転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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第二十五話

「……ここは?」

 

 目を覚ますと、全く知らない光景が映った。僕の家でもなければ、二番隊の仮眠室でもなければ、修兵の家でもない。

 僕が普段寝泊まりをする場所と言ったら上記の三つが挙げられるんだけど、今僕の視界を埋め尽くしている真っ白な天井は、それらの三つ全てに該当しなかった。

 

「目を覚ましたんですか?」

 

 すると、人の声が聞こえてくる。そちらに視線だけを動かしてみれば、そこには一人の女性死神が居たんだけど、その女性死神は僕を見た途端何かに焦っているかのように部屋の外へと走って行った。

 ここが何処か訊こうと思ったんだけどな……。

 

 起きたのに寝っぱなしなのもなんだったので、身体を起こしていると、何処か見覚えがある光景が広がった。

 

「あ、ここ四番隊隊舎だ」

 

 今まで患者として来たことがなかったから気づかなかったけど、部屋の内装は僕が時折訪れる四番隊隊舎のものと一致していた。

 

 ということは僕は怪我をして運ばれたということになるんだけど、軽く身体を動かしてみても痛みはなかった。

 流石四番隊だなと思っていると、僕は一つの事を思い出した。

 

「……そうか。僕は負けたのか」

 

 それはウルキオラとの戦いのことだ。最後はお互いの最高の攻撃をぶつけ合う形になったんだけど、どうやら勝負はウルキオラに軍配が上がったらしい。

 

 そこまで考えたところで僕は恐ろしいことに気づいてしまった。

 

 ――なんで生きてるんだ、僕?

 

 僕と違ってウルキオラには、敵を見逃そうなどという甘い心は微塵子ほども存在していないだろう。それなのに僕は生きている。

 

「っ!? 井上さん!」

 

 ウルキオラに負けたのに僕は生きている。そんなことが起こり得る可能性は、一つの事でしか証明できない。

 

 ――多分井上さんは僕を見逃すことを条件に自ら虚圏に向かった。

 

 きっと僕の傷もその際に治されたのだろう。僕は彼女を現世に送り届けることができなかったのだ。

 油断もなかったし、驕りもなかった。単純な僕の実力不足だ。

 

 もしこれがウルキオラと戦っただけなら、しょうがないと断じる事ができたのかもしれない。どうせ井上さんは虚圏に戦力を分散させる為の餌で助かるのだから、別にこんなに思い詰める必要は無いのかもしれない。

 

 だけど、そういう訳にはいかない。そんな無責任でいいはずがない。今すぐにでも井上さんを助けに虚圏に向かうべきだ。

 

 その為にはまず、現世に居る浦原さんの元に向かわなければならない。恐らく黒崎一護君達は、井上さん救出の為に虚圏に向かう際、彼を頼った筈だ。

 虚圏に向かうには、虚が別の世界に赴く時に使用する黒腔を通って行く必要がある。それを解析し、実際に使用できるまでに昇華させたのは、現時点では浦原さんだけだろう。もしかしたら涅隊長もできているのかもしれないけど、独断で動くという関係上、護廷十三隊の死神を頼るわけにはいかない。

 

 そうと決まれば、善は急げだ。ベッドから立ち上がった僕は部屋を見渡し、出入口を見つけたんだけど、ふとそこで立ち止まった。

 

 ――人に見つかるわけにはいかないな。

 

 そう思った僕は視線を窓へと移す。あまり褒められた行動じゃないけど、一番確実なのはこれだろう。

 そう思った僕は窓を開き、淵に足をかけた。

 

「どこへ行く?」

「ひゃい!」

 

 だけど、僕の脱出に待ったをかけた人がいた。

 

「そ、砕蜂隊長!? ど、どうしてここに!?」

 

 それも霊圧をほぼ完璧に隠蔽した状態でだ。どう考えても僕を待ち伏せしていたとしか考えられなかった。

 

「どうして? それはこっちの台詞だ。お前は怪我人の筈だろう。なのにどうして窓から出てきた?」

 

 僕の問いに至極真っ当な返事をしつつ、新たな問いを返して来た。これではまるで尋問である。

 ……まあ、強ち間違いではないけど。

 

「い、いえ。怪我はもう完治したので、少し散歩でもしようかと……」

「なら四番隊の者に直接伝えればいいだろう。怪我が完治しているならば、なんの問題もなく散歩ができる筈だ」

 

 当然、長年隠密起動の総司令官を務めてきている砕蜂隊長に、そんな苦し紛れな嘘が通じる訳もなく、一瞬で看破されてしまう。

 

「先ずは何から話そうか……」

 

 そう言った砕蜂隊長は少し思案した後、話し始めた。

 

 驚くことに僕はウルキオラに倒された後、丸二日寝っぱなしだったらしい。その間に尸魂界と現世では様々な動きがあったそうだ。

 

 先ずは現世防衛の戦力として送られた日番谷先見隊だけど、どうやら彼らは来たる決戦に備えて、この三回目の破面の進行を最後に尸魂界に帰ってきたらしい。

 その理由は敵の目的であった井上さんが攫われた以上、もう破面が少数で現世に来る可能性は低いと判断された為だ。

 

 ここで話は一旦変わるんだけど、藍染の目的は世界の楔として奉られている霊王を殺害することだ。

 それには霊王の住まう霊王宮に向かう必要があるんだけど、ここで一つ問題が発生する。それは、霊王宮に足を踏み入れるには、霊王宮への通行証である王鍵を生成する必要があるのだ。

 その方法として藍染が執った方法は、現世において霊なる者が集まりやすい場所――重霊地の魂魄を犠牲とする事で、王鍵を生成するという方法だ。

 そして、現在の重霊地は黒崎一護君達が生活している空座町である。

 

 ここまで説明したところで、勘のいい人ならば違和感を抱くことだろう。

 

 ――何故、敵は空座町に進行して来るのに日番谷先見隊を引き返させたのかと。

 

 それを説明するには総隊長が下した命令について説明しないといけない。

 

 総隊長が下した命令は二つ。

 一つ目は、井上さんを救出する為に虚圏へと向かった黒崎一護君達現世組と、阿散井君と朽木さんの応援として、卯ノ花隊長、虎徹副隊長、山田君、朽木隊長、涅隊長、涅副隊長を援軍として虚圏へ送ることだ。

 本来なら、尸魂界は井上さんを見捨てようと動いていたらしいけど、それに腸を煮えくり返らした現世組が浦原さんを頼って虚圏に向かい、それを追うような形で阿散井君と朽木さんも独断で虚圏に行ったらしい。

 尸魂界側の失態で(僕の所為だけど)こんな事態になったというのに随分と無責任な話だと思ったけど、それにも一応理由はあったそうだ。

 先の三回目の破面の進行で、黒崎一護君は激闘の末敗北し、大怪我を負ったのだそうだ。しかし、その傷は翌日には完治し、霊力の残滓から黒崎一護君は井上さんの術だと判断し、それを総隊長に報告したのだが、逆にそれが今回の動きへと至った決め手となった。

 

 ――攫われた筈の井上さんが黒崎一護君の傷を治せる筈がない。もしも黒崎一護君の傷を治したのが井上さんなら、それは井上さんがこちら側を裏切った可能性が高いと。

 

 これを聞いた時、僕は絶対に藍染の仕業だと思ったけれど、もしも井上さんが裏切った可能性を考えると、尸魂界側が動く訳にはいかなかったらしい。

 

 そして二つ目こそが、日番谷先見隊を尸魂界へと帰還させた最大の理由だ。

 尸魂界は予ねてより、現世に所在している浦原さんに一つの命令を下していた。

 

 それは、空座町を町ごと尸魂界へと移動させる術式――天界結柱を起動させることだ。

 

 そしてつい先日、その術式を浦原さんは見事完成させ、現在の空座町は技術開発局が作り出したレプリカへとすり替わっている。

 

 つまり、日番谷先見隊を尸魂界へと帰還させたのは、空座町を尸魂界に移動させるからお前らも一旦戻ってこいという訳である。

 

 そして現在、尸魂界側も動き出そうとしていた。それは、空座町に向かって来るであろう藍染隊長をレプリカの空座町で迎え撃つことである。そのメンバーには十刃以上と戦っても戦力となり得る精鋭が選び出されるんだけど、光栄なことに僕も選び出されていた。

 

 ここで、僕は二択を迫られている。

 

 一つは命令に従い現世に行き、藍染を迎え撃つこと。

 

 もう一つは命令に背き虚圏に向かい、井上さんを救出することだ。

 

「だが、命令に従えと言っても、お前は虚圏に向かうのだろうな……」

 

 呆れるように言った砕蜂隊長だったけど、その声音はどこか温かかった。

 

「これは?」

 

 すると、砕蜂隊長が一枚の紙を僕に差し出した。

 

「これは朽木白哉から預かったものだ。今から三十分後に黒腔が開かれる。総隊長殿には話を通しておいたから、行くかどうかはそれを読んでから決めろ」

「砕蜂隊長……」

 

 僕が虚圏に行く。その意味を砕蜂隊長も分かっているはずだ。現時点で隊長格以上の実力を持っており、尚且つ鏡花水月の術中に嵌っていないのは、僕と黒崎一護君の二人だけだ。

 そして、藍染が井上さんを攫った真の目的は戦力の分散。そんな状況で僕が虚圏に向かうデメリットは計り知れない筈だ。

 

「なんだその顔は? 案ずるな。お前が居なくとも私達は十分に戦える。護廷十三隊を嘗めるな」

「そうですね」

 

 実際、僕が居なくとも何とかなってるから、笑えないんだよなぁ。

 

「ありがとうございます、砕蜂隊長」

「なに、やる気のない者に来られるのは却って迷惑だからな。私はその芽を摘んだに過ぎない」

「そうですか。じゃあ、僕は一度家に戻ります。色々準備があるので」

「ああ。……ああ、そうだ。お前、今回の件で十刃に敗れたそうじゃないか。帰ったら鍛えなおしてやる。覚悟しておけ」

 

 

「砕蜂隊長……。それ、死亡フラグです」

 

 

***

 

 

 家へと帰る道すがら、僕は三つ折りに折り畳まれていた紙を開いた。

 

「これは……」

 

 紙の正体は手紙で、ある程度の長さの文が綴られていた。

 

「恋次、朽木さん……」

 

 その送り主は現在虚圏にいるはずの二人で、となるとこの手紙は二人が虚圏に向かう前に書いたものということになる。

 

 そこには、井上さんのことなら自分達に任せてくれていいから、僕は十分に身体を休めて欲しいと書かれたいた。

 

 文面から見るに、恐らく二人は現世で藍染を待ち構えるということを知らないのだろうけど、どちらにしろ僕が意志を変えるつもりは毛頭なかった。

 自分の失敗は自分で取り返す。当たり前のことだ。

 

 ――虚圏に向かおう。

 

 二人からの手紙を丁寧に折り畳んで懐に入れた僕は、再度瞬歩で家へと向かった。程なくして自宅へと到着すると、誰かが家の中に居ることに気がついた。

 更に霊覚に集中力を注ぐと、それが見知った人物であることが判明する。

 

「ただいま」

 

 いつもだったら言わない言葉だけど、人が居ることが分かっているので敢えて使ってみる。

 

「あ、おかえり。卯月君」

 

 訪問者の正体はほたるだった。何をしているのかと思えば、彼女の手にはお玉が握られており、料理をしているであろうことが分かった。

 

「どうしてほたるがここに?」

 

 ほたるが居るということは分かっていたけれど、彼女が僕の家に来てまで料理をする理由が分からなかった。

 

「砕蜂隊長から連絡が入ってね、莫迦が四番隊から脱走したから自宅で待っておけって。丁度お見舞いに行こうとしてたから、もうちょっとですれ違う所だったんだからね」

「ありがとう、ほたる」

「いいのよ。私は今回の作戦に選ばれなかったし、そんな私にできることといったら、半世紀以上生きてるのに自分で料理もできないようなお莫迦さんに料理を振る舞ってあげることぐらいだからね」

「ははっ、手厳しいな」

 

 仕方ないじゃないか、面倒だし、それに毎日修行漬けだから、食事ぐらいしかお金の使い道がないんだよ。

 

 やっぱりお金を使わないと経済は回らないからね。

 

「そろそろかな?」

 

 そんな心にも思っていない咄嗟の言い訳を考えていると、ほたるが台所へと戻って行った。どうやら完成したらしい。

 完成した料理を鍋から器に移し、それをお盆に載せたほたるはそれをテーブルに持ってきてくれる。

 僕もこの間ただ突っ立って居るだけではなく、食器棚の中から湯飲みとお箸を用意する。

 

 これらの家具は僕が現世から取り寄せたもので、これらの他にもベッドなども取り寄せており、現在の僕の部屋は和洋折衷の現代日本の家と同じようなデザインとなっている。

 

「へぇ、今日は肉じゃがか」

 

 テーブルの上に置かれた料理は白米、味噌汁、そして肉じゃがだった。

 

「うん。肉じゃがは昨日の余り物を温め直しただけだけどね」

 

 言われてみれば、肉じゃがは短時間でできる料理ではない。

 ほたるは申しわけなさそうに言っているけれど、家から鍋を持って来るにはそれなりの苦労があったはずである。それを考えれば感謝の感情しか湧いてこなかった。

 

「それじゃあ食べよっか」

 

 ほたるに従って僕も席に着く。

 

「「いただきます」」

 

 ほたるの肉じゃがはとても美味しかった。しっかりと味が染み込みつつ、ホロホロと崩れるジャガイモ、甘い人参、タレが絡んだ春雨、どれを取っても一級品だった。

 

「……やっぱり虚圏に行くの?」

 

 食事を終えると、徐にほたるがそう訊いてきた。

 

「うん、僕の所為で井上さんは攫われたからね。やっぱり僕が行かないと」

 

 恋次と朽木さんの手紙を読んで、全く気持ちが揺るがなかった訳ではないけど、これだけは譲れない。

 

「二人のこと、信じられない?」

「っ!? いや、そういう訳じゃ」 

 

 ほたるが手紙の内容を知っていることと、痛いところを突かれたことに動揺した。

 

 僕は別に二人の事を信じていない訳ではない。二人とも副隊長以上の力は持っているし、下位の十刃までなら十分に戦えると思う。

 ただ、僕が納得できないのだ。井上さんを助けに行かない僕に。

 

「きっと卯月君は私じゃ考えつかないところまで考えて、思い詰めてるんだと思う。でもその気持ちって分けることはできないの?」

「……え?」

「思えば昔から、私を含めて皆卯月君には助けられてばっかりなのに、卯月君は大抵のことは一人で解決して来てたわね。前の藍染の時だって卯月君は誰にも頼らなかった」

「いや、藍染の時は日番谷隊長達と協力してたし」

「でもそれは日番谷隊長からの依頼でしょ? それに乱菊さん達に双極の丘に向かわせたのも、中央四十六室から遠ざけるつもりだったからじゃないの?」

 

 驚いた。ほたるは藍染の件ではどの場面でも関わっていなかった。にも関わらず、その場面で僕が考えていたことを正確に理解していたのだ。

 

「だから、今回くらいは他の人を頼ってみてもいいんじゃないの? それが仲間っていうものでしょ?」

 

 言われてみれば、そうだった。いまだかつて僕は人を頼ろうとしたことが殆ど無かった。戦いの時もそうだけど、仕事の時だって僕は滅多に人を頼ったことはなかった。それは大抵のことは自分一人でやってこれていたし、特に事務仕事に関しては僕より優秀な人はそう多くなかったからだ。

 

「いや、でもほたるはこうしてご飯作ってくれたりしてるじゃん」

「そんなの、私が卯月君にしてもらったことに対したら全然だよ」

 

 どうやら、ほたるはそんな風に考えていたらしい。僕の自惚れでなければ、僕はほたるの命の恩人ということになる。僕としてはご飯を作ってくれたりしてくれるだけでも、十分有り難いんだけど、彼女はそうは思わないようだ。

 

 そう考えると、僕が持ちつ持たれつつの関係を持ってきたのは修兵と砕蜂隊長ぐらいということになる。

 修兵には僕の精神的な悩みに対して向き合ってくれたし、砕蜂隊長とは数十年も毎日一緒に修行して来たからね。

 

「多分、阿散井君も朽木さんもそう思っているはずだよ」

「そうかな?」

「うん、絶対そうよ」

 

 力強くほたるは頷いた。

 

 なら、井上さんのことは二人に託してもいいのかもしれない。これを訊くとなんて無責任なんだと思うかもしれない。だけど僕はそうは思わなかった。

 

 何故なら、井上さんを助けたいという僕の気持ちは二人に引き継がれるからだ。

 そして、その気持ちは必ず二人の力になる。

 

 もし、僕が二人と逆な立場ならこう思う筈だ。

 

 ――あれだけ大口を叩いた手前、無様な姿は見せられないと。

 

 なら、今僕がすべき事は一つ。

 

 ――二人の思いに恥じない戦いをするだけだ!

 

「やっぱりほたるは十分僕に恩を返せてるよ。ありがとう、ほたる。お陰でするべきことが分かった気がするよ」

「っ、じゃあ!」

「うん、僕は現世に行くよ。そして藍染を今度こそ捕まえる。そして、戦いが終わったらちゃんと井上さんに頭を下げるよ」

 

「卯月君……。それ、死亡フラグだよ」

 

 

***

 

 

 それから数刻後、現世には藍染を迎え撃つ為の精鋭が集結しており、そこには卯月の姿もあった。

 

 そして、偽の空座町に黒腔が開かれる。

 藍染と市丸に東仙。この三人が現世に足を踏み入れた時、護廷十三隊の面々に様々な感情が湧き上がった。

 友や尊敬する人の過ちを止めようとする者、憎悪を押さえられずに顔をしかめるもの、これから行われるであろう戦いを想像して、顔を悲壮感に染める者。

 一人一人がそれぞれの決意を持ってその場に立っていたが、誰一人でさえ、この厳格な雰囲気の中発言をすることはなかった。

 

「どうやら、間に合ったようじゃの」

 

 ――山本元柳斎ただ一人を除いて。

 

 彼の発する雰囲気が、この場にいる護廷十三隊の死神に声を発することを許さなかったのだ。

 

「間に合った? 一体、何を以てその言葉を口にしている? そこにあるのが空座町ではない事は解っている。だが、それは何の妨げにもなりはしないよ。空座町が尸魂界にあるのなら、君達を殲滅し、尸魂界で王鍵を創る。ただ、それだけのことだ」

 

 天界結柱のことは藍染にもお見通しだった。それでも彼は敢えてその策に引っかかった。

 

 普通ならば不利な状況なのだろうが、藍染は逆にこう考えていた。

 

 ――寧ろ一網打尽にするチャンスだと。そして、その自信が彼にはあった。

 

「スターク、バラガン、ハリベル。来るんだ」

 

 再度、黒腔が開かれる。藍染の呼びかけに応えて出てきたのは十三体の破面だった。

 

 その中で特に霊圧が際立っているのが三人。

 

 一人目は腹を中心に大きく露出した美女だった。胸までしか丈がない服装に加え、金髪に褐色の肌という、一昔前のギャルのような出で立ちをしているのだが、口元まで上げられた装束のジッパーが、無口でクールな雰囲気を醸し出していた。

 

 二人目は片目に深い傷が刻み込まれた老人だった。また、彼の背後には六人もの破面がついており、元柳斎にもよく似た厳格な雰囲気を漂わせている。

 

 三人目は中年くらいの男性だった。気だるげな表情や折れ曲がった背筋からは、強さなど微塵も感じられなかったのだが、有している霊圧は他の二人と何ら遜色はない。

 

 存分に敵を観察した後、漸く死神達も口を開き、それぞれ意見の交換を始めた。

 

「十刃との戦闘中に、藍染が手を出さない保証がねぇってことが問題だな」

「ですね……」

 

 そう会話を交わしたのは十番隊に冬獅郎と乱菊だ。

 

 だが、戦いにおいてそんな事は当たり前のことだ。寧ろ決着がつくまでわざわざ待ってくれる方がどうかしているのだ。

 そんな当たり前のことすら驚異に感じさせるほど、藍染という男は規格外だった。

 

「皆、退がっておれ」

 

 故に、対策を立てなければならない。

 

「流刃若火!!」

 

 元柳斎が名前と共に杖に擬態していた彼の斬魄刀――流刃若火を抜き放つと、溢れ出した炎が渦を形成し、藍染、市丸、東仙の三人を閉じ込めた。

 

「【城郭炎上(じょうかくえんじょう)】。これで暫くは藍染達も動けまい」

 

 いくら藍染でも、単純な戦闘能力においては護廷十三隊最強と称される元柳斎には一歩劣る。故に彼の技なら、藍染達を封じ込めることは可能だ。

 

 そして、元柳斎は視線を残された破面に向ける。

 

「さて、ゆるりと潰していこうかの」

 

 しかし、それで怯んでしまうほど、破面達は柔じゃない。

 

 老人の破面――バラガン・ルイゼンバーンが骨によって形成した椅子に腰を下ろすと、元々彼の後ろにいた破面が揃って片膝をついた。その姿はやけに様になっており、それが彼の統率者としての慣れを感じさせた。

 

「足下の重霊地……確か偽物じゃと言ったな? 尸魂界で造った模造品と入れ替えたと。ボスは尸魂界まで進行して重霊地を手に入れればいいと言っておったが……果たして、そんな面倒をする必要があるのかの?」

 

「さっきの話じゃこういう理屈だ。『この柱をこの町の四方に柱を立てて、その柱の力で入れ替えた』。だったらその柱を壊せばどうなる?」

 

 バラガンの言う通り、空座町とそのレプリカとが入れ替わるやり取りは、喜助が開発した天界結柱を媒体としている。それが壊されてしまった場合に起こることを想像するのは、そう難しくはなかった。

 

「フィンドール」

「はい!」

 

 フィンドールと呼ばれた顔全体が仮面で覆われた破面が、手に取り付けられている刃に口をつけ、まるで笛を吹くかのように息を吹きかけた。

 

 すると、四方に黒腔が形成され、そこから四体の虚が出現。そして、それらの虚が何も無い場所に突如攻撃を始めた。

 

「柱の場所は分かっておる。こういうもんは東西南北四方に造るのが定石じゃ」

 

 老人の破面がそう言うと、それまで虚が攻撃していた場所に白い柱――天界結柱が可視化された。

 

「うおおい! ヤベェよ、バレてる!!」

 

 もし、このまま天界結柱を攻撃されてしまえば、たちまち戦場が本物の空座町となってしまう。

 

「莫迦者めが」

 

 それを危惧した大前田が酷く焦燥を見せたのだが、それを元柳斎が制止した。

 すると次の瞬間、四体の虚が何者かに一斉に攻撃され、浄化された。

 

「そんな大事な場所に、誰も配備せん訳があると思うか? ちゃんと腕利き共を置いてあるわい」

 

 吉良イヅル、檜佐木修兵、綾瀬川弓親、斑目一角。四つの柱にはそれぞれ護衛が一人ずつ配備されていた。

 

 それに対してバラガンも自身の配下――従属官(フラシオン)を四人柱に送る。

 

 

 空座町決定戦、開戦!!

 




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