転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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第十七話

 時はさらに一日前へと遡る。

 

 市丸を捕らえ、牢へと入れた卯月はその報告と、意見のすり合わせを行うために再度十番隊舎へと訪れていた。

 

「……何故あの時お前らは俺を止めた?」

 

 重苦しい雰囲気の中、冬獅郎は卯月と乱菊に問いかけた。

 

 確かに、自分は市丸を殺すとは事前に言わなかったが、状況というものは刻々と変わりゆくものだ。そして、そういう事態に臨機応変に対応する能力は副隊長や三席なら持ち合わせていて当然のものだ。

 

 冬獅郎の問いはそこまで考えてのものだった。

 

 少し考える仕草をした後、卯月が口を開く。

 

「あの場で市丸隊長を殺してしまうのは早計ではないのかと考えました。もし、市丸隊長が犯人なら、同じ隊長格の藍染隊長を殆ど無傷で倒したことになります。幾ら何でもそれは無理があるんじゃないかと考えました」

「――つまりは共犯者がいる。お前らはそう考えたわけか?」

「はい。その点こうして捕えておけば、市丸隊長が口を割る可能性がありますしね」

「成程な……。悪かったな変に問いただして」

「いえ……」

 

 重苦しい空気が弛緩した途端、今度は気まずい空気が場を支配した。

 

 そんな中、三人はそれぞれ思考を巡らせていた。

 

 松本乱菊は反逆の徒としての頭角を現してきた市丸ギンについて。

 

 日番谷冬獅郎は藍染の手紙がどこまで改竄されていたかについて。

 

 そして蓮沼卯月は――

 

(僕の予想だと、ここ最近の中央四十六室の指令は藍染隊長が裏で操っているものばかりだ。そして、最近の指令は専ら朽木さんの処刑に関するものばかり。つまり、僕は朽木さんの処刑が始まるまでに藍染隊長と対峙し、どうにかして朽木さんのもとに行かせないように足止めする必要がある)

 

 ――そう遠くはないであろう決戦について考えを纏めていた。

 

 そんな時、自分たちにひらひらと宙を舞いながら向かって来るあるものを見つけた乱菊はボソリと呟いた。

 

「……地獄蝶?」

 

 黒い揚羽蝶の形をしたそれは尸魂界と現世の狭間である断界の案内の他にも伝令の役割も担っている。

 

 そんな地獄蝶から一人の死神の声が聞こえてくる。

 

『隊長並びに副隊長各位にご報告申し上げます。殛囚、朽木ルキアの処刑日時について最終変更がありました。最終的な刑の執行は現在より二十九時間後です。これは最終的な決定です。以降、日程の変更はありません』

 

「日番谷隊長……」

「ああ。藍染の手紙がどこまで本当か分からない以上、このまま処刑を見逃すわけにはいかねぇ。十分な睡眠をとった後、中央四十六室に向かうぞ」

 

 つい数時間前までは市丸と対峙していたため、卯月と冬獅郎は十分な休息が取れていない。市丸に共犯者がいる可能性がある以上、万全を期した方がいいだろうと考えた冬獅郎は時間を空けてから行動を移すことを提案した。

 

「それなんですが日番谷隊長……」

「何だ? 言ってみろ」

「ええ。中央四十六室に行くにあたってなんですが――僕に考えがあります」

 

 そう言った卯月が提案したのは、中央四十六室を何者かが操っているという考えを提示した上での隠密行動だった。

 

 そして、犯人を見つけた際には先ずは自分が囮として先行することも提案したのだが、流石にそれには冬獅郎も力のある自分の方が先に行くべきだと反論した。

 しかし、これに対して卯月は自分の方が暗殺術においては冬獅郎より秀でているので、今回に限っては自分が先に行くべきだと主張した。

 結果、卯月が無理だと感じたら必ず天挺空羅で連絡することと、冬獅郎が行くべきだと感じたら乱入することを約束した。

 

 最後に、卯月がもう一つの提案を通したところでその話は終わった。

 

 

***

 

 

 そのような紆余曲折があって現在、日番谷冬獅郎は藍染惣右介に向かって刃を振り下ろさんとしていた。

 因みに卯月のもう一つの提案とは、冬獅郎の姿と霊圧を完全に隠した状態で藍染に挑むことだった。その甲斐あってか、冬獅郎は藍染の不意を突いた状態で渾身の一撃を叩き込もうとしていた。

 

 天候を支配してしまうほどの強力な力を持った彼の斬魄刀は、卍解することでさらにその力を高めていた。抑えつけることも困難なその力はもはや刀の形に収めることも不可能で、漏れ出した分の霊力が氷の龍の形を模した鎧として彼を包み込み、それでも抑えきれない霊力が辺り一面を氷で覆い、気温を大幅に下げていた。

 

「【竜霰架(りゅうせんか)】!!」

 

 叫んだ技は、刀が貫いた敵を四芒星型の氷に閉じ込め、その氷を砕くことによって敵を殺すという強力な技だ。例え斬撃で相手に致命傷を与えることができなくとも、斬撃が当たってさえいれば敵を氷に閉じ込めることができるので、如何に彼が本気で藍染を殺しにかかっているか分かるだろう。

 

 そして、彼の斬撃は見事に藍染を捉え、四芒星の氷に閉じ込めた。

 

 ――かのように見えた。

 

「なん……だと……!?」

 

 だが実際、藍染は攻撃を受けていなかった。攻撃を躱した藍染は振り向きざまに斬魄刀を振るい、冬獅郎を斬った。冬獅郎はこれを咄嗟に後ろに退くことで即死を免れるが、致命傷を負ってしまう。

 

「さようなら、日番谷君」

 

 留めを刺そうとした藍染の斬撃が冬獅郎を襲う。

 

「【縛道の八十一“断空”】」

 

 ――しかし、その斬撃は卯月の縛道に阻まれた。

 

 藍染の斬魄刀が弾かれた時間を利用して、卯月は冬獅郎を抱えて後退する。

 

「すまねぇ、蓮沼」

「いえ、それよりも回復を」

 

 自身の不甲斐なさを責めながら謝罪する冬獅郎に卯月は急いで回復の結界を展開する。

 

 問題なく結界が作用しているのを確認して卯月は藍染に向き直った。

 

「気付いていないとでも思っていたかい? 温い。あの嘘の手紙を書いた時点で君がここに来ていることは想定の範囲内だよ。確かに蓮沼君の縛道で上手く気配を絶っていたけれど、居ることさえ分かっていれば、対応することなど簡単だよ。そして――やはり、鏡花水月の術中から逃れていたようだね、蓮沼君」

 

 先程の冬獅郎の奇襲の際、彼と卯月では見ていた光景が違っていた。

 

 冬獅郎は自身の攻撃は確実に藍染を仕留めたように見えた。しかし次の瞬間、四芒星型の氷から藍染の姿は消え、気付けば自分は卯月に守られていた。

 

 一方卯月には冬獅郎が見当違いの方向に刃を振るっているように見えたのだ。

 

「君は用心深い性格だ。しかし、先ほどの攻防で君の動きには一切の迷いがなかった。もし、鏡花水月の術中に嵌っていたのなら君の性格上動きに何らかの迷いが出ていても不思議じゃない。それに日番谷君の奇襲の際、僕は鏡花水月によって幻覚を見せていた。それを見破ったことが何よりもの証拠だよ」

 

 藍染の考えに観念した卯月はため息をついた後口を開いた。

 

「蓮華と睡蓮の違いを知っていますか?」

「……ああ。確か花弁が朝顔のように開閉を繰り返すか否かだろう」

 

 藪から棒な卯月の発言に訝しげな視線を送った藍染だったが、わざわざ意味もない発言はしないと判断して素直に答えた。

 

「相変わらず博識ですね。ええ、そうです。蓮華と睡蓮は互いに同じハス科の植物ですが、睡蓮は蓮華と違って朝顔などのように開花した後も花の開閉を繰り返します。そして、その特徴を象ったのが僕の斬魄刀の能力です」

 

 まるで眠るかのように夜は花を閉じ、起床するかのように日中は花を咲かせる。故に睡蓮と名付けられているのだ。

 

「ですがその能力は僕を対象とした時に限ってその効果が変わります。――術者が煙を吸った場合には怪我以外の全ての状態異常を回復する。それが睡蓮のもう一つの能力です」

 

 鏡花水月の能力は完全催眠。その催眠は相手の脳を操り本来とは違う間違った情報を与える。その性質上十分異常状態の範疇と言えるだろう。

 

「つまり君は元から鏡花水月の本来の能力に気付いていたという訳かい?」

「いえ、僕だってこの能力を知ったのはつい最近のことなんですよ。あと怪我を回復できないという性質上、言ってもあまり意味がないと思っただけです」

 

 卯月の言っていることは半分本当のことだ。

 

 卯月は鏡花水月の能力は原作知識により勿論知っていた。しかし、最近になって知ったというのは本当である。

 何故そんなことになったかと言えば、卯月の斬魄刀である睡蓮が教えなかったからだ。

 怪我を回復できないと一声で聞くとあまり強力でないように聞こえてしまうが、その実十分強力な能力だと言えるだろう。

 死神の戦闘に置いて最も大切なものは霊力だ。霊力が大きければ掠り傷が大怪我に変わるし、その逆もまた然りだ。

 そして、睡蓮の能力で霊力の回復はその効果の範疇だ。また卯月は回道で自分の傷を癒すことができる。つまり霊力さえ枯渇しなければほぼ永遠に戦い続ける事ができるし、無茶な修行も続ける事ができる。

 もし、卯月がそれを知ってしまえば藍染を超えようと文字通り死ぬ気で努力をするだろう。

 それを危惧した睡蓮は、卯月が自分で気付くまで自分のもう一つの能力を教えなかったのだ。

 

「まあでも、あなた相手に鏡花水月が効くかどうかなんて些細な問題でしかないんですけどね」

 

 藍染は鏡花水月を抜いたとしても斬拳走鬼全てが超一流だ。恐らく彼にそれらで勝てるのは、護挺十三隊でも片手で数えられる程の人数しか居ないだろう。

 

 ――つまり、鏡花水月が効かないというのはアドバンテージでも何でもなく、ただスタートラインに立っただけなのだ。

 

 それを理解している卯月は決して気を抜くことはせず、極限まで神経を研ぎ澄ました。

 

「そう悲観することはない。君は善戦しているよ。現に隊長が一人瀕死なのにも関わらず、こうして立っているのだからね」

「それはどうも。――でもいいんですか、そんなに無防備で?」

「っ!?」

 

 瞬間、黒色の帯が藍染を包み込み、それらを杭が固定した。

 

 ――【縛道の九十九“禁”】

 

 それが現在藍染を拘束している卯月の縛道だ。

 

 詠唱破棄どころか術名すら省かれたその鬼道は威力や成功確率を大幅に下げるはずなのだが、卯月はそれを難なく成功させた。

 

 その理由は発動までにかけた時間にある。卯月は睡蓮の能力を説明している間にじっくりと霊力を練ることで、上記のデメリットを限りなくゼロへと近づけていたのだ。

 

「ぐっ!!」

 

 何とか術から抜け出そうともがく藍染だが、九十番台の中でも最高位の縛道は伊達ではなく、それなりに苦戦を強いられていた。

 しかし、それでも抜け出そうとする藍染の霊圧の余波は凄まじく、睡蓮の煙を近づけるのには無理があった。

 

 そう判断した卯月は次の行動に移る。

 

「【悪魔の鳥 断たれた光明の糸 侵された黄泉の沼 流転する星々 破滅の槍が黒夜を穿つ “魄導(はくどう)序章・終世(しゅうせい)”】」

 

 卯月が術名を唱えた瞬間、更なる縛道が藍染の身体を宙に浮かし、あらゆる方向から槍状の霊子が打ち込まれ、拘束する。

 

「何だ、この縛道は!?」

「これは僕のオリジナル鬼道です」

 

 隠密機動第三分隊“檻理隊”。その仕事は罪人を牢に入れ、管理することだ。

 だが、その隊長である卯月は護挺十三隊においては二番隊三席程の実力しか有していない。もし、副隊長以上の位の人間が謀叛を起こした時にどれだけ拘束に手こずるかは想像に難くないだろう。

 そんな状況に使えるように卯月が開発したのがこの縛道だ。

 

 その効果は第一段階で対象を拘束し、第二段階で対象を強制的に牢の中へ転移させる。

 

 しかし、第二段階の空間転移は禁術指定されている鬼道だ。故に卯月のこの鬼道には、中央四十六室からある制限がつけられた。

 

 ――それは檻理隊の隊長がどう足掻いても手に負えない相手にのみ使用を許されるというものだ。

 

「そして今回の転移先は殺気石で覆われた牢獄です。幾らあなたと言えども霊力の通わない場所では何もできないでしょう」

 

「【輪廻の狭間 虚無の孔空 刻々と進む針 華やぐ桃・燃ゆる紅・黙する柑子(こうじ)・朽ちる葵 不動の契りが天へと導く】」

 

 藍染の真下には魔法陣のような術式が展開され、紫色に発光している。

 また、彼を拘束していた槍は前半分を残して結界に変化し、球状に藍染を覆った。

 

「【魄導終章・新世(しんせい)】」

 

 刹那、紫色の光がさらに発光し、場を覆い尽くす程の光が辺りを包み込んだ。

 

 そして次の瞬間、藍染は殺気石でできた牢獄に投獄されていた。

 

「何でっ!?」

 

 ――はずだった。

 

 しかし、藍染は何事もなかったかのようにそこに佇んでいた。鬼道の発動が終わった所為か、藍染を拘束しているのは黒色の帯だけに減少していた。

 

「何故? 簡単なことだよ。死神の戦いとは即ち霊圧の戦いだ。君ごときの鬼道で僕を御せるなどと思わないことだ」

 

 当然のことのように藍染は言い放った。

 

 しかし、そんな簡単な話ではない。

 先程も言ったように、“魄導”の発動許可対象は檻理隊隊長がどうやっても手に負えない相手だ。

 

 ――つまり、元よりこの鬼道は格上専用の鬼道なのだ。

 

 そして、その上限は卯月の霊圧の二倍までの相手なら通用する程のものだ。

 卯月は三席とは言え、卍解を習得済みなことを鑑みれば既に隊長格と言っても差し支えないほどの実力を有している。

 また、縛道や歩法や白打の三つに限って言えば、十分隊長相手にも通用するだろう。

 

 ――だが、それでも卯月の実力は藍染の半分にも満たなかったのだ。

 

 こう言えば、如何に藍染が化け物じみているか分かるだろう。

 

「だが、今の一連の流れは賞賛に値する。九十番台最高位の縛道に禁術の応用、あと百年君が早く生まれていれば僕も危なかっただろうね」

 

 それが分かっていた藍染は素直に卯月を賞賛した。これも圧倒的な実力を有しているからこその行動である。

 

 ――既に藍染は卯月を敵として見ていなかった。

 

「ハア……ハア……。それは、どうも……」

 

 それも現在の卯月の状態を見れば納得がいく。

 九十番台の鬼道を連発し、その後に禁術の応用。既に卯月は限界だった。確かに、睡蓮の能力によって回復はしているが、一度に多くの霊力を消費する事は、卯月が思っている以上に彼を心身ともに蝕んでいたのだ。

 

「――だが、それもここまでだ」

「っ!?」

 

 斬魄刀を持ち直しながら藍染は卯月に向かって歩き出した。

 当然、卯月に抵抗するような力は残されておらず、彼は一歩も動けずにその場に止まっていた。

 

「そこまでです!」

 

 その時、一人の女性の凛とした声が響きわたった。

 

「卯ノ花隊長!? 虎徹副隊長!?」

 

 そこにいたのは四番隊隊長の卯ノ花烈と同隊副隊長の虎徹勇音だった。

 

「どうも、卯ノ花隊長。来られるとしたらそろそろだろうと思っていましたよ」

 

 更なる隊長と副隊長の増援。本来なら歓迎されないであろう人物を藍染はまるで何もなかったかのように淡々と迎えた。

 

「如何なる理由があろうとも立ち入ることを許されない完全禁踏区域は、瀞霊廷内にはこの清浄塔居林ただ一カ所のみ。あなたがあれほどまでに精巧な死体の人形を作ってまで身を隠そうとしたのなら、その行く先は瀞霊廷内で最も安全で見つかりにくいここをおいて他にありません」

「惜しいな。読みは良いが間違いが二つある。まず一つ目は私は身を隠すためにここに来たのではない。そしてもう一つ、――これは死体人形じゃない」

 

 そう言った藍染の手には先ほどと同じよう卯月に見せた時と同じように、死体に似せかけた彼の斬魄刀が握られていた。

 

「い、いつの間に!?」

「……始解の解放を見せた相手の五感を支配する完全催眠。それが鏡花水月の真の能力です。恐らく、護廷十三隊の席官以上の殆どの人間はあの人の術中に嵌っています」

「そんな莫迦なっ!?」

 

 割り込んできた卯月の話に勇音は仰天する。

 

「莫迦で済むならどれだけよかったか……。ほんと、反則級の能力ですよね」

「待ちなさい。解放を見せるということは……っ、まさか!」

 

 一方、冷静に思考していた卯ノ花はある可能性に行きついた。

 

「気付いたようだね。そう、一度でも目にすれば術に堕ちるということは、目の見えぬ者は術に堕ちることはないということ。――つまり最初から東仙要は僕の部下だ」

「「!?」」

 

 二人が驚くのと同時に市丸の死覇装の袖口からなにやら布のようなものが出現した。何故、市丸が結界内に居ないのかと言えば、それは卯月が高位鬼道を連続で発動したことにより、鬼道の維持が疎かになってしまったからである。

 

 布は、みるみるその長さを伸ばし、やがて藍染と市丸の二人を包み込んでも余りあるほどにまで伸びた。

 

 布に包まれながら藍染は口を開く。

 

「最後に褒めておこうか。検査のために最も長く手を触れていたとはいえ、完全催眠下にありながら僕の遺体に僅かでも違和感を感じたことは見事だった、卯ノ花隊長。さようなら、もう会うことはあるまい」

 

 そして布が完全に二人を包み込んだ次の瞬間、既に二人の姿はこの中央四十六室から二人の姿は消えていた。

 

 

***

 

 

 藍染隊長が消えてから数秒後、僕の霊力は順調に回復していた。睡蓮の能力は強力なので、回道と併用すれば、ものの数分で全快できると思う。

 

 さて、ある程度回復したことだし、次の行動に移るとしよう。

 確かに、あの場で決められなかったのは残念だけど、あれは気にしても仕方がない。相手が上手過ぎた。大事なのは切り替えだ。

 

「【南の心臓 北の瞳 西の指先 東の踵 風持ちて集い 雨払いて散れ 縛道の五十八“掴趾追雀(かくしついじゃく)”】」

 

 先ずは藍染隊長の現在地の捕捉だ。この時、ついでに護挺十三隊の隊長格と旅禍の霊力も捕捉しておく。

 

 すると、藍染隊長は現在、双極の丘にいることが判明した。そして、彼の近くには市丸隊長に加えて恋次と朽木さんと東仙らがいることが判明した。

 

 ――不味いな。朽木さんの中に封印されているトンデモ物質が藍染隊長の手に渡るまでそう時間がない。

 

「卯ノ花隊長に虎徹副隊長、日番谷隊長のことは任せてもいいですか?」

「行かれるのですか?」

「ええ。まだ僕にもできることはあるので。それと連絡については天挺空羅で僕が一気に終わらせます」

 

 僕がそう言うと、卯ノ花隊長はこちらを見定めるような目をしながら、しばし考える素振りを見せた。恐らく、先ほどまで一度に多くの霊力を失ったことにより、所謂酔いのような状態になっていた僕を向かわせていいのか考えているのだろう。

 

「分かりました。日番谷隊長の治療はこちらで行います。いいですね、勇音」

「はい!」

「――とは言っても、私たちができることはそう多くはなさそうですが……」

 

 そう言った卯ノ花隊長の目線の先には、ある程度の応急処置を終え、とりあえず命の危機は脱した日番谷隊長の姿があった。

 

「……既に縛道との合術まで習得していましたか。流石、縛道の鬼才と呼ばれるだけはありますね」

「その呼び名は止めて下さい。恥ずかしいので」

 

 縛道の鬼才。真央霊術院に入学してから間のないころからそう呼ばれていた節はあったけど、恋次達の現世遠征を終えてから、その呼び名は護廷十三隊の一部や鬼道衆を中心に広まった。

 正直、僕より縛道ができる人なんて山ほどとは言わないけど、一定数いるからこの呼び名は嫌だったんだけど、護廷十三隊に入隊してからもその名は五番隊や二番隊を中心に広まり続けた。

 

「……行け、蓮沼。今この護廷十三隊で藍染に勝てる可能性が最も高いのは、鏡花水月を無効化できるお前だ」

「日番谷隊長……。はい! 行ってきます!」

 

 顔を顰めながら身体を起こした日番谷隊長の言葉に頷いた僕は踵を返し、中央四十六室から退室した。

 

「【黒白の(あみ) 二十二の橋梁(きょうりょう) 六十六の冠帯 足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ 縛道の七十七“天挺空羅(てんていくうら)”】」

 

 この世界に来て約半世紀、やっとのことで真実を告げられた僕は一抹の胸のつっかえが取れたような爽快感を得ながらも、足早に双極の丘へと向かった。

 

 

***

 

 

 一方その頃――

 

「ようこそ、阿散井君。朽木ルキアを置いて下がり給え」

「あ、藍染隊長!?」

 

 ――ルキアを抱えて逃げていたはずの恋次は、双極の丘にて藍染と対峙していた。

 


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