転生した先が死後の世界で矛盾している件 作:あさうち
それから三篇を挟んで四篇から原作へって感じで考えています。
……ヒロイン誰にしよう。一応候補は居るんですけど、そこからが決められない。
第五話
「……やはり私にはあなたと一緒に過ごす資格がありませんのね」
「だからそれは違うっていつも言ってるじゃん。だから元気だしてよ」
ここは花草浮かぶ水面の世界。そこに僕はいつものように斬魄刀に呼び出されていた。
「なら、どうしてあなたは私をお使いにならないのですか? やはり、私が至らない所為なのでは――」
「――それも僕が剣術が得意じゃないだけで、君の所為じゃないっていつも言ってるじゃないか」
実は僕の斬魄刀は少し面倒くさい性格をしており、僕が使ってあげないとすぐにこういう風にしょげてしまうのだ。
原因は僕が白打を修行するようになったことで、それを境に僕が斬魄刀を振るう機会がめっきり減ってしまったことだ。
お陰で最近の僕の刃禅や睡眠は殆どが斬魄刀を慰める時間に回されている。せめて少しでも話す内容を変えてくれればいいんだけど、それをしないからいい加減面倒になってくる。
「うーん。始解ができるようになれば使う機会も増えると思うんだけどなぁ……」
斬魄刀は言わば持ち主を映し出す鏡だ。
したがって始解の能力は持ち主の能力や性格に左右されると言っても過言ではない。僕の場合は少なくとも直接攻撃系の斬魄刀になることはないと踏んでいるんだけど、結局解放してみないと、どんな能力か分からない。まるで、ソシャゲのガチャでも回すような気分だ。……そんなものとは比較にならない程に重要なんだけどね。
まあ、とにかく始解で僕に合った能力を手にすることができれば、斬魄刀を使う機会が増えるのではないか、ということだ。
「……始解ですか。あと一息なんですけどね」
僕が発した言葉で場に微妙な空気が流れる。
彼女曰わく、僕は始解まであと一歩の所まで来ているらしい。
“対話”は約一年前に済んでいるし、そこからずっと対話を重ねて来たお陰で“同調”も殆ど済み、もういつ始解ができてもおかしくないそうだ。
だけど、そのような状態がもう約半年間も続いている。
僕の目の前にいる彼女はその理由を分かっているそうだけど、それを僕に言ってしまうと、最悪の場合二度と始解ができないようになるかもしれないとのこと。
故にこの問題は僕自身が解決するしかなく、色々試してはいるんだけど、どれも大した効果はなかった。
「色々試してはいるんだけどね……」
「……そうですわね」
本当に色々と試した。どこに行くにも斬魄刀を肌身離さず行動したし、斬魄刀と一緒に布団に入って寝たこともあった。散髪に斬魄刀を使ったりもした。
でも、どれも大した効果はなかった。一体あの頃の僕は何をしていたんだろうかと遠い目をしながら考える。
「とりあえず、もう少しだけ剣術の修行時間を増やしてみるよ」
「まあ! それはそれは、嬉しい限りですわ」
僕がそう言うと、彼女はあからさまに嬉しがった。
まあ、彼女もそれを望んでいるみたいだし、もしかしたらそれが同調に繋がるかも知れないからね。
「じゃあ、そろそろ行かせてもらうよ」
「行ってらっしゃいませ。お気をつけて」
円形の葉の上に立った僕を彼女が見送ってくれる。精神世界から外に出る時って、この挨拶で合っているんだろうか?
そんな他愛もないことを考えながら僕は精神世界を後にした。
***
「起きて蓮沼君、朝だよ」
朝が来た。どうやら今日は精神世界を出てから起きるまでに少し時間があったらしく、いつもの如く人に起こされた。
「んぅ……。おはよう、ほたる」
「うん。おはよう」
真央霊術院を卒業し、五番隊に所属してから約二ヶ月が経過した。そして、僕は名前で呼ぶことと引き換えにあれから結局五番隊に入隊することに決めた蟹沢ほたるさんという修兵に次ぐ新たなお世話係を獲得した。……ホント一時はどうなるかと思ったよ。
別に誇ることでもないけど、ほたるがいなかったら多分僕は毎日遅刻してた自信がある。
そう言えば、前に何でほたるが五番隊に入隊するか気になって訊いてみたんだけど、『えっ!? い、いや、別に特に理由はないけど!!』ってはぐらかされた。
そんなに言いづらい理由でもあるのだろうか?
「朝ご飯作っておいたから食べておいて。私は一度部屋に戻って準備してくるから」
「うん。いつもありがとう」
「どういたしまして」
五番隊に所属した影響で僕を取り巻く環境も大きく変化した。中でも一番大きいのが真央霊術院の寮から五番隊宿舎へと引っ越したことだろう。
院生や死神には貴族の生まれの人間も居れば、流魂街から来た人間も居る。
前者は瀞霊廷内に自身の家があるから、そこから院なり仕事なりと赴けばいいのだが、流魂街出身の僕達のような人間はそのようにはいかない。
そういう人の為に建てられたらのが、真央霊術院寮であり、各隊の宿舎だ。ほたるが先程自分の部屋に戻ると言ったのも、寮の中の自分の部屋に戻るということを指す。彼女もまた、流魂街の出身なのだ。
僕と修兵とほたると青鹿君は同じ流魂街出身だったから、院でも比較的一緒に過ごし易く、こうして今でも交流が続いている。
「いただきます」
一度思考を打ち切り、ほたるが作ってくれた朝ご飯に舌鼓を打つ。白米に漬け物に味噌汁に豆腐というとてもオーソドックスなものだが、修兵がおにぎりを作ってくれるまでは朝ご飯をお菓子で済ましていた僕からすれば、とても美味しく感じられた。
今ではしっかりとした朝ご飯を食べなければ一日が始まらないと思える程だ。ほたる様々である。
「ごちそうさまでした」
毎日毎日朝早くからご飯を作ってくれるほたるへの感謝をしっかりと込めて挨拶をする。
「さて、行きますか」
食器を洗った僕は、斬魄刀を手に取り、二番隊隊舎への道を歩み出した。
***
「蓮沼、これ頼めるか?」
「はい。あ、では代わりにこの資料をお願いします。今完成したので」
「おう」
先輩の死神と資料の交換を行う。資料を受け取った先輩は部屋から去っていった。
死神の仕事は大きく分けて二つに分けられる。一つは以前にも言った魂葬や虚の浄化といった魂のバランサーとしての役割。
そして、もう一つは自身の所属する護廷十三隊の隊士としての事務的な仕事だ。護廷十三隊は死神だけで組織された大きな集団だ。そんな集団を統率するには当然秩序や事務的な仕事も必要になってくる。確かに、護廷十三隊は実力至上主義だけど、ただ強いだけが実力じゃないのだ。
本当にそうなら戦闘集団である十一番隊の隊士はもっと簡単に出世する事が可能だろう。因みに、十一番隊の隊士は事務仕事が苦手な死神が多いらしい。
そんな敬遠されがちな事務仕事だけど、僕は思いの外その適性は高かった。
僕はこれでも生前は高校生として勉学に励んでいた身だ。机に向かうことにはあまり抵抗はないし、仕事の内容も所詮は平隊員の仕事なので大した難しさではない。これならまだ数学の問題を解くことの方がよっぽど難しい位だ。
そんな中でも一番難しい、と言うよりも一番面倒とされる仕事が他隊に書類を届けに行く仕事なんだけど、瞬歩が得意な僕からすればこれもそこまで苦にならなかった。
「ふっ、チョロい」
つまるところ、余裕だった。
一段落仕事が終わった僕は、身体を伸ばし、椅子の背もたれに体重を預ける。
「何がチョロいの?」
「うおっ、ほたる!? いつからそこに?」
「今さっきだけど」
別に聞かれて困るようなことでもないけど、独り言が意図しないところで聞かれたことに羞恥を感じた。
ん、と言いながら渡されたお茶をありがとうと言ってから受け取り、一口飲んだ。うん、美味しい。
「で、何がチョロいの?」
「いや、仕事があまりにも簡単だから拍子抜けしてたんだよ」
一息ついたところでほたるが訊き直して来たので僕はそれに答えた。
「確かに、蓮沼君座学の成績もよかったもんね。私は他隊に書類を届けに行く仕事が少ししんどいかな」
「え、何で? 別にほたるは瞬歩が苦手ってわけじゃないでしょ?」
寧ろ、真央霊術院での成績は学年でも上の方だったはずだ。
「体力的には大丈夫なんだけど、精神的にね」
事務仕事を碌にせず、修行ばかりに励む十一番隊舎は汗臭くて、総隊長が率いるエリート集団である一番隊は厳格な雰囲気で近づき難いらしい。
前者は同じ男だからあまり気にしたことはなかったけど、後者は共感できた。
「まだ、入隊して二ヶ月しか経ってないけど、はっきり言ってもう飽きたかな。……ほたる?」
返答が何時まで経っても来ないことに違和感を感じた僕はほたるに声をかけてみるけど、彼女は僕の方を見て固まっていた。……いや、これは僕じゃなくて、僕の後ろの方を見て固まっている気がする。
「早くも仕事に慣れることができたようで何よりだよ、蓮沼君」
そして、突如後ろから声をかけられた。僕はこの声を知っている。とても覚えのある低音イケボだ。
僕はギコギコと効果音がついてもおかしくないような動きで後ろを振り向いた。
「こ、こんにちは、藍染隊長。今日はどうしてここに?」
藍染隊長のことだから、何の用件もなくこんな平隊員のいる場所には来ないはずだ。ということは仕事関係の話だと判断し、質問を投げかけた。……だから決して僕の発言をうやむやにしたかったわけではない。ホントダヨ。
「実は君にある仕事を頼みたくてね。そしたら丁度君も事務仕事に飽き飽きとしているそうじゃないか」
そう言いながら、藍染隊長は僕に一枚の文書を渡して来る。
そこにはこう書かれていた。
――現世駐在任務に関する御案内、と。
「受けてくれるね?」
「……はい」
一度舐めた発言をした以上、僕に断るなどという選択肢はなかった。……いや、別に嫌というわけじゃないんだけどね。寧ろ、現世には興味がある。
だけど、藍染隊長の指示というのに妙な引っかかりを覚える。具体的に言うと、何か起こるような気がするのだ。
はぁ……。憂鬱だ。
***
「【縛道の九“
僕の指先から放たれた黄色い縄状の鬼道が相手の虚を捕らえる。使った鬼道が一桁台なので、あまり長くは捕らえられないだろうけど、それでも十分だ。
「ふっ!」
僕はそのまま虚に斬魄刀を突き刺すことで滞りなく虚を浄化した。
「……ふう」
現在、僕は現世へ二ヶ月間の駐在任務に赴いている。本日はその最終日だ。今日で現世を去らなければならないと思うと少し感慨深いものがある。
僕が暮らしていた頃の日本と比べると、技術の発展はまだまだだけど、それでも元は自分が暮らしていた国。何も思わないわけはない。
「まあ、次は休暇を取ってたっぷりと現世を満喫させてもらうとしよう」
例を挙げると、一番隊の副隊長である
確かに、現世の製品に興味がないわけではないけど、それは今から約五十年近く未来の製品であり、今のものではない。
――そんな未来に思いを馳せていたその時だった。
「っ!?」
僕は突如後ろに現れた霊圧を察知し、前進することで距離を取った。
「ウオオオオオオオオン!!」
そこには、いつしかのように通常の虚よりも強力な力を持った虚――巨大虚がいた。
「【縛道の六十一“六杖光牢”】!」
僕は以前と同じように巨大虚を拘束しようとする。
「えっ!?」
だけど、僕の縛道はいとも簡単に弾かれてしまった。
「……縛道耐性か」
とっさに思いついた造語を僕は呟いていた。だけど、その可能性は高い。この巨大虚の霊力は精々真央霊術院時代に対峙した個体より少し高いくらいだ。ならむしろ、そう考えた方が自然とも言える。
これは少しヤバいかもしれないな。
――と、一年前までの僕なら思っていただろう。
だけど、今の僕には白打という立派な攻撃手段がある。
僕が走って、巨大虚に接近しようとすると、巨大虚は僕に拳を繰り出してくる。
僕はタイミングを見極めて、かわすと同時に巨大虚に瞬歩で急接近する。
「【衝破閃】!」
そして、巨大虚の仮面にカウンターを入れることに成功した。
「……ヴァ?」
「なんでっ!?」
だけど、衝破閃を受けたのにも関わらず巨大虚は平然としていた。
――今度は物理耐性かっ!?
と、気づいた頃にはもう遅かった。
「ぐあっ!?」
突如現れたニ体目の巨大虚の攻撃によって、吹き飛ばされていた。
「【縛道の三十七“
このまま吹き飛ばされて人間がいるかも知れない建物に激突するのは流石によくないと思って、縛道でクッションのようなものを作り、自分が飛ばされた衝撃を緩和する。
「『こちら五番隊蓮沼卯月。現世駐在任務にて巨大虚が出現。縛道と物理攻撃に耐性を持っており、私の手に負えないので救援を頼みたい』」
吹き飛ばされたことにより、巨大虚の間合いから大きく外れることができたので、今の内に援軍を頼んだ。
『了解しました』
承諾の通信を聞けたので、僕は吊星から地面に降り立った。
――どうする?
縛道と物理攻撃が効かないということは僕に残された攻撃手段は拙い破道だけだ。
幸い、巨大虚は僕を舐めているのか、こちら向かってくる歩みはゆっくりだ。三十番台の鬼道を詠唱できるくらいの時間はある。
「【君臨者よ 血肉の仮面・万象・
僕の放った蒼い炎は一直線に一体目の巨大虚に向かうが――二体目に現れた巨大虚の爪によって四散されてしまった。
――虚が互いに協力してるのかっ!?
片方の攻撃を庇ったということは少なくとも一体目の巨大虚は破道に弱いということで間違いないのかも知れない。
だけど、そんなことは最早関係なかった。
「ははっ……それはもう流石に飽きたよ」
まるで、一年前の焼き増しのように、総勢十匹もの巨大虚が僕の目の前に現れていた。
「やるしかないのか……」
恐らく、僕の足ならあの巨大虚が相手でも逃げることはできる。だけど、そんな選択肢はハナから僕にはなかった。
何故なら――死神は人間を守らないといけないからだ。
僕が逃げればそれだけ被害は甚大なものになる。故に僕は退けない。
縛道も効かない、白打も効かない。そんな中僕が取れる巨大虚を倒す可能性のある手段は一つだけだ。
僕は斬魄刀を抜いて、彼女に視線を向けた。
「頼らせてもらうよ。悪いけど答えははいかYesだ。君だって死にたくはないだろう?」
『やっと……頼って頂けるんですね』
「うん。今になってやっと気づいたよ。僕に足りなかったものは君を頼ろうとする心だったということにね」
ついさっきまでの僕は始解、ましてや斬魄刀がなくても余裕を持って敵と戦えていた。だから僕は始解についてはそんなに焦って習得する必要もなく、できたらいいなー、程度に思っていた。
――でも、それじゃあダメだ。
斬魄刀とその持ち主は文字通り一心同体。互いに命を預け合うぐらいの信頼を築かなければいけないのだ。それが、僕にはできなかった。
だから、いつまで経っても始解ができなかったのだ。
『気づいて頂けましたか……。それなら必死に芝居を打って来た甲斐があるというものですわ』
「やっぱり演技だったのか……。演技力は中々のものだったけど、シナリオの方はまだまだだね」
全てを教えてしまえば、僕は始解が習得できなくなる。だから、彼女はあの茶番のような状況を作ることで僕に気づかせようとしていたんだろう。
『まさか、一年もかかるなんて思いもしませんでしたわ……』
「ははは……。それは悪かったよ。でも、結局はこうして習得できたんだから水に流してもらってもいいと思うんだけど?」
『なりませんわ。あなたにはゆくゆく卍解も習得してもらうつもりですもの。ここで甘やかすつもりはありません』
「……それは大きく出たね」
卍解か。たった今始解を習得したばかりの僕ではそれこそ夢のような話だろう。幾ら才能があっても習得には十年かかると言われているしね。
「まあ積もる話は後にして、今は目の前の敵に集中しようよ」
『そうですわね。それでは私の名前をお教えしましょう。これからもよろしくお願いしますわよ卯月、私の名は――』
「【
解放に合わせて刀の形状が変わっていく。鍔は精神世界に浮かんでいた花のような形になる。
刀身はみるみると短くなっていき、最終的には脇差程の長さに落ち着き、三つの穴が開いた。
よく見れば、三つの穴からは煙が溢れ出しており、その煙は巨大虚に向かって行く。
そして、その煙を吸った巨大虚は抗う間もなく次々と倒れていった。
それもそうだろう。そもそも虚とは心をなくした魂魄を指す。故に虚は本能のままに人間や通常の魂魄、そして同族でさえも喰らっていく。
――そんな虚が眠るという行動に抗えるはずがないのだ。
僕の斬魄刀、睡蓮の能力は――解放の瞬間に発せられる煙を身体に取り込んだ相手を強制的に眠らせることだ。
そして、睡蓮の能力によって眠った相手は全ての能力を強制的に停止させられる。
僕は巨大虚達が眠ったのを見計らい、順に仮面を斬りつけて行く。先程までは衝破閃が効かなかった物理耐性持ちの巨大虚も睡蓮の能力のお陰で何ら苦労せずに切り落とすことができた。
「ありがとう睡蓮」
『礼には及びませんわ』
今回は本当に危なかった。始解ができていなかったら今頃僕は確実に死んでいただろう。
それでも生き残れたし、始解も習得できたのなら結果オーライと喜ぶべき場面なのかも知れない。
けれど、そんなことは言ってられない。
さっきの巨大虚の動きは、理性を奪われているはずの虚の動きではなかった。
確かに、力をつけた虚の中には言語を話すこともできる虚もいるけど、あの巨大虚にそんな様子はなかった。
それに、あまりにも都合が良すぎる気がする。
一年前の現世へ遠征に来たときも、今回の現世駐在任務も僕が現世に来たときに都合よく、普通では考えられない量の巨大虚が霊圧遮断や縛道耐性といった、珍しい能力を持って現れた。
それも、霊圧遮断に至っては全ての個体が有していた能力だ。
これらを鑑みると、寧ろ何か作為的なものがあったと考えた方が納得できる。
そうなると、これら一連の騒動の犯人は、やはり将来的には護廷十三隊に謀叛を起こし、今回は僕に現世駐在任務を言いつけた人物――藍染隊長が候補筆頭だろう。
「居りましたよ。藍染隊長」
「大丈夫かい蓮沼君っ!?」
「……藍染隊長、市丸副隊長」
思考を巡らせていたその時だった。建物の陰から市丸副隊長が藍染隊長を呼び出した。
こちらに向かってくる藍染隊長は心底僕を心配している様子で、もしこの騒動を藍染隊長が画策したのだとしたら演技力は俳優顔負けだ。
僕は二人に大量の巨大虚と遭遇したことや土壇場で始解を習得してなんとか倒せたことを報告しながら再度思考を巡らせた。
――そろそろ何か藍染隊長に対する対策を立てておくべきかも知れない。
とは言っても、感づかれた瞬間に一貫の終わりだからできることなんて修行ぐらいしかないんだけどね。
だけどせめて、鏡花水月の解放を見ない為の対策ぐらいは考えておこう。
こうして、新たな力と決意を得た僕は現世駐在任務を無事に終えた。
オマケ
「ほたる、これ見てよ!」
「何、それ?」
「これは目覚まし時計って言ってね、現世で買ったんだけど、なんとこれ、時間を設定しておくことで大きな音を鳴らして朝起こしてくれるんだよ。だから、明日から朝起こしに来なくていいよ」
「……え?」
卯月は知らなかった。想い人の寝顔を見ることがほたるの毎日の密かな楽しみになっていたことを……。
「だから今までありがとうほたる、これはほんの気持ちだけど、受け取ってくれると嬉しいな」
「……え?」
そう言った卯月が渡したものは簪だった。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
「……あ、朝ごはん」
「え? 何?」
「だから朝ごはん! どうせ蓮沼君は禄に作らないだろうから簪のお礼にこれからも作ってあげるって言ってるの!」
「え、いいの? ほたるのご飯は美味しいからね。それは願ったり叶ったりだよ」
卯月は知らない。自分が知らず知らずの内に下げて上げるという高等テクニックを使っていたことを。