じじ様宅急便で本多島から海鳴市の高町家へと移動した俺に待っていたのは果てしない嘔吐感。なんでじじ様は新幹線以上のスピードで空を走れるんだよ。おかげで背中におぶさっていた俺へのダメージが天元突破。どうやら俺は乗り物酔いしやすいようだ。まだ気持ち悪い、うえ。
そんな状態の俺がなのはをナッパと聞き間違えたのは仕方ないことだと思う。
「だからって初対面の女の子に向かってナッパは酷いと思うの」
例の幼女はまだお怒りのようだ。
俺のナッパ発言に激おこプンプン丸である幼女こと、高町家次女、高町なのははベッドに腰を下ろしている俺から微妙な距離を取った位置に椅子を置いて座っていた。冷ややかな視線を送ってきて、怒ってますアピール。いかに訓練(ネタ的な意味で)されている俺でさえ、この幼女の冷たい視線には応えるものがあった。だって俺ドMちゃうし。
現在場所は例の幼女の部屋。この歳なのに一人部屋とか羨ましい。家はお弟子さん達がいたので一人部屋がなかったからすっごく羨ましいとです。
今、俺はこの幼女と仲直りしろというじじ様のミッションを遂行中。幼女の部屋で件の幼女と相対しているのである。じじ様やその他の方々は丁度届けられた俺の荷物を俺の新たな部屋に運んでいるらしい。俺もそっちの方をやりたかった。だけど、この幼女とはこれから共に生活するので、居候初日から溝ができてしまったら大変。頑張って仲直り中なのであります。成果はでてないけど。
さて、どうしたものか。先ほどからナッパって言ったのは俺の所為でなくじじ様が悪いんだと言っているのに取り合ってもらえない。つーんとそっぽを向いて時折こちらをちらちら見てくるだけ。二度見ならまだわかるが、15度見とか斬新である。もしや、これは彼女なりのメッセージ?
「なるほど、わかった。これはチラチーノ使いの俺への挑戦とみた。よろしい、ならば戦争だ」
「違うよ! ポケモン関係ないよ!」
じゃあ、なんぞ?
「わ、わたしは、ただ……君に謝ってほしいだけだよぅ……」
口を尖らせてそう呟く幼女。なんでも、さっきからじじ様の所為とか、全てはじじ様が悪いみたいなことを言って全然謝らなかった俺に怒っているとか。ほうほう、なるほど。
「つまりはナッパ発言には怒ってないってことかナッパッパ?」
「怒ってるよ! なんでもっと怒らす言い方をするのかな!?」
見たところ幼女はムカ着火ファイアーに進化したようだ。解せぬ。
「わたしは今日、すっごく楽しみにしてたんだよ。新しい家族が増えると思って……もう一人で寂しくなる日がなくなると思って……」
なんというトラップ。ダークサイドに落ちた幼女のシリアス空気が重いとです。シリアスが嫌いなのにそれをどうどうとぶち抜く俺もどうかと思うけど。……まぁ、いっか。
「ごめんね。本当に、ごめん」
俺はベッドから立ち上がり、なのはの側へと近寄ってそう言った。短い言葉。だけど、その言葉にどれだけの気持ちが乗っているかどうかに意味があると思う。だから、もう下手に言い訳しない。
俺の気配に気づいたんだろうなのはは、俯いている顔を上げ俺と目が合った。ちょっと赤い。涙目だった。そんな目でジッと俺の目を見てくる。それはまるで、俺の気持ちを探るような、そんな感じ。
まぁ、目と目で通じ合うって歌の歌詞にもあったから俺の反省の気持ちが届いたらいいな。無理なら土下座するわ。武術家は武士じゃないんで簡単に土下座しますですよ、はい。それでも無理なら実家に帰らせてもらいなす。……緊張のあまりなすとか言っちゃったよ! 心の中とはいえ恥ずかしいわ!
「……名前」
「名前?」
俺の謝罪から少々の沈黙。それを破ったなのはの言葉に俺は聞き返した。
「まだ名前教えてもらってない」
そう言えばそうだった。自己紹介とか一番重要なことじゃないか。俺としたことが。
「俺は本多空閃。気軽に空閃と呼んでくれても構わないんだぜ。クー君でも化。なのははなっちゃんだから、クーとなっちゃんでオレンジジュースコンビの完成だな」
「ふふふ、なにそれ」
笑ってくれてなによりです。
☆
「へー。クー君は海鳴第三小学校に入学するんだ?」
「そういうなっちゃんは聖祥っていう私立に行くのか。小学生からお受験とかハードな人生送ってんのな」
「空を走るようなおじいちゃんと毎日闘っていたっていうクー君には言われたくないの」
その後、仲直りが済んだ俺となっちゃん(本人が気に入ったらしくそう呼べとのこと)は、ベッドに腰を下ろして、互いに自分たちのことを話していた。
なっちゃんはどうやらバス通で私立校に通うんだとか。それに比べ、俺は高町家から10キロ先にある公立校。じじ様の見様見真似で空を走っていこうと思う。
あれ絶対便利だよね。本人曰く、気で脚力を強化して空気の面を蹴るらしいので、俺は気の皆さんに頼めば一発で習得できそうな気がしてならない。気の皆さんの力は無限大なのです。
「そっかぁ……。一緒に小学校生活を送れないのは残念だよね」
「まぁそうだな。オレンジジュースコンビを世に知らしめるのは一先ずお預けか」
「それは一生知らしめなくていいと思うの」
なっちゃんってあだ名は気に入っているのにそういう言い方はないと思うの。
まぁ、せっかくこう仲良くなったのだ。一緒の学校に行きたかった気持ちもわからなくもない。だから、そんななっちゃんに俺はこの言葉を送ってやろう。
「学校は違えども我ら遊ぶときはいつでも一緒だ!」
「桃園の誓いみたく言わなくていいの。でも……うん、そうだね。その通りなの!」
なんか嬉しそうななっちゃんの言葉を聞いたと同時に俺の胃袋がビックバン。グーッと飯を求める音を鳴らした。
そんな俺を見て、なっちゃんは優しく微笑んだ。なぜ笑うし。
現在4時。時間も時間だし、お昼食べていないんだよなと考えているとふっと思い出したことが。
「そういえば士郎さんはクッキングパパだとか」
「お父さんはあんな顎してないよぅ……」
どうやら違ったらしい。じじ様め、嘘をついたな!
「喫茶店の店長さんって意味ならクッキングパパかな? あっ、あと、お母さんの作るシュークリームはとても美味しいの」
「ふむふむ、なるほど。なっちゃん、余は物凄く腹が減ったぞい」
「ふふふ。多分夕ご飯は豪勢なものになると思うな。昨日からクー君の歓迎会をやるってお母さんとお姉ちゃんが張り切ってたの」
「余は楽しみじゃー」
そんなこんなで高町家に住むことになりましたとさ。
なのはってこんな感じだったっけー。多分違う気がする。
ホタテなのはと命名しましょう(提案)。