転生した先が死後の世界で矛盾している件 作:あさうち
此処は僕の精神世界。辺り一面に水面が広がり、それを彩るように様々な色の花が浮かんでいる。
その花でも一際大きい白い花の上に僕と睡蓮は立っていた。
「ふぅ……」
僕は息を吐きながら斬魄刀を鞘に収める。
「今までお疲れ様でした卯月。もうこれで私があなたに教える事は御座いません」
嬉しそうであり残念そうでもある。そんな複雑な表情の睡蓮を見てやっと自覚する。
修行を始めてから約十年、遂に僕は卍解を習得したのだ。
「うん。ありがとう睡蓮」
「礼には及びません。何せ私とあなたは一心同体なのですから。ですが卯月、最後にこれだけは言っておきます。私のこの力は人を傷つける為のものでは御座いません。それを決してお忘れなきよう」
今睡蓮が言った事は何も僕だけに当てはまるものではない。
誰かを護りたい、悪を懲らしめたい、戦う事が好きだから強い相手と互いを高め合いたいなど力を持つ理由は人によって様々だけど、誰かを傷つける為のものではないのは確かだ。
それを睡蓮は心配しているようだけど、それは無用なものだ。
「誰に向かって言っているんだい? 僕は護廷十三隊随一の甘ちゃんだよ。それは君もよく知っていることじゃないか」
何を隠そう僕は隠密機動なのに今まで誰も殺したことがない程の逸材だ。
今まで全ての任務を対象を眠らせて投獄するだけで乗り越えてきた。
「そうでしたわね。ふふっ、でもそれは胸を張って言うことではありませんよ」
「でもそれが僕であり、君だ」
「違いありませんわね」
そして、僕達は笑い合う。
ひとしきり笑ったところで真剣な顔つきをした睡蓮が再度口を開く。
「訂正します。誰も傷つけるなとは言いません。ただ、力の使いどころを間違わないでくだされば、私はそれで満足です。ですから、出し惜しみはなさらないで下さい。私はあなたに亡くなられるのが一番辛いのですから」
「それはっ……」
難しかった。
原作が始まれば、必ずそういう場面は来る。だけど、僕がそんな場面で敵を殺せるビジョンが思い浮かばなかった。
「卯月、あなたは優しい。そんなあなたに敵を殺してしまうことはさぞ辛いことでしょう。ですから、もしあなたが敵を殺めてしまうような時が来たのなら、その時はその業を私も一緒に背負いましょう。あなたは決して独りではありません」
「……睡蓮」
「それに、あなたにはあんなにも素敵な仲間がいらっしゃるではありませんか。楽しい時に笑い合うように、辛い時も一緒に涙を流せばいいのです。きっとあなたの仲間はそれを受け入れてくださります。……私の言葉信じられませんか?」
少し不安そうに睡蓮は言った。
「信じられないわけないじゃないか」
分かってる。
例え今後、僕が藍染隊長を始めとする敵を殺めるようなことがあって落ち込むような事があっても皆は僕を受け入れてくれると。
修兵にほたるに青鹿君に桃に恋次にイズルに楠木さん。何なら最近知り合ったばかりの日番谷隊長や松本副隊長、僕の上司である砕蜂隊長だってその例から漏れないだろう。
だから、そこは心配していない。
僕が心配なのは――僕が僕自身を受け入れられるかどうかだ。
最初は虚と戦う事すらしんどかった。だけど、死神にとって虚を倒すことは虚の罪を洗い、浄化することだ。そう自分に言い聞かせることで、何とかこうして護廷十三隊で働いても支障をきたさないレベルで戦えるようになった。
今まではそれでもよかった。だけど、もうそれではやって行けなくなる時が刻々と近づいて来ている。
「それを聞いて安心致しました」
胸に手を当てながらほっと息を吐く睡蓮とは裏腹に、僕の心のモヤのような黒々としたものは広がる一方だった。
***
「ねぇ修兵、一体どこまで行く気だい?」
ある日の夜、何時も通りつつがなく仕事を終えた僕は修兵に呼び出されていた。
実は護廷十三隊に入隊からも修兵との夜の鍛錬は続けており、こうして偶に会うんだけど、今日は何故か流魂街へと駆り出されていた。
「いいから黙ってついてこい」
「へいへい」
修兵はここ数年で新たに付け加えられた頬から鼻まで伸びているテープのついた顔を後ろの僕に見せながらそう言った。……前から思っていたけれど、彼の顔はどこに向かっているのだろうか。
巨大虚につけられた傷は仕方がないんだけど、六十九とテープのセンスは僕には理解しかねる。特に六十九は身体の何処か見えない場所につけるべきだと思う。ある人への憧れということを知っている人からしたらいいんだけど、そうじゃない人からしたら下世話な話だけどエロ目的と勘違いされそうである。……実際真央霊術院の時は陰口でのあだ名がシックスナインだったしね。
話がそれた。
流魂街に出てからは瞬歩を使っているのにも関わらず、一向に止まる気配がない。何なら今いる場所だって流魂街の霊が住んでいる場所から大きく外れた荒野だ。
本当にどこに向かっているのか謎である。
すると、突然修兵が足を止めた。
「どうしたの修兵? ていうか急に止まらないでよ。危ないじゃないか」
僕が修兵の直ぐ後ろをつけるような形で移動していたので、文句を言った。
「ああ、悪いな」
「別に怒ってるわけじゃないからいいんだけどね。じゃあ、さっさと行こう」
「いや、必要ない。目的地はここだからな」
「……え?」
何故と思った僕は辺りを見渡したけど、そこにあるのは一面に広がる荒野だけだった。
「とりあえず、降りるぞ」
「うん」
流魂街に住む魂魄達の迷惑にならないように空中を走って来ていたんだけど、もうその必要も無くなったので、僕達はそれまで展開していた霊力の足場を解除し、地面に降り立った。
「実はな……今度から九番隊の副隊長になることになった」
「えっ!? よかったじゃん修兵! おめでとう」
藪から棒な発言に驚いたけど、そこから即座に修兵にお祝いの言葉を送った。
「ああ、これで遂にお前の一歩先に行けるぜ……って言いたかったんだがな……。お前、もう随分前から副隊長への昇進話が来てたらしいな」
「うん、確かに三番隊と九番隊、それから五番隊からの打診があったよ。……全部断ったけど」
……どうしてこれから謀叛を起こす隊長が率いる隊ばかりなんだ。全部嫌な予感しかしなかったから一瞬で断ったよ。
それにまだ瞬閧だって完成してないからね。少なくともそれを成し遂げるまでは二番隊から離れるつもりはない。
「なら、今回も俺の負けか……。それにお前、前に会ったときと霊力量が見違えたな。どうせお前のことだ。もう卍解だって使えんだろ?」
「っ!? どうして!?」
確かに、死神は始解と卍解を習得することで霊力が大幅に上昇するけど、その分の霊力は制御していたはずだ。
「何そんなに驚いてんだ? もう三十年以上の付き合いじゃねぇか。幾ら隠してたってそれぐらい分かるぞ」
確かに、僕も修兵が始解を習得した時にそれが何となく分かったし、そういうものなのだと納得した。
「で、何でこんな所までやってきたの?」
「そりゃ、瀞霊廷だと思いっきり戦えねぇからな。今日俺がわざわざここまで俺がお前を連れて来たのは他でもねぇ。――今の俺がお前とどれだけ戦えるか知るためだ。……構えろ卯月。今日の俺はお前に卍解を使わせるつもりで戦うぞ」
「っ!?」
瞬間、修兵の霊圧が急激に上昇した。
それに反射するように僕は腰を少し落とし、構える。
「行くぞ!」
***
「行くぞ!」
掛け声と共に修兵は瞬歩で辺りを縦横無尽に駆け回る。縛道の技術が卓越した卯月との対戦では足を止めることはそのまま敗因に繋がりかねないからだ。
「遅いよ!」
だが、それだけで攻略できるほど卯月は甘くない。元より彼は瞬歩も得意としている。それに加えて二番隊で砕蜂と毎日のように鍛錬を続けている為、その精度は護廷十三隊の中でもかなりの上位に食い込んでいる。
とてもじゃないが、副隊長相当の実力しか持っていない修兵には太刀打ちできるような代物ではなかった。
――だが、そんなことは修兵も百も承知だ。
「【縛道の三十九“円閘扇”】」
確かに卯月の速力は脅威だが、目で追えない程のものではない。
卯月の蹴りをしっかりと目で捉えた修兵は素早く縛道を繰り出すことで攻撃を防いだ。
そして、攻撃を防がれたことで身体の動きが一瞬停止した卯月に向かって修兵はすぐさま斬撃を放つが、卯月はそれをバク転で悠々とかわす。
「ふっ! 【波斬】!」
そのまま流れるように卯月は遠距離攻撃に移る。卯月の脚から放たれた攻撃を修兵は斬魄刀で受け止めるが、その時異変に気づいた。
受け止めたものは霊力であるはずなのに、それは自身の斬魄刀で受け止めた瞬間甲高い音を発したのだ。
――まるで、刀と刀で打ち合ったかのように。
「なにっ!?」
当然、修兵は驚いた。だが、それも束の間のことだった。
「もう一丁っ!」
――霊力による斬撃は一つだけではなかったのだから。
「【縛道の六十七“天縫輪盾”】!」
視界の半分以上を埋め尽くす程の攻撃に対し、修兵は縛道による盾で対抗する。幸い、波斬は速力重視の攻撃だったようで、流石に六十番台の鬼道を超える程の威力はなかった。
攻撃を防げたことに安堵し、次の攻撃に移ろうとしたら修兵だったが、ここであることに気がついた。
――自分の足が止まっていたのだ。
「っ!?」
「【縛道の六十三“鎖条鎖縛”】!」
そして、それを見逃す程卯月は甘くはない。修兵が気づいた時には既に術名を唱えていた。
「ちっ! 【赤火砲】!」
瞬歩を繰り返すことで何とか避けようとする修兵だったが、それで六十番台の縛道を回避できる筈もなく。幾つかの鎖が自身に迫ってくる。
それに対して修兵は詠唱どころか術名の半分を省いた破道で対抗する。威力は著しく落ちてしまうが、軌道を一瞬だけでも反らせることができれば十分だったからだ。
「【波弾】っ!」
「ぐあっ!?」
何とか鎖を回避した修兵だったが、卯月はそれをも予測していた。
凝縮した霊力を拳と一緒に突き出す卯月の中でも最速の攻撃が修兵を近くの岩まで吹き飛ばした。
「これで終わりだよ」
だが、波弾の攻撃力はそこまで高くない。それが分かっている卯月は無数の波弾を繰り出した。
波弾は着弾と共に砂埃を巻き上げ、卯月の視界を遮った。
そして砂埃が晴れたとき、卯月が目にしたものは修兵の身の丈程はある巨大な大盾だった。
【縛道の六十七“天縫輪盾”】
無数に霊力を編み込むことによって生成されたその盾はまるで数十年前の卒業試験を再現するかのように両者の間にそびえ立っていた。
唯一の違いは立場が逆転していることだろう。以前はここから卯月が勝利を手にしたが、当然立場が違えば結果も変わってくる。
「っ!?」
そう思い至り、気持ちを入れ直した卯月だったが、それはもう遅かった。
――既に修兵は王手をかけていたのだ。
「【刈れ“
「なっ!?」
瞬間、卯月の肩を刃が切り裂いた。
――何時の間にっ!?
そう思いながら修兵を見た卯月の目に映ったのは見たこともない異形の武器だった。
間を長い鎖で繋がれた二本の武器は鉄の棒の先端に何やら巨大な手裏剣のような形状をした刃が取り付けられており、非常に使いづらそう、というのが修兵の始解に対する卯月の感想だった。
「やっぱ避けるか……」
「……聞いてないよ始解なんて」
そう文句を言いながら卯月は回道で切り裂かれた自身の肩を治療する。
甘ったれたことを言っているようだが、今までの訓練で卯月と修兵は一度足りとも始解を使った鍛錬をしてこなかった。
その理由としては卯月が能力を明かしたがらないことや、修兵が己の斬魄刀を余り好いていないことが挙げられる。
それが急に始解を使い、自身を斬りつけたのだ。動揺しない筈がない。
「ああ。そりゃ言ってねぇからな。だが、俺は言ったぜ。――お前に卍解を使わせるつもりで戦うってな」
「……確かに言ってたけど」
「斬魄刀を抜け卯月。流石のお前でもここから先は堪えるぜ」
刹那、修兵が武器の片方を卯月に向かって放った。
卍解が使えるとは言え、習得してまだ間もなく未熟な上に、始解すらしていない卯月と始解を発動した修兵。現状どちらが有利かなんて言うまでもないだろう。
――だが、それでも卯月の手が斬魄刀に触れる事はなかった。
それでも卯月は難なく修兵の攻撃をかわすが、それも修兵の想定内。既に卯月に接近し、もう片方の武器を振り下ろそうとしていた。
ここで漸く卯月は斬魄刀を抜き、修兵の攻撃を受け止めた。
「受け止めていいのか?」
「それはどういう……なっ!?」
突如発せられた修兵の言葉に思案する卯月だったが、それは自身の右側から向かって来た先程投げられた修兵の斬魄刀によって妨げられることになる。
卯月に避けられた後、修兵の斬魄刀は大きく左に回り、卯月の右側から襲いかかったのだ。
これには流石の卯月も反応が間に合わず、できたことは精々咄嗟に身体を捻って傷を最小限に抑える事のみだった。
「読めねぇだろ、俺の斬魄刀?」
卯月を切り裂いて帰って来た方の斬魄刀を物凄い勢いで回転させながら修兵は卯月に問いた。
「うん。よくそんな癖の強い斬魄刀を使えるよ」
通称がどんなものかも分からない修兵の斬魄刀はそれを扱う為の指南書のような物が存在しない。
つまり、風死をここまで扱えるようになったのは十割修兵の努力と言ってもいいものだった。
言葉自体は軽薄に聞こえるが、卯月は心から修兵を賞賛した。
「そいつはどうもっ!」
会話を中断して修兵は再度斬魄刀を放った。
「【縛道の六十七“天縫輪盾”】っ!」
「無駄だ」
「え!?」
今度は鬼道の盾で防ごうとした卯月だったが、それも修兵の変則的な斬魄刀の前では意味を成さなかった。
投げられた斬魄刀は盾の横から回り込み、卯月に攻撃を仕掛けたのだ。
「なーんてね」
「なにっ!?」
だが、卯月はそれを読んでいた。否、そうなるように誘導していたのだ。
故に卯月の行動は早かった。先ずは前に展開していた天縫輪盾を風死がある方へと移動させ、攻撃を防ぐ。
「【縛道の二十二“赤煙遁”】」
次に煙による目くらましと霊圧を消すことで隠密性を高める。二番隊に異動したことにより、卯月の霊圧遮断は以前とは比べ物にならない程にその精度を上げていた。
「【破道の五十四“廃炎”】」
「遅いよ」
「ぐはっ!?」
卯月が煙から出ない内に攻撃を仕掛けようとした修兵だったが、卯月の瞬歩はそれをはるかに上回った。
卯月に蹴りをもろに食らった修兵は再度岩場へとたたき落とされる。
「ははっ……俺も舐められたものだな。始解どころか斬魄刀も碌に抜かずに相手にされるなんてよ」
地面に降り立った卯月に対して修兵はそう自嘲するように呟いた。
「それは違うよ修兵。僕が碌に斬魄刀を振るわないのは相手を舐めているからじゃない。相手を傷つけるのが嫌だからだよ」
これまで卯月は模擬戦で斬魄刀を抜くことは殆どなかった。偶に抜くことはあってもそれは相手の攻撃を受ける為が全てで、攻撃手段として使ったことはなかったのだ。
確かに卯月は刀を用いて戦うよりも白打で戦った方が強いが、場合によっては絶対に刀を抜いた方がいい場面も存在する。そんな中でも卯月が斬魄刀を用いなかったのはひとえに相手を傷つけることに怯えていたからだ。
「だから僕が模擬戦をする時は殆ど縛道で相手を拘束するし、例えそれが無理でも白打でなるべく相手を傷つけずに終わらせるんだ。気づいていたかい修兵?――さっき僕が撃った波斬に斬撃の効果がついていなかったことに」
武器を用いて戦うのと素手で戦うのと、どちらが有利だなんて言うまでもないだろう。
だが、卯月は武器が無くとも戦えた。それも副隊長相当の実力がある修兵と互角に渡り合えるまでにだ。
――それが卯月の臆病さに拍車をかけるとは知らずに。
普通の死神なら例え戦うことが怖くともある程度までなら場数を踏むことにより克服できる。
また、護廷十三隊には四番隊という後方支援に特化した部隊も存在する。例え戦闘に対する恐怖が拭えなくても活躍する為の道は残されているのだ。
だが、卯月はどちらにも当てはまらなかった。彼は縛道や瞬歩に特化したその類い希なる才能により日本人の頃からの倫理観を捨てることができなかったのだ。
「笑えちゃうだろ? 暗殺部隊のトップスリーなのにもかかわらず、他人を傷つけることが怖いんだ」
卯月は顔を歪めながら締めくくった。
そして、俯きながら修兵の返答を待った。
笑われるだろうか? 莫迦にされるだろうか?
そんなネガティブな思考が卯月の中を駆け巡った。
「で、それがどうした?」
「……え?」
瞬間、卯月の時が止まった。無理もないだろう。卯月からすれば一世一代の告白だったのにも関わらず、それに対し修兵はまるで何でもないように軽く受け流したのだから。
「だから、何を今更そんな当たり前のこと言ってんだって訊いてんだよ。戦いが怖い? んなもん当たり前だ。戦いが怖くねぇのなんて十一番隊ぐらいだ」
「……じゃあ、修兵も怖いの?」
「ああ、怖い。超怖いぞ。なあ、知ってるか?――戦いが怖くない奴に剣を握る資格なんてねぇんだぜ」
――自分の握る剣にすら怯えぬ者に剣を握る資格はない。
これは修兵の上司である東仙要の言葉だ。
「“戦士にとってもっとも大切なものは力ではない。戦いを恐れる心だ。戦いを恐れるからこそ同じく戦いを恐れる者達の為に剣を握って戦える”。これは東仙隊長の言葉だ。卯月、もしお前が本当に戦いが怖いって言うんなら、それはお前が戦士としてかけがえのないものを手にしてる証拠だ」
「っ!?」
ずっと目を背けて来た。
刀を抜くことが怖くてもそれ以上に縛道や白打の修行を行い、如何に相手を無力化できるかを注視して来た。
だが、それは間違いだった。
元より恐怖とは生物が生きていくのに必要な生存本能であり、逃れるのは不可能なのだ。
だから、恥じなくていい。それを他でもない修兵が教えてくれた。
――もう、恐怖を受け入れていいのだ。
「ありがとう修兵」
「ああ。てか話を聞く限りお前の斬魄刀はそんな殺傷能力のあるもんじゃねぇだろ。俺の斬魄刀を見てみろよ。命を刈り奪る形をしてるだろ?」
「……」
「おい、なんだその目は」
「いや、刃物って時点で皆命を刈り奪る形をしてると思っただけだよ。別に何を格好つけているんだとか思ってないよ」
茶化すように言っている卯月ではあるが、内心では「これが原作で修兵が言っていた名言か」などと感心していた。
だが、そんなこと修兵には知る由もなく、ただただ顔を赤く染めるのみで……。
「……忘れてくれ」
「嫌だ」
「おい!」
「ぷっ」
「くくっ」
「「あはははははははっ!」」
そして今度は二人して笑いあった。実はこれにも笑い話で済まそうという修兵なりの気遣いがあったりするのだが、これまた卯月にはそんなこと知る由もなかった。
ひとしきり笑った卯月は座っている修兵に手を差し出す。
「さて、じゃあ仕切り直しと行こうか?」
「ああ!」
修兵は卯月の手を取り立ち上がった。
そして、両者は九歩程の間合いまで離れたところで立ち止まり、構え直す。
「【誘え“睡蓮”】っ!」
もう躊躇をする理由がなくなった卯月は思い切って斬魄刀を解放する。
その顔つきはまるで憑き物が落ちたかのように晴れやかだった。