転生した先が死後の世界で矛盾している件 作:あさうち
そうしている方とそうでない方がいるのでよく分かりません。
気が付くと、そこは終わりの見えない、辺り一面に広がる
僕は今、円形の葉の上に立っており、辺りを見渡すと、似たような葉や青、黄、紫などの様々の色の花がぷかぷかと浮いていた。
「ここは……」
『ようこそおいでなさいました。夢の世界へ』
いきなり自身の知らない場所に放り投げられたことに困惑していると、聞いたことのない声と共に、目の前に閉ざされた一際大きな純白の花がやってきた。
それを見て某昔話を思い出したけど、流石に真っ二つに割ろうとは思わず、少し様子を見ることにした。
「え……」
すると、徐々に花が開いていき、完全に開花する頃には、そこに純白の着物を着た美女が鎮座していた。端整な日本人の顔立ちなのにも関わらず、外国人かと思うくらいに色白の肌と青い少し垂れた目つき。そしてそれらの調和を乱すかと思えば、逆に美しく輝く艶やかな長い金色の髪。
どれを取っても僕が今まで出会って来た女性の中で一番美しかった。
「……君は?」
「それを私に訊きますか? あなたならもう、私の正体に気づいているのではなくて?」
「えっ……? いや、そんなわけっ!?」
ない、と言いかけて止まった。何かが引っかかったからだ。
僕がここに来る前にしたことと言えば、ただ眠っただけだ。そう、眠っただけ。そして彼女は最初に言った。『夢の世界へようこそ』と。もし、それが本当なら一つだけこの現象に心当たりがあった。
「どうやら、分かったようですね」
僕の考えを見事に読み取った彼女は僕に話しかけて来た。
「もしかして、君が僕の斬魄刀?」
全ての死神は真央霊術院に入学をすると共に“浅打”と呼ばれる斬魄刀を手にする。その浅打と寝食を共にし、刃禅と呼ばれる少し特殊な修行を地道に続けることにより、自分独自の斬魄刀を作り上げていく。そして、その先にあるのが斬魄刀の力の解放である始解。さらに、斬魄刀戦術の最終奥義とされる
そして、始解に至る為に必要とされているのが斬魄刀との“対話”と“同調”だ。もし、この現象がその内の一つである“対話”なのだとしたら全て説明がつく。
すると、目の前の彼女はゆっくりと口角を上げながら呟く。
「ええ、そうですとも。私があなたの斬魄刀――ですわ」
「え? 今なんて?」
別に僕の耳が悪い訳ではない。確かに音は拾えていた。だけど、その意味が理解できなかったのだ。――彼女の名前であろう部分だけ。
「あら、これはこれは失礼致しました。本日は挨拶だけのつもりだったのですが、ついつい調子に乗ってしまいましたわ」
「なるほど。つまり、今の僕では力不足というわけか……」
「あらあら、そんなに卑屈にならなくても宜しいのですよ。寧ろ、初対面で名前を聴けることの方がおかしいのですから」
うふふ、と笑いながら彼女は言った。だけど彼女は少し勘違いしている。
「何を言っているんだい? 別に僕は卑屈になんてなったつもりはないんだけどね。だって、初対面で斬魄刀に名前を言わせたんだ。寧ろいい傾向じゃないか」
すると、彼女は目を見開き、笑った。
「うふふ、そうですわね。ああ、これではますます、あなたが私の名前を聴くことができるようになる日が待ち遠しいですわ」
「うん。僕も同じだよ」
そして、今度は二人で笑いあった。
「期待していますわよ」
最後にそのような言葉を耳にして、僕は夢の世界。いや、精神世界から姿を消した。
***
「ん、朝か……」
自分一人で起きたのはいつぶりだろうか。部屋に朝日が差し込み、小鳥のさえずりが聞こえる。ここ最近は修兵に叩き起こされる慌ただしい朝が続いていたので、偶にはこういう静かな朝も乙なものだと思った。
今日であの巨大虚の騒動から三日が経過したことになる。その中で変わったことと言えば、院でその時の話を根掘り葉掘り訊かれたぐらいで、三日も経てばそれも次第に収まって来る。
だけど、気がついたことはあった。それはあの一回生三人が原作キャラだったということだ。
あれから、あの三人が改めてお礼を言いに来てくれたんだけど、その時に教えてもらった雛森さん以外のもう二人の名前にどうも引っかかりを覚えて、自室に仕舞ってある原作について僕が知る限りのことを書いた紙を久し振りに見返してみた。
すると、三人の名前があったのだ。
一人目は
赤い髪と鋭い目つきが特徴の彼は将来どこかの隊の副隊長になるらしく、また、年数が経てば経つ程に書き眉毛が奇抜になっていくらしい。
戦闘能力に関しては何も書いていなかった。
二人目は雛森桃さん。
彼女はどうやら、前世の僕の友達の一番の推しキャラらしく、その為、情報も多かった。
彼女は将来、藍染隊長率いる五番隊副隊長になるらしいのだが、物語が進むと藍染隊長に殺されかけ、鏡花水月の催眠によって幼なじみである日番谷冬獅郎にも殺されかけるというとても残念なキャラクターなんだとか。
だけど、彼女は鬼道の達人で、そんな彼女の斬魄刀“
そして、三人目の
――故に
……ホント、なんだろうこれ?
正直これに関しては考えても無駄だと思うので、思考を打ち切った。
「正直、あまり寝てた気はしないな」
寝たら、精神世界で起きて、精神世界から出たら朝、という感じだったからまるで徹夜をした気分だ。だけど、身体に怠さはなく、普通に疲れはとれている。
「おい起きろ、卯月。朝だぞ」
制服に着替えていると、僕を起こしにきたであろう修兵がノックもせずに僕の部屋へ入って来る。
「おはよう修兵」
「なん……だと……!?」
僕が挨拶を言うと修兵は何故か驚愕を露わにする。
「どうしたんだよ修兵? 急にそんなに驚いて。まるで巨大虚が出てきた時の驚きようじゃないか」
「だって、お前が起きてるんだぞ。俺に起こされずに……」
「失礼だな。僕だってちょっと本気を出せば早起きくらい余裕だよ」
前世では目覚まし時計に頼りっきりだった為、尸魂界に来てから朝に弱い僕だけど、偶にはこういう日があっても不思議じゃないと思う。
「嘘つけ! 霊術院に入ってから一日として自分で起きたことがなかったお前が少しやる気になったくらいで起きれる訳がねぇんだよ!!」
「あれ? そうだったっけ?」
「ああ、そうだ! 偶には毎日お前を起こしに来るこっちの身にもなれ!」
「まあまあ、落ち着いて。ほら、金平糖」
「いるか! ったく、誰の所為だと……」
そう僕に呆れた修兵は床に腰を下ろした。
「そうだ修兵。今日は珍しく僕が起きてたお陰で時間があるわけだし、少し身体動かしてから院に行かない?」
「……それ自分で言うか? まあ、賛成だな。ていうかお前がちゃんと起きるなら毎日やりたいぐらいだ」
「じゃあ、決まりだね。では、早速行きますか」
善は急げとばかりに僕は立ち上がり、布団の横に置いてあった斬魄刀を手に取った。精神世界での出来事の所為か、こんな何気ない動作もどこか新鮮なものに感じた。
「おい、朝飯はどうすんだ?」
「うーん。まっ、これでいいや」
「おいっ!」
いつしかのように部屋に置いてあったお菓子を口に放り込み済まそうとすると、また修兵からのツッコミが入った。
「はあ……。これ持ってけ」
溜め息を吐いた修兵は何やら球状のものを僕に放った。
「うおっ!? これは……」
おにぎりだった。まだ、握ってそんなに時間が経ってないのか、ほんのり温かい。
「どうせお前は碌に朝飯食わねぇだろうからな。作っておいた」
「修兵……」
「なんだ?」
「――毎日僕に味噌汁作って下さい」
「きめぇよ!!」
いつもより長く、冗談を言い合えた朝だった。
***
人生で初めての朝の鍛錬をこなした後、公衆浴場で汗を流した僕と修兵は真央霊術院への道を歩いていた。
「いやー、それにしても修兵。朝に身体を動かすというものはいいものだね」
僕が朝にとても弱いという関係上、僕と修兵は夜の鍛錬を多めにしているんだけど、続けられるものなら続けてみたいものだ。
まあ、今日みたいに斬魄刀が僕に会いに来てくれない限り無理そうなんだけど。……ホント、入隊したらどうしようか?
「ああ、そうだな。……ところで卯月、なんか院の方騒がしくないか?」
「えっ? あ、ホントだ。今日なんかあったっけ?」
目を凝らして見てみると、普段は見慣れない大勢の人だかりがあった。真央霊術院では稀に格隊の隊長格が教鞭を執ることがある。今回もそうではないかと僕は修兵に問いた。
「いや、通常講義だったはずだ」
ふむ。真面目な修兵がそう言うならそうなんだろう。じゃあ、何だろうかと考えていると、見覚えのある後ろ姿を目に捉えた。
「あ、蟹沢さんと青鹿君だ。丁度いいや。訊きにいこう」
「ちょっ、おい! 引っ張るな!?」
「おはよう。蟹沢さん、青鹿君」
「あっ、蓮沼君に檜佐木君。おはよう」
「おう」
「おはよう」
蟹沢さん、青鹿君の順番で挨拶を返して来る。それに修兵も挨拶を返した。
「で、この騒ぎは何?」
「うん。何でも藍染隊長が来てるそうよ」
「藍染隊長が?」
僕の問いに蟹沢さんが頷く。どうしてこんな朝早くからなどと考えていたその時、
「蓮沼! 蓮沼卯月はこの場に居るか!!」
向こうの方から教師の声が聞こえて来た。
「どうやら呼ばれてるみたいだぞ」
「うん、そうみたいだね。じゃあ、ちょっと行ってくるよ」
修兵にそう言うと僕は霊力で足場を作り、目の前に大量の院生の頭を越して行く。
すると、程なくして大物に緊張して冷や汗を掻いている担任教師と僕を見て笑みを浮かべる藍染隊長の姿が見えた。
――嫌な予感しかしない。
三日前に感じた予感はこれだったのかと、嘆息した僕だった。
***
挨拶もそこそこに応接室に通される。出されたお茶はやはり、隊長が居る為か、今まで飲んだどのお茶よりも美味しかった。
一息ついたところで、何ともいえない気まずい空気が流れる。
「あの、それで藍染隊長。本日は一体どのようなご用件で……?」
流石にいたたまれなくなったのだろう。先生が話を切り出した。
「はい。本日、私は蓮沼卯月君を真央霊術院卒業後、是非五番隊に迎え入れたいと思い、相談に伺わせていただきました」
「……え?」
「は、蓮沼をですか!?」
思わず声が漏れてしまった。だってそうだろう。
――僕の知る限り、真央霊術院を卒業前に入隊する隊まで決まるなどという事例は今までないのだから。
修兵のように卒業前に護廷十三隊への入隊が決まる場合は数年に一度ぐらいの頻度であるけど、このようなことはそもそも認めてられているのかも分からない。
「……少し言葉が足りていませんでしたね。別に私は強制的に彼を私の隊に入れようなどとは思っていません。あくまで私と彼、双方合意の上での入隊です。今回の巨大虚の一件で彼は一躍有名になりました。恐らく、彼が護廷十三隊に入隊する時には殆どの隊が彼という人材を欲しがるでしょう」
「つまり藍染隊長は、僕が護廷十三隊に入隊する前に唾をつけておきたかった、ということですか?」
「こら蓮沼!! なんだその言い草は!? 藍染隊長に失礼だろう!!」
いや、事実だし……。じゃあ、どういう風に言えばよかったのだろうか?
少なくとも、僕の語彙力では無理だ。
「いいんですよ。事実ですし。……それでどうかな蓮沼君? 僕は君のことをこれからの尸魂界を背負って行ける人材だと思っている。その力を是非とも五番隊で振るって欲しい」
「その、藍染隊長。蓮沼が尸魂界を背負って行ける人材とはどういう……?」
……いや、何で僕より先生の方が食いついてるの?
「そのままの意味です。彼はとても優秀な人物です。彼ならゆくゆくは上位席官になることも可能でしょう」
上位席官ねぇ……。この人相談に来たんじゃなかったの? 思いっきり交渉しちゃってるよ。
上位席官になることも可能。つまりは僕が五番隊に入れば、それなりの優遇をしてもらえるということだ。上位席官になれなくても、下位席官なら何年か働けばなれないことはないだろう。
「じょ、上位席官ですか!? どうする蓮沼! 俺はこんなまたとない話受けるべきだと思うぞ!」
故に教師も異常なまでの食いつきようだ。あんた僕の入隊希望先知っているでしょうが!……まあ、変わったんだけどね。
でもそれも仕方のない事なのかも知れない。自身の受け持った生徒が護廷十三隊で活躍する。それは自身に教師としての箔がつくことに繋がるからだ。
確かに、悪くない話ではある。僕だって出世はしたい。だから、将来の道が現時点で決まることはいいことだ。
「……すみません。大変ありがたい話なのですが、お断りさせていただきます」
――だが、断る!
冗談じゃない! 何が嬉しくて自ら死地に身を投げるようなことをしなければならないんだ。そうするぐらいなら他隊で万年平隊員やっている方が何倍もマシだ!!
「なっ!? 蓮沼! お前、自分が何を言ってるか分かってるのか!!」
えっ、何で僕怒鳴られてるの? 藍染隊長も双方合意の上って言ってたよね? そんなにまだ見ぬ自分の地位が恋しいか!?
「落ち着いて下さい先生。私は先程の両者合意の上でと言ったはずです。それにもかかわらず、理由も訊かずに入隊する本人である彼の意見を蔑ろにするのはいけません」
「……はい、すみません」
藍染隊長の一声で落ち着きを取り戻した先生は、椅子に座り直した。それを確認した藍染隊長は僕の方を見て再度口を開いた。
「理由を訊かせてもらってもいいかな?」
残念ながら、これを断れる勇気は僕にはない。どういう意図があるかは分からないけれど、藍染隊長が僕を自分の隊長に入れたがっているのは本当のようだし、ここで僕が理由を話すのは半ば命令のようなものだ。
「はい、先ず初めにですが、僕は現在護廷十三隊二番隊への入隊を希望しています」
「っ!? それはどういうことだ蓮沼!? お前は四番隊への入隊を希望していたはずだ!」
僕の希望変更に驚いた先生が相槌を打ってくる。
「ええ。ですから希望が変わったんです。三日前の巨大虚との戦闘で僕は自分の力不足を実感しました。特に僕は近接戦闘が苦手で巨大虚相手にも縛道を用いることで対抗したのですが、霊力の消費が激しく、結局は三体しか倒すことができませんでした」
「なるほど、つまり君は他の戦闘手段を増やすことで戦闘の幅を広げようと考え、そして思い至ったのが斬、拳、鬼の内一番燃費のいい白打だったという訳だね?」
「はい、そうです。二番隊は隠密機動と密接に繋がっている為、特に白打や自分の得意な瞬歩を鍛えられると思ったんです」
今の話は七割ぐらいは本当だ。二番隊に入りたいというには本当だし、三日前に力不足を実感したのも本当だ。
だけど、僕が力不足を実感した相手は巨大虚ではない。藍染隊長だ。藍染隊長は本当に規格外だ。そんな彼と敵対した時、これから習得できるかも知れない始解や卍解だけでは正直言って不安である。
だから、僕はもう一つ手札を増やしたいと考えた。
――それは、
瞬閧。それは、白打と鬼道を練り合わせることによって繰り出される戦闘術であり、前世の友達曰わく、極めれば卍解とも匹敵するほどの手札になるという。原作では、現二番隊隊長の
とは言っても恐らく今は原作開始前なので、砕蜂隊長が瞬閧を使えるかは分からないし、夜一さんって人がどこに居るのか分からないんだけどね……。
だけど、瞬閧を習得するのに白打は必ず必要になってくる。鬼道は破道以外は得意だからなんとかなるかも知れないけど、白打に関して言えば、現時点では絶望的だろう。
だから、僕は二番隊に入隊する事で白打を習得しようと思ったのだ。
「ふむ……」
僕の話を聞いた藍染隊長は何かを考えるかのように顎に手を当てる。顔がいいからか、とても様になっていた。
「確認させてもらうけど、蓮沼君は白打を習得したいから二番隊に入りたい。それで間違いないね?」
「はい、端的に言えばそうですね」
僕が返事をすると、藍染隊長は我が意を得たりというかのように口に弧を浮かべた。
……何かやらかした気がする。
「これは提案なんだけど、五番隊に籍を置きながら二番隊で修行をするというのはどうだろう?」
「えっ!? そんなことができるんですか!!」
つい大声を出してしまった。ていうかそんなことができるなら四番隊に籍を置いて二番隊で修行したかったよ……。
「分からない。けど、二番隊の砕蜂隊長は真面目な人柄だ。キチンとした目標を持ち、向上心がある人なら蔑ろにはしないはずだよ」
「……そうですか」
「安心して欲しい。頼みに行く際には僕も同行するし、もし断られたならその時は二番隊に入隊してくれていい」
いや、あなたがいる時点で少しも安心できないんですよ。とは、とても言えなかった。
正直、ここまで言われてしまったら僕には断る理由が藍染隊長が嫌だという理由以外はない。寧ろ、ここで断ったらどうしてここまで執拗に五番隊に入りたがらないのか、と勘ぐられる可能性がある。
そして、極めつけは先程からの先生の無言の圧力だ。順調に外堀が埋められているようで何よりです。ははは。はぁ……。
「はい、そういうことなら、分かりました」
今の僕には断るなどという選択肢は残されていなかった。もしかすると、話し合いに応じた時点で藍染隊長の勝利は決まっていたのかもしれない。
だけど、敢えて言わせてもらおう。
――どうしてこうなった!?
主人公は夕四郎くんのことは知りません。決して私が忘れていたわけではないので悪しからず。