転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

54 / 82
お久しぶりです。無事大学のテストも終えたので、本日から投稿再開します。


第五十四話

 砕蜂の勝利と卯月の作戦の成功に一護の参戦。当初は誰もが圧倒的不利と見ており、卍解を使えるようになるまでは耐え忍ぶしかないと、口には出さないもののそう考えていた護廷十三隊面々だったが、その予想はいい意味で裏切られた。それらの出来事は士気の上昇に繋がり、本来は圧倒的不利な対面であった隊長達も星十字騎士団の想定以上に持ちこたえていた。

 

 ――だが、それにも限界が訪れる。

 

 確かに戦争において士気は重要だ。それだけ精神状態というのはパフォーマンスに影響する。士気が上がっている状態と、そうでない状態とでは雲泥の差だろう。しかし、それはあくまで個人の中での話である。敵の実力が隔絶していた場合、精神状態など関係なく捻じ伏せられるのだ。

 

 例えば、朽木白哉。彼は副隊長である阿散井恋次と共に棘がついたマスクを装着した長髪の滅却師――エス・ノトとまるでプロレスラーがするような覆面で顔を覆った筋骨隆々の滅却師――マスク・ド・マスキュリンと相対した。

 最初こそは白哉が地の利を生かして、敵を分断し、エス・ノトと二対一の対面に持ち込むことに成功したのだが、そこから卍解無しで仕留めることができなかった。それでも数の利を生かして、互角以上の戦いに持ち込んでいたのだが、エス・ノトの攻撃が白哉に命中した時、それは一気に逆転した。エス・ノトの能力は“恐怖(The Fear)”。その能力はエス・ノトの矢に含まれた霊子を対象の体表から脳へとしみこませ、最終的に恐怖に陥れるというものだ。ただの恐怖と侮ることなかれ。エス・ノトが放つ恐怖はあのメンタル面の強さで定評のある白哉の足を竦ませる程のものだ。結果、踏み込みの甘い白哉の斬撃はエス・ノトに届くことなく、逆に白哉はエス・ノトの攻撃を受け続けた。

 恋次も白哉をフォローしようと動いていたのだが、時間をかけすぎてしまった。マスク・ド・マスキュリンが戦場に戻って来たのである。エス・ノトに意識を向けていた恋次はまんまと不意を突かれ、大怪我を負ってしまった。

 

「良ク耐エテイタね、流石隊長だ」

 

 ダメージに耐え切れず、地面に這いつくばる白哉にエス・ノトが話しかける。

 

「並ノ死神ナラ、僕ノ矢ヲ一撃ウケルダケで恐怖ノ余り、絶叫し発狂し、耐エ切レズ心が焼キ切レて息絶エる。本来ナラ思考スル事モママナラナハズだ。ダガ、オ前ハソレを意思ノ力ダケで耐エテイた。脅威だ、称賛ニ値スる」

 

 エス・ノトの言う通りなら、彼の術中に嵌った者が剣を手に取り戦うなど不可能だ。だが、白哉はエス・ノトの攻撃を喰らった後も抗い続けた。その脅威の精神力にエス・ノトは敵ながら称賛を送った。

 

「デモ、オ前ハモウ立テナい。終リだ」

 

 エス・ノトが手を挙げると、棘の形をした彼の神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)が円形に展開される。

 

「隊長っ――!?」

 

 エス・ノトが矢を放とうとするのを見て、恋次は白哉を護るべく、ダメージを負った身体に鞭を打って立ち上がったのだが、その行動はマスキュリンの拳によって止められた。

 それを流し目に見たエス・ノトは展開された矢の指揮を執るように、挙げていた手を下した。

 

「死ネ」

 

 その言葉と共に、エス・ノトの矢は一斉に白哉に襲い掛かる。至近距離で放った矢は命中するや否や、砂埃を巻き起こた。これが晴れた時、そこには血にまみれた無残な白哉がそこに転がっている事だろう。そうエス・ノトは自らの勝利を確信した。そして恋次も耐え難い現実から目を逸らす為に目を瞑ってしまう。だが、砂埃が晴れた時――そこに白哉の姿はなかった。

 

「ナ二……!?」

 

 一瞬、自分の攻撃が白哉を跡形もなく消し去ったのかと思ったが、それは直ぐに違うと判断した。何故なら、エス・ノトの能力は搦め手重視。消耗したとは言え、隊長格を消し去るほどの攻撃力がないことは、術者であるエス・ノトが一番理解していた。そして、先程までこの場になかった霊圧が複数。ここまで来れば確定だろう。

 

 ――新たな、敵の登場だ。

 

 砂埃が晴れた時、そこには白哉を抱えた一人の男が佇んでいた。先程まで目を瞑っていた恋次も、今は大きく目を剥いている。

 

 そこにいたのは白哉を左脇に抱える一人の死神だった。ロングコートの特徴的な死覇装に、漆黒の斬魄刀。それにオレンジ色の髪と来れば、該当する死神は最早一人しかあるまい。

 

「間に合ったみてーでよかったぜ」

 

 その死神は辺りの状況を確認して、自分が来たのが手遅れではなかったことを確認した。

 

「助けに来たぜ。白哉、恋次」

「黒崎……一護……!?」

 

 一護だけではない。織姫にチャド、喜助に加えて、虚圏から連れて来た二人の破面が尸魂界に到着した。

 まず一人は緑色の髪に、グラマラスな肢体を持ち、モコモコの衣装を身に纏った女の破面――ネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンク。かつて虚圏に井上を救出するべくやって来た、一護達と行動を共にした破面だ。彼女は出会った当時、仮面の一部が欠けたことによって、記憶と共に霊力の大半が欠けてしまい、幼女の姿をしていたのだが、今は喜助が開発した道具によって、大人の姿を保っていられるようになっていた。また、彼女は一護のことを好いており、それを考えれば、破面である彼女が今回の戦いに参加することは、当然の帰結と言えるだろう。

 

 もう一人は青髪にネコ科動物を思わせる鋭い目つきを持ち、まるでヤンキーのような雰囲気を漂わせる男の破面――グリムジョー・ジャガージャック。ネリエルとは逆で、かつて第六十刃として、一護と敵対し、敗れた破面だ。彼は一護との戦いの直後で消耗したところを、第五十刃であったノイトラ・ジルガによって攻撃されたので、命を失ったものと一護は思っていたのだが、彼は生きていた。

 今回、雨竜を除いた一護達現世組は、滅却師から現世に逃げて来たネリエルのSOSによって虚圏に向かっていたのだが、その戦いを嗅ぎつけてやって来たグリムジョーと再会したのだ。最初こそは、一護に強い敵対心を持っているグリムジョーによって戦いが勃発しようとしていたが、紆余曲折があって一時停戦。利害の一致によって、尸魂界側の増援としてやってきたのだ。まあ、彼にとっては一護と戦うまでの、暇つぶし程度にしか思っていないのだろうが……。

 

「井上、白哉を頼む」

「うん」

 

 白哉を織姫に渡した一護は、エス・ノトとマスキュリンの方へと向き直ると同時に動き出した。

 

「「っ!?」」

 

 あまりに速いその動きに、星十字騎士団の二人は反応することができない。いつ攻撃が来てもいいように身構えた二人だったが、結果から言えば、この一連の動きで一護が攻撃に移ることはなかった。

 一護が動きを止めた時、彼の左脇には恋次が抱えられていた。なんてことはない。先程の一連の動きは全て恋次を敵の後ろから回収する為にあったのだ。

 

 つまり、ここからが本番である。

 

 星十字騎士団は一護を焦点に定め、構えを取った。先程は一護の動きに反応できなかった二人だったが、一度彼の動きを見た以上、今と同じような失態は犯さないだろう。

 一護もそれに合わせて、斬魄刀を構える。

 

「チっ」

「あ、グリムジョー!」

 

 そんな状況を見たグリムジョーは舌を打つと、ネリエルの制止も聞かず、どこかへと行ってしまった。それにネリエルは、仕方がないと言わんばかりに息を吐く。独断専行に見えるグリムジョーの動きだったが、現在の戦況を考えると理にかなっているというのも事実だ。

 一番戦況が芳しくなかったのは、間違いなくここだろうが、卍解が使えずに苦戦している隊は六番隊以外にも数多く存在する。そんな中、折角の加勢が一か所に留まっているようでは、加勢に来た意味がなかった。尤も、グリムジョーがここを去ったのは、一護と共闘などしたくなかったという部分が大きかっただろうが。舌打ちをしたのも、一護に獲物を取られ、尚且つ彼が敵が自分を見失うという千載一遇のチャンスをみすみす逃すような真似をしたからだろうと、ネリエルはあたりをつけた。

 

 となれば、自分がここに留まるのもよくないだろう。想い人である一護の近くに居たかったというのが本音のネリエルだったが、私情に振り回されている場合ではない。探査回路を働かせ、自分が加勢すべき場所を特定した。

 

「一護、気を付けて」

「ああ、ネルもな」

 

 だが、一声かけるくらいならば、許してくれてもいいだろう。最後に一護と言葉を交わしたネリエルはグリムジョーとは逆方向に移動した。

 

「加勢します、黒崎サン」

「ああ、頼む」

 

 現在の状況は一護にエス・ノトとマスキュリンが相対する形で一対二。それに喜助が加わることで、数的不利を補った。

 既にマユリがメダリオンの解析を始めていることは、黒腔内での移動中に阿近から聞いていた。マユリならば、自分が加わらなくとも解析を終え、解決策を見つけ出すことだろう。ならば、今から自分が加わったところで手遅れであり、マユリの気質を考えると邪魔になる可能性すらあった。

 そう考えた喜助は、解析面ではなく戦闘面で加勢することを決めた。幸い、彼は卍解がなくとも戦う術は卯月以上に有しているので、今の一護にとって何者よりも心強い加勢と成り得るだろう。

 

「気ヲ付ケろ、マスキュリン。相手ハ二人共特記戦力だ」

「ふん、結構な事ではないか! 巨悪を打ち砕いてこそ、スターというもの!」

 

 特記戦力。それは滅却師の頭領であるユーハバッハが定めた、特に警戒すべき五人の総称だ。五人はユーハバッハをしても推し量ることのできない未知数によって定められており、一護は何時どのタイミングで成長するか分からない未知数の潜在能力、喜助はどう策を練ろうとも必ずその裏をかいてくる未知数の手段として、それぞれ特記戦力に名を連ねていた。

 その二人を同時に相手取らねばならないことに、エス・ノトは自分達の警戒レベルを上げようとしたのだが、マスキュリンからすれば、それは自らを奮起させるスパイスにしかならなかったようだ。それもそのはず。マスキュリンの能力は“英雄(The Superstar)”。その能力はジェイムズという味方からの声援を直接自らの膂力へと変える力だ。強敵に怯んでる人間を、誰が英雄と呼ぶだろうか。

 

 そして、戦いの火蓋は唐突に切り落とされることとなる。 

 

「行くぞ! ワガハイの必殺の一撃を喰らうがいい! 【スター・殺人パンチ】!!」

 

 一度体勢を沈めたマスキュリンは、その反動を使い、一息に一護との距離を詰めた。斬魄刀を挟むことで、防御自体は成功させた一護だったが、天鎖斬月の細い刀身ではマスキュリンの攻撃を受けきることはできず、後方に身体が流されてしまう。しかし、力と力のぶつかり合いだけが戦いではない。ある程度下がったところで、マスキュリンの拳の威力が減衰するのを確認した一護は斬魄刀を傾け、上手くマスキュリンの攻撃を受け流した。

 

「どうした、そんなもんかよ?」

「フハハハハ! 威勢のいい言葉が吐けるのも今の内よ! 貴様が特記戦力であることも加味して、三十カウントで片づけてやろう!」

 

 一護の挑発をマスキュリンは戯言と軽く流す。

 英雄(主人公)英雄(スーパースター)の戦いがここに始まろうとしていた。

 

***

 

 

「……どうやら綺麗に分かれたみたいっスねー」

 

 マスキュリンの攻撃によって一護と別れた後、喜助はいつものトーンでそう呟いた。

 

「おっと」

「何時マデ余所見シテイる? オ前ノ相手ハ僕ダ」

 

 一護が向かった方向から目を離さない喜助に痺れを切らしたエス・ノトが攻撃をしかけるのだが、そこまで迂闊な喜助ではない。余裕を持って躱した。しかし、喜助の意識を自分に向けるというエス・ノトの狙いは成功した。

 

「これはこれは、すみません。黒崎サンがどの程度離れたのか気になっただけなんですが、どうやら気に障ったみたいっスね」

 

 もし、一護との距離がそこまで離れていなかったのなら、連携を取ることも視野に入れていた喜助だったが、どうやら一護は先程の一撃で随分と遠くまで押されてしまったようだ。となれば、連携を取ることはほぼ不可能。ここから先は各個撃破という形になる。

 そう判断した喜助は杖に仕込んだ斬魄刀を引き抜いた。

 

「ソレデイイ。コレカラ恐怖スル対象ガ見エテイナイナンて、ツマラナイカラね」

 

 ――もう十分、ビビってるつもりなんスけどねぇ。

 

 構えをとりながら、喜助はそう思った。この場合の喜助の恐怖の対象は、エス・ノトではなく戦いそのものに対する恐怖だ。千の備えで一つ使えたら上等、そんなポリシーを抱く喜助は誰よりも戦いに対して慎重で、臆病だ。だからこそ、死ぬほど準備をし、万全の態勢で戦いに挑む。そんな喜助だからこそ、未知数の手段として特記戦力に名が挙がり、警戒されているのだ。

 故にこれ以上ないくらいに戦いに怯え、準備と努力を重ねて来た喜助が、今更恐怖を突き付けられたところで、どうにかなるとは考えにくかった。

 

「行クゾ」

 

 そんな考えを脳内で巡らしていると、エス・ノトが動き出した。彼の掌から展開された、棘は次々と喜助に襲い掛かった。

 それに対して喜助は斬魄刀を解放し、彼の自らの血を操る斬魄刀――紅姫の能力である血霞の盾(ちがすみのたて)での防御を試みる。

 

「残念ダッタね。恐怖ハ盾ジャ防ゲナイ」

「なっ!?」

 

 だが、エス・ノトが放った棘は、血霞の盾に接触するや否やそこから黒いシミが溢れだし、あろうことか血霞の盾をすり抜けた。光の棘の中から溢れ出した黒いシミが、喜助へと降りかかる。

 

「アはっ、当タッタね?」

 

 喜助に黒いシミが付着するのを確認したエス・ノトは、愉快そうに顔を歪めた。いくら特記戦力とはいえ、そこに心がある以上、この状況に持ち込めば自分のモノだ。エス・ノトは自分の能力に絶対の自信を持っていた。喜助に付着した黒いシミは、白哉の時と同じように彼の肌から浸透し、やがて碌な身動きも取れなくするだろう。

 

 ――サテ、コレカラドウシヨウか?

 

 白哉の時と同様に、じわじわと攻めていくのもいいが、ここは早急に片づけて、マスキュリンの加勢に向かうべきだろう。そう結論付けたエス・ノトはトドメを刺すべく、神聖滅矢の生成を始める。

 

「なるほど、盾で防げないとなると、これまた厄介な能力っスね」

「っ!?」

 

 だが、いつの間にか喜助は先程居た場所から姿を消しており、気付けばエス・ノトの背後から話しかけていた。

 

 ――携帯用義骸カっ……!?

 

 慌ててエス・ノトは用意していた矢を背後に向かって放つが、碌に狙いも定まっていない矢は喜助を捉えることはできずに、地面へと着地する。

 

「【剃刀紅姫(かみそりべにひめ)】」

 

 となれば、今度は喜助の番だ。喜助の一閃に合わせて、紅姫の切っ先から、月牙天衝にも似た血の斬撃が飛翔する。

 攻撃を仕掛けた直後ということもあり、エス・ノトは躱し損ねてしまうが、静血装を発動することにより、傷はかすり傷程度に抑えられた。

 

「今のを防ぐんスか……!?」

 

 エス・ノトの目に映ったのは、瞠目する喜助の顔。先程はどういう訳か恐怖から逃れていたようだが、次はそうはいかない。今度こそ、その顔を恐怖に染めてやる。エス・ノトは攻撃に移るべく静血装を動血装に切り替えようとして――思いとどまった。

 この時、エス・ノトは喜助の顔を注視していた。その理由はこれから恐怖に染まっていく喜助の顔を見てやろうという、少し歪んだ意図があったのだが、だからこそエス・ノトは見逃さなかった。

 

 ――瞠目が僅かに緩んだ喜助の表情を。

 

「っ!?」

「【切り裂き紅姫】」

 

 刹那、エス・ノトの背後から無数の斬撃が襲い掛かった。

 切り裂き紅姫。血霞の盾から無数の赤い斬撃を飛ばす技だ。エス・ノトの背後、そこには先程喜助が展開した血霞の盾があった。エス・ノトの神聖滅矢に含まれた恐怖は、物理的な防御は不可能。実際、喜助の携帯用義骸には黒いシミが降りかかった。だが、攻撃が盾をすり抜けたということは、当然その場所には盾が残っている。これを利用しない手は喜助にはなかった。

 

「グっ!?」

 

 咄嗟の判断で静血装を維持していたエス・ノトは喜助の攻撃を耐える。

 

「【破道の八十八“飛竜撃賊震天雷砲”】」

 

 だが、怯んだその隙を喜助は逃さない。前から後ろ、そしてまた前。交互に攻撃を繰り返すことで、喜助は確実にダメージを蓄積させていく。

 鬼道が炸裂し、視界が悪くなったので、喜助は一旦距離を取った。これで終わるのならその程度。しかし――

 

「この程度じゃ、終わらないっスよねぇ……」

 

 視界が晴れた時、そこにいたのはまだまだ健在のエス・ノトだった。見た目こそは切り傷が多く、血まみれであるが、見た目ほどのダメージは喰らっていない。この後も十分に戦えるだろう。

 

 ――だが、戦いは唐突に終わりを告げることとなる。

 

 それはエス・ノトが攻撃に転じるべく、動血装を発動した時に起こった。

 突如、エス・ノトを大爆発が襲ったのだ。

 

「ナニヲ……!?」

 

 致命的な傷を負ったエス・ノトは地面に這いつくばりながら、喜助に問いかけた。防御から、攻撃に転じた時に、まるで狙いすましたかのような一撃。いや、偶然起こったこととは考えにくいので、喜助は狙ってこの状況を生み出したのだろうが、攻撃する気配は感じられなかった。

 

「あなた方滅却師には、血装という血管を通じて全身に霊力を巡らせることで、身体能力を大幅に向上させる技があります。そして、それには攻撃用のモノと防御用のモノがあり、どちらか一方しか発動できないことは、虚圏での戦いで把握済みっス。だから先程、放った鬼道と同時に、これをあなたの身体に付着させておきました」

「ソレハ……」

 

 そう言った喜助の手には、小さい球体のようなものが握られていた。

 

「“時間凍結爆弾”っス。血装は能動的に発動できる技なので、攻撃の挙動を見られてしまえば、生半可な攻撃ではあなた方を倒すことはできないでしょう。この時間凍結爆弾は、一時的に霊力による攻撃を封じ込め、時間差で爆発する効果があります。本来は予め時間を設定して投げるものだったんですが、虚圏で滅却師と戦った後に、スイッチを作成して正解だったみたいっスねぇ」

 

 発動した鬼道は、破道の九十一“千手皎天汰炮”。九十番台の鬼道の威力は卍解にも匹敵するので、静血装を発動していない状態で喰らえば、もうまともに戦うことはできないだろう。

 爆弾の発動条件を変えることによって、設定時間を考えるのを省き、よりスムーズに敵を処理する。限られた時間で喜助は敵の情報にアジャストした戦略を立て、実行していたのだ。

 

「……コレガ特記戦力ノ……力……か」

 

 最後にその言葉を残し、エス・ノトは息絶えた。

 果たして最期、彼のマスクで半分隠れた顔に写っていたのは、この先も戦うことになる味方への心配か、それとも――自身が感じた恐怖か。それは彼と対峙していた喜助にも分からなかった。

 

「井上サン、二人の容態は?」

「二人共傷は回復しました。阿散井君はもう大丈夫だと思います。ただ……」

 

 白哉の霊力の回復はまだできていなかった。長い時間に渡って、恐怖に抗いながらエス・ノトと戦っていた白哉の霊力はかなり減っていた。

 元々、織姫の双天帰盾は霊力の回復に向いた技ではないので、これ以上の回復は望めないだろう。

 

「そうですか。とりあえず、このまま戦えない人を戦場に置いておくのは危険ですし、私達は四番隊舎に向かいましょう」

「俺は残るぜ」

「阿散井サン……」

「一護や、破面の連中がまだ戦ってんだ。死神の俺がおちおちと休んでられっかよ」

 

 白哉ほど消耗していなかった恋次は織姫の術によって、万全とは行かないまでも回復している。戦場に残っても、問題なく戦えるだろう。

 

「分かりました、黒崎サンのことよろしくお願いします」

「ああ」

「行きましょう」

 

 恋次に一護のことを託した喜助は、織姫と白哉を担いだ茶渡を連れて、四番隊舎へと歩みを進める。

 

 死神、滅却師、破面、人間。四つの種族を巻き込んだ戦いが、ここ尸魂界にて始まった。

 




お知らせ

最近思うことがあったので、この作品用にTwitterのアカウントを作りました。
https://twitter.com/asauti_hyouhaku

理由は二つあります。一つ目はこの作品が匿名で投稿しているという関係上、このサイトの活動報告機能が使えなかったということです。最近はあとがきにて、次話の投稿日を予告していたのですが、今後はこちらも活用して行きたいと思っています。試しに、次回はTwitterの方で次話の告知してみようかなと思います。因みにまだ未定です。

二つ目の理由は、支援絵のことです。大変光栄なことに、支援絵を頂きました。
haNeoさん3作 蓮沼卯月

【挿絵表示】

凛々しくてカッコいいですね!
ただ、この支援絵も本来はサイトのメール機能だったかな? で簡単に届けられるんですが、これも私が匿名で投稿している所為で、作者であるhaNeo3さんには私にこの絵を届ける為に、かなり苦労を強いられていました。折角描いて下さった方にそんな苦労を強いるのは、大変申し訳なかったので、今回のような手順を踏まずとも、楽に届けられるようにアカウントを作成しました。……たしかDMで画像送れたよね?(Twitterやったことないからわかんない)

以上が私がTwitterを始めるに至った経緯です。上記の他に、私も偶にBLEACHなどのアニメキャラの模写をすることがあるので、暇だったら、そちらも載せみよっかなって思ってます。

また、頂いたイラストはあらすじ欄にも載せています。

では、今後とも拙作をよろしくお願いします。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。