転生した先が死後の世界で矛盾している件   作:あさうち

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 初めましてあさうちです。
 素人なので、まだ拙い文章ですが、よろしくお願いします。


真央霊術院篇
第一話


 突然だけど、僕、蓮沼卯月(はすぬまうづき)はごく普通の人間だった。運動や勉強においては多少は他の人よりも秀でていると自負していたけれど、それも常識の範囲に収まるものだった。

 

 しかし、僕の人生は一つの交通事故の所為で終わりを迎えると共に始まりを迎えた。

 

 最初は死後の世界に来たのだと思った。信じたことはなかったけれど、臨死体験者が死後の世界の存在を語るテレビ番組を見たことがあったからだ。

 だけど、それは違った。いや、間違ってはいないけれど、微妙にずれていたのだ。

 

 死後の世界は死後の世界でもそこは漫画の中の死後の世界。

 

 ――その世界の名はBLEACH。その世界においての死後の世界である尸魂界(ソウルソサエティ)

 

 生前友達から少し聞いた程度の世界で、今僕は生きている……のか?

 

 

***

 

 

「おい! 起きろ卯月!!」

「――っへあ!?」

 

 唐突に聞こえた大声に僕は飛び起きた。

 

「はぁ、相変わらず朝には弱いんだからよ。お前は……」

「ははっ、いつも悪いね。修兵」

 

 何時ものように、僕を起こしてくれた目の前の男の名前は檜佐木修兵(ひさぎしゅうへい)という。端整な顔立ちに鋭い目つき、そして何よりも目を引くのが、ある人に憧れて頬につけたという六十九の数字だろう。彼は僕がまだ流魂街でこの世界に来て戸惑っていた時に色々と助けてくれた恩人だ。

 生前の友達曰わく、彼は原作キャラの中でも色々と残念な位置づけのキャラクターらしいのだが、詳しくは知らないので、ひとまずそれは置いておこう。

 

 因みに、流魂街(るこんがい)というのはこの尸魂界の大部分を占める百近くある地区の総称である。

 

「それはいいんだけどよ……。でもお前、今のままだと死神になった時に絶対困るぞ」

「うぐっ!? 確かに……」

 

 死神。それはこのBLEACHの世界において、主人公を除き、最も重要な位置づけにあると言っても過言ではない魂のバランサーである。

 この世界では、霊というものはとても重要な役割を担っており、人間が暮らす現世、僕達死んだ霊や死神が暮らす尸魂界、前の世界でいう悪霊の(ホロウ)が暮らす虚圏(ウェコムンド)。この三つの世界で成り立っている。

 そして、これら三つの世界の均衡を保つのが死神の仕事である。

 

 何故、生前はごく普通の学生だった僕が死神になろうと思ったのかと言うと、別に大した理由ではなく、僕がこの世界に来て召喚された流魂街の治安が悪かったからである。

 流魂街は百近い地区を番号により振り分けており、数字が大きければ大きいほど治安が悪くなる。つまり僕は運悪く大きい数字を引いてしまったのだ。

 当然、僕がそのような地区で生きていける筈もなく、飢え死にしそうだった所を助けてくれたのが修兵だったというわけだ。

 また、尸魂界においてお腹が空くということは霊的資質が高いことを示しており、それを見抜いた修兵が僕を死神に誘って今に至っている。

 

「さっさと支度しろ。もう、そんなに時間ないぞ」

「え!? ホントだ!」

 

 時計を見た僕は、焦りながら寝間着から学生服に着替える。

 因みに、江戸時代あたりの時代をモチーフにした尸魂界での服装は基本和服である。

 

「悪い修兵。急ごう!」

「待て! お前朝飯はどうするんだよ!」

「え? あー、もうこれでいいや」

「いいのかそれで!?」

 

 僕は部屋においてあったお菓子を口に運んで朝食を済ませると、修兵からお小言を貰った。

 

「いいよ。だから急ごう。遅れるよ!」

「誰の所為だと思ってるんだ!?」

 

 ドタバタとしながら草履を履き、死神の武器である斬魄刀(ざんぱくとう)を持って部屋を出た。

 

 ――真央霊術院。

 

 死神を養成する学校に僕は今通っている。

 

 

***

 

 

 真央霊術院。そこは先程も述べた通り、死神を養成する為の六年制の学校だ。

 そこでは主に一般常識や死神になるための知恵、そして戦闘技術を学ぶことができる。特に戦闘技術は剣術、白打、歩法、鬼道の四つに分かれており、それらは纏めて斬拳走鬼と呼ばれている。

 

 斬ではその名の通り、斬魄刀を使った剣術を、拳は死神の霊力を用いた体術である白打を、走では死神の高速移動技術である瞬歩を、鬼では鬼道という魔法のようなものを学ぶことができる。特にこの中でも鬼道は攻撃系統の破道、拘束や補助系統の縛道、そして傷を癒やすことができる回道の三つの種類に分かれており、本当に奥が深い。

 

 現在、僕はこの真央霊術院の六回生であり、本日は今年新たに入学した一回生一組の現世での実習に付き添うという大事な役割を与えられている。

 

「全員集合!!」

 

 修兵の号令に一回生一組全員が整列する。僕の時もそうだったし、やはり初めての遠征は緊張するのか、ピリピリとした雰囲気を感じる。

 

「先ずは簡単に自己紹介しとくぞ。六回生の檜佐木だ。後ろの小さいのが蟹沢(かにさわ)、でかいのが青鹿(あおが)、そして横にいる少し女っぽいのが蓮沼だ」

 

 修兵の紹介があまりに雑なので僕が補足しておこう。肩までぐらいの茶髪をサイドテールに結い、整った顔立ちをしているのが蟹沢さん。そして大柄で髪型をリーゼントでガッチガチに固めているのが青鹿君だ。

 

 だけど、そんな雑な紹介に一回生はざわついた。耳を傾けてみると、どうやら修兵や僕の話をしているらしい。まあ、これでも僕達、主席と次席だからね。

 

 修兵は真央霊術院の入試試験に二回も落ちたものの、入学後からずっと、学年主席を守り続け、現在では数年ぶりに卒業前に死神の軍隊である護廷十三隊への入隊が確定している逸材だ。

 

 そして僕は能力にムラがあるものの、高いものは修兵をも凌ぎ、この学年で唯一修兵と渡り合うことのできる人物として知られている。

 因みに、どんな風にムラがあるのかと言えば、剣術や体術は平均以下なのに対し、瞬歩の速さや精度は学年で断トツだったり、鬼道では破道と呼ばれる攻撃に特化した鬼道は平均以下なのに対し、縛道や回道と呼ばれる補助、拘束や回復に特化した鬼道は学年で断トツ。といったような感じだ。

 普通ムラがあるとすれば、物理特化型か鬼道特化型で僕のような変な偏り方をする院生をどのように扱えばいいのか分からず、手をこまねいているというのが今の教師陣の僕に対する心境だろう。

 

 一応、僕の中に仮説のようなものはある。それは才能というよりも精神的な問題で、僕が元々は普通日本人だったということに起因しているのではないのか、ということだ。

 だから、前世で培われた倫理観に背く、人を殺めてしまうような剣術や白打や破道は人の何倍もの努力をしなければ身につかないし、逆に、逃げる為に使える瞬歩や人を殺さず無力化できたり、人を助けることが出来る縛道や回道は人の何倍もの早さで習得できた。

 故に、剣術、白打、破道の習得は半ば諦めており、卒業後は護廷十三隊唯一の医療部隊である四番隊に入隊しようと思っているのが、今の僕の現状である。

 

 護廷十三隊。それは死神だけで組織された十三の隊の総称であり、それぞれの隊は、隊花と呼ばれるその隊を象徴する花になぞらえた特色を持っている。

 その中には隠密機動や鬼道衆などと言った例外があるんだけど、話すと長いのでまたの機会にさせて頂く。

 

「ざわつくな! 私語の多い奴は置いていくぞ!」

 

 僕が思考に耽っていると、一回生に向かって修兵の一喝が飛び、直に喧騒も収まった。

 

「それじゃ、ここからは三人一組で行動してもらうわ。予め教室で引いてきてもらったクジを見て。記号が書いてあるわね? 同じ記号の人を探して組を作って頂戴」

 

 蟹沢さんの指示に従った一回生は次々と組を作っていく。

 

「各自、地獄蝶は持ったな? 行くぞ!」

 

 全員が組を作ったタイミングで修兵が口を開いた。

 地獄蝶とは、死神を尸魂界から現世へ案内したり、伝令を伝えたりする役割を持つ黒い揚羽蝶のことである。これがなければ、死神は正規ルートを通ることができず、現世と尸魂界の狭間である断界を経由することになる。

 

「解錠!」

 

 全員に確認をとった修兵は尸魂界と現世を繋ぐ門、穿界門(せんかいもん)を開いた。

 

 

***

 

 

 現世に着いてから、約十時間が経過した。もうすっかり夜である。今回の実習は主に、死んだ魂魄を尸魂界へ送る魂葬が中心だった。この魂葬こそが魂のバランサーである死神の仕事の一つであり、これを怠ると死んだ魂魄が虚へと変化し、通常の魂魄や霊感に優れた人間を襲ってしまうことがあるので、注意が必要だ。

 因みに、そうして虚になってしまった魂魄を戦うことで浄化し、尸魂界に送ることも死神の仕事の一つである。

 

 そんな魂葬の方法は自身の斬魄刀の柄頭を魂魄の額につけるだけと一見簡単そうなんだけど、これが意外に難しい。

 

 実際に今、一回生が魂葬をやっているけれど、少し肩に力が入っている。ああいう状態で魂葬をしてしまうと――

 

「いだぁっ!?いででででで!!」

 

 ――魂魄が尋常じゃないくらい痛がってしまうのだ。

 

 失敗をした一回生にアドバイスを言い渡すと、修兵は学校側から預かっていた魂魄の名簿を確認する。

 

 僕は細かい魂魄の数は覚えていないけれど、大体六十人位だったように思う。さっきの子で三十人の一回生が一人二回ずつ魂葬をしたことになるので、そろそろ終わりだろうとあたりをつける。

 今日の晩御飯は何にしようか、などと考えていたその時――蟹沢さんに迫る巨大な爪が目に入った。

 

「蟹沢さんっ!!」

 

 僕は最大限の瞬歩を使って、蟹沢さんに自分の身体をぶつける。それにより何とか攻撃を逸らすことに成功するが、僕達は爪に殴られる形で後方へと吹き飛ばされた。 

 

「卯月!? 蟹沢!?」

 

 僕は蟹沢さんを抱えながら衝撃を最小限にして地面を転がる。

 

「ぐっ!?」

 

 さっきの虚の攻撃で左腕が折れてしまったのか激痛が走った。

 

「蟹沢さんは援軍の要請と一回生のフォローを!」

「分かった!」

「【回道】」

 

 僕は折れてしまった左腕の応急処置をしながら状況を確認するが、硬直してしまった。

 

「えっ……なんでっ!?」

 

 そこにいたのは通常の虚よりも巨大で力を持った虚――巨大虚(ヒュージ・ホロウ)だった。

 

「退がれ!! 逃げろ一年坊主共!! できるだけ早く、できるだけ遠くに逃げるんだ!!」

 

 硬直した場に修兵の指示が飛んだ。それを聞いた一回生は悲鳴を上げながら巨大虚に背を向け、駆け出した。

 

 僕は転んで逃げ遅れた人のフォローをしながら思考を巡らす。

 

 純粋に何故こんなにも運が悪いのだろうかと思ったし、何故こんな強敵の接近を霊圧感知が得意な僕が気づけなかったのかとも考えた。けれど、全ては過去のこと。今更そんなことを考えても所詮後の祭りだ。今はどう生き残るのかを考えなくてはならない。

 

「う、うおおおおお!! 貴様、よくも蟹沢と蓮沼を!!」

「止せ青鹿!!」

 

 修兵を無視した青鹿君が巨大虚に攻撃を仕掛けようとするけれど、巨大虚はその攻撃を完全に見切っており、青鹿君にカウンターを仕掛けようとする。

 

「【縛道の四“這縄(はいなわ)”】」

 

 僕は縛道で青鹿君を拘束し、無理やり後退させる。

 

「青鹿君落ち着いて! それじゃあ、倒せる敵も倒せないよ!!」

「ああ、悪ぃ……。けどよ! いくらお前や檜佐木が居たってあんな化け物倒せるわけがないだろ!!」

「それでもやるんだよ!!」

 

 確かに、青鹿君の言う通りかも知れない。けれど、今はそんな発言に反応している場合ではない。

 

「修兵、蟹沢さんに救援要請を頼んでおいた。後は何とかして時間を稼ごう!」

「ああ、助かる!」

 

 そして、僕は鬼道を撃つために手を、修兵は斬魄刀を構えたその時――右からもう一体の巨大虚が現れた。

 

 また気づかなかった。恐らく、この巨大虚、霊圧が消せるのだろう。でないと、僕や修兵が二回も襲撃に気づかないなんて有り得ない。

 

 けれど――、

 

「前は任せたぞ卯月!!」

「ああ! そっちも右はよろしく!」

 

 ――こっちだって二人居るんだ。

 

 僕は目の前の巨大虚に向き直る。

 確かに、僕は攻撃系統の成績は平均以下だ。けれど、縛道で拘束してしまえば関係ない。

 

「【縛道の六十一“六杖光牢(りくじょうこうろう)”】!!」

 

 瞬間、六つの帯状の光が胴体を囲うように突き刺さり巨大虚の動きを奪う。お陰でいとも簡単に巨大虚の仮面に斬魄刀を突き刺すことができた。

 だけど、やはり強力な威力を持つ六十番台の鬼道はまだ僕には少し早いのか、霊力の消費が半端じゃない。恐らくあと四回が限界だろう。

 

 でも、休んでいる暇はない。修兵がいる方にはもう一体巨大虚が増えており、顔に傷を負った修兵といつの間にかその場にいた青鹿君と三人の一回生が何とか場を繋いでいるが、均衡が崩れるのも時間の問題だろう。

 

「【縛道の六十三“鎖条鎖縛(さじょうさばく)”】!!」

 

 今度は二体の虚を太い鎖で纏めて拘束し、それを修兵が仕留めた。

 

「助かった卯月」

 

 修兵の元へ移動すると、修兵を筆頭に皆がお礼を言ってきた。だけど――

 

「うん。でも――流石にもう倒すのは無理だ」

 

 目の前にはさらに数を増やした大量の巨大虚が居た。僕があの中から倒せるのは精々二、三体程度。

 

「【縛道の四十九“土塁掩壕(どるいえんごう)”】!!」

 

 それなら、残りの霊力を全て防御に注いで時間を稼いだ方がいい。

 

 僕達が居る建物の屋上のコンクリートがせり上がり、半球体状の防壁を形成する。

 

「【縛道の四十九“土塁掩壕”】!!」

 

 一枚だけだと不安だったので、同じ縛道を二重に張ることで強度を高めた。

 

「【(あまね)く常闇 轟く怒号 恐れ・慄き・震え その(まなこ)を腫らす 契れ一条の結託 顕現せよ母なる大地】」

 

 次に後述詠唱と呼ばれる詠唱で縛道を強化する。鬼道にはそれぞれ詠唱文があり、それを唱えることで安定した威力を生み出すことができるんだけど、瞬時に状況が変わっていく戦場ではなかなか詠唱ができる余裕がない。

 そんな時に使える応用技術がこの後述詠唱だ。通常は詠唱の後に術を発動するんだけど、その順序を逆にする事で発動に余裕を持たせつつ、威力を保つことができる。

 

「凄い……」

 

 巨大虚の攻撃が何度か防壁に当たったタイミングで、そのような声が聞こえた。声を発したのは一回生の女の子で、先程も巨大虚に破道の三十一“赤火砲(しゃっかほう)”を放っている姿を見た。

 一回生のこの時期にもう三十番台の鬼道を扱えるというのはかなりの才能の持ち主だ。彼女が六回生になる頃には今の僕を越されているかも知れない。

 そんな彼女に凄いと言ってもらえたことを少し誇らしく思いながら、もう一度後述詠唱を唱え、二枚目の防壁も強化した。

 

 その時だった――

 

「え……?」

 

 ――巨大虚達の霊圧が一挙に消えたのは。

 

「修兵、今……」

「ああ、だが奴らは霊圧を消せる。今出るのは得策じゃない」

「いや、大丈夫だ」

 

 確かに、あの巨大虚達は霊圧が消せる。だけど、霊圧が消えたほんの一瞬確かに感じた。――援軍であろう死神の凄まじい霊圧を。

 

「待たせて済まなかった。術を解いて貰ってもいいかな?」

 

 すると、壁の向こう側から声が聞こえてきた。

 

「はい」

 

 僕はそれに従い鬼道を解く。

 そこに居たのは、銀髪で糸目の狐のような容貌をした男性の死神。そして茶髪の天然パーマで整った顔立ち、そして眼鏡をかけ、いかにも優しそうな顔をした護廷十三隊の格隊長のみが着ることを許される白い羽織――隊長羽織を着た男性の死神だった。

 

「あ、ああ……あなた方は、――五番隊っ、藍染隊長、市丸副隊長っ!?」

 

 颯爽と現れた頼もし過ぎる援軍に修兵は驚愕を露わにする。逆に一回生達は何が起こったのか分からず、ポカンとした様子だ。それでも、修兵の言葉の意味が分からないはずはない。

 

 そんな中、僕だけが皆とは全く違う感情を抱いていた。

 

 すると、こちらを見た藍染隊長が僕の方に歩いてきて口を開いた。

 

「さっきの縛道は君が?」

「はい、そうですが……」

「名前を聞かせてもらってもいいかな?」

「はい。真央霊術院六回生の蓮沼卯月です」

「蓮沼君だね。素晴らしい縛道だった。とても院生のものとは思えない。これからも精進するといい」

「はい、ありがとうございます!」

 

 護廷十三隊の隊長に誉められた。それはとても光栄で、誉れ高いことなんだろう。確かにそういう気持ちがないわけではない。自分の今までの努力が認められたんだ。嬉しくない訳がない。

 だけど、それを差し置いて、僕の中にはびこる感情があった。

 

 ――それは恐怖だ。

 

 彼、藍染惣右介(あいぜんそうすけ)はこのBLEACHという作品に於ける強大な敵キャラの一人なのだ。

 前世での友人は言っていた。彼の斬魄刀、鏡花水月はその力の解放の瞬間を相手に見せるだけで、その相手の五感と霊圧感知能力を支配することができるというチートのような能力であること。そして、彼の強さは斬魄刀だけではなく、通常の戦闘能力に於いても全隊長格の上位に位置するということを。

 

 その力の一端をほんの一瞬だけど感じた。故に僕は恐怖していた。正確な時系列は知らない。だけど、僕はいつかこの化け物のような力の持ち主と敵対しなければならない時が来るのだ。

 

「まだ、怖いのかい?」

「え……?」

 

 藍染隊長に言われて初めて気づいた。僕の手足が震えていたことに。

 

「無理もない。あれは本来院生が敵対し、ましてや倒せるような相手ではないのだからね」

 

 藍染隊長は僕の肩にポンと手を置き、口を開いた。

 

「今日はもうゆっくりと休むといい。君が護廷十三隊の一員として腕を振るう日を楽しみにしているよ」

「……はい」

 

 『また会おう』

 

 修兵や青鹿君、そして一回生達に声をかけた後、そう言葉を残した藍染隊長と市丸副隊長は僕達の礼を背に、穿界門の中へと消えていった。

 

 そして、その言葉に嫌な予感しか抱けない僕だった。

 

 

***

 

 

「うーん。悪いけどこれは顔に傷が残りそうだね」

「そうか。まあ、命があるだけラッキーか」

「蓮沼君」

 

 藍染隊長が帰った後、修兵の顔の治療をしていると、後ろから声がかかった。

 

「あ、蟹沢さん。お疲れ」

「うん、お疲れ様」

 

 声をかけてきた蟹沢さんだけど、僕と修兵の会話の中に割って入るのが気まずいのか、少しよそよそしい。

 なので、助け舟を出してあげる事にした。

 

「怪我はなかった? あったら修兵のあとで構わないなら治療するけど」

「ううん。それは大丈夫。……その、助けてくれてありがとう」

「どういたしまして。怪我がなくてよかったよ」

「それだけだから。じゃあ……」

「うん。また後で」

 

 そう言って蟹沢さんは青鹿君の元へと戻っていく。修兵と僕がこうなっている以上、残りの二人が一回生を仕切らないといけないからだ。

 

「よし、これで終わり。けど、やっぱり傷が残っちゃったか……。ごめん修兵」

「いや、いい。この傷は俺に力が足りない証みたいもんだからな。帰ったら精々これを糧にまた頑張るさ」

「だね。また、一緒に頑張ろうぜ。修兵」

「ああ!」

 

 拳をコツンと突き合わせながら僕達は笑い合った。

 

「それにしても。また随分と癖のある顔になったね修兵。六十九の次は虚の爪痕。次は何が足されるのやら……」

「うるせぇよ!」

「蓮沼先輩っ!」

 

 修兵と軽口を叩いていると、後ろから声がかかった。またか、などと思いながら後ろを向く。

 そこにいたのは先程の三人の一回生の内の一人の女の子だった。髪型はおさげで、端整な顔立ちと雰囲気から察せられる気弱さはどこか庇護欲をそそられる。

 

「ええっと君は……」

「雛森です。雛森桃(ひなもりもも)

「そうか。悪いね雛森さん。それで、僕に何か用かな?」

 

 蟹沢さんの時と同じようにモジモジとしている雛森さんだったけど、怪我がないことはさっき確認したので、出せる助け舟がなかった。

 

「い、いえ。あのっ! さっきの鬼道凄かったです! 私もあなたのようになれますか?」

 

 藍染隊長が帰った直後にお礼は言われていたので、何を言われるかと思ったけど、なんだそんなことか。

 彼女は先程も言ったようにかなりの才能の持ち主だ。そんな彼女が僕のようになれるか、なんて考えるまでもない。

 

「それは無理だよ。雛森さん」

「え……」

 

 僕がそう言うと雛森さんはショックを受けたような顔をする。

 

「あ、ごめん。言い方が悪かったね。雛森さんは知らないかも知れないけど、僕は少し変わっていてね、瞬歩や縛道や回道は得意なんだけど、逆に剣術や白打や破道は全然ダメなんだよ」

「はい、それは知っていますが……」

 

 僕が説明を加え始めると、多少は顔色がマシになった雛森さんだけど、まだ困惑している様子だ。

 

「だったら話は早いや。さっきの雛森さんの立ち回りを見たところ、雛森さんはそんな感じはしなかったからね。そんな雛森さんが僕みたいになるのは土台無理な話だよ。寧ろ僕の方が君に抜かされないように頑張らないとね。ははっ」

「ふふっ、そうですか」

 

 少し笑って冗談めかしてみたけど、効果覿面だったようで、雛森さんも僕に釣られて笑顔を浮かべる。

 

「だから、これからはお互いに頑張ろう」

「はい!」

「おい卯月、いつまで喋ってんだ! あともう俺らだけだぞ!!」

 

 すると、修兵から声がかかった。視線を向けてみると、もう場には僕と修兵と先程の一回生三人しか残っていなかった。

 そして金髪の一回生が何故か僕を凄く微妙な表情を浮かべながら見てくる。僕何かしたかな……?

 

「じゃあ、僕達も帰ろっか」

「はい!」

 

 達成感、恐怖、そして、向上心。様々な感情を心に抱きながら、僕達は尸魂界へと帰還した。

 




 オリジナル鬼道作ってみたけど、詠唱難し過ぎるだろ!! 十分程考えましたけど、この程度しか浮かびませんでした。

 済まぬ。

 ※戦闘シーンを一部修正しました。

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