転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 今回の話は蟹沢さんの一人称で話が進んで行きます。


第四十三話

 ドタドタドタ、そんな慌ただしい音が五番隊隊舎の廊下から聞こえて来る。

 その間隔は尋常ではないくらい短く、その足音の主が相当急いでいることであろうことが察せられた。そして、最初は聞き流していたその音は瞬く間に私の執務室へと近づいて来た。

 

 その人物は焦るあまりにノックすることも忘れ、勢いよく私の執務室の部屋の扉を開け放つ。その人物の名は――。

 

「大変です、ほたるさん!」

「桃っ!?」

 

 五番隊副隊長兼隊長代理で、私の後輩でもある雛森桃だった。

 

「どうしたの、そんなに慌てて?」

「それが……。卯月さんが、卯月さんが!」

「卯月君に何かあったのっ!?」

 

 普段、五番隊を牽引している桃がここまで取り乱すことは珍しく、ただ事ではないと察した私は彼女に問い掛けたんだけど、彼女の口から出たのは、私の想い人である卯月君の名前だった。

 もしかして彼の身に何かあったのでは、と思い気が気ではなくなった私だったけど、桃が取り乱している今、彼女を支える立場である私までもが取り乱すわけにはいかないので、必死に平静を保ち、桃に話を訊く。

 

「卯月さんが……五番隊の隊長に就任しました!」

「……え?」

 

 そして、桃が発した言葉は下手をしたらそんな私の危惧よりも驚くべきことだった。

 

 一体、どれだけ待ち望んだだろうか。

 

 ――ついにこの時が来たのだ。

 

 その後、桃は卯月君と一緒に檜佐木君が隊長に就任したことと、私と桃が翌日に卯月君から招集をかかっていることを告げ、退出した。

 

 

***

 

 

 第一印象は男の子なのに、随分と女の子っぽい容姿をしているなと思った。肌なんて下手すれば女である私よりも綺麗で、それにも関わらず、碌な手入れもしていないのだと言うのだから、それはもう嫉妬した。

 私が彼に抱いた第一印象は他の人とそう変わらないと思う。だから、私は真央霊術院での時間の大半は檜佐木君を想って過ごしていた記憶がある。

 

 そして、出会った頃の彼は今からでは想像できないほど情けなかった。その頃から、座学と歩法は学年一位の成績を残して居たけれど、それ以外はからっきしだった。

 また、その頃の彼は今以上に臆病だった。だから、虚討伐の実地訓練では碌に戦闘もできず、速い瞬歩を駆使して逃げ回るだけの弱虫と、彼が流魂街出身なのも相まって馬鹿にされていた。

 一応、その頃から私は彼や檜佐木君、そして青鹿君とよく連んでいたので、そのことを快くは思っていなかったけれど、別にその頃は彼に対する恋愛感情は持ち合わせていなかった。

 対して檜佐木君はその頃から学年一位の座を守り通しており、彼がどれだけ悪口を言われ、イジメられようと、それを決して見逃さずに返り討ちにし続ける檜佐木君に私はどんどん惹かれて行った。

 

 そして、初めての実地訓練から一年くらいした頃、彼は変わり始めた。どういう訳か今では彼の十八番だけど、それまではからっきしだった縛道を急激な速さで習得していったのだ。

 その速さは僅か一ヶ月で学年一位であった檜佐木君を抜かす程のスピードで、本人はイメージトレーニングの成果だと言っていたけれど、そんなモノで習得出来るのなら、皆習得していると色んな人からツッコミを入れられて居たのを覚えている。

 また、その頃から彼の実地訓練での成績が変わって行った。今までは逃げてばかりだった彼が縛道を駆使して、虚を討伐するようになったのだ。しかし、臆病なところは何も変わって居らず、虚を過剰なまでに拘束してから倒すその立ち回りは、彼の急成長を良く思わない人たちからすると、格好の餌だったのか、彼は臆病なのは相変わらずなのに加えて、何か良からぬ事に手を染め、ドーピングを自ら施した卑怯者というレッテルを張られる事になってしまった。

 だけど、彼は決してその人達に対してやり返す事はしなかった。あの頃の彼ならば、縛道を駆使すれば、十分に返り討ちにする実力があったのにも関わらずだ。その理由が気になった私は彼と最も仲がいい檜佐木君に話を訊いた。彼自身に訊かなかったのは、イジメられている彼自身に問いかけるのは酷だと思ったからだ。そして、私の問いに檜佐木君はこう答えた。

 

『俺も訊いた訳じゃねぇから、あんま詳しいことは言えねぇんだけどよ……。多分あいつの中にやり返すっていう選択肢がねぇんだ』

 

 どういうことか分からなかった当時の私は首を傾げた。その様子を察してか檜佐木君は言葉を続けた。

 

『あいつ、戦いに対して過剰なまでに臆病だろ? それがどうしてか分かるか?』

 

 傷つきたくないからじゃないの? 特に考えもせずに放った私の言葉に首を横に振った後、檜佐木君は再び口を開いた。

 

『確かに、それもある。だがそれ以上に、あいつは自分が何かを傷つけるのが怖ぇんだ。例えそれが自分をイジメて来る相手や虚であってもな』

 

 続けて檜佐木君は彼が最近になって虚を討伐できるようになった理由は、死神が虚を倒すことが、霊なる者が虚になった後に犯した罪を浄化して、尸魂界に送る為だと割り切れるようになったからだと教えてくれた。

 

『優しすぎるんだよ、あいつは』

 

 呆れるように、しかしそれ以上にどこか暖かい檜佐木君の表情にときめきつつも、私は彼に対して思考を巡らせていた。

 

 それからだ、私が彼に対して興味を持つようになったのは。

 

 そして、月日は流れて行く。その間にも彼は徐々に成績を上げて行き、苦手であった斬術や白打、破道までも中の下くらいになるまでには克服した彼は、何時の間にか私や青鹿君を追い抜かし、学年次席になるまでになっていた。

 気付けば彼の悪口を言う者は居なくなっていた。皆彼の努力を見ていたからだ。なんと、彼は努力をし続けるその姿のみで、自分に対するイジメを跳ね除けてしまったのだ。

 弱いと思っていた彼は実は誰よりも強かったのだ。単に実力がどうとかの話ではない。心が強かった。死神が手にする力は強大だ。勿論正しい使い方をすれば、誰かを護る盾となるけど、一歩間違えれば破滅へと導く刃にも成り得る。それを彼は誰よりも分かっていたのだ。

 そんな一つのブレない芯を持った彼に、気付けば私は惹かれていった。

 

 そして更に月日は流れ、私達が六回生となった時、あの事件が起こった。

 

 ――そう、大量の巨大虚の出現だ。

 

 あの時、私は何も出来なかった。彼が身を挺して私を護ってくれていなかったら、私は今こうして生きていなかっただろう。私はあの時、彼の指示通りに応援の要請をし、下級生を誘導することしかできなかった。

 それに対し彼は私を護った後も、回道で折れた自分の腕を治療し、霊術院生ではまず習得できない六十番台の縛道を駆使して、順調に巨大虚を倒して行った。そして、霊力が足りないと判断するや否や、彼は冷静に結界で防御を硬めながら、応援が来るまでやり過ごす立ち回りに変更した。

 結果、あの場に居た全員が生き延びた。巨大虚を全滅させたのは藍染だったけど、彼が居なければ私を初め、多くの霊術院生が命を落としていただろう。

 私は自分が情けなかった。

 

 しかし、そんな霊術院生の生存に大きく貢献した彼は、尚も足を止めなかった。あの事件で自分の力不足を感じた彼は、それを克服するために、入隊希望を四番隊から二番隊に変更したのだ。結果、彼は藍染に目をつけられていたこともあって五番隊に入隊したけれど、その藍染の助力もあって、彼は毎朝二番隊で修行に励むことになったのだ。

 

 そして、私は思い出す。彼を好きになったあの日のことを。

 

 

***

 

 

「ねぇ、檜佐木君。最近一人で院に来ることが多いけど、蓮沼君はどうしたの?」

 

 巨大虚の襲来から、一ヵ月近くの時間が経過した。犠牲になった院生が居なかったこともあって、事件から一週間もしない内に授業は再開された。

 そうして、つつがなく日常が戻ってくるはずだったのだけど、一つだけ違うところがあった。いつも檜佐木君と共に院に来ていた彼の姿が、偶に見られなくなる時があったのだ。

 

「ああ、それな。前に藍染隊長が院に来て、あいつが呼び出されたことがあったろ? その時、藍染隊長が卯月を五番隊に引き入れることを条件に、二番隊で修行させてもらえねぇか掛け合うことになったんだと。その結果、交渉が通って最近は休みの日でさえ二番隊で修行に行ってるぜ」

「「ええええええ!!」」

 

 檜佐木君の話を聞いた私と青鹿君が驚愕の声を上げる。

 態々隊長が赴くくらいだからただ事ではないと思っていたけど、まさかそんな大事になっているとは思いもしなかった。

 檜佐木君の話が本当ならば、毎日のように二番隊で修行をしている彼は霊術院の卒業と共に五番隊に入隊することになる。霊術院を卒業する前に護廷十三隊への入隊が決まっているのは、私達の代では檜佐木君だけだったので、彼を合わせるとこれで二人目だ。

 私の知らない内にまさか護廷十三隊への入隊まで決めているとは思わなかったけれど、よくよく考えてみれば、それが何ら不思議なことではないことに気がついた。何故なら、彼は既に難易度の高い六十番台の縛道を扱い、瞬歩や回道の腕も縛道の腕と同じくらい突出して居るのだから。あの事件で彼の実力が広まった以上、そうなるのは必然とも言えた。

 

「偶にあいつが忘れた朝飯を届けに行くときがあるんだけどよ……圧巻だったぜ。護挺十三隊の実力の高さも、そこでボロボロになりながら努力するあいつの姿もな」

 

 そう言いながら檜佐木君は身体を震わせていた。戦慄しているのかと思ったけど、それは違った。檜佐木君は彼の修行に励む姿に触発されているのだ。

 日常に戻って変わったことは一つだけと言ったけれど、そう言えばもう一つあった。彼が檜佐木君と院に偶に別々で来るのと同時に、檜佐木君が始業ギリギリの時間で来ることが多くなったのだ。

 彼と檜佐木君は良き友であり、好敵手だ。そんな彼が特別に護挺十三隊で修行して居るのを知って、檜佐木君が触発されないはずがなかった。

 

 そう分かっているはずなのに。どうしてか、私は檜佐木君をこうまでやる気にさせる彼の姿というものが気になった。

 

 そして、気がつけば口を開いていた。

 

「お願い檜佐木君、今度蓮沼君が朝ご飯を忘れた時、私も二番隊に連れて行ってくれない?」

 

 当時の私はそれがどうしてなのか分からなかったけど、今の私なら分かる。

 

 ――私は自分が進む理由が欲しかったのだ。

 

 巨大虚の一件で、私は自信を無くしていた。私以外の三人が巨大虚に向かって行く中、私は彼の足を引っ張ることしかなかった。

 そんな自分が情けなくて、嫌になった。だから私は彼に期待したのだ。檜佐木君をあそこまで触発した彼の姿を見れば、何かが変わるような気がしたのだ。

 

 そして、そんな衝動に近い行動が、後の自分を左右することになるとは、当時の私は思いもしなかった。

 

 

***

 

 

 そして、そう時間が経たない内にその日は来た。彼は今と変わらず、日常生活ではかなり抜けているところがあるので、忘れ物などは日常茶飯事だった。

 

 檜佐木君から、複数人で押しかけるのは良くないからと、彼の朝ご飯であるおにぎりを託された私は二番隊の門を叩いた。

 

「真央霊術院六回生の蟹沢ほたるです。こちらでお世話になってる同級生の蓮沼卯月君の忘れ物を届けに来ました」

「ああ、またあいつか。それはそうと、今日は檜佐木ではないんだな」

「はい、檜佐木君は今日どうしても外せない用があるようなので、変わりに私が」

 

 今日二番隊に来るにあたって、予め用意していた返答を私はつらつらと門番の人に述べた。

 先にも言ったように、彼は忘れ物の常習犯だったので、特に疑われることもなく、私は二番隊舎の中へと通された。

 

 その中にあった風景は私が想像していたものとはかなり違っていた。今私を案内する人からすれば、それはただの修行風景だったのかも知れない。だけど、私からすればそれは違った。

 

 ――私の知る修行はこんな殺伐としたものじゃなかった。

 

 無論、私は自分にできる限りの修行には取り組んでいるはずだ。そうでなければ、学年上位の成績をキープできるはずはない。

 だけど、私以外の皆がそうである訳がない。真央霊術院は集団で入学し、集団で授業を受け、集団で卒業する。当然、そこには色々な価値観や志を持っている人が居り、中には授業をサボるような不真面目な人もいるのだけど、ここは違った。

 集団で生活しているということには変わりはない。だけど、修行をしている二番隊の人達を見る限り、修行をサボっているような人は見られなかった。それどころか、ピリピリとした緊張感が見ているこっちにまで伝わって来る。

 

 何故、こうも違うのか? それを突き止めるべく思考を巡らせていた時、徐に私の前を歩いていた門番の人が足を止めた。

 

「あそこだ」

 

 そう言った門番の視線の先、皆が修行をしている隅の方に、彼は居た。死神の皆が死覇装を来ている中、彼だけが霊術院の制服を着ているので、一目瞭然だった。

 そしてその姿を見た時、トクンと鼓動が高鳴った。

 

「……え?」

 

 予想だにしないその出来事に私は掠れたような小さな声を漏らす。

 

 彼はひたすら一人の死神と戦っていた。彼の放った拳は余裕を持って避けられ、彼が次の行動に移るまでに一撃を入れられる。

 そして死神が問題点を指摘すると、また戦いを始める。それの繰り返しだった。元々ボロボロだった彼の体は更に傷ついていき、それを回道で治しながら戦う彼の姿は見ていて痛々しかった。

 私は今まで彼が傷ついた所を殆ど見たことがなかった。あるとすれば、巨大虚事件で私を庇った時の一回くらいで、彼は基本縛道と瞬歩を駆使して、遠距離で戦うスタイルだったので、あそこまでボロボロになりながら戦う彼の姿は見ていて新鮮で、そして――格好良かった。

 

 私は今まで、彼の出来ないことは直ぐに切り捨てる姿勢があまり好きではなかった。彼は歩法、縛道、回道には優れているけど、逆に斬術、白打、破道はからっきしだった。

 しかし、それは彼は弱点を克服することなく、長所を更に伸ばすことで克服した。一応、三つの弱点も霊術院を卒業できるレベルにまでは到達させていたみたいだけど、そこに到達してからは彼は何もしなくなった。

 私の頭が固いだけかも知れないけど、そんな極限まで物事を割り切った彼の姿勢がどうしても好きになれなかったのだ。

 

 だけど、それは違った。

 

 ――彼は自分に必要ならば、それを認めて苦手なモノでも積極的に努力することができる人だったのだ。

 

 やはり、彼はどこまで行っても彼で、自分の弱さを認め、研鑽を積み、そこから得た力を正しく振るうことができる誰よりも強く、優しい心の持ち主だったのだ。

 

 それと同時に、何でここがこんなに殺伐とした雰囲気をしているのかも理解することができた。そもそも同じ集団とは言え、護挺十三隊と真央霊術院とでは目標とするものが違い過ぎるのだ。

 真央霊術院は先ず、死神としての基本を抑え、無事院を卒業することを目標とする。それは、真央霊術院を卒業した後に、必ずしも護挺十三隊に入る訳じゃないからという理由がある。

 だけど、護挺十三隊に入ってからは違う。護挺十三隊に入隊した人は皆「席官になりたい」とか「強くなりたい」とか、それぞれの思惑はあるけど、その前提に一人の死神として尸魂界を守るという共通の認識がある。

 そこから来る意識の差は歴然だった。

 

 そして、彼は今そんな場所に身を置いている。その姿を見て、触発されないはずがなかった。

 

 ――負けられない!

 

 気づけば、私は手を握り締めていた。

 

 ――今度こそ、彼の隣に立って見せる!

 

 もう、足手纏いにはなりたくない。いつの間にか先を行かれてしまった彼を支えられるような、そんな死神になりたいと思った。

 しかし、この気持ちは恋心ではなく、単なる対抗心。だけど、今思えばこれが始まりだったのだ。この対抗心は時間が経つに連れてその形を変えて行き、恋心へと変容していった。

 

 そして、今だからこそはっきりと言える。

 

 ――強さと弱さ。この相反する二つを兼ね備えた卯月君だったからこそ、私は心から好きになり、支えたいと思うようになったのだと。

 

 

***

 

 

 翌日、私は桃と一緒に一番隊隊舎へと向かっていった。卯月君と檜佐木君の隊長の任命式も一番隊で行われているので、私達も任命式が終わったタイミングで卯月君に会えるように時間を合わせていた。

 

 そして、桃と雑談を交わしている内に指定されていた部屋の前に着いた。

 

「お、来たかな? どうぞー」

 

 霊圧を感じたのか、部屋の中から卯月君の入室を許可する声が聞こえて来た。私と頷きあった桃は、部屋の襖へと手を掛けた。

 部屋の中には新たな隊長羽織に身を包んだ彼と、その彼の隣には檜佐木君が居た。

 

「ごめんね、本当なら僕が向かうべきなのに」

「ううん、良いよ。それより隊長就任おめでとう。二人共似合ってるよ。ね、桃?」

「はい、おめでとうございます!」

「ありがとう」

「ありがとな」

 

 私達が席に着くと、まず初めに卯月君は私達に頭を下げて来たけど、別に気にするようなことでもなかったので、私達は二人の晴れ姿を褒め、祝った。

 二人が着ている隊長羽織は元々二人が特徴的な死覇装を身に纏っていることもあってか、少し通常の隊長羽織とデザインが違っていた。通常の隊長羽織は長袖なんだけど、身体に密着する長袖の上に半袖の死覇装を着ていた卯月君の隊長羽織はそれらにあわせて半袖に、袖が切り落とされた死覇装を着ていた檜佐木君は同じく袖が切り落とされた隊長羽織を着ていた。

 

「ところで、どうして檜佐木君が?」 

 

 挨拶を終えた私は先程から気になっていた疑問を投げかけた。この招集は卯月君からのものだったし、てっきり私は隊の今後の方針などについて話すものだと思っていたけれど、どうやらそれは違っていたようだ。

 予めこの質問が来ることを分かっていたのか、檜佐木君は間を置くことなく私の質問に答えた。

 

「ああ。それなんだが、それを答えるには今日お前達をここに呼んだ理由を話した方が早そうだな。今日、お前達をここに呼んだのは五番隊と九番隊の副隊長を任命するためだ」

 

 その言葉を聞いて、合点がいった。檜佐木君は九番隊の隊長だ。だったら、その副隊長を決める為に檜佐木君がここに居ることはごく自然な流れだろう。

 そして、その場に私達が居るということは――私達がそれぞれどちらかの隊の副隊長になるということだ。

 

 そのことに気が付いた私は身体ごと視線を卯月君に移した。恐らく、この時の私の動きはバッという効果音がついてもおかしくはないくらい速かったんじゃないんだろうか。

 だけど、それだけ気持ちが逸るのも仕方のないことなのだ。――だって、それは私にとって何よりも大切な目標で、約束なのだから。

 

 私の視線に気づいた卯月君は力強く頷き、口を開いた。

 

「ほたる。副隊長として、僕を支えてくれないかな?」

「……謹んで、お受けいたします」

 

 気付けば、私の目からは涙が溢れ出ていた。

 




 次回の投稿は10月7日の予定です。
 話を組み立てている感じだと、かなり長くなりそうだったので、それに応じて更新も遅くなります。申し訳ないです。

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