転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 気づいている方も多いと思いますが、先日私は重大なミスに気がつきました。

 なんと、これまで蟹沢幸と名付けていた蟹沢さんですが、公式でほたるという名前が決められていたのです。

 よって、これからは蟹沢さんの名前はほたるで統一していきます。
 また、前回以降のミスも修正しましたが、まだ残っている可能性もありますので、見つけたら誤字報告して頂けると幸いです。

 今後はこのようなミスが無いよう念入りに調べてから書くようにします。

 最後に、蟹沢さんの本名を教えてくれた方、誤字報告をして下さった方。ありがとうございました。

 それでは、どうぞ!


第十話

 不味いことになった。正直この展開は予想できていなかった。

 

 BLEACHの原作において、この白打と鬼道を融合させた技を瞬閧と名付けたのは間違いなく砕蜂隊長か今は現世のどこかに居るであろう夜一さんのどちらかだ。ていうかBLEACHの世界で瞬閧を使えるのはこの二人しかいないんだからこれは言うまでもない。

 

 ――問題はどちらがこの技に名前を付けたかだ。

 

 もし名付けたのが砕蜂隊長ならまだいい。それなら僕がこのまま瞬閧と名付ければ済む話だ。

 だけど、そうじゃないのなら面倒くさいことになる。もし名付けたのが夜一さんならこれから先、砕蜂隊長が夜一さんにこの技の名前が瞬閧だと教わる時が来る可能性が高い。その時に砕蜂隊長が『その名は蓮沼が名付けた名だ。何故貴様が知っている?』などと言ってみろ。必ず面倒なことになる。

 

「どうして僕なんですか?」

 

 なので一先ず断る方向に話を持って行くことにした。

 そのためにはある程度の理由が必要なので、僕は質問を投げかけた。

 

 すると、砕蜂隊長は少し俯きながら口を開いた。

 

「……お前も勘づいているとは思うが、実はこの技は二十年前お前が初めて二番隊で楠木と戦った時に見せてくれた“衝波閃”を参考に編み出した技だ。情けない話だろう? 私は隊長なのにも関わらず、霊術院の生徒から技を盗むという愚行に走ってしまったのだ」

 

 だから私にこの技を名付ける資格はないと砕蜂隊長はそう自らを自嘲した。

 ……なんて言うかそこまで思い詰められると逆に申し訳ない気持ちになってくるな。僕からしてみれば元よりその予定で披露した技だったんだけど、どうやら砕蜂隊長はそれに罪悪感を感じてしまっていたらしい。

 

「でも、それってそんなに恥ずかしがるようなことなんですか?」

「……え?」

「他人から何か物事を学ぶのってそんなに悪くないことではないし、寧ろ普通のことだと思いますけどね。それこそ身分なんて関係なしで。僕だって以前一度だけ真央霊術院で教鞭を執ったことがありましたけど、その時生徒達から学ぶことは沢山ありましたよ」

 

 例えばスポーツを始める時だって皆最初は自分の好きな選手や有名な選手の真似をする所から始める。そしてそこから工夫を重ねていき、やがて自分だけのものが出来上がっていくのだ。

 そして、死神であってもそれは同じだ。真央霊術院で先人が遺した斬拳走鬼を学び、それを自身の斬魄刀と重ね合わせることで、自分独自の戦闘スタイルを見つけることができる。

 だから、模倣は決して悪いことではないのだ。

 

「そう……なのか?」

「それに砕蜂隊長はこの技を開発していく上で霊力操作を根本的に変えているじゃないですか。ならこれはもう砕蜂隊長の技ですよ。僕はただきっかけを与えたに過ぎません。だからこの技の名前は砕蜂隊長が付けて下さい」

 

 それに僕にとってこの技の名前はもう瞬閧で決まっている。仮にそれ以外の名前を僕が付けた所で僕のネーミングセンスでは碌なものになる気しかしない。

 

「そうか。了解した」

「では――」

「――だが、蓮沼。例えお前が私を悪く思っていなくても、この技の名前はお前に付けて貰いたい」

「え? 今分かったって……」

「それとこれとは話が別だ。確かに、罪悪感もお前に技の名を付けて貰いたかった理由の一つだが、それだけではない。私はお前に感謝しているのだ」

「感謝……ですか?」

「ああ。二十年前、お前と出会う前の私は修行の成果が中々得られず、酷く焦っていた。そんな時だ、まだ院生だったお前が二番隊にやってきたのは。あの時お前が見せてくれた“衝波閃”のお陰で私はこの二十年で更に自分を高めていくことができたのだ。だから、その感謝の気持ちとしてお前にこの技の名前を付けて貰いたい」

「……そうですか」

 

 僕はとても迷った。僕としては感謝の気持ちなんてこうして瞬閧を教えてくれるだけで、十分だし。もうこれ以上何かを貰うつもりは到底ないのだ。

 でも、砕蜂隊長はそれでは絶対に納得しないだろう。もう十分だと伝えても、『上司が部下を育てるのは当たり前のことだ』とか言って聞く耳を持ってくれなさそうだ。

 

 だからと言って、このまま僕の気持ちを優先して砕蜂隊長の気持ちを無下にするのもそれはそれで失礼な気がする。

 

 ということで、ここは折衷案でいこう。

 

「わかりました。砕蜂隊長のお気持ち、有り難く受け取らせて頂きます。ただしそれには条件があります」

「言ってみろ」

「はい。それはいつか僕がこの技を習得するまで待っていて欲しいということです」

 

 これなら、砕蜂隊長の気持ちを尊重しつつ、名付けの方も問題を先延ばしにすることで一時的にだけどこのピンチを脱け出すことが可能だろう。

 時間をかけて考えれば、また新たな案も浮かんでくるかも知れないからね。

 

「なるほど。習得すらしていない技に対して名を付ける資格はないというわけか。いい心掛けだ。では、早速明日から全力でしごいてやるから覚悟しておけ」

「はいっ! よろしくお願いします」

 

 どうやら僕の都合の良いように解釈されたらしく、思いの外話はスムーズに進んだ。

 

 

 ――絶対夜一さんが来るまで粘ってやる。

 

 

 そう心に決めた僕は今後の予定を見据えながら修行に打ち込むのだった。

 

 

***

 

 

「ほら朝だよ。起きて卯月君」

「うん?」

 

 ほたるの声で僕は目を覚ました。

 

 とても懐かしい夢だ。僕が現世の駐在任務で目覚まし時計を買って以来だから約二十年ぐらいか。

 

「なんだ夢か」

 

 そうと分かればこの状況で僕が起きる意味はない。僕は再度布団にくるまり、眠りの態勢に入った。

 

「夢じゃないから起きなさい」

「……寒っ!?」

 

 すると、ほたるに布団を剥ぎ取られ、それにより僕の意識は次第に覚醒していく。

 

「……え? 夢じゃないってどういうこと?」

 

 動揺する僕に「はあ」と溜め息を吐いたほたるは口を開いた。

 

「今日は休みの日だから皆で出かける約束だったでしょう……。集合時間になっても来ないと思ったら案の定目覚まし時計かけてないし」

「あ…………」

 

 そう言えば、そんな約束をしていた。ていうかつい昨日までは久しぶりに皆と会えるのを楽しみにしていたのだ。

 砕蜂隊長にも頼んで今日の修行はお休みさせて貰ったしね。……その代わり昨日の修行は何時もの二倍になったけど。

 

 だけど、僕には休日はゆっくり寝たいので、目覚まし時計を設定しない。そして、今日は休日だ。護廷十三隊にも緊急時以外は週に二日の休日が与えられている。

 

 まあ、つまりは寝坊したということなんだけどね。

 

「ごめんっ、ほたる! 皆は?」

「白道門で待ってるよ」

 

 今日は皆で西流魂街にピクニックに行く約束をしている。瀞霊廷には四つの門があるんだけど、そこはそれぞれ東西南北の流魂街に繋がっている。

 とは言っても平常時に門は出現しないんだけどね。

 

「分かった。着替えてから行くから先に行ってて」

「うん、分かった。それと朝ご飯におにぎり作っておいたから食べてから来てね」

「うん、ありがとう」

 

 ほたるが部屋を出たのを確認してから僕は素早く着替えを済ませ、おにぎりに手をつける。うん、美味しい。久しぶりにほたるの料理を食べたけど、やっぱり美味しいな。

 

「よし、行くか」

 

 僕は玄関から出ることさえも横着し、庭から外へと向かった。白道門へはこっちから出た方が近い。

 すると、一分もしない内にほたるの姿が見えて来た。

 

「ごめん、ほたる。急ぐよ」

「えっ? ――きゃっ!?」

 

 僕はほたるの横に並ぶと、素早く彼女を抱きかかえ、瞬歩で空中を闊歩した。

 

「きゃあああああああああ!!」

 

 突然のことに驚き、恐怖するほたるとは裏腹に僕は彼女の身体の感触やいい匂いに終始ドキマギしていた。

 なら抱かなければいいと思うかも知れないけど、そういう訳にもいかない。具体的には修兵や青鹿君にしごかれる。

 それに加えて、今回は絶対に待たせてはいけない人物が二人も居るのだ。本来なら今急いだ所で大した意味もないけど、何もしないよりはマシだ。

 

 そう自分に言い聞かせ、僕はさらにスピードを上げた。

 

「きゃあああああああああ!!」

 

 ――悲鳴を上げるほたるを無視して。

 

 

***

 

 

「あっ、来ましたよ。おはようございます。卯月さん」

「おい! 遅いぞ卯月!」

 

 白道門の前に着くと、僕を見つけた桃と修兵が声をかけてくる。

 

「ごめん皆。遅れちゃって……」

「全くだぜ。たくっ、お前はいつになったら朝に動けるようになるんだ蓮沼……」

「ははは……。ごめんね青鹿君」

「まあ、俺達はお前に振り回されるのには慣れてるからいいんだけどよ。流石に今日はダメだろ」

 

 そう言った青鹿君の視線は左側へと移っていく。うん、別に普段は遅れていいという訳じゃないんだけど、今日寝坊するのは不味いよね。

 青鹿君の視線に釣られるように僕は体の向きを変える。するとそこには小学生ぐらいの身長をした銀髪の隊長羽織を着た少年のような死神と金髪でグラマラスなプロポーションをしている女性の死神が居た。

 

「すみませんでした。――日番谷隊長。松本副隊長」

 

 そして、僕は誠心誠意頭を下げた。今日遅れてはいけなかった理由はこの二人にある。

 

 一人目はつい最近十番隊隊長に就任した日番谷冬獅郎隊長だ。彼は真央霊術院を僅か一年で卒業し、卒業後もその腕を遺憾なく振るい、これまた僅か十数年で隊長に就任した鬼才である。

 彼の斬魄刀の“氷輪丸”は曰わく氷雪系最強の斬魄刀で、彼が斬魄刀を解放したときには天候をも変えてしまう程らしい。

 そして卍解の“大紅蓮氷輪丸”はよく分からないけど『大人日番谷』? の状態になると滅茶苦茶強くなるらしい。

 

 今回は幼なじみである桃の誘いで来てくれたらしい。

 僕としても僅か十数年で隊長に登り詰めるような人物と会話できるのは非常に光栄なことなので、楽しみだ。

 

 また、チビが彼に対して禁句だったり、女性人気が高かったり、友人が四バカの一人などと言っていたのは余談である。

 

 そしてもう一人は同じく十番隊副隊長の松本乱菊さんだ。どうやら彼女は桃が日番谷隊長を誘うのを耳に挟み、楽しそうだからという理由で今日は参加したらしい。

 

 また、以前酔っ払った修兵が言っていた十番隊の巨乳金髪美女とは彼女のことであり、確かにその評価に恥じない程の美貌の持ち主だ。因みに、修兵はちゃっかり彼女にご執心だそうだ。

 でも、彼女が好きなのは日番谷隊長の少し前に三番隊隊長に就任した市丸隊長だ。彼女と市丸隊長は幼なじみらしく、市丸隊長に至っては松本副隊長の為に今後藍染隊長と共に謀叛を起こすというのだからその愛の強さには驚きである。

 

 強く生きろよ。修兵。

 

「いいのいいの。それより蓮沼、あんたお酒はいける口?」

「え? あっ、はい。まあ、一応は……」

「じゃあ、後で一緒に飲み比べしましょうよ」

「はあ……」

 

 まず最初に僕の謝罪に答えたのは松本さんだった。流石は楽しそうという理由で来ただけはあり、どうやらこの後の食事(酒盛り)が楽しみで仕方がないらしい。

 

「俺も大丈夫だ。お前が朝に弱いのは雛森から聞いていたからな。――それより、早く蟹沢を下ろしてやったらどうだ?」

「…………え?」

 

 日番谷隊長の言葉に呆然とした僕は数秒後、自身を見下ろした。すると、僕の腕にはいつの間にか俵を持つようにして片手で抱えられたほたるがぷるぷると震えて居た。

 

「ご、ごめんほたるっ! 大丈夫?」

 

 僕は慌ててほたるを下ろしたけど、そのほたるが立つことすらままならず、羞恥で顔を赤く染めているのか、僕の移動スピードに酔ってしまったのか、よく分からない表情をしていた。

 

「だっ、だだだ、大丈夫……」

「水です。ほたるさん、飲んで下さい」

「あ、ありがとう」

 

 全然大丈夫じゃないほたるに気を利かせた桃が水を差し出した。

 

「もうっ! 卯月さん、皆が皆あなたのように速くないって何度言えば分かるんですか!!」

 

 ゆっくりと水を飲むほたるを確認した桃が僕に説教をしてくる。出会った当初はおどおどしていた印象が強かった桃だったけど、随分逞しくなったものだ。

 

「聞いてるんですか!!」

 

 元部下の成長を感慨深く感じていると、桃にそれを感じ取られてしまった。

 

「聞いてる聞いてる。いやー、二番隊に入ってから周りが速い人ばっかりだったから失念していたよ」

 

 隠密機動を密接に繋がっているためか、やはり二番隊では走の水準が軒並み高い。今の僕の瞬歩の実力は恐らく、大前田副隊長と砕蜂隊長の丁度間位だろう。

 異動当初はまだ大前田副隊長の方が速かったんだけど、砕蜂隊長と修行するようになってから僕の瞬歩と白打の実力は急激に上昇した。

 

「少しは反省しろ!」

「痛っ!?」

 

 桃の説教を適当にかわしていると、今度は修兵からチョップを食らった。何だか相性いいね、この二人。

 これにさらにほたるが加わると、僕は何もできなくなる気がするよ。

 

 でも、修兵が言うことには一理ある。

 

「じゃあ、ほたる。責任をとって着くまで負ぶるから乗って」

 

 はい、といいながら僕は膝を曲げた。

 

「う、うん。じゃあ、よろしく」

「はい、任されました」

 

 そして、僕は何時しかのようにほたるを背負った。相変わらず女の子特有の感触や匂いに鼓動が加速するけど、それはまああれだ。煩悩退散っ!

 

「おい、そんなんで許されると思うなよ」

 

 そう言いながら青鹿君は僕に大量の荷物を渡して来る。

 

「持て」

「いや、莫迦なの? 僕、今ほたるをおんぶするので両手が塞がってるんだけど」

「んなもん縛道を使えばどうとでもなんだろ」

「…………はあ。【縛道の八“這縄”】」

 

 僕は自分のお腹に荷物を縛り付けた。

 

「それじゃあ、出発~♪」

 

 すると、僕の準備が整うのを見計らっていた松本副隊長が号令をかけた。

 

「なあ、俺達空気じゃね?」

「それは言わないでくれ、阿散井君」

 

 僕はそれまで一言も喋らなかった、恋次とイヅルを無視して、流魂街へと足を踏み出した。

 

 

***

 

 

 どうやら僕はお酒に強いらしい。今まで飲む機会があっても少量しか飲んで来なかったから分からなかったんだけど、今日飲み比べをしてみて初めて分かった。

 

「なあ、蓮沼」

「何ですか日番谷隊長?」

 

 各自が持ってきたつまみを食べていると、日番谷隊長が声をかけて来た。

 

「どうしてこうなった……?」

 

 心なしかそう呟いた日番谷隊長の眼差しは少し虚ろに見える。

 今、彼と僕の視界にはお酒によって引き起こされた混沌が映っていた。

 

 始まりは僕と松本副隊長と修兵で飲み比べを始めたことだ。場所を決めて一段落ついた後、約束通り僕と松本さんは飲み比べをする事になったんだけど、そこに松本さんとの関係を深めたい修兵も参加することになったのだ。

 

 そして、始まった飲み比べ。最初にギブアップしたのは修兵だった。酔い潰れてただのスケベとなった修兵は松本副隊長に執拗に迫った結果殴られて轟沈した。

 

 ここまではまだよかったのだ。そこから、僕と松本副隊長の飲み比べは白熱したものになった。

 

 すると、次第に松本副隊長が他の皆にお酒を持って皆に絡みだして、お酒を勧め始めたのだ。それに押し負けた皆はどんどんお酒を摂取する事になり、やがて正気を保っているのは僕とまだ子供だからとからかわれてお酒にありつけなかった日番谷隊長だけとなったのだ。

 

「まあ、いいんじゃないですか。こうして皆で一緒に羽を伸ばせる機会もそう多くはないですし」

「うん~、卯月君~♪」

 

 僕は何時しかにように酔いつぶれて甘えん坊と化したほたるの頭を撫でながらそう言った。

 

 護廷十三隊にも休日はあるけど、それは人によって休める日が違う。故に今日みたいに大勢で揃ってご飯を食べる機会なんてそうそう訪れないのだ。

 

「……それもそうだな」

「シロ……ちゃん……」

 

 眠って自分の膝に乗ってきた桃を見ながら日番谷隊長はそう言った。言葉自体は面倒そうだけど、その表情はどこか柔らかい。

 

 ――はは~ん。そういうことか。

 

「ところで日番谷隊長は桃のことが好きなんですか?」

「……っ!? はああああっ!? お前っ、急に何をっ!」

 

 普段なら絶対訊けないようなことだけど、今ならお酒を言い訳にできると思い、訊いてみることにした。

 

「図星ですか。因みに、どういう所が好きなんですか?」

「……何故俺がそれをお前に言わなければならない?」

「好きってところは否定しないんですね」

「なっ!?」

 

 僕の追撃に日番谷隊長は先程までも赤かった顔を更に赤らめた。

 その反応はまるで初な少年のようで上司なのにほほえましく思えた。

 

「ふぅ、何だか安心しました」

「……何がだ?」

 

 急に話を変えた僕を日番谷隊長は訝しげな視線を送ってくる。

 

「いやー、実を言いますとね、僕は今日、日番谷隊長に会うことが少し不安だったんですよ。桃は甘納豆が好きな普通の男の子って言ってたんですけど、実際は修羅に生きるような怖い人じゃないかと疑ってたんですよ。何せ史上最年少で隊長に就くような人ですからね」

 

 修羅は言い過ぎかも知れないけど、怖い人ではないかと思っていた。

 史上最年少で隊長に就くということは幾ら才能があっても生半可な努力ではできない。だからそれ相応の厳しさを持っている人だと思っていたのだ。

 

「だけど、それは間違っていました。少なくとも、そうして恋の話で恥ずかしがる姿を見ていますとね」

「……一言余計だ。じゃあ、逆に訊くがお前はどうなんだ?」

「僕ですか?」

「ああ」

 

 すました風を装っているけど、その視線は右往左往している。多分日番谷隊長が訊きたいのは十中八九、僕が桃をどう思っているかだろう。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。僕が桃に対して持っているものはあくまで師弟愛です。そこに恋愛感情はありません」

 

 五番隊に居た頃は彼女を恋次やイヅルと一緒に鍛えていたので、その影響だろう。

 二番隊に異動した今でも、三人の成長を知ると自分のことのように嬉しくなるのだ。

 

「そうか……」

 

 僕の発言に安心したのか、日番谷隊長は小さくホッと息をついた。

 こっそりやったつもりだろうけど、僕には丸聞こえだった。

 

「それに、僕は隊長になるまでは誰とも恋愛はしないって決めているんです」

 

 僕が隊長になるとき、その時が僕がほたるに告白の返事をする最初で最後の時だ。

 そして、もし了承するなら彼女を副隊長として受け入れて、無理ならばそれを断る。

 

 それが僕がほたるの決意に対しての誠心誠意の気持ちだ。

 

「なるほど、蟹沢か」

「ええ。顔に出てましたか?」

「まあな」

 

 ポーカーフェイスを貫いていた僕だけど、多分視線を読まれたのだろう。まあ、別にそれでもいいんだけど。

 

 ――今日、日番谷隊長と話したことで僕は自身の目標についてしっかりと考え直すことができた。

 

 今なお元気にお酒を飲み合っている恋次とイヅルや大声で歌っている青鹿君を眺めながらそんなことを考えた僕だった。

 

 また、酔いつぶれて寝てしまった人数が多かった為、帰りにとても苦労したのは余談である。

 


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