転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 祝、千年血戦篇アニメ化!

 ついに待ちに待ったこの時がやって来ました。加えて、BTWのシリーズ連載及びアニメ化も決定しましたね。本当に今から待ち遠しいです。

 正直最近、この作品のモチベーションが下がって来ていたのですが、一気に持ち直しました。この先も完結まで頑張りますので、よろしくお願いします。




第五十八話

 時は一護達が到着する少し前、卯月がぺぺ・ワキャブラーダに勝利を収めた所まで遡る。

 

 流魂街からの付き合いである親友の吉報を聞いて、九番隊隊長である檜佐木修兵が斬魄刀を握る手には自然と力が込められた。そんな彼が相対しているのは、星十字騎士団の一人であるドリスコール・ベルチ。凶暴さを前面に出した顔つきに濃い髭を生やし、大きな拳にメリケンサックを嵌めた、見るからに武闘派の滅却師だ。

 そんな彼の能力の名は“大量虐殺(The Overkill)”。彼が殺した人数に応じて、その強さを高めていく能力だ。そして、ドリスコールが修兵と戦うまでに殺して来た人数は百人以上。その力はとてもじゃないが、卍解が使えない状態の修兵にどうこうできるようなものではなかった。

 

 ――普通にやればだが。

 

 卍解を習得することによって得た修兵の不死身性。それは始解状態でも遺憾なく発揮されていた。流石に卍解時のような滅茶苦茶さはないが、それでも多少の切り傷程度なら、瞬時に回復できる程の力は備わっていた。

 これを攻略するには、修兵の修復速度を上回る攻撃をドリスコールが繰り出すしかないのだが、それは難しかった。いや、正確に言えば、ドリスコールは修兵を瞬殺できる程の攻撃を何度も放っているのだが、その尽くを修兵は躱し、悪くても風死の修復が追い付く程度に抑えていたのだ。何故、修兵が力負けしているドリスコールの攻撃をやり過ごすことができているのか、当然それには理由がある。

 

「やっぱ、速さはあいつ程じゃねぇな」

 

 それは、修兵の普段の修行相手が卯月だということだ。

 五番隊隊長となり、基礎能力で師匠である砕蜂と並ぶようにまでなった彼の速力は護廷十三隊の中でもトップクラスだ。そして、修兵は何年も前から卯月と修行に励んでいた。つまり、自分よりも速い相手と戦うのは慣れっこなのだ。確かにドリスコールは力においても速さにおいても修兵の上を行っている。だが、速さが卯月より遅いという時点で、修兵からすれば十分に対処できる範疇だった。

 そんな長年の修行に基き、確かな自信と実力を培って来た修兵には、時々ドリスコールの攻撃に合わせてカウンターを挟めるくらいの余裕があったのだ。

 

 ドリスコールがこの戦況を突破するにおいて最も簡単な方法は、更に敵を殺すことで“大量虐殺”の能力を発動させ、卯月をも凌駕する速力を手に入れることなのだが、このことを見越した修兵は、既に副隊長である雛森に、隊をこの場所から離して結界で護るように指示を出している。

 それでも、ドリスコールが身体能力にモノを言わせれば、修兵を強引に突破して虐殺を行うことは可能なのだが、これを実行するということは敵に背を向けるということになる。それをドリスコールの自尊心が許すはずがなく、結果、ドリスコールの攻撃は修兵の修復能力によって無効化され、一方修兵の攻撃は少しずつであるがドリスコールに傷を与えることに成功していた。

 

 そして、このような攻防を続けた時、見るからに短気そうなドリスコールが痺れを切らし、怒りを募らすことは想像に難くなかった。

 

「弱ぇ癖にさっきからチョロチョロ動き回りやがって……うぜぇんだよ!」

 

 怒りを露わにしたドリスコールは巨大な神聖滅矢を右手に握り、まるで槍投げのように投擲する。しかし、しっかりと矢の軌道を見切っていた修兵は余裕を持って回避に移った。元々、ドリスコールの攻撃を十割とは行かないものの躱せていた修兵が、怒りで動作が単調となったドリスコールの攻撃を躱せないはずもなかった。

 ここまでは修兵の筋書き通り。自分が相手の攻撃を躱し続け、少しずつ傷を与えることで相手の精神に揺さぶりをかけ、冷静さを欠かせる。それにより単調になった敵の攻撃は更に修兵を捉えられなくなる。後はこの攻防を続けていれば、やがて相手は力尽き倒れるだろう。そう高を括っていた修兵だったが、彼には一つ誤算があった。

 

 ――それは、ドリスコールに“大量虐殺”以外でこの状況を突破する方法があるということだ。

 

「てめえごときにこいつを使うつもりはなかったんだけどな」

 

 仕方がない。そんな風に呟いたドリスコールは、懐から円盤型の道具を取り出す。

 それがメダリオンであるということは、既にほたるの天挺空羅によって特徴を知らされていた修兵には理解できた。実際に見た訳ではないが、円盤の五芒星の意匠が聞いていた情報と一致していた。

 しかし、だからこそ不可解なことがある。

 

 何故、誰も卍解を使っていないこの場面で、それを出す必要があるのかということだ。

 

 奪う目的ではないということは、奪った卍解を使うということなのだろうが、この戦いで卍解を使用したのは囮として発動した卯月のみだ。そして、彼は無事敵を倒し、メダリオンを入手している。マユリの解析が済み次第、卍解も戻るだろう。

 

「まさかっ!?」

 

 そこまで考えた時、修兵の頭に一つ恐ろしい考えが浮かんだ。

 居たではないか。一人、この戦いよりも前に敵と交戦し、その命を落とした卍解を使える副隊長が。

 

 ――そして、敵が卍解に対する何らかの策があるのを伝えたのも、一番隊副隊長の雀部長次郎だ。

 

「そのまさかだ」

 

 修兵の思考を読み取ったドリスコールは笑みを深める。

 

「【卍解“黄煌厳霊離宮(こうこうごんりょうりきゅう)”】!!」

 

 瞬間、メダリオンから封じられた卍解の霊圧が噴き出した。

 空は黒雲によって覆われ、卍解の際にメダリオンを包んだ雷が天高く駆け上がる。やがて雷は空に円盤状の溜まり場を形成し、そこから柱のように何本もの雷が地面に落とされる。それはさながら西洋の神殿のようだった。

 

「これが雀部副隊長の卍解……!? 氷輪丸以外にも天候を支配する斬魄刀はあったのか」

 

 天相従臨。斬魄刀の能力の強さを一目で証明するその光景に、修兵は戦慄する。

 一番隊副隊長、雀部長次郎忠息。千年以上も前から元柳斎の右腕としてその力を振るって来た彼は、一度として隊長の任に就いたことはなかった。それも以前まで修兵達が請け負っていた隊長代理の話すら受けたことがないのだから、筋金入りだろう。

 そして、それは元柳斎への忠誠心故。到に彼の実力は隊長格に達していた。

 

 また、彼が卍解を習得したのは古株である京楽や浮竹よりもずっと前。そこから磨き続けて来た彼の雷を司る卍解は、単純な威力や速さだけを見るならば、護廷十三隊でも一級品。まだ隊長となって日が浅い修兵など、赤子の手をひねるように殺すことができるだろう。

 

「【縛道の八十一“断空”】」

 

 それをひしひしと感じた修兵は、回避は不可能と判断し、上空に向けて結界を展開する。それも一枚だけではない。時間の許す限り、修兵は縛道の発動を止めなかった。その理由は不安だったから。八十番台の縛道をどれだけ並べても、この一撃を防げる気はしなかった。

 その予感は正しい。ドリスコールは修兵が防御を整えるのを止めることはしなかった。それどころか無駄な足掻きと言わんばかりに、実に冷めた馬鹿にするような表情を浮かべている。

 

「ああ? もういいのか? ――じゃあ、死ねや!」

 

 そして、雷が落ちた。

 

 上空で収束し、折り重ねられた雷は、ドリスコールの声に合わせて一直線に地上へと降り注ぐ。落雷は修兵が展開していた結界を面白いように貫いていく。修兵の元へとたどり着くのは一瞬だった。

 

「風死!」

 

 そんな中でも修兵は諦めず、最後の悪あがきとして手に持っていた風死を投擲するが、黄煌厳霊離宮の圧倒的威力に押し負け、弾かれる。それどころか、金属をぶつけたことで感電し、身動き一つ取れなくなった。

 

 ――すまねぇ、皆。

 

 思い浮かべるのは、自分の部下である九番隊の面々。東仙の後任として、隊の長となった自分だが、その初陣のこんな序盤で死んでしまうのが情けなかった。

 そして、ドリスコールは自分を殺せば、更なる糧を求めて雛森達が居る場所に向かうだろう。隊長として、部下を護れないのが申し訳なかった。

 

 ――すまねぇ、卯月。

 

 頑張ろうと拳を合わせた。絶対に勝とうと誓った。にも関わらず、親友を置いて先に逝ってしまうのが申し訳なかった。

 

 そして今にも落雷が修兵を穿たんとした時――熱風が修兵の頬を撫でた。否、撫でたでは生温い。その熱気だけで修兵を焼いてしまいかねないような爆炎が彼を包み込んだ。雷は圧倒的霊力を含んだ爆炎によって四散する。

 

「総……隊長……!?」

 

 その爆炎を放った主の顔を見た修兵に宿った感情は、戸惑い、安堵、そして恐怖だ。

 燃え滾る炎を越して、ドリスコールを見据える元柳斎の表情は、今までにないくらいに怒りに染まっていた。その怒りたるや、雀部が殺された時と同等かそれ以上。ドリスコールから見た元柳斎は、彼が纏う炎も相まって、悪魔にでも見えていたのではないだろうか。

 

「ぶははははははっ! 待ってたぜ、総隊長! おれはあんたをこいつで殺す為に、ここに来たんだ!!」

 

 しかし、ドリスコールは気丈にも笑って見せた。

 

「懐かしいだろ? こいつはもう二千年以上卍解を使っていないと聞いている。それを再び見ることができたんだ! おれに感謝しなきゃなあ!」

 

 ドリスコールの言う通り、雀部は二千年以上卍解を使っていない。最後に彼が卍解を使ったのは、会得した卍解を披露するという目的で元柳斎の額に傷をつけた時。それから雀部は、元柳斎から『赤子のような卍解だ』と評価を受けた卍解を、只管磨き続けた。全ては元柳斎の右腕として相応しく在る為に。

 

 ――だからこそ、そう易々と使っていい卍解ではない。

 

「……長次郎よ、さぞ悔しかろう」

「ああ?」

 

 唐突に、そして徐に語りだした元柳斎に、ドリスコールは煽るような態度を取る。だが、元柳斎はそんな敵の態度など気にも留めずに話を続ける。

 

「お主の怒り、儂にはよう分かる。……お主の磨き上げた卍解は、この程度では断じてない!!」

 

 静かに語りかけるような言葉とは一転、激情に任せ叫び声を上げた元柳斎は、一息にドリスコールとの距離を詰める。愚直にも突っ込んで来た元柳斎にドリスコールは雷を落とすが、雷は一瞬にして炎によって弾かれた。

 

 許せなかった。二千年以上も鍛錬を続けて来た雀部の卍解は、今はまともに喰らえば元柳斎を殺し切る程の力を孕んでいただろう。だが、今やそんな面影は何一つない。卍解であるはずの雷は、始解の炎によって容易に弾かれる。二千年前でさえ元柳斎に傷を与えていたのにも関わらず、今は傷一つ与えられていない。幾ら使い手が変わったからと言っても、これは酷い。

 感謝? あり得ない。これはただの侮辱。死者に対する冒涜だ。

 

 一閃。ドリスコールに反応できない速度で放たれた斬撃は、意図も容易くドリスコールの身体を切り裂く。それに追従するように放たれた爆炎は、一瞬にしてドリスコールを骨に変え、この世に亡き者とした。

 

「そ、総隊長……」

 

 踵を返し、自分の元へ歩いてくる元柳斎に、修兵は戸惑いながらも声をかける。何故だかは分からない。だが、今の怒りに身を任せた元柳斎は、修兵にとってどこか危険に映った。

 

「案ずるな」

 

 すると元柳斎は、そんな修兵の内心を見透かしてか、すれ違いざまに彼を安堵させるかのような言葉を返す。

 

「奴ら賊軍一人残らず――儂がこの手で叩っ斬る」

「っ!?」

 

 修兵が振り向いた時、もうそこには元柳斎は居なかった。代わりにそこに在ったのは、大きく剥がれた石畳と半壊した周囲の建物。そして一つの足跡だった。これがたった一歩によって引き起こされたものと理解した時、修兵は戦慄した。

 

 宙を移動する元柳斎の標的は只一人。

 

 賊軍の長――ユーハバッハだ。

 

 

***

 

 

「来たか」

 

 そして、ユーハバッハもまた、護廷十三隊の長である元柳斎の接近に気付いていた。霊圧を滾らせながら、もの凄いスピードで近づいて来る元柳斎を知覚しても焦ることはない。寧ろ余裕すら感じさせながら、彼は自分の手に握る人物に視線を戻す。

 

 そこには無惨にも斬りつけられた剣八の姿があった。

 この戦いが始まってから、三人もの星十字騎士団を倒した剣八は、更なる戦いを求めてユーハバッハへと戦いを挑んだのだが、その結果は見ての通りの惨敗。威勢のよかった霊圧は見る影もなく、現在は気を失い、ユーハバッハに首を掴まれていた。

 

「特記戦力の1、更木剣八。それがこの様か。どうやら私はお前達を買いかぶり過ぎていたようだ」

 

 この戦争においてユーハバッハが最も警戒するべき敵として定めた五人。それが特記戦力だ。一護と喜助に続き、剣八もこの特記戦力として名を連ねていたのだが、実際戦ってみると、拍子抜けした。

 脆い。弱すぎる。自分はこの程度の敵に怯えていたのかと情けなくなった。

 

 最早殺す価値すらない。そう言わんばかりに剣八を雑に投げ飛ばしたユーハバッハは、元柳斎が来る方向へと反転する。

 

「そこで見ておけ。尸魂界の終焉を」

 

 そして完全に向き直った時、ユーハバッハの目の前には炎を纏う怪物が居た。

 

「千年ぶりじゃな、ユーハバッハ。お主の息の根を止めに来た」

 

 着地した元柳斎は一歩、また一歩とユーハバッハに近づいていく。ゆったりとしたその歩みは揺れ動く炎のようだった。

 

 ――そんな彼の背後に二つの陰が。

 

「陛下の元にトップが単身乗り込むたぁ、随分甘く見たんじゃねぇの!?」

「くたばれジジイ!!」

 

 一人は星のようにカットされた髪の先を三つ編みにした珍妙な髪型、アイマスク並みに巨大な丸みを帯びたゴーグル、まるでピアノの鍵盤のように施されたお歯黒という奇抜な見た目をした男の滅却師――ナナナ・ナジャークープ。

 もう一人は烈火のごとく赤い髪のモヒカンと白い装束が相まって、鶏を彷彿とさせる見た目の男の滅却師――バザード・ブラックだ。

 

 ふざけたような見た目をしている二人だが、いずれも滅却師を代表する星十字騎士団である。

 

 二人は背後から元柳斎に襲いかかるのだが、不意を突いたはずの攻撃が元柳斎を捉えることはなかった。振り向きざまの一振り。それだけで二人は焼き払われた。

 

「愚か者どもめ。私の戦いに足を踏み入れるからそうなるのだ」

 

 その様を見たユーハバッハは嘲るようにそう言った。この発言だけで、彼の冷徹な性格は十分に伝わることだろう。

 しかし、ユーハバッハの言葉を聞いた元柳斎が何か言葉を返すようなことはなく、ただゴキリと首を鳴らして静かに向き直った。

 

「何だ? 何か言いたげな眼だ――!?」

「陛下!」

 

 一言も発さない元柳斎。だが、そんな彼の眼が何かを物語っているように感じたユーハバッハは探りを入れようとするのだが、ユーハバッハが最後まで言葉を言い切ることはなかった。代わりに聞こえたのは、側近であるハッシュヴァルトが自身を心配するように上げた声。

 元柳斎が斬り込んだのだ。

 

 僅かに反応が遅れてしまったが、ユーハバッハとて滅却師を率いる頭領だ。故にこの一撃で終わるなどという都合のいいことはなく、咄嗟に腕を挟むことで致命傷は免れた。

 

「変わらんな、ユーハバッハ」

 

 すると、ここでようやく元柳斎が口を開いた。

 

「じゃが、部下を軽んじるその悪辣も、ここで終わるものと知れ」

 

 ユーハバッハの腕から滴る血を見て、元柳斎は言った。これはほんの挨拶代わり。直ぐに終わる。彼の怒りに身を任せた瞳は言外にそう語っていた。

 しかし、ユーハバッハはそんな元柳斎を見て、不敵に笑って見せる。

 

「お前は老いたな、山本重國。だが、怒りに身を任せるその姿は、若き日にも重なって見える」

 

 ユーハバッハの言う若き日と言うのは、千年前のこと。千年前、ユーハバッハは今回のように尸魂界を攻め、そして元柳斎に敗れていた。

 ユーハバッハにとって千年前は失敗の年。そんな千年前の姿に今の元柳斎の姿が重なって見えるというのは、雪辱を晴らしに来たユーハバッハにとって嬉しいことだった。

 

「ぬかせ!」

 

 だが、そんなユーハバッハの心情は元柳斎には関係ない。賊軍全てを自分の手で叩き斬る。今の元柳斎にそれ以外のことは頭になく、会話を打ち切るように斬魄刀を振り抜いた。

 素早く回避行動に移っていた為、既に斬撃の射程からユーハバッハは離脱していたが、まだ攻撃は終わらない。寧ろここからが流刃若火の真骨頂だ。元柳斎が刀を振り切ると、その軌跡を辿るようにして爆炎が放たれる。元柳斎の剣筋を追った爆炎だが、その射程は斬撃を大きく超える。放たれた爆炎は地面を焼き切りながらユーハバッハに襲い掛かった。

 そのあまりの熱さと眩しさに、戦いを傍観していたハッシュヴァルトは思わず、目の前に手を持ってきてしまう。そして今にも爆炎がユーハバッハを飲み込まんとした時――爆炎の軌道が変わった。軌道を変えた爆炎はユーハバッハの背後にあった建物を一瞬にして灰に変える。

 

 視界が晴れると、ユーハバッハは剣を抜いていた。その身体は初撃で傷ついた腕以外は無傷。つまり、元柳斎の一撃を無償で防ぎきっていたのだ。

 

「……漸く抜いたか」

 

 しかし、元柳斎に焦りはない。寧ろこうでなくてはと言わんばかりの、安心したかのような口調だった。

 

「私が抜くのを待っていたような口ぶりだな」

 

 それをユーハバッハも感じ取っていたのか、質問を返す。もし、自分が嘗められていたのだとしたら心外だった。だが、それは違う。

 

「何故待っていたと思う?」

 

 確かに元柳斎はユーハバッハが剣を抜くのを待っていた。しかし、それは決してユーハバッハのことを嘗めていた訳ではない。千年前と同じならば、ここまで護廷十三隊が苦しめられることはなかっただろう。こちらに悟られない侵入方法に、卍解を奪う為の手段。滅却師は全身全霊で護廷十三隊を潰しに来ていた。そんな相手をどうして嘗めることができようか。

 

 故に、元柳斎がユーハバッハを待っていた理由は、もっと別のところにある。

 

「――お主の血肉も、剣も魂も、髄から粉々に打ち砕く為よ!」

 

 最早、ただ殺すだけでは足りないのだ。その程度で元柳斎の怒りは収まらない。

 剣だけではない。技も作戦も、その全てを出させた上で、真っ向から叩き潰す。誇りも希望も、全てへし折る。

 

「千年前のように、生き長らえることはできぬと思え」

 

 千年前の戦いの幕が時を越え、ここで再び切って落とされた。


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