転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

34 / 82
 最近卯月と睡蓮の絵を描こうとしているんですけど、私の画力がくそ雑魚なので、全然うまく描けないです。
 誰か代わりに描いてくれないかなって思ったけど、そういえば自分が匿名で投稿してたということを思い出し、絶望しました。

 


第三十四話

「いつからや……!?」

 

 力なく落下していく卯月に目を遣りながら、平子は藍染にそう問いただした。

 

「いつから? 面白いことを訊くね。君は知っているだろう。私の鏡花水月の能力は完全催眠。いかなる時でも五感を支配し、あらゆる状況を錯覚させることができる」

「そんなん知ってるわ。やけど、そんな簡単に鏡花水月を発動できる状況とちゃうかったはずや……!」

 

 平子の言う通り、鏡花水月はほぼ完全に封じていたはずだ。何故なら先ほどまでは、藍染への攻撃は、必ず卯月の指示のもと行われていたのだから。

 現に藍染の身体には、京楽によってつけられた傷が残っており、そしてその傷が、先ほどの状況で藍染が鏡花水月を使えなかったという何よりもの証拠となっていた。

 

「確かに、先ほどの攻防で、蓮沼君は見事に私の能力を封殺していたよ。それは認めよう。だが、鬼道による通信で仲間に指示を飛ばすのは、以前彼が私と戦った時にも使っていた策だ。それに何も対策を施さない私ではない」

 

 砕蜂の一撃が炸裂したあの最後の一合、藍染は平子の逆撫も全て計算した上で鏡花水月を使っていた。しかし、それだけだと卯月の鬼道により攻略されてしまうのが関の山だ。

 ここで忘れてはならないのが、藍染は鏡花水月がなかったとしても、斬拳走鬼全てが超一流ということだ。その藍染ならば、卯月の縛道を強引に乗っ取り、嘘の指示を飛ばすことだって不可能ではない。それさえできてしまえば、後は声と姿を卯月のものに偽ることで今の状況は完成する。

 

「しかし、流石と言うべきか、彼もこのことは初めから想定していたようだね。お陰で鬼道を乗っ取るのに随分と時間がかかってしまったよ。あともう少し戦いが早まっていれば、あそこにいたのは私だったのかもしれないね」

 

 そう言った藍染の視界には、砕蜂に抱かれて地面に降下していく卯月の姿が映っていた。

 

「すみません、砕蜂隊長。ドジ踏んじゃいました……」

「いや、いい。寧ろ悪いのは、毎日修行していたのにも関わらず、お前の動きを見抜けなかった私の方だ。だから、今は何も喋るな」

 

 今の卯月の状態は非常に危険だ。バラガンを屠った一撃よりも、更に強力な一撃を喰らったのだから当たり前である。寧ろこうして身体が原型を留め、生きていることの方が不思議なくらいだった。

 

「卯ノ花、雛森、蓮沼のこと頼んでもいいか?」

「はい。行かれるのですか?」

「ああ」

 

 回道のスペシャリストである卯ノ花と、卯月を追って地面に降りて来た雛森に卯月を預けた砕蜂は、藍染を見据えて立ち上がった。

 

「砕蜂隊長……落ち着いて……」

「っ!? ああ!」

 

 振り絞られた卯月の言葉で、砕蜂は目を覚ました。

 自分は今何をしようとしていた? 怒りのままに藍染に斬りかかっても、無意味なことは自明の理のはずだ。ましては今の自分は二回も大技を放ち、もう瞬閧すら碌に使えない状態だ。それにも関わらず冷静さを失うなど、どうかしていた。

 

「ありがとう」

 

 最後にそう告げた砕蜂は、照れを隠すかのように踵を返し、藍染の元へ向かっていった。

 

「血迷ったか? 隠密機動、それも総司令官が敵の正面に立つとは」

 

 だが、砕蜂が立ったのは平子の隣、藍染の目の前だった。これには流石の藍染も予想外だったのか、砕蜂を小馬鹿にするような口調で話し始めた。

 

「戦いに美学を求めるな。死に美徳を求めるな。己一人の命と思うな。護るべきものを護りたければ、倒すべき敵は背中から斬れ。ただの死神でさえそう学ぶはずだ。隠密機動ならば尚のこと」

 

 藍染の言うことは正しかった。影で秘密裏に動くからこその隠密機動。こうして砕蜂が藍染の前に立つことは、彼女の長所を消していることに等しかった。

 

「蓮沼君の仇を討ちたくはないのかい?」

「今の貴様を後ろから斬ったところでどうにかなるのか? それに裏切り者風情に死神の学を説かれる謂れなどない」

 

 しかし、砕蜂にも彼女なりの思惑があった。後ろからの攻撃は結界によって防がれてしまい、横からの攻撃も恐らく通らないだろう。ならば、蜂紋華を刻んだ正面側に立つ事が、彼女が藍染を打倒し得る最短にして、唯一の手だったのだ。

 

「それと蓮沼の仇を討ちたくはないのかだと……? ふざけるのも大概にしろ。――あいつは私が直々に鍛えてやったんだ。アレくらいでくたばる訳がないだろう」

 

「【衝波絶空拳】!!」

 

 刹那、藍染の頬を何者かの拳が捉えた。その衝撃は凄まじく、藍染は近くの建物に打ちつけられる。

 

「……驚いた。これは一体どういう手品だい?」

 

 そう言って立ち上がった藍染の視線の先には、瞬閧特有の高密度の霊力を纏った卯月の姿があった。そして、どういう訳か即死級の攻撃を受けたはずの卯月の身体に傷はなく、それどころか破れた死覇装すらも完全に修復されていた。

 

「死角は生物最大の弱点。故にそこに対策を施さないはずはない。貴方が言ったことだ」

 

 そう言った卯月の背後には、可視化された身の丈程の結界があった。そしてその結界はパリンと音を立てながら崩壊する。

 

「でも流石は砕蜂隊長と言うべきか、もう役目を果たしてくれそうにはないけどね」

「当たり前だ。三席の結界も割れないようでは、隊長としての威厳に関わる」

「……まさか全て計算の内だったとはな。面白い」

 

 卯月が復活したことに全く動じず、それどころか彼の言葉にツッコミを入れる砕蜂を見て、藍染は確信に至った。

 自分の頬が殴られた事はマグレでも何でもなく、綿密に練られた作戦だということに。

 

「三十年、それが私が蓮沼と過ごして来た年月だ。それだけの時間を共にしているのだ、姿形を偽った所で見破ることは容易い。感謝するぞ藍染、三十年前貴様が私の隊に蓮沼を譲ってくれなければ、こうして貴様に一撃を与えることは不可能だったのだからな」

 

 十人に聞いても十人が今の二人の行動を「無茶だ」、「無謀だ」と答えるだろう。だが、二人の間にはそれを可能とする確かな信頼関係があった。

 

 だとするならば、卯月が結界により緩衝した砕蜂の攻撃を受けてから、今に至るまでの二人の発言は全て演技だということになる。

 これには流石の藍染も驚いた。かつては彼も護挺十三隊の一員として、何百年も本性を隠しながら過ごしてきた身だ。そんな演技に関して一家言ある藍染をしても、二人の演技は見抜けなかったのだ。まさに潜入、暗殺に長けた隠密機動の本領発揮といったところだろう。

 

「ホンマ……ようやるわ」

 

 そしてその会話を隣で聞いていた平子が呆れたような声を漏らす。だが、内心彼は二人の信頼関係に非常に感心していた。

 かつての自分も彼らのように藍染と関係を持てていたら、あるいは。そんな考えが過らずには居られなかったのだ。

 

 しかし、例え上記の条件を満たせていたとしても、藍染に一矢報いるにはまだ至らない要素が一つだけ残っていた。

 

「だが、あまりにも回復が早すぎる。確かに君はあの瞬間、結界で軽減したとは言え、無視することはできない程の傷を負っていたはずだ」

 

 確かに結界のお陰で卯月は生きていた。しかしそれは命を護りはしたものの、卯月が重傷を負っていたことに変わりはなかった。その証拠に、市丸を覆っていた結界は僅かな力を加えただけで崩壊した。にも関わらず、卯月は一分にも満たない間に傷を完治させ、この場に立っている。幾ら回道に長けた卯ノ花が居たとは言え、それは至難の技だった。

 

「それは僕が言わなくても直に分かることだよ」

 

 瞬間、卯月の姿が掻き消えた。瞬閧によって身体能力が向上したことで、卯月の瞬歩は副隊長格ですら反応することが難しい段階にまで昇華されていた。

 

「見えているぞ」

 

 だが、当然藍染はその範疇には入らない。卯月の瞬歩を完全に見切った藍染は、卯月の動きに合わせて斬撃を放った。

 

「……分身か」

 

 しかし、その斬撃が卯月を捉えることはなかった。卯月は分身を作ることで藍染を錯乱する作戦に出たのだ。その数は何と三十体。瞬閧をしたことによって分身の最大数も三倍にまで増えていたのだ。

 そしてそれだけではなく、砕蜂も卯月に合わせて二十体の分身を出していた。

 計五十体。最早一つの壁と化した分身の集合が藍染を覆い尽くした。

 

「見せ物としてはよくできているが、所詮本体はこの内の二つ。取るに足りない遊びだよ」

 

 例え五十人居ようが、その内の四十八は実体のない分身だ。二人の瞬歩を見切れる藍染にとって分身は何ら脅威ではなかった。

 

「お褒めに与るとは光栄だな。隠密機動は見栄えを褒められる事のない仕事だ。礼の代わりに、その見せ物で貴様に止めを刺してやろう」

 

 すると、砕蜂の言葉に合わせるように一斉に分身が藍染に接近した。

 しかし、藍染も冷静だった。彼は数の多い分身に翻弄されることなく、ただ一点に向かって刃を振るった。

 

「分かっているぞ、君が囮だということは」

「ちっ!」

 

 藍染が斬魄刀を差し出した先には平子がいた。今回は敢えて逆撫を発動させずに藍染に斬りかかった平子だったが、藍染は見事にそれを見破り、返しの一撃を放つ。

 こんなにも容易く藍染が逆撫の応用を見破ることができたのには理由があった。

 平子の髪型は左右対称のパッツンオカッパだ。故にその髪型は始解を解放しても、逆に見えないという利点がある。だが、今の状況は違った。今の平子の身体は戦闘での傷や汚れがついた状態だ。それらをしっかりと観察していれば、逆撫の応用の攻略すらも藍染にとっては容易かった。

 

 更なる傷を負って吹き飛ばされた平子には目も向けずに、藍染は次の攻撃に移行する。

 

「そして、君も囮だ」

 

 再度藍染が刀を振るった場所には卯月がいた。

 だが、藍染も流石にこの程度で勝負が決まるとは思っていなかった。隠密機動として修行を積んできた卯月の身のこなしは他隊の死神とは一線を画している。それに加えて今の卯月はどういう訳か全快の状態だ。故にこの程度なら立て直して来るだろうと藍染は予想していた。

 

「何?」

 

 だが、卯月の行動は藍染の予想と遥かにかけ離れていた。何と卯月は藍染の斬撃に一切脅えることなく、一直線に突っ込んできたのだ。

 勇気があると言えば聞こえはいいが、今の卯月の判断は無謀だとしか言いようがなかった。

 

 そのまま藍染の刃が卯月の肩を貫く。

 

「はああああああ!!」

 

 しかし、それでも卯月が止まることはなかった。声を張り上げながら放った拳は藍染の顔面を捉える。

 

 そして藍染が再び卯月に視線を戻した時――肩につけられたはずの傷は既に癒えていた。

 よく目を凝らして見れみれば、卯月を覆っていた薄緑色の霊力は卯月の肩に集中しており、藍染はその光に既視感を憶えた。

 

 そしてその様子を見ていた卯月が口を開く。

 

「気づいた? そう、どうして僕がこんなにも早く戦いに復帰できたのか、その答えは瞬閧にある。僕の瞬閧は少し変わっていてね。僕が碌に破道を扱えない所為で、砕蜂隊長のような攻撃的な属性は付かなかったんだ。――僕の瞬閧の属性は回道。この技を発動している限り、僕に対する傷はかすり傷にしかならない」

 

 瞬閧は斬魄刀と同じように、術者によってその性質を変える。例えば夜一なら雷、砕蜂なら風というようにだ。しかし、この二人と卯月には決定的な差があった。それは卯月に攻撃方面の鬼道や技を扱う才能が全くと言っていいほどなかったということだ。そしてその違いは卯月に二人とは全く異なる性質をもたらした。

 

「……少し厄介な力だね」

 

 殆どの傷をかすり傷同然に回復すると聞いただけでも、強力な力なのだが、この瞬閧は卯月を術者とすることでその性能を遺憾なく発揮する。

 本来、霊力の消費が激しい瞬閧だが、その弱点を卯月は砕蜂とは違う形で克服していた。本来回道は、自分の霊圧を用いて対象の霊力を回復させた後に、傷の回復を図る技。しかし、これは自分を対象とした時だけ少し変わる。自分を治療する時、それに用いる霊力は勿論自分のもの。そんな中で霊力の回復などできるわけがないのだ。つまり回道は、自分を対象とした時だけは傷の回復だけに留まるのだが、卯月は違っていた。

 彼の斬魄刀、睡蓮は怪我や病気以外の異常状態を治すことができる。もう気付いただろうか? つまり霊力を回復する手段がある卯月は即死級の攻撃を受けるか、よほど無茶な戦い方をしない限りは永遠に戦い続けることができるのだ。

 それに加えて卯月は隠密機動。その速力は優れており、そんな彼ならば、抵抗する間もなく、攻撃を受けることはまずないだろうと考えられた。

 

 確かに実力は藍染の方が格段に上だろう。しかし、その藍染をしても面倒だと思わせられる要素が今の卯月にはあった。

 

「ところでいいの? そんなに僕ばっかり見てて?」

 

 瞬間、影から出てきた京楽と砕蜂が藍染に襲い掛かる。

 

「【瞬閧】!!」

「【斬華輪(ざんげりん)】」

 

 最後の霊力を振り絞り、砕蜂は今の自分にできる最大の一撃を放ち、京楽は少しでも攻撃の着弾を早くするために鬼道で攻撃を仕掛ける。

 

「ギン」

「【卍解“神殺鎗”】」

「なっ!?」

 

 しかし、藍染はそれを見越していた。彼の指示を受けた市丸はあろうことか、攻撃範囲が狭いはずの刺突で京楽の鬼道を穿ち、砕蜂の雀蜂の軌道を逸らした。

 そして攻撃が不発に終わり、無防備になった彼らの前には、藍染が居た。

 

「砕蜂隊長! 京楽隊長!」

 

 成す術なく、藍染の斬撃を受けてしまった二人は地面に倒れてしまう。

 

「さあ、どうする?」

 

 ここで藍染が卯月を倒せば、残す現時点で障害と成り得る存在は元柳斎だけとなる。瞬閧と始解を同時に発動することで面倒な能力を得た卯月だったが、藍染からすれば、攻略法など幾らでもあった。広範囲高威力で回避不可能の一撃を叩き込み、即死を狙うも良し、卯月に無理を強いる戦い方をすることで、睡蓮の回復が追いつけないほど霊力を消耗させるも良しだ。

 

「約束、ちゃんと守ってくれたみたいでよかったよ」

「何……?」

 

『悪いけど、僕は一撃の決定力に欠けるからね、止めは君に任せるよ』

 

 卯月は先ほど自分が投げかけた言葉を思い返していた。

 

「【月牙天衝】!!」

 

 もう妥協などは一切しない。威力、範囲、速度全てにおいて卍解状態を上回った、虚化による月牙が藍染の頭上から襲い掛かった。

 流石に喰らえば無傷では済まないと判断した藍染は回避に移ろうとするのだが、それを見逃す卯月ではなかった。

 

「逃がさないよ」

 

 一護がこうして藍染の不意を突いて攻撃することは、先ほどから卯月が想定していたことだ。それさえ分かっていれば、卯月にとって一護が攻撃を仕掛けるタイミングに結界を張り、藍染の回避を妨害することは難しいことではなかった。

 

 そして回避をし損なった藍染に赤黒い霊力が襲い掛かる。虚化したことで強化された月牙は一瞬で藍染を覆いつくし、卯月の結界に罅を入れた。

 

「でもやっぱり、これくらいじゃ終わらないよね」

 

 だが、虚化による月牙という高威力の技がクリーンヒットしたこの状況でも、卯月は藍染の生存を疑っていなかった。これまで一人で護挺十三隊と仮面の軍勢を一人で相手をしてきた藍染が、たった一撃で終わるはずがないのだ。もしこれで終わるのなら、とっくに藍染の命はなくなっていることだろう。

 

「虚化したとはいえ、所詮はこの程度か」

「なん……だと……!?」

 

 卯月の想定通り、藍染は涼しい顔を浮かべながら結界から脱出したのだが、一護はそのことに瞠目した。

 彼とてこの一撃で藍染を倒せるとは思っていなかった。何故なら彼は、第四十刃であるウルキオラすら、満足に倒すことができなかったのだから、ウルキオラより実力が勝っている藍染を倒すことに、相当な苦労を強いるであろうことは理解していた。

 しかし、藍染の実力は一護が想定していたものよりも遥か上をいっていた。一度暴走状態に陥ったことが原因で、一護の虚化の力はウルキオラと戦った時よりも増していた。その力をうまく制御し、全身全霊の月牙を当てられればあるいは、という思いが一護の心の中の何処かにあった。

 だが、蓋を開けてみればどうだ? 確かに攻撃は命中した。しかし、それによってできた傷はギリギリ骨に至るかどうかしかない浅い傷と、結界で威力を逃がさなかったことにより全身に散りばめられた更に浅い傷だけ。見た目ほどのダメージを藍染は負っていなかった。

 

「火力に欠ける蓮沼君が援護に回り、止めは黒崎一護に任す。確かに良い作戦だ。だが、これでは数ヶ月前となんら変わらないよ」

 

 二人が取った作戦は、一護の搦め手が苦手という部分を卯月が補い、卯月の火力不足を一護が補うというものだ。

 しかし、この作戦はどちらかが足を引っ張れば一瞬で破綻する。

 虚化による月牙天衝。それは確かに強力だ。その一撃は狛村の鎧武者による攻撃を上回り、あるいは砕蜂の雀蜂雷公鞭に匹敵するかも知れない。だが、そんな必殺の一撃ですら、藍染に前には無力だった。

 そしてこの作戦もまた、双極の丘で藍染と戦った際に狛村と共にとったものと同じだ。そんな手が藍染に通用するはずがなかったのだ。

 

「幾ら君が蘇ろうとも、肝心の火力が不足しているようでは、私に勝つことはできないよ」

 

 確かに卯月はこの数ヶ月間で藍染に対する対策を立て、それを実現する為の縛道の開発に努めてきた。故に卯月はある程度ならば、藍染の高レベルな戦いにもついて来れるだろう。

 しかし、一護を始めとする他の面々は違った。護挺十三隊や仮面の軍勢の面々は、藍染の鏡花水月に対抗する術を持って居らず、一護も搦め手を苦手をしている為、藍染の掌の上から逃れることができなかったのだ。

 

 自分が卯月の足を引っ張っている。遠回しにそう言った藍染の声を聞き、一護は己の情けなさに震えた。何の為に自分は真っ先に虚圏から現世に来たのか、何の為に皆が自分を護りながら戦ってくれたのか、それを考えると申し訳が立たなかった。

 

 ――だからこそ、諦める訳にはいかない。

 

 ウルキオラと戦った時にも言った。勝ちたいんじゃない、勝たないといけないから、護らなければならないから彼は立ち上がる。それが黒崎一護という男だ。

 そして、一護が再び斬魄刀を構えた時、その意志に応えるかのように、何者かが一護と卯月の前に現れた。

 

「――なら、儂ならどうじゃ?」

 

 瞬間、両者の間に凄まじい規模の火柱が展開された。そして、そこには一人の死神の影があった。

 

「まさか総隊長自ら戦いの場に出ることになるとはのう。まったく情けない隊員達じゃわい。――じゃがこれで終わりじゃ。藍染惣右介」

 

 ここに来て漸く元柳斎が重い腰を上げた。

 お互いに残す戦力はそう多くはない。故にここで大将戦に持ち込み、一瞬で戦いを終結させるという狙いが元柳斎にはあったのだ。

 

 戦いの終わりは刻々と近づいていた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。