転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 評価ってすげー。バーに色がついた途端に今まで百ちょいだったお気に入り登録者が一週間も満たないうちにその十倍以上に膨れ上がったんだが……。

 まあ、何が言いたいかというとだ――お気に入り登録、評価並びに沢山の感想ありがとうございました!!

 あと、今回の話から時間が飛ぶことが多くなると思います。原作まではできるだけ早く行きたいので。
 


第四話

「ふっ! はぁっ!」

 

 想像で仮想の敵を作り出し、それを相手に反復練習で培った拳や蹴りを放つ。僕が二番隊で修行を始めた時に教わった修行法だ。

 これをすることにより、ただの修行でもある程度の緊張感を持って望むことができる。

 

 最初は何を言っているんだこの人達と思いながらも渋々やっていたんだけど、続けてみるとその効果が分かるようになってきた。

 今では、僕の白打は低く見積もっても院生の中でかなり上位の方に食い込んでいると思う。

 

 今、僕が相手にしているのは巨大虚だ。一度、倒しているからか、どれくらいの強度を持っているか大体分かっているし、強さも今の僕が相手をするのに丁度いいからだ。

 

 巨大虚の長い爪によって放たれる斬撃を最小限の動きで避け、そのまま攻撃に転じる。虚のはどの個体にも共通している仮面という弱点がある。

 

「【衝破閃】!」

 

 故に、そこを叩けば倒し易い。

 白打を強化するのに比例して強化された僕の衝破閃が想像上の巨大虚の仮面に突き刺さる。だけど、流石に一撃でやられるほど巨大虚も甘くない。

 僕は最近になってやっとできるようになった衝破閃の連発を繰り出し、確実に巨大虚の仮面を砕いた。

 

「ふう……」

「朝から精が出るな」

 

 修行が一段落つき、息を吐くと、誰かが背後から僕に声をかけて来た。

 

「あ、楠木さん。おはようございます」

「おう、おはよう」

 

 楠木湊。僕が模擬戦で勝った際の相手で、僕が二番隊で修行をするようになってから一番お世話になっている方だ。実はこの人、既に始解も習得している十三席だというのだから驚きである。

 

 実はあの模擬戦はどうやら僕に全力を出してもらいつつ、負けてもらいたいと思って本来十三席の楠木さんを平隊員などと嘘をついて送りこんだらしいんだけど、僕が思いの外あっさりと倒してしまった。

 だから、僕は二番隊で修行を始めた当初、浮いた存在だったのだ。それもそうだろう。急にどこの馬の骨とも知らない院生が十三席に勝ち、二番隊の隊舎で修行を始めたのだ。誰だって扱いに困る。

 そんな時にお世話になったのが楠木さんだった。と言っても、普通に話しかけてきてくれただけなんだけど、それで随分と状況が改善されたのだ。

 それはやはり、楠木さんが僕に負けた張本人だというのが大きかった。誰だって当事者が気にしていないことに変に首を突っ込もうとはなかなか思えない。

 楠木さんが僕と普通に話してくれるように話してくれたから、僕は今、大きなストレスもなく二番隊隊舎で修行を積むことができるのだ。

 

 そして、僕に白打の手解きをしてくれたのも、また楠木さんだった。お陰で僕の白打は攻撃手段が乏しかった頃に比べると見違える程に上達した。

 

「じゃあ、今日もやるか?」

 

 関節をポキポキと鳴らしながら楠木さんは僕を誘う。いつもなら最後に楠木さんと組み手をして修行を終えるんだけど、今日は違う。

 

「いえ、今日は大事な用があるので、これで上がらせてもらいます」

「あー、そう言えば今日は霊術院の試験だったな。友達の応援か?」

「まあ、そんなところです」

 

 そう、本日は真央霊術院の卒業試験兼護廷十三隊入隊試験の日だ。例外はあるが、殆ど全ての院生がこれを受験することになる。

 因みに、例外とは僕や修平のように既に護廷十三隊への入隊が決まっている人間であり、試験を免除されるのだ。

 楠木さんが僕の用事を友達の応援と決めつけた理由はここにある。

 

 まあ、厳密に言うと、少し違うんだけどね。

 

「そうか。まっ、友達を大切にすることは良いことだし、お前も毎日頑張ってるからな。行ってこい」

「……なんで、僕が楠木さんの許可を得られないと行けないみたいなことになってるんですか?」

「細かいことはいいからさっさと行けっ!」

「はい、分かりました」

 

 何だろう。この理不尽な感じ? まあ、いいんだけど。

 

 では、と最後に告げた僕は二番隊隊舎から足を踏み出した。

 

 

***

 

 

 いつものように公衆浴場で汗を流した僕は、真央霊術院への道を歩んでいる。すると、見知った後ろ姿を見かけた。

 

「蟹沢さん、青鹿君。おはよう」

「あ、蓮沼君おはよう」

「おう、蓮沼」

 

 蟹沢さんと青鹿君だ。やはり、二人ともこれから試験がある所為か、緊張した面持ちでピリピリとした雰囲気を感じた。

 

「檜佐木はいないのか?」

「あ、うん。今日はちょっとね……」

 

 修兵がいないことを疑問に思った青鹿君が僕に訊いて来た。

 僕が二番隊で修行するようになってからも、朝は修兵に起こして貰い、修行の後、公衆浴場で待ち合わせをして二人で学校に向かうようにしているのだ。

 

「なに、喧嘩でもしたの?」

「いや、そんなんじゃないよ」

 

 これから自身の試験があるのにも関わらず、蟹沢さんは心配するような顔で僕に訊いて来た。

 

 曖昧な返しになってしまったけれど、本当に喧嘩ではない。

 

「じゃあ、何なんだよ?」

 

 僕の誤魔化すような言い回しを鬱陶しく思った青鹿君がストレートに訊いてくる。

 

「うーん。まっ、後のお楽しみってことで」

「何だよそれ……?」

 

 でも、本当のことは言ってはいけないって言われているからね。

 

 意味不明な僕の返答に蟹沢さんと青鹿君は顔を見合わせて、首を傾げた。

 

「それにしてもいいなー、蓮沼君と檜佐木君は試験受けなくても入隊が決まってるもんね。……あっ、いや、これは純粋に羨ましいと思っただけで、別に妬んだりしてる訳じゃないからっ!」

 

 もう、これ以上修兵について話しても無駄だと思ったのだろう。蟹沢さんが話を変えようとするけど、やはり試験を控えているためか、自ずと話もそちらの方に向かってしまう。

 

「別にいいよ。蟹沢さんがそういうことを言う人じゃないのは分かっているし、それよりも二人とも試験頑張ってね。僕と修兵も精一杯応援するから」

「うん、ありがとう」

「おう」

 

 二人が試験で緊張している以上、場を和ますのは僕の仕事だからね。

 と言っても、二人ならいつも通りの実力を出せば、必ず受かると思うから、無駄なことかも知れないんだけど。

 

「そう言えば、二人の入隊志望はどこなの?」

 

 今までは、入隊が決まった僕や修兵が訊いて嫌みに聞こえてはいけないと思って訊いて来なかったことだけど、この空気ならいけると思い、思い切って訊いてみることにした。

 

「俺は十一番隊だな。何ってたって護廷十三隊最強の部隊だからな」

「確かに、青鹿君は僕と違って剣術が得意だからね」

 

 斬拳走鬼の中でも斬の成績が一番高い青鹿君は十一番隊にするようだ。

 護廷十三隊十一番隊は、好戦的な人物が多い戦闘集団とされており、筋骨隆々な荒くれ者が隊員の大半を占めている。

 そんな十一番隊の隊花は鋸草。意味は戦いだ。

 戦闘集団で戦う機会が多いため、自身達のことを護廷十三隊最強の部隊だと自負しているらしい。

 ただ、十一番隊は鬼道が苦手な物理特化の人物が入隊する事が多いためか、斬魄刀の能力が、炎熱系や氷雪系を始めとする鬼道系だと、貧弱者のレッテルを貼られ、十一番隊にいられなくなってしまうらしい。

 ……その理論だと、炎熱系の斬魄刀を持つ総隊長も貧弱ってことになるんだけど、どうしてそんなに極端な考えを持つようになったんだろうか?

 

「ああ、直ぐに席官になってお前らの度肝を抜いてやるからな。覚悟していろよ」

「うん。僕も負けないよ」

 

 そう僕に宣言した青鹿君だけど、僕だって負ける訳には行かない。僕には一刻も早く出世して砕蜂隊長に目をかけてもらうという目標があるのだ。

 

「蟹沢はどこにするんだ?」

「うーん。私は四番隊と十一番隊以外ならどこでもいいから蓮沼君か檜佐木君が行く所にしようかな」

 

 修兵の実力には及ばないけど、斬拳走鬼全てが一定以上の水準にある蟹沢さんなら、恐らくどこの隊に行っても困ることはないだろう。

 

「十一番隊はともかくとして、どうして四番隊?」

「ともかくってなんだよっ!?」

 

 十一番隊は隊の特色からして男性の隊士が大半を占めるので、女性の蟹沢さんが入るにはかなり勇気がいるから分かるんだけど、どうして四番隊に入りたがらないのかが分からなかった。

 巨大虚の件の頃まで、四番隊を希望していた僕としてはかなりお薦めなんだけどな……。

 

「ほら、四番隊ってあまり戦わないから他の隊から低く見られるでしょ? 特に十一番隊」

「ああ、なるほどね」

「ぐぬぬ……」

 

 そう言えば、四番隊は前線で戦うということをしないから、他の隊から蔑まれ、雑用などを押し付けられると聞いたことがあった。特に十一番隊にその傾向が強いとも。

 以前の僕は命を落とす可能性が低くなるならそれでいいじゃんなどと考えていたけど、蟹沢さんはそうは考えなかったらしい。

 

 そして、青鹿君は先程から自分が入隊を希望する隊を悪く言われていることに不満を持って唸っている。

 

「大丈夫だって。青鹿君がそういうことをする人じゃないのは僕達が分かってるんだから。ねぇ、蟹沢さん?」

「そうね。他の隊の人が他人を蔑むようなことをしても、青鹿君がしなければそれでいいんだし」

「……ああ、そうだな」

 

 フォローを入れると、青鹿君は安心したように顔を綻ばせた。

 

 そうこうしている内に院が見えて来た。

 試験を受ける二人と僕とでは行く場所が違うため、ここで暫しお別れとなる。

 

「じゃあ二人共、また後で」

「うん」

「ああ」

 

 僕達は別れを告げると、それぞれ違う道を歩み出した。

 

 修兵がいなかった分、いつもよりも二人と仲良く話せた気がする。まあ、割といつもこんな感じだし、気のせいなんだけどね。

 

 ――頑張れ、二人共!!

 

 試験へと向かう二人の背中に心の中でエールを送った。

 

 

***

 

 

 ――おかしい。

 

 全ての受験生がそう思った。驚いた様子の受験生の視線は来賓席に注がれていた。

 例年通りの試験ならそこにいるのは真央霊術院の教員と護廷十三隊の格隊の隊長と副隊長。そして、受験生の保護者である貴族の方々だ。

 だが、その中に明らかに毛色の違う人物達が交じっていた。

 

 ――真央霊術院の下級生達だ。

 

 本来なら下級生達は本日試験のため、休日であるはずなのだが、何故か院へと足を運んでいたのだ。今までも数十人程度なら観戦に来ることもあったのだが、今日は明らかに違った。

 

 ――数にして約三百人程。

 

 それだけの人数が休日であるのにも関わらず、霊術院へと足を運んでいた。

 

「では、これより真央霊術院卒業試験兼、護廷十三隊入隊試験をとり行う」

 

 受験生達の困惑をよそに院長が試験開始を告げる。その院長の声に会場の緊張は一気に高まった。

 

「試験の内容は例年通り成績が近しい者同士の模擬戦闘とする。もう既に対戦相手は決まっておると思うが、まだ決まって居ないという者はここで手を挙げよ」

 

 万が一にもそんなことはないが、最終確認をとる。当然と言うべきか、ここで手を挙げる者はいなかった。

 

「予め言っておくが、この試験において勝ち負けは合否には直接関係しない。各自、この六年間の研鑽の成果を遺憾なく発揮して欲しい」

 

 確かに異様な下級生の数は気になるが、今はそんなことよりも試験だ、と誰もが気合いを入れ直した。

 

「では、試験開始! ――と、言いたいところではあるが、本日は学院側から君達に一つサプライズを用意した」

 

 受験生達がざわめき始める。無理もないだろう。これから試験だと集中した途端にサプライズなどと言われたのだ。

 

「静粛に! 騒ぐ気持ちも分かるが、見れば分かる。双方参れ!」

「「はっ!」」

 

 ざわつく受験生を収めた院長が命令すると、歯切れよく声を発した二人の人物が、来賓席から試験場へと踊り出た。

 その二人に受験生は困惑の声を上げる。

 

 何故ならその人物は――

 

「これより、檜佐木修兵と蓮沼卯月による模擬戦闘を行う!」

 

 ――修兵と卯月だったのだから。

 

 

***

 

 

「それにしても、みんな驚いてるね。前座を買って出た甲斐があったよ」

「そりゃそうだろう。誰も試験の前に部外者が模擬戦やるとは思わねぇだろうよ」

 

 会場へと、踊り出た修兵と卯月が軽く言葉を交わす。

 前座、と卯月が表現したのは的を射ており、この模擬戦は教師陣が緊張しているであろう受験生を奮い立たせてやろうと画策したものだった。

 

「でも、前座だからと言って負けるつもりは毛頭ないよ、修兵」

「ああ、そのためにこの一ヶ月間お互い別々に修行してきたんだからな」

 

 二人は不敵に笑いあう。

 この模擬戦の話が二人に伝えられたのは一ヶ月前であり、そこから二人はお互いに打ち勝つために別々に修行を重ねた来た。今朝二人が一緒に霊術院に来なかったのも、そのためだ。

 

「それでは双方位置につけ!」

 

 何時までも話を止めない二人に痺れを切らした院長が模擬戦の開始を促した。

 

「修兵」

「なんだ?」

 

 位置につこうとした修兵を卯月が呼び止める。

 

「お互い頑張ろうね!」

「ああ!」

 

 拳を突き合わせた二人は、同時に踵を返して所定の位置へと向かった。

 

「それでは、これより檜佐木修兵と蓮沼卯月の模擬戦闘を開始する。双方用意!!」

 

 院長の号令に合わせて修兵は木刀を抜き取り、卯月は白打の構えを取る。卯月は白打を修行するようになってから刀を抜くこと自体が少なくなった。

 お陰で最近の卯月の刃禅が最早、斬魄刀のご機嫌取りのような状態になっているは余談である。

 

「始め!」

 

 そして、戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「【縛道の二十一“赤煙遁(せきえんとん)”】!」

 

 先に動いたのは修兵だった。赤い煙で卯月の視界を奪い、自身は霊圧を消し気配を絶った。

 

「なるほど、目くらましか……」

 

 そして、それを見た卯月はどこか納得したような様子だ。

 それもそうだろう。そもそも、卯月がこの模擬戦で一番楽に勝つ方法は瞬歩で一瞬の内に修兵に近づき、衝破閃をお見舞いすることだ。

 そうしなかったのは、ひとえに修兵を信頼していたからだ。

 

 ――修兵がその程度のことを読んでいないはずがない、と。

 

 そして、それは正解だった。あのまま卯月が何の考えもなしに突っ込んでいたなら、煙が目や口に入り、その隙に試合を決めていられただろう。

 

「【破道の三十一“赤火砲(しゃっかほう)”】!」

 

 卯月が考えている間に、修兵は次の一手を撃ってきた。とはいえ、卯月の霊圧は目くらましが使われた時点で修兵が感知できないレベルまで隠されているはずだ。

 

 そんな中修兵が赤火砲を撃ってくる理由……まさかっ!?

 

 そう思い至った卯月は全力の瞬歩で今いる自分の場所からできるだけ遠のいた。

 

 すると、次の瞬間――赤火砲が煙を媒体とし、広範囲に渡る爆発を引き起こした!

 

 ――粉塵爆発だ。

 

 卯月は何とか、最小限にダメージを抑え、爆発の範囲から脱出した。

 

「終わりだ」

「なっ!? 【縛道の三十九“円閘扇(えんこうせん)”】」

 

 卯月の行動を読んで、先回りしていた修兵の斬撃を何とか縛道で防いだ卯月は一度、修兵と距離を取ろうとするけど、そうはいかなかった。

 修兵は距離を取らすまいと一瞬の隙も作らず、接近戦に持ち込む。卯月もやむを得ず木刀を抜き、斬撃をかわしたり、逸らしたりしながらやり過ごす。

 

 幾ら二番隊で修行をしているからとはいえ、やはり接近戦では修兵に分がよく、徐々に卯月を押し込んでいく。

 

 ここで、縛道を使えたら楽なのだろうが、そんな余裕を卯月は持っていなかった。

 

 ――そして、卯月は賭けに出る。

 

「なっ!?」

 

 修兵は卯月の行動に驚愕した。――何故なら、卯月は修兵に向かって木刀を軽く放り投げたのだ。

 咄嗟に修兵は自分に向かってくるのを木刀で叩き落とすが、その一瞬の間が命とりだった。

 

「【衝破閃】」

「ぐっ!?」

 

 その隙に卯月の一撃が修兵に突き刺さった。修兵は後方に飛ばされるが、意識を失うことはなかった。

 

「流石だね、修兵」

 

 卯月はまだ立ち上がり、動きを止めずに走る修兵を見てそう呟いた。

 あの瞬間、修兵は咄嗟の判断で自身の左腕を胴体の前へと出し、卯月の一撃をガードしたのだ。

 

「……何が流石だよ。こっちは腕一本折れたんだが」

 

 だが、修兵も無傷とはいかなかった。それでも修兵が動きを止めないのは卯月に縛道で拘束されないためだ。

 

 ――動きを止めた瞬間に終わる。

 

 それが修兵には分かっていた。

 

「【縛道の六十二“百歩欄干”】!」

 

 しかし、少し動いただけで防げる程、卯月の縛道は甘くない。

 

「ちっ!」

 

 しかし、それを修兵は間一髪のタイミングで何とかかわしていく。

 

「これで終わらせる! 【破道の五十八“闐嵐(てんらん)”】」

 

 もう後がないと考えた修兵は今の自分ができる最大威力の破道を放った。

 修兵の手から放たれた竜巻は先程自身が放った赤煙遁をも巻き込み、卯月に向かっていく。

 

「その程度、僕が避けられないとでも思ったかい?」

 

 そう言いながら悠々と竜巻の射程から外れた卯月は修兵を縛道で捉える態勢に移る。

 

「――思わねぇよ。【破道の五十四“廃炎(はいえん)”】」

「えっ!?」

 

 修兵の放った円盤状の炎が闐嵐と赤煙遁により、大爆発を起こしながら、突き進んでいく。

 先程よりも遥かに大きくなった射程は確実に卯月を捉えていた。

 

 やがて、爆炎は轟音を轟かせて卯月の元へと着弾した。

 土煙が巻き上がり、両者の姿が見えなくなる。

 会場は静寂に包まれ、誰もがこの勝負をしっかりと見届けようと目を凝らした。

 

 そして、土煙が徐々に晴れていく。先に見えたのは修兵だった。その身体は左腕以外は無傷。

 つまり、卯月は爆炎が命中してから動いていない。修兵の勝ちか、と会場にいる人間が徐々に思い始めたその時だった。

 

「――【六杖光牢】!」

「ぐっ!」

 

 突如、修兵が六つの帯状の光によって拘束されてしまったではないか。

 

 ということは、と先程まで卯月がいた場所に視線が集結する。すると、そこにいたのは、

 

 ――身の丈ほどの半球形の大盾に身を隠している卯月だった。

 

 【縛道の六十七“天縫輪盾(てんぽうりんじゅん)”】

 

 霊力を高密度に編むことによって作られる、かなり強度の高い盾で、現在卯月が使っている縛道だ。

 

「君だけが成長しているわけじゃないんだよ。修兵」

 

 瞬歩で修兵に近づき、その首に手刀を突きつけた卯月がそう言った。

 

「それまで! 勝者、蓮沼卯月っ!」

 

 瞬間、会場に拍手が鳴り響く。この場にいる殆どの人間が二人の熾烈を極めた戦いを心から賞賛していた。

 

「お疲れ、修兵」

 

 そう言った卯月が修兵に手を差し出す。それを握り締め、修兵は立ち上がった。

 

「ああ。……負けちまったか」

「最後の鬼道凄かったよ。あれ六十番台ぐらいの威力はあったんじゃないの?」

「嫌みか! 結局涼しい顔して防ぎやがって。くそっ! 次は負けねぇからな!! ぐっ!?」

 

 修兵は負けたことを悔しがり、次は負けないと威勢を張るが、試合の緊張が解けたせいで左腕の痛みがぶり返した。

 

「あーあ、骨折ってるのに無理するから。【回道】」

「悪いな」

 

 そして、卯月が回道をかけると修兵が感じていた痛みはどんどん引いていった。

 

 昨日の敵は今日の友。

 

 既に仲はよかった二人だが、この言葉がピッタリだと会場にいる誰もが思った。きっと、この二人はこれからも切磋琢磨し続けるのだろう。

 

 そして、この場にいる全ての受験生はこの二人の戦いを見てこう思ったそうだ。

 

 ――いや、確かに凄かったけど、これ無駄にハードル上がっただけだよね!?

 

 教師陣が画策したサプライズは寧ろ逆効果に終わったが、この後つつがなく試験は行われた。




 感想で話の運びが強引過ぎると言われたのにもかかわらず、性懲りもなく強引に修兵と主人公を戦わせる私。話を考えるセンスのなさを感じます。

 仕方なかったんや! どうしても一回修兵と主人公というライバル同士の熱い戦いを書きたかったんや!

 話は変わりますが、一話の戦闘シーンを一部修正しました。
 と言いますのも、感想で縛道で敵を倒すのは独自解釈にしても無理があるのでは、という意見が多かったからです。私も後々考えてみると、確かに、と思いましたので、修正させていただきました。

 貴重なご意見ありがとうございました。

 今後もこういう些細な問題点はなるべく修正していきたいと思いますので、何か問題点がありましたら教えていただけるとありがたいです。

 ……流石に、話の流れに大きく関わるようなものは修正できませんが。

 長文失礼致しました。ではっ!

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