転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 お久しぶりです。
 無事多忙な期間を乗り越えることができたので、宣言通り今日から投稿再開します。


第三十七話

「お久しぶりっス、藍染さん。随分と珍しい格好っスね」

 

 攻撃を放った建物の上から藍染を見据えた喜助は、開口一番そう切り出した。

 

「君にはこの姿の素晴らしさは理解できないだろう、何故なら君は、今私が従えている崩玉を御することができなかったのだから」

「御し切れなかった。……確かにそうっス。当時はね」

「当時は? 実に明解な負け惜しみだ。いや、それが負け惜しみかどうかすら、どちらでも良い事」

「ぐっ!?」

 

 そこで一度話を切った藍染は、喜助の反応できない速度で距離を詰め、そのまま彼の心臓に斬魄刀を突き刺した。

 

「既に君は、崩玉を御する機会を永遠に失っているのだから」

「浦原さん!」

 

 喜助が討たれたことにより、一護の声が戦場に響き渡るが、その心配は無用だった。

 何故ならこの程度のことで命費えてしまうのなら、あのマユリや藍染をも超える頭脳を有する喜助が戦場に立つことなど有り得ないのだから。

 

「何……?」

 

 刹那、パアンと爽快感のある音を鳴らしながら、喜助の身体がまるで風船のように呆気なく割れた。

 そして気づけば、喜助は藍染の背後へと回り込んでいた。そこまで来て藍染は思い出す。喜助が現世でヤミーと交戦した際に、彼が使用していた道具――携帯用擬骸の存在を。

 

「【六杖光牢】」

 

 そして、この隙を逃さぬよう、喜助は詠唱破棄をした縛道で、確実に藍染を拘束しにかかった。

 

「そう言えば、ヤミーの戦闘記録にそんな道具が入っていたな。今更そんな小細工は使うまいと油断していたよ。それで、この程度の縛道で私を縛ってどうするつもりだ?」

 

 確かに敵に悟られぬように、自分と身代わりの位置を替えたのは大した手腕だった。しかし、今の藍染にとって六十番台の鬼道など、ただの縄で縛られたようににか感じられなかった。

 

「この程度の縛道? どこまでがこの程度っスか?」

 

 ――【縛道の六十三“鎖条鎖縛”】

 

 ――【縛道の七十七“九曜縛”】

 

「くっ……」

 

 だが、塵も積もれば山となる。喜助はこの小さなチャンスすら逃さぬよう、素早く追加の縛道を掛け、拘束をより強固なものにしていく。

 

「【千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手――】」 

「そんな鬼道を使わせると思うか?」

 

 そうして藍染を拘束した喜助は攻撃へと移っていくのだが、その内容は九十番台の鬼道だった。確かに威力はかなりのものだが、鬼道は難易度が高ければ高いほど、その詠唱が長くなるのが当たり前だ。それだけの詠唱時間があれば、藍染が喜助の縛道から抜け出すのは造作もないことだった。

 

「ええ、使いますよ。藍染サン、他でもないあなたが油断してくれたお陰っス。――お願いします、蓮沼サン」

「【霊葬天依】」

「これは……」

 

 瞬間、卯月の放った縛道が藍染の身体を包み込む。しかし、そこで藍染は違和感を感じ取った。白い着物の形を模したその縛道に、他の縛道にあるような拘束力は感じられなかったのだ。

 

「【光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ――】」

 

 これまでに何度も藍染の裏をかいてきた卯月のことだ。この縛道にもなにか裏があると藍染は考えたのだが、そうしている内に、喜助の破道を放つ為の準備は進んでいき、卯月の縛道は徐々にその拘束力を強めていった。

 

 ――こちらの思考を誘導し、時間稼ぎをする為の、時間経過で発動する縛道か。

 

 まんまと卯月の策に騙されてしまった藍染だが、最早それすらも問題にならない。カラクリが分かれば後は強引に解くまでだと、霊力を強めたその時だった――。

 

「ぐっ! ……何!?」

 

 急速に卯月の縛道の力が強まった。

 

「かかった……!」

 

 自分の縛道に縛られる藍染を見て、卯月は顔に弧を浮かべた。

 先程卯月が放った鬼道――霊葬天依は、その鬼道自体にはそれほど拘束力はない。それこそ真央霊術院を卒業した死神ならば、誰でも解けるくらいの強度しかない。解除の方法さえ間違えなければ、藍染は余裕を持って拘束から逃れられていた。

 

 ――そう、藍染は対処を間違えたのだ。

 

「……これはっ!?」

 

 そして、藍染は気付く。――今自分を拘束しているのは、他でもない自分の霊力であるということに。本来ならば、平隊士すら拘束することができない霊葬天依だが、この術はある一定の条件を満たした時に限り、強力な縛道に変化する。それは――対象が霊力による解除を試みた時だ。

 霊葬天依は相手の霊力を吸収することで、その拘束力を強める縛道だったのだ。死神の戦いは霊圧の戦い。どんな巧みな攻撃でも、霊圧が弱ければ掠り傷にしかならないし、逆にどんなに杜撰な攻撃でも、霊圧さえ高ければ致命傷になり得る。そんな先入観とも言えないような、当たり前の常識を利用したのがこの鬼道だ。そして、藍染の霊力は、最早卯月達死神とは一線を画する。それを吸収した霊葬天依は、今の卯月がどう足掻いても発動することのできない程の拘束力を有していた。

 とは言え、この縛道は欠陥が多い。霊力ではなく、膂力で解除を試みれば、一瞬にして破壊されてしまうし、対象からの霊力の供給がなくなれば、いずれ自動的に解除される。

 

「これでいいですか、浦原さん?」

 

 完全に藍染を捉えたことには間違えはないのだが、既に霊葬天依の特性に気付いた藍染は、極限まで霊圧を弱めている。術が解けるのも時間の問題だと悟った卯月は、祈る思いで喜助に問いかけた。

 

「十分すぎるくらいっスよ。【――光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ】」

 

 そして返ってきた答えは力強い肯定だった。卯月の問いに答えた喜助は鬼道の詠唱を再開する。卯月が時間を稼いだことにより、その鬼道にはかなりの霊力が込められていた。

 

「【破道の九十一“千手皎天汰炮”】!!」

「【流刃若火】」

 

 刹那、元柳斎の炎と共に、浦原の周囲に展開された無数の桃色の霊力の弾が、一斉に藍染に襲いかかった。九十番台の鬼道なだけあって、その弾一つ一つの威力は強大。それを一斉に受けた時の衝撃は計り知れない。

 しかし、藍染はそんな攻撃を前にしても、一切の回避を取らずに、元柳斎と喜助の攻撃を一身に受けた。藍染に着弾した鬼道は爆ぜ、その爆発は別の弾も巻き込み、最後には元柳斎の炎をも巻き込み、更なる爆発を呼び込んだ。そして次の瞬間、辺りは激しい光によって彩られた。

 

「凄ぇ……」

 

 そのあまりに綺麗な戦いの運び方と技の威力に、一護は驚きと感嘆が混じった声を漏らす。

 

「藍染サン、あなたはどうやら本当に、崩玉の力を取り込んだことで油断していたみたいっスね」

「――その通りだ」

「っ!?」

 

 喜助が呟いた時、既に藍染は喜助の背後に回っていた。流石に今の一撃で倒せるとは喜助も思っていなかったが、今の藍染の強さは喜助の想像の上を行っていた。否、喜助が藍染の力を正確に読み取っていようと、今の藍染の動きは喜助では反応できないのだ。

 咄嗟に背後に斬撃を放とうとした喜助だったが、遅い。彼が後ろを向くころには、藍染は手刀で喜助に一太刀浴びせていた。

 

 それを見た元柳斎は、即座に喜助のフォローに向かったのだが、成長し続ける藍染の力は、着実に元柳斎に近づいていた。その証拠に藍染は、元柳斎の斬撃を華麗に受け流し、そこから返しの一撃を放てるまでになっていた。しかしその一撃もほんの牽制。元柳斎が態勢を整える為に、一度距離を取ったのを確認してから藍染は話を続ける。

 

「油断もしよう。警戒する必要が、最早無いのだ。感じるのだ、崩玉を従えた私の身体は、かつて尸魂界において、比肩することのなかった私の能力全てを遥かに凌駕している。例えどれだけ私の意表を突こうと、君達は私にまともな傷を負わせることができないのだ」

 

 先程の一連の流れがいい例だ。卯月が如何に藍染の意表を突こうと、喜助や元柳斎が如何に強力な攻撃を放とうと、今の藍染の再生力はその上を行く。そしてその後には、更なる力をつけて戻ってくる。先ほどからそんな負の連鎖が続いているだけだ。

 

 だが、喜助が言いたかったことは、そういうことではなかった。

 

「違いますよ。鬼道を躱さなかった事が油断だと言っているんじゃない。――昔のアナタなら、何の策もなく、僕に二度も触れることなどあり得なかった」

 

 どれだけ崩玉の力を覚醒させようと、藍染が喜助に敵わないものが一つだけある。

 

 ――それは、知力だ。

 

 藍染を以てしても敵わないと言わしめる喜助の知力は、戦いにおいて彼にとっての何よりもの武器だった。故に喜助は言っているのだ。その自分が負けている一つの要素に、何も対策を施さないなど何事かと。

 

「これはっ!?」

 

 そして、その知力から生み出された策略が、藍染の身体に異変を及ぼした。突如として現れた鬼道が藍染の手首を拘束したのだ。動作上は問題ないその鬼道は、通常の縛道とは異なる特性があった。

 

「封っス。全ての死神の両手首にある、霊圧の排出口を塞ぎました。これによりアナタは――自分自身の霊圧で、内側から灼き尽くされる」

 

 六杖光牢を仕掛けた時に一つ、そして先程攻撃を喰らった時にもう一つ。喜助はその僅かな間で、藍染に攻撃を仕掛けていたのだ。

 そして、先程の卯月の霊葬天依で、藍染が常に進化し続ける自身の霊力の制御ができていないことは証明されている。

 

 ――つまり、この攻撃は通る。

 

 瞬間、先程の九十番第の鬼道と流刃若火の炎の合わせ技よりも、巨大な爆発が天へと駆け上った。

 

 それを見届けた喜助は一度、一護達の元へと降り立つ。

 

「……浦原さん」

「――まだっスよ」

「……え?」

 

 藍染から喜助が背を向けたことにより、警戒を緩めた一護に対して、喜助は喚起を促す。

 

「あんなもんでお終いならカワイイもんです。ただの化け物で済む話っスから」

 

 もし、藍染が喜助の言うところのただの化け物ならば、既に戦いは終わっているだろう。何故ならこの場には、ただの化け物如きならば、一瞬にして塵に変える護挺十三隊最強の死神が居るからだ。

 それにも関わらず、未だに勝負が決していない。――つまりはそういうことだ。

 

 今藍染を灼いているのは彼自身の霊圧だ。しかし、何度も言うように、藍染の霊圧は、今この瞬間も進化し続けている。

 

 ――つまり正確に言えば、今藍染を灼いているのは、進化する前の藍染の霊圧なのだ。

 

「っ!?」

 

 刹那、天まで駆け上っていた霊力が二分される。そしてそこからは一つの影が。それはまるで霊力が影の主を崇めているかのようだった。

 

 やがて、影の主のシルエットが徐々に浮かび上がってくる。

 

「嘘……だろ……!?」

 

 今の攻撃でも無理なのか、と一護は驚愕に顔を染める。相も変わらず藍染は、傷を全快させて宙に佇んでいる。

 

 そして、今回はそれだけではなかった。

 

 ピキピキと音を立てながら、藍染の顔を覆っていた白い物体が剥がれ落ちて行く。

 そこから現れたのは、まるで完全虚化した一護のように、髪が伸びた藍染の顔だった。

 

「蓮沼君の縛道と九十番台の鬼道を囮に私の攻撃を誘い、自ら開発した鬼道で内部から灼き尽くす。相手が私でなければ、いや、崩玉を従えた私でなければ戦いは終わっていただろう」

「っ!?」

 

 いつの間にか一護達の元に降り立っていた藍染は、淡々と語り始める。そして、それに全く反応できなかった元柳斎以外の面々は目を剥いた。

 

「だが、残念ながら、君の作り出した崩玉は君の理解を超えている。私との戦いに備え創ったであろうこの術も、私に届くことはないのだ」

 

 喜助がかけた鬼道を手首から強引にエグり出しながら、藍染は言った。しかし、それによってできた傷は崩玉の力によって即座に再生されていく。

 

「そして、蛹籃の時は終わった。有難いことに、これで君達が私の力の前に倒れ伏す姿、そして尸魂界の終焉を、私自身の目で見ることができる」

「させるかよ!」

 

 不敵な笑みを浮かべる藍染に一心が斬りかかり、それに続く形で喜助が斬魄刀を抜いたのだが、藍染の巧みな体さばきによって返り討ちにされてしまう。しかし、ただでやられる二人ではなく、吹き飛ばされる僅かな間で、藍染の片手と片足を鬼道の鎖で固定していた。

 

「……何の真似だ」

 

 今更このような縛道で縛ったところで、藍染なら僅かな力で脱することができるだろう。卯月の霊葬天衣のような特殊な縛道でもなく、足掻くにしても無駄すぎる。そう思った藍染は、霊力を開放することで鬼道を解こうとするのだが、それは阻害されることになる。

 

「はああ!」

 

 その人物は藍染の頭上に現れ、鎖によって手足が不自由となった藍染に容赦なく拳を叩き込む。

 圧倒的な力を得て油断しているとは言え、藍染の認識を潜り抜ける速力を持ち、ここぞという場面の攻撃で拳を用いる人物。そんな者は一人しかいない。

 

「貴様、夜一……!」

 

 縛道や斬魄刀を用いた搦め手を得意とする卯月では無い。雀蜂雷公鞭といった一撃必殺の卍解を持つ砕蜂でも無い。白打を唯一無二の武器とする四楓院夜一だからこそできる芸当だ。

 そして、現在彼女の手足には、喜助が用意したであろう、夜一の腕よりも遥かに大きい硬質な装甲が取り付けられていた。見ただけでその重さが伝わって来るが、そこから生み出される攻撃の威力は絶大で、藍染も不安定な体勢だったのが災いし、地面に打ち付けられてはしまう。

 

「おオォ!!」

 

 しかし、それでも夜一の攻撃が終わることは無く、何度も何度も馬乗りした藍染に向かって拳を突き出す。

 装甲をつけているのにも関わらず、その拳の速さは一級品で、どれだけ拳を振るっても、その速度が落ちることはなかった。

 

「どうじゃ、少しは――」

「夜一サン! 避けて下さい!」

「っ!?」

 

 確かな手応えを感じた夜一だったが、喜助の声を素直に聞き入れ、回避行動に移る。

 しかし、今の藍染にとってその動きはあまりにも遅かった。一閃で夜一の左足に取り付けられた装甲を破壊し、もう一閃で左手の装甲も割りにいく。

 

「【衝波絶空刃】!」

 

 だが、そう易々と追撃を許すわけにはいかない。喜助の声をしっかりと聞いていた卯月と元柳斎は、既に夜一のフォローに回っており、卯月の瞬閧によって強化された波斬と、それに乗せられた流刃若火の炎が藍染に向かって放たれる。

 流石に流刃若火の炎が強化されたものを、他に意識を割いた状態で喰らう訳にはいかず、藍染は追撃を諦めた。そして、卯月と元柳斎の合技は藍染を捉えたのだが、やはり倒すには至らなかった。

 

「どうした、もう終わりじゃあないだろう?」

 

 それにより、一端戦いは振り出しに戻るが、状況は悪くなる一方だ。最初は元柳斎と卯月だけで相手をする事ができていた藍染が、喜助達を加えても手に追えなくなってきている。これ以上戦いが長引けば、もう彼らでは藍染を倒すことができないだろう。

 そして、それを煽るかのように藍染は語りかける。

 

「私を倒す為に練り上げた手段の数は、君達の努力と力の証。そして、それはそのまま君達の持つ希望の数だ。ならば、私の成すべきはその全てを打ち砕くこと。さあ、次の手を打つがいい」

 

 喜助や卯月が何百何千と手を打とうが、それ以外の面々がどんなに強力な一撃を放とうが、藍染はそれらを真っ向からねじ伏せるつもりでいた。

 それが最も効率的に、精神的にも肉体的にも苦痛を与えられると、藍染は確信していたからだ。

 

「いや~、参ったっすね~」

 

 その威風堂々とした立ち振る舞いを見て、喜助は嘆息する。自分が弄した策、その全てが真正面から受け止められた上で、悉く打ち砕かれる。ある意味清々しいが、飄々とした声音の裏には僅かな焦りが見え隠れしていた。

 

「大丈夫っスか、夜一サン?」

「ああ」

 

 そう言った喜助の目には、藍染の一撃によって傷を負った夜一の左足が映っていた。破面が有する網皮対策として、喜助が制作した夜一の装甲だったのだが、やはり破面の遥か上位の存在である藍染に対峙するには、まだ作りこみが甘かったようだ。

 

「ほう、私の一撃を喰らっても、まだ脚が原型を留めるか。確かにある程度の強度はあるようだな。だが、一振りで一つ消えるのなら、あと三度剣を振るえばいいだけのこと」

「来ますよ、夜一サン。いけますか?」

「誰に言うとるんじゃ、左足以外で打撃すれば済むだけのこと」

 

 一歩ずつ緩やかに間合いを詰めてくる藍染を見て、喜助と夜一は再び神経を研ぎ澄ます。しかし次の瞬間、再び藍染の姿が掻き消えた。

 

「っ!?」

 

 一番最初に藍染の動きに反応したのは夜一だった。しかしその時にはもう手遅れで、夜一の懐に潜り込んでいた藍染は、右腕の装甲をめがけて刀を振るう。

 

「【断空】!」

 

 だが、手遅れなのはどうしても物理的な移動が必要な直接戦闘に於ける話だ。遠隔から起動及び操作が可能な鬼道はその限りではない。

 

「やはりそうくるか」

「え……?」

 

 しかし、藍染はその動きを読んでいた。夜一への攻撃を止めた藍染は即座に身体を翻し、卯月の元へ向かう。藍染の一撃を止めるに値する縛道を展開したばかりの卯月は、あまりに無防備な状態だった。

 

「どんな傷もかすり傷にすらならない、か。ならば意識を絶ち、強制的に術の起動を断ち切ればどうなる?」

「がっ!」

 

 そして、背後に回り込んだ藍染の手刀が卯月を襲った。そのあまりの速度に卯月は付いていけず、藍染の思惑通り、気絶した卯月の全ての術はその効力を失っていく。卯月を覆っていた瞬閧特有の霊力の奔流は消え失せ――元柳斎の視覚付与の術式も跡形もなく消え去った。

 

「さあ、これで君は再び私の術中だ」

 

 そう言った藍染の視線の先には、大技を放つために霊力を溜めている元柳斎の姿があった。卯月の術の効力が消えたということは、それ即ち元柳斎が鏡花水月に抗う術がなくなったということに他ならない。

 先程から元柳斎は、藍染を倒すための一撃を放つために霊力を溜めているのだが、卯月の補助がなくなったことで、その攻撃を当てるのが、非常に困難になってしまった。

 

 そしてそこから先は圧倒的だった。夜一の瞬閧、喜助の斬魄刀、一心の月牙天衝。それら全てを真っ向から受け止めては返り討ちにする藍染の姿は、まさに無敵と呼ぶに相応しかった。そして、そんな彼に最後の砦としてもう一人の無敵が立ちはだかる。

 

「君で最後だ」

 

 刹那、藍染と元柳斎が同時に地面を蹴った。常識の範囲に収まらない二人の踏み込みは地面を陥没させ、そこから突風が生み出される。しかし、いつまで経っても二人の剣戟の音が聞こえることはなかった。

 その答えは簡単だ。

 

「くっ!?」

 

 鏡花水月で元柳斎の胴に一閃を喰らわせたのだ。確かに、この両者に大きな力の差はない。故にこういう状況でこそ、鏡花水月の能力が生きてくる。

 

「これで終わりだ」

 

 そしてすかさず藍染は元柳斎に止めを刺すべく、更なる力を斬魄刀に込める。既に元柳斎の胴に刺さっている斬魄刀に力を込めるのだから、そう間を置かずに元柳斎の身体を二分するだろう……と思われた。

 

「――誰が終わりじゃと?」

 

 力を込めた斬魄刀は一ミリとも動くことはなく、元柳斎は藍染の腕を掴むことにより、追撃を完全に防いでいた。

 

「藍染惣右介、捕えたり」

「……しぶといな。だが、捕えてどうする? 君の掴んだその腕は、はたして本当に私の腕なのかい?」

「眼で見て肌で感じるだけならそれもあろう。じゃが、腹に刺さった斬魄刀の、霊圧を読み違えることなどない」

 

 元柳斎にとって、それは絶対の自信だった。正に肉を切らせて骨を断つという訳だ。

 そして、藍染を倒す為に元柳斎が捧げる代償はそれだけではない。

 

「その腕は……!?」

 

 瞠目した藍染の視線の先には、焼き焦がれながらも、自身の腕を掴んで離さない元柳斎の左腕があった。

 

「此度の戦い、その原因はお主の本性に気づけなんだ、儂ら護挺十三隊の怠慢によるものじゃ。故に総隊長として、お主を討つ為ならば、腕の一本や二本くれてやるわい――【破道の九十六“一刀火葬”】」

 

 刹那、元柳斎の左腕を媒介として、大規模な爆発が巻き起こった。その熱量は、炎熱系最強の斬魄刀である流刃若火をも凌駕していた。

 それもそのはずだ。今元柳斎が放った鬼道、“一刀火葬”は、己の焼いた身体のみを媒体として発動できる代償鬼道なのだから。それにより、腕一本という大きな代償を払った元柳斎だが、その分鬼道の威力も増大される。

 

 故にこれは、今の元柳斎が放てる一番の大技だ。これでもし藍染を討てなければ、もはや打てる手は何も残されていない。

 それほどの覚悟を持って、元柳斎は今の一撃に己の出来る限りの霊力を込めた。

 

「なん……じゃと……!?」

 

 しかし、崩玉というものはどこまでも規格外で、理不尽だった。咄嗟に藍染が纏った霊力の奔流は、一刀火葬の炎を巻き取り、そのまま四散させた。

 そこから姿を現した藍染の姿はまたもや変わっていた。先程までは白で覆われていた顔を出す為に、雑に破いたようになっていた胸元の白が、背中に集結し、一対の羽を生み出していたのだ。

 

「くっ!」

「遅い!」

 

 そして、今の一撃で霊力を多く失い、片腕も失った元柳斎に藍染と対峙することは難しく、鏡化水月を織り交ぜられた剣戟に成す術なく倒されてしまう。

 

「感謝するぞ、山本元柳斎。君のお陰で、私は二度も進化を遂げることができた」

「み、皆……!?」

 

 倒れた元柳斎に背を向ける藍染を見て、震えながら声を発したのは、一人市丸と対峙していた一護だった。

 その消え入りそうな声は、戦場にただ一人取り残された彼と同じように宙を漂った。




 今回話の最後の藍染は本作のオリジナル形態です。
 あと、後半の先頭描写が雑なのは、元柳斎以外は原作と変わったことが起きないからです。

 ~ここから先は余談~

 ブレソルの今行われている千年決戦篇ガチャ。私は当然一番の推しキャラである砕蜂を狙って現在進行形で引いているんですが、全然当たらないです。
 その代わりに出てきたのは千年山ジイ四人と千年ワンワン二人と千年京楽さんと共刀一護。普通なら速属性の最強格である(にわかなので間違ってるかも)千年山ジイの必殺技レベルが上がるから喜ぶべきなのでしょうが、砕蜂一点狙いで引いている私からすれば、全然喜べないです。
 私は始めた時にあった星六確定ガチャチケットが入ってるお得パックしか買ったことがない微課金ユーザーなので、あまり石で課金する気にはなれないし、どうしようかな……。

 ……そして、私の他に居るのだろうか? 今回のガチャを砕蜂一点狙いで引いている稀有な人。

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