手刀は阿散井君の喉元へと置かれていた。

 

 

***

 

 

 模擬戦を終えた後は通常講義へと戻る。今日僕が採用した指導方式は――自主学習制だ。

 

 これだけ聞くと、まるで僕が授業が面倒で怠けている碌でなし講師のように思えてくるけど、そうではなくこれにはちゃんとした理由がある。

 

 ――それは習得速度の個人差だ。

 

 真央霊術院では一つの講義で皆、同じ鬼道を学ぶことが多いんだけど、僕はこの指導方針を真央霊術院に居た頃から疑問に思っていたのだ。

 人によって習得速度が違えば、当然個人の課題も変わってくる。例えば、五十番台の鬼道を習得している人と二十番台までしか鬼道を習得していない人とが同じ三十番台の鬼道を修練しても得られるものは全然違う。

 五十番台まで鬼道を習得している人は六十番台の練習をすればいいし、二十番台までしか鬼道を習得していない人は三十番台の練習をすればいい。わざわざ他の人間に合わせる必要はないのだ。

 

 故に僕はこの講義では生徒がそれぞれの課題に取り組み、分からないことがあればそれを疑問のままにせず、僕に質問してくるように言いつけた。

 だからと言ってその間に僕はだらけるようなことはせず、生徒にアドバイスを言うために演習場を歩き回っている。

 

 一人目は筋肉質の男子生徒だった。

 

 彼は見た目に反して鬼道が得意なようで、縛道の三十九“円閘扇”について質問をしてきた。

 一度彼の縛道を見せて貰ったんだけど、霊力の凝縮が足りていなかったようなので、先ずは手で丸を作り、その中で円閘扇を使ってもらうようにしたところ、どうやらコツを掴んだようで今は徐々に範囲を広げていっている。

 

 二人目は活発そうな女子生徒だった。

 

 彼女は見た目に反せず、鬼道が苦手なようで縛道の二十六“曲光”の教えを乞うて来た。なんでも今までは鬼道の習得は諦めており、剣術や歩法の修行ばかりに打ち込んでいたそうなんだけど、僕と阿散井君の模擬戦を見て興味を持ってくれたらしい。

 彼女は曲光の効果である霊圧で覆った対象の姿を消すという現象にいまいちイメージが湧かなかったそうなので、先ずは刃禅の要領で座禅を組み、しっかりとイメージを浮かべる所から始めた。

 実はこの修行法は僕も実際に使っている修行法で、元来日本人である僕は最初鬼道という魔法のような現象になかなか理解が追いつかず、苦戦していたんだけど、この修行法を使うようになってからはそれまでの苦戦が嘘のように縛道を覚えていくことができたのだ。

 それを話したところ、最初は訝しげな視線を僕に送っていた彼女は素直に座禅を組み、イメージトレーニングに入った。すると、今までより遥かに霊力が練りやすくなったそうだ。完成はまだだけど、これならあと一週間もすれば習得できると思う。

 

「あの……蓮沼先輩、ご教授願えますでしょうか?」

「うん。いいよ、雛森さん」

 

 そして三人目は雛森さんだった。

 

「【(よぎ)(くれない) 拭えぬ罪咎(つみとが) 穢れし(むくろ)(すさ)んだ声音 戒律・法典 聖なる(かいな)を以てその身を堕さん】」

 

 雛森さんが撃とうとしている鬼道は縛道の五十三“厳封牢檻(げんぷうろうかん)”だ。それにしても驚いた。――雛森さんは鬼道に関しては真央霊術院卒業時の修兵よりも見込みがあった。

 六回生の前半に五十番台の修行をしているのがいい証拠だ。僕の場合はこの時点で六十番台前半を習得していたけれど、それは縛道だけの話だ。恐らく雛森さんは破道も縛道と同等のレベルにまで昇華させているはずだ。

 

 まあ、でも……

 

「【縛道の五十三“厳封牢檻”】っ!」

 

 ――まだ、実力に関して言えば、卒業時の修兵の方が上かな?

 

 雛森さんが撃った縛道は数十本の柱を立てて檻を形成しようとするが、構築の途中で四散してしまった。

 

「……ダメでした」

 

 心底残念そうに落ち込む雛森さん。だけど、一回見せてもらったことで原因は分かった。

 

「柱一本一本に込められている霊力がバラバラだね。だから、檻を構築する時に柱が噛み合わなくなって失敗する」

「……そうですよね。分かってはいるんですが、どうすればいいのか分からなくて」

 

 なるほど。自身で問題点には気づいていたけれど、それをどう修正すればいいのかが分からなかったということか。

 

「うーん。先ずは小さめに撃ってみるのがいいんじゃない? それでコツが掴めたら大きくしていく感じで」

「……小さく、ですか」

 

 結局、僕にできたアドバイスは一番最初の男子生徒と同じものだけれど、効果は既に実証済みだ。才能ある雛森さんならすぐにコツを掴むことができると思う。

 

「そうそう、無理に大きくしようとしてもそれに見合った霊力の操作が身についていないと無意味だからね。だから先ずは自分にできるギリギリのサイズから始めてみよう」

「はい、分かりました」

 

 僕のアドバイスに返事をした雛森さんは的に向き直り、再度詠唱を始める。

 

「【過る紅 拭えぬ罪咎 穢れし骸の荒んだ声音 戒律・法典 聖なる腕を以てその身を堕さん 縛道の五十三“厳封牢檻”】」

 

 雛森さんの詠唱に合わせるように彼女の手のひらの上に小さな四角い檻が形成されていく。

 

「やった……」

 

 ――今度は霊子が四散することはなかった。

 

 僕は呆然としている雛森さんにこくりと頷く。

 

「やった! やりました蓮沼先輩っ!」

 

 雛森さんは喜びを露わにして、ぴょんぴょん跳ねる。なんというか小動物のようで可愛かった。

 それに合わせて僕の心までぴょんぴょん弾みそうだ。

 

「うん、おめでとう。先ずは第一関門はクリアだね」

 

 いかんいかんと首を振り、雛森さんに言葉を送った。

 

「はいっ! ありがとうございましたっ!」

「どういたしまして。だけど、それで終わりじゃないでしょ?」

 

 そう。あくまで第一関門を突破しただけ。これから練習が必要だし、まだ実戦で使えるようになるまでは程遠い。

 

「はいっ! 頑張ります」

「よろしい」

 

 さっきの二人もそうだったけど、他人の成功がまるで自分のことのように嬉しくなる。多分、この気持ちが師弟愛というものなのだろう。……まあ、僕の一方通行だけどね。

 

 その後も演習場を歩き回り、生徒達に自分にできる限りのことを教え続けた。すると、逆に僕も彼らに学ばされることがあった。

 そういえば、前世での教師も『教師は生徒を導くのが仕事だけど、逆に生徒達から学ばされることもある。それがどうしようもなく楽しいから教師が止められない』などと言っていた。

 その当時はよく分からなかったけど、それが今なら分かる気がした。

 

 だけど、逆にいつまで経っても分からないこともあった。

 

 ――何故、吉良君はいつまで経っても僕をあんな微妙な顔をして見てくるのだろうか?

 

 こうして、教師の楽しさを知り、何時まで経っても拭えぬ疑問を残して、僕の特別講義は幕を閉じた。

 

 

***

 

 

 そして、約一年の月日が流れた。僕はこの一年で九席に昇進した。以前まで五席だった方が引退を宣言した為だ。

 

「三人とも知っていると思うけれど、彼は九席の蓮沼卯月君だ。これからは彼に君達の指導係に就いてもらうから分からない事があったら彼に訊くといい」

「はいっ!」

「うっす!」

「はい」

 

 三者三様に藍染隊長に返事をする。

 

「それじゃあ蓮沼君、三人は頼んだよ」

「はい」

 

 挨拶の仲介を済ました藍染隊長はそのまま部屋から出て行った。僕はその背中見ながら少し物思いに耽る。

 

 ――一体誰がこんな事を予想しただろうか、と。

 

 今僕の目の前に居るのは、今年入隊したばかりの真央霊術院の卒業生だ。

 

 一人目は赤い髪で目つきが鋭い男の子、二人目は金髪で微妙な顔を浮かべる男の子。そして三人目はお下げの女の子。

 

 そう、阿散井君と吉良君と雛森さんだ。

 なんと、三人共五番隊に入隊して僕の元で働くことになったのだ。

 この巡り合わせはもう運命という言葉じゃ片付けられないような気がする。……まあ、どうせ藍染隊長が画策したんだろうけど。

 少なくとも五番隊に入った彼らを僕の部下にしたのは藍染隊長だ。

 

 藍染隊長が完全に退出したのを見計らって僕は口を開いた。

 

「今日から君達を指導することになった蓮沼卯月です。よろしく」

「「「よろしくお願いします」」」

 

 僕の挨拶に今度は三人共同じように返事をする。

 

 将来確実に副隊長になる人材を二人も自身の元に置くことに若干の不安を持ちながらも、指導係を承った僕だった。




 最近、模擬戦ばっかでごめんなさい。なんて言うか、バトルものだから頻繁に戦闘描写入れておいた方がいいかなと思ったんですけど、一辺倒にも程がありますよね。

 オリジナル鬼道の詠唱で挽回できてたらいいなぁ。……寧ろマイナスな気がする。なんで師匠はあんな詠唱が思い付くんだ。あの人の頭は広辞苑か何かかな?

 ※主人公は護廷十三隊に引退という概念がないことを知りません。ひよりも喜助に教えて貰うまで知らなかったし、知らないのが普通だと思いました。
 普通に元五番隊五席の方は斬魄刀を預けて休職(事実上の引退)をしています。
 また、副隊長になる人材を二人というのは主人公が吉良の情報を故に侘助しか知らないからです。

 
 

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