転生した先が死後の世界で矛盾している件 作:あさうち
――始解を見るな。
黒腔内を走り抜けながら、一護は自分がすべきことに対して思考を巡らせていた。
藍染の鏡花水月は一度発動すれば、相手の五感を全て支配できる能力。そして、その発動条件は鏡花水月の始解を対象に見せること。つまり始解を見てしまえば、その時点で終わりを意味する。故に一護は藍染の始解を見ないように立ち回らなければならないのだが、その中で最も確実なのは――一撃で勝負を決めることだ。
――後ろは駄目だ。
一護は一緒に黒腔内を走っている卯ノ花から、藍染の情報を聞きだしていた。それは藍染は背後に結界を常設している為、死角からの攻撃は一切受け付けないというものだ。これは中央四十六室で実際に藍染と戦った卯月からもたらされた情報で、その信憑性は高い。
故に一護は決めた。
――上だ!
頭上からの攻撃。それは確かに隠密性という観点から見れば、背後からの攻撃の方に分があるが、技の威力という点では重力に従って振り下ろすため、こちらに軍配が上がる。
「【月牙天衝】!!」
黒腔から出るや否や、一護は藍染の頭上に移動し、力強く彼の卍解である天鎖斬月を振り下ろした。そこから放たれた赤黒い三日月形の斬撃には、彼のとてつもない量の霊力が注がれており、一撃で勝負を決めるのに相応しい技だった。
「いい斬撃だ」
「なん……だと……!?」
しかし、その必殺の一撃は藍染には全く通じていなかった。藍染は一護が放った月牙の方向に、無造作に自身の斬魄刀を差し出すだけで、攻撃を防いで見せたのだ。
「特に上から攻撃したのがいい。生物の一番の弱点は死角である背後だが、そんな場所に何の防御も施さないほど私は甘くないのだから。恐らく、蓮沼君からの情報だろうけどね」
そこまで言った藍染は一護の方に身体を向けた。
「久しぶりだね、旅禍の少年」
余裕そうな藍染とは対照的に、一護は卍解の月牙を簡単に防がれたことに、驚きを隠せないでいた。
――迂闊だった。今のは虚化して撃つべきだった。
そして、数秒前の行動をひどく悔いていた。一護はここに来る前、虚圏にてウルキオラと交戦していたのだが、その際に虚化の制御を誤り、暴走状態へと陥ってしまったのだ。そしてそこから虚化を使用するときに違和感を感じるようになり、更には一度虚化を失敗していた。
故に一護は安定した卍解状態での攻撃を選択したのだが、それは間違いだった。かつて一護は双極の丘で藍染と対峙した際に、卍解による斬撃を素手で防がれている。そのことを鑑みても、月牙天衝を使っているとは言え、卍解状態で藍染に勝つことは難しいと考えるべきだった。しかし、それを一護は失敗を恐れ、逃げの一手に走ってしまった。
「何を考えているか当てて見せようか?」
そんな一護に藍染は語り掛ける。
「初撃の判断を誤った。今の一撃は虚化して撃つべきだった。虚化して撃てば一撃で決められた」
「っ!?」
図星だった。そして次の瞬間、藍染は一護に向かって屈辱的な言葉を投げかける。
「撃ってごらん。その考えが思い上がりだと教えよう」
嘗めているとしか思えない藍染の発言だったが、チャンスであることには変わりはない。一護はプライドを捨てて虚化を発動し、斬魄刀に己の霊力を溜めた。
「そうだ、来い」
「【月牙天衝】!!」
虚化したことにより威力、速度、範囲、全てにおいて卍解状態の月牙を凌駕した一撃は、一直線に藍染に向かっていった。
「どうした、届いていないぞ」
――だが、その全力の一撃でさえ藍染を捉えることはなかった。
それどころか、藍染は一護が認識する前に、彼の背後へと回り込んでいた。
「っ!?」
それに気づいた一護は慌てて藍染との距離を取る。鏡花水月の解放を見たらその時点で終わる。故に一護は、藍染の一挙手一投足でさえ見逃すわけにはいかないのだ。
「何故そう間合いを取る? 確実に当てたいならば近づいて撃つべきだ。それとも、近づくことで私の一部でも視界から外れることが恐ろしいか? だとしたらくだらない話だ。間合いが意味を持つのは、対等な力を持つ者同士の戦いだけだよ。私と君の間には何の意味もない」
そんな一護の内心を手を取るように理解している藍染は、言葉を駆使して一護の動揺を更に煽っていく。
「――ほら、こうすれば、今すぐにでも心臓に手が届きそうだ」
そして次の瞬間、藍染は一護が反応できぬ速度で動き、彼の胸元に指を当てていた。
すかさず斬魄刀を振るった一護だったが、すでにそこに藍染はおらず、またしても背後を取られる。
そして藍染は次なる言葉を言い放つ。
「一つ訊こう、旅禍の少年。君は何の為に私と戦う? 私に何か憎しみがあるか? 何もないはずだ。君がここに居るということは、井上織姫は無事に戻ったということだ。そして君の顔を見る限り、君の仲間も誰一人死んではいまい。その中で、君は私を心の底から憎めるか? 不可能だ。今の君は憎しみなどなく、ただの責任感のみで刃を振るっている。そんなものは私には届かない。憎しみ無き戦意は翼無き鷲だ。そんなもので何も護れはしない。無力な仲間の存在はただ、脚をへし折る為の重りにしかなりえないのだ」
藍染の言葉に、一護は震えた。図星だった。否、図星であるかのように思わされたのだ。今の藍染の言葉、突っ込みどころなど幾らでもあった。怒りは判断力を鈍らせるし、変に力みだって生む。そして一護は卯月と同じく、鏡花水月の術中に嵌っていない貴重な存在。足手纏いであるはずがないのだ。
しかし、それが本当であるかのように思わす話術とカリスマ性が藍染にはあった。結果として一護は身体を震わせている。そしてその震えを断ち切ろうと、無理やり身体を動かそうとしたその時だった。
「呑まれるな、黒崎一護」
何者かの手が、一護の斬魄刀を持つ手を包み込んだ。
「狛村さん……!」
「挑発は奴の専売特許だ。我を失えば命も失うぞ」
「それと君が藍染と戦う理由なんて一つ。仲間と空座町を護りたいからに決まってるじゃないか。今更そこで迷う必要なんてあるのかい?」
「蓮沼さん」
修兵と東仙の安全を確保した後、卯月と狛村は藍染の居る上空へと向かっていた。
「安心せい、虚圏に向かった隊長達が、真っ先に貴公を此方へ送った理由は解っておる。貴公に藍染の始解は見せはせん」
狛村のその声に合わせるように、十刃との戦いを終えた隊長達や、一度は藍染に切り伏せられた仮面の軍勢の面々が、一度に一護の前に現れた。そこには先ほどまで回復に努めていた砕蜂や乱菊も含まれており、一護が卯ノ花と一緒に現世に向かった甲斐あってか、浮竹の治療も安定し、現在出せる最大戦力でこの戦いに臨めていた。
「悪いけど、僕は一撃の決定力に欠けるからね、止めは君に任せるよ。だからそれまでは――」
「――俺たちがてめぇを護って戦ってやる」
卯月の言葉に続いた冬獅郎に合わせ、一護を護るように藍染の前に立ちふさがった面々は、一斉に構えを取った。
***
真っ先に藍染に突っ込んでいったのは冬獅郎だ。彼が放った斬撃を藍染が受け止め、鍔迫り合いの状況に持ち込まれる。
「随分と考えなしに突っ込んでくるね、命知らずなことだ。日番谷隊長」
「誰かが切り込まなきゃ始まらねぇだろうが。期を失わせるのもてめぇの術中だ」
冬獅郎の言う通り、誰かがやらなければ始まらないことだってある。そういう意味では若い彼は、切り込み隊長に最適だったと言えるだろう。
「それと、誰が考えなしだって?」
そう言って冬獅郎が横目で見た先には、空中に作った霊力の足場に手と膝をついている卯月の姿があった。怖気ついてしまったかのように取られかねない卯月の姿勢だったが、それにはちゃんとした意味があった。彼の腕にはある縛道特有の黒い模様が刻まれていた。
――天挺空羅だ。
卯月は今この瞬間、藍染と対峙している味方全員と鬼道による通信を行っていた。一見、ここまでの大人数に的確な指示を出し続けるのは不可能なことのように思えるかもしれないが、実はそうではない。
冬獅郎の視線の移動に誘われた藍染に向かって、何者かが斬魄刀を振るった。
「……京楽」
「卑怯とは言わせないよ」
見事な反応速度で斬撃を縛道で防いだ藍染に向かって、京楽が一言語り掛ける。
「――何せこれは戦争なんだからね」
「今や!」
瞬間、京楽と冬獅郎の姿が消えた。彼らが消えた場所には、いつのまにか冬獅郎が形成した氷の柱がそびえ立っており、彼らは京楽の影鬼を用いることにより、一瞬にして最前線から撤退していたのだ。
そして、平子の号令に合わせた仮面の軍勢が、一斉に一人残された藍染に向かって虚閃を放つ。今この場にいる計六人の仮面の軍勢が放った虚閃は、次第に藍染を飲み込んでいった。
「成る程、考えたね」
虚閃の余波である煙から顔を出した藍染が呟いた。
今の一連の攻防こそが、卯月が一人で大人数に指示を出し続けられる理由だ。最初に指示を出すのは一人でいい。その一人目の行動を見ていた誰かが藍染に追撃を加え、最後には巨大な一撃を叩き込めばいいのだ。
例えそこで藍染が鏡花水月を使ったとしても、本物の味方は既に撤退しているので、同士討ちの心配はない。
要は、自分が感じたことよりも卯月を信じられるかが、この戦いの鍵となっているのだ。
「だが、一度に指示を出せる人数はそう多くはない。なら、一人一人潰していけばいいだけの話だ」
この卯月を軸とした戦法の一番の穴は、最も手薄となる一番最初の攻撃だ。
藍染はそれを一目で理解していた。
――だが、そう易々と倒されるような者は、今この戦場に一人としていない。
「藍染、てめえ言ったな。憎悪無き刃は翼無き鷲だ。責任感で振るう刃は自分には届かない。知らねえようだから教えてやるぜ。責任感だけを刃に乗せて、刀を振るうのが隊長だ。憎しみで刀を振るうのは、薄汚れた暴力だ。俺達はそれを戦いとは呼ばねえ」
再び藍染の前に舞い戻った冬獅郎は、先程の藍染の発言に対して言及した。そして、次の言葉を言い放つ。
「やっぱりてめえは隊長の器じゃねえんだよ」
自らの憎しみの為だけに刃を振るう隊長など、護廷十三隊には必要ない。部下を導き、尸魂界の為に尽力してこその隊長だと冬獅郎は言った。
「面白いね。護廷十三隊の隊長の中でも、比較的私に憎しみを持つ君の言葉とは思えないよ。君が構えたその剣に、憎しみは無いとでも言うのかい? それとも雛森君がショックから立ち直り、こうして戦っている時点で、君の憎しみは消えてしまったのかな?」
冬獅郎の持論を藍染は、冬獅郎を例に挙げた上で反論する。確かに藍染の言う通り、冬獅郎は少なからず、藍染に怒りを抱いている。それは、彼の幼なじみである雛森の忠誠心を藍染が裏切ったからで、藍染はそこに言及していた。
「ああ、そうだ。てめえの言う通り、俺はてめえに少なからず憎しみを抱いている。――だが、それを晴らすのは俺じゃねえ」
「【飛梅“打上花火”】!」
冬獅郎の言葉に合わせるように、雛森の放った極大の火球が藍染に接近する。
発射の際に最大限まで溜め込まれた火球の威力は、その大きさからも察せられるように、隊長格すらも大怪我を負いかねないほどの威力を誇っていた。
「成長したね、雛森君。だけど、その程度の一撃では私を倒すことはできないよ」
だが、藍染の実力はそれよりも遙か上位に位置する。故に雛森の攻撃では、藍染に傷一つつけることすら難しかった。
「ええ、わかってます。だから、私の狙いはそこではありません」
そこで藍染は再び視線を雛森が放った火球に移す。そこには相変わらず強烈な光を放ちながら、燃えたぎる極炎があった。
――そして、光は影を生み出す。
「っ!?」
そのことに目ざとく気がついた藍染だったが、少し遅かった。藍染の装束にできた影から現れた、京楽の刃が藍染を斬りつける。
「これでもその程度かい……」
しかし、藍染も流石と言うべきか、完全に不意を突かれたのにも関わらず、その傷を最小限に留めていた。京楽はそのことに対して嘆息するのだが、平子の逆撫による初撃以来、まともに攻撃が通らなかった中でのこの一撃は、大きな進歩といえるだろう。
「【唸れ“灰猫”】!」
そして、攻撃は絶え間なく行われる。乱菊は始解を行い、自身の斬魄刀を粒子レベルにまで分解したのだが、最早副隊長クラスでの攻撃では、藍染に傷を負わせることは難しかった。故にそのことを理解していた乱菊は、次の手に出た。
灰猫が藍染の周りを浮遊し、その視界を遮ったのだ。攻撃を与えることはできなくとも、能力の使い方次第では、こうして味方のサポートに徹することもできる。
「【金沙羅】!」
乱菊に続いたのは、仮面の軍勢の一人であるローズだ。彼は自身の金色の鞭のような斬魄刀――金沙羅で、灰猫の外側から藍染を巻き取り、拘束した。
「【千年氷牢】」
そこに更に卍解をしていた冬獅郎による氷の牢獄が展開され、藍染の拘束をより強固なものにする。
「【卍解“黒縄天譴明王”】」
最後に止めを刺すべく刀を振るったのは、この場にいる中で比較的攻撃力の高い狛村だ。以前は斬魄刀で受け止められてしまった一撃だが、藍染とて、碌に防御も取れないこの状況で狛村の一撃を食らえばただでは済まないだろう。
鎧武者が放った一撃は、冬獅郎の氷をまるでバターを切るかのように切り裂き、やがて中にいた藍染の体ごと真っ二つに分けた。
「……やったか?」
誰とも分からない声が戦場に響く。決して大きくない声だったが、それを聞き逃した者はこの戦場にはいなかった。
「いや、まだだ!」
『いや、まだです!』
一度弛緩しかけた場の空気を、再度砕蜂と卯月が引き締める。この戦場にいる大勢の死神の中で、二人だけが藍染の生存に気付いていた。それは二人が隠密機動だからであり、それ故二人は、氷と一緒に落下する布切れの存在を見逃さなかった。
――空蝉。
卯月や砕蜂が得意とする、隠密機動の歩法を藍染は習得していた。鏡花水月を使わなくとも、敵の誤解を誘う戦法を藍染は持っていたのだ。
そして、藍染の存在に他の面々が気づいた時には、もう遅かった。
「【破道の九十“黒棺”】」
藍染の放った鬼道は辺りに居た死神を一度に呑み込んでいき、次の瞬間、そこにあったのは狛村、冬獅郎、乱菊、ローズの四人が落下していく姿だった。
そこからは圧倒的だった。藍染はまるで赤子を捻るかのように、死神や仮面の軍勢を斬り伏せて行き、最初は二十人程居た味方も、気づけば十人以下にまで減らされて居た。
「嘘……だろ……!?」
それを遠くから見渡していた一護は戦慄した。さっきまで藍染の相手をしていたのは、皆少なくとも副隊長格以上の力を持った実力者達だ。
しかし、それがどうだ。先程まではこちら側が有利に戦いを進めていたのにも関わらず、気づけば戦力も半分以下に削がれているではないか。
「どうして……どうしてですか! 藍染隊長!!」
そして、その惨状を見ていた雛森が声を荒げた。
「どうして? それを言葉にする必要があるのかい?」
「私には分かりません……。どうしてあなたがそこに立っているのか、その理由が分かりません」
「それを言って何かが変わるのかい? ただ一つ言えることは、私は私の意志でここに立っているということだ。まさか、今更言葉で分かり合えるとは思っていまい」
「それは分かっているつもりです。私はあなたを止めるためにここに立っているんです……!」
雛森にとって、それはもう数ヵ月も前に決めたことだ。そこにもう迷いはなかった。
「君は何も分かっていないよ、雛森君。――だから君は私を止めるなどという、滑稽極まりない言葉が吐けるんだ」
「何をっ!?」
刹那、藍染は雛森に急接近する。一護の目をしても反応できなかった藍染の瞬歩に、雛森が反応できるはずもなく、彼女の眼には、消えた藍染が突如として自分の目の前に現れたように見えていたことだろう。
「さようなら、雛森君」
そのまま藍染は斬魄刀を横凪に払い、雛森は来るべく痛みに備え目を閉じたのだが、いつまでたっても痛みが来ることはなかった。
「何っ!?」
その一撃は何者かによって止められた。ピクリとも動かない自分の斬魄刀に目を遣れば、そこにあったのは氷の中に埋められた自分の斬魄刀だった。
「……雛森に、手は出させねえぞ……。藍染……!!」
息を切らしながらも、そう言葉を発したのは冬獅郎だ。彼は藍染の鬼道で瀕死の状態となりながらも、雛森を護る為に、己の体に鞭を打ち、立ち上がっていた。
「【瞬閧】!!」
そしてその甲斐あって、今の藍染には決定的な隙ができていた。しかし、その隙もほんの一瞬、藍染ならばすぐに立て直してくるだろう。
――だが、その一瞬の隙を突いてこその隠密機動だ。
風を纏い、己の身体能力を最大限に上昇させた砕蜂は、藍染の対処が間に合わないであろうスピードで接近し、最速の一撃を放つ。そして彼女が突き出した腕には、彼女の斬魄刀――雀蜂があった。
「くっ!?」
まず壱撃。雀蜂の能力により、藍染の胸部には蜂紋華が刻まれていた。
「弐撃決殺」
そして弐撃目が再び藍染を捉えようとした時、すんでのところで結界が展開された。壱撃目は避ける間もなく喰らってしまった藍染だったが、流石に弐撃目ともなれば防御の余裕は出てくる。
結界に弾かれた砕蜂に反撃すべく、氷による拘束を鬼道で砕いた藍染だったが、そこであることを感じ取った藍染は、敢えて反撃は行わずに距離を取った。
「私相手に何度も同じ手が通用すると思っているのか、京楽?」
藍染が言葉を放ったその先には、氷の影から姿を現した京楽の姿があった。
「思ってないけど、この子達がそういう気分だからしょうがないじゃないの」
そう言った京楽の目には、彼の斬魄刀である花天狂骨が映っていた。一つの斬魄刀なのにも関わらず、様々な能力を有している彼の斬魄刀だが、その欠点として挙げられるのが、どの能力を使うのかは花天狂骨が決めることで、京楽には一切の決定権がないということだ。
「でも、そろそろこの子達も飽きてきたみたいだよ。――【
回転しながら振るった京楽の斬魄刀から風が巻き起こり、藍染に接近する。
しかし、これまでに一護の月牙や狛村の卍解といった高威力の攻撃を涼しい顔で防いで来た藍染に、搦め手が中心の自分の攻撃では藍染を倒せないことが京楽には分かっていた。
「【飛梅“鼠花火”】!」
ならば攻撃を継ぎ足すまでだ。不精独楽は雛森の放った火球を巻き込みながら回転し続け、その威力を高める。
――そして、これで終わりではない。
「【神風雷公鞭】!」
瞬閧のままでいた砕蜂による必殺の一撃が空気を裂きながら藍染に向かって一直線に突き進んで行く。やがてその一撃は、京楽と雛森による鼠花火に着弾した。
これにより、バラガンとの戦いで激しく霊力を消耗した砕蜂でも、少ない霊力でより強力な一撃を放つことができる。
砕蜂の卍解は、本来なら三日に一発が限界の一撃必殺。その威力は狛村の卍解をも凌駕する。
流石の藍染もこれを喰らえば一溜まりもないので、多重に結界を展開するのだが、それが間違いだったことに気づくのに、そう時間は掛からなかった。
「終わりや、藍染」
「っ!?」
藍染の視界の端に映ったのは、斬魄刀を解放した平子の姿。――つまりこの攻撃は逆だ。
しかし、それに気づいた時にはもう後の祭りだった。
次の瞬間、バラガンを倒した時よりも更に巨大な爆発が藍染を包み込んだ。
やったか!? と誰もが思った。しかし、戦場に居る者で警戒を解くような人物は一人としていなかった。先ほども今と同じような状況から曇天返しを喰らっているいるのだ。それと同じ轍を踏むわけにはいかないのだ。
「――皆一体何をしてるんだよ!!」
「っ!?」
そう誰もが気を引き締めたとき、戦場に一護の声が響き渡った。
何をしているのか? その答えは簡単だ。皆死に物狂いで藍染と戦っていた。ほら、収まりつつある爆発に目を向けてみれば、人型のシルエットが地面へ真っ逆さまに落ちて行っている。
しかし、その人物がはっきりと見えるようになった瞬間、皆頭に冷水をかけられたかのような錯覚に陥った。
そこに居たのは藍染ではなく、
「――蓮沼っ!?」
――卯月だった。
「さあ、行こうか。ギン」
「はい」
そしてそれを決定づけるかのように、卯月が市丸に掛けていた結界は、藍染が刀を突きつけるだけで簡単に割れ、藍染は市丸を引き連れた、歩みを進めていた。