最近、じじ様が「いやじゃいやじゃー! わしは空閃と武術するんじゃー!」と駄々っ子顔負けの暴れっぷりにドン引きしていた俺なのだが、その姿をともに見ていたママンの説得のもと、仕方無しに武術をすることになった。
現在、俺はお家の道場でその元凶たるじじ様と相対している。プリン3つには勝てなかったとは言え、生き生きとしているじじ様に若干イラっとしたのは言うまでもない。
「ホッホッホ。空閃、お主の武術最強伝説はここから始まるのじゃ」
「帰りたいでござる」
俺の発言を聞かなかったことにしたらしいじじ様は今からやる修練の内容を説明し始めた。
なんでも、俺がどこまで出来るかを調べたいらしいので、組み手をやるんだとか。
クッピー知ってるよ。いつもお弟子さん達がスローで動いて拳を交えているあれのことでしょ。えっ、違う?
簡単に言うと八割ぐらいで戦う修練を家では組み手というらしい。なんとも無理な話である。俺は今まで武術どころか、スポーツでさえやったことがない。去年、披露した幼稚園のお遊戯とは勝手が違うのだ。
「まぁワシは攻撃せんから殴るなり蹴るなり好きにかかってくるがいい」
「把握。気の皆さん、やーっておしまい」
「ちょっ」
この前みたいに気の皆さんに拘束してもらって、去年習得した拳から波(無限パンチと命名)を至近距離からブッパしようと思ったのだが、拳に気が集まって光り輝いていたときにじじ様からストップがかかった。なんでさ。
「なんでもヘチマもない! お主はワシを殺すきか!?」
へーきへーき。じじ様無駄に頑丈だし、このピチューン技、相手が死なないことは、お家のお弟子さん達で実証済みなのさ。お弟子さんたちは犠牲になったのだ。
好きにかかってこいって言ったのはじじ様なのに何故か怒られた俺は、渋々気の皆さんにじじ様の拘束を解いてもらった。どうやら、じじ様は格闘的な組み手をお望みとか。先に言ってくれればいいのに。
やれやれ感を醸し出している俺は、仕方なしにテキトーに構える。それをみたじじ様もまた家の流派の型だろうと思われる構えをつくり、その目は猛禽類の如くギラギラしていた。あれ、ホントに攻撃しないよね? 空閃くんは痛いのは嫌いなので心配です。
俺の一挙一動を見逃さないとばかりの視線。買いかぶりすぎです、じじ様。
俺はあれよ。確かに気の皆さんとは仲良くさせてもらっているけど、それ以外は普通の一般ピーポー。無限パンチだって、気の皆さんにお願いしているだけで、俺拳を突き出すだけだし。
気が云々は多分神様特典だとして、あと二つの特典はわからんけど、今まで生きてきて俺に異常な能力がこれ以外になかったわけで。つまり俺は気と仲良しさんのただの4歳児ってことよ。
しかし、じじ様はそれに気づいてない。
無限パンチを見たことと、孫補正で、俺が才能あると思っている。だが、それは誤解だと、今から組み手をするじじ様なら気づくはずだ。
だって武の頂点にいるお方だよ。素人パンチの見極めなんてちょちょいのちょいやでーだろ。今回のことで、俺が世界一の武術家になるなんて妄想をやめてくれるのなら、ママンの提案に乗ったのはかえってよかったかもしれない。プリンも貰えるし。
「じゃあいっくよー」
子供特有の声音でのほほんと言った後、じじ様に4歳児の俺にとっては全力疾走! トテトテと走って近寄り、自分の身長的に丁度いい位置にあるバキッバキの腹筋目掛けてパーンチしようとしたのだが、なぜかじじ様に上から潰すように叩かれてしまった。
轟く音と書いて轟音。俺と床がぶつかった音である。
痛みは全然無かったから威力が床に吸収するような技でもつかったのかもしれないが、俺の頭がギャグ漫画よろしく床に突き刺さっているこの現状。じじ様、なにか言うことない?
「……はっ、しまった!」
しまったじゃねぇよ。
「空閃ッ! 大丈夫か空閃ッ!? ……っ!?」
頑張って手足で踏ん張り、床から顔を抜き出した孫を見る顔ではない。
何に驚いているのか知らんが、それよりもまず、攻撃しないといったのに床に顔面叩きつけた理由でも聞こうじゃないか。
痛くなかったからまだいいものの、下手したら幼児虐待である。裁判所に行く覚悟は出来たか? 俺は出来てる。
「い、いや威圧感が増したと思ったら一瞬で距離を詰められてえげつない勢いで拳が飛んできたから体が勝手に動いて……そ、それより本当に大丈夫かのぅ空閃?」
「心配して誤魔化しても俺は騙されない。これは起訴してもいいレベル」
「……大丈夫そうじゃな」
あれ? なんかおかしい。じじ様なんでそんな焦ってんの?
「いやあまりの勢いだったからつい全力で迎え撃ってしまってのぅ。そんなことを孫にして焦らないじじいなんてそうそういないじゃろ」
えっ、全力? けど、俺何ともないよ。
「そうじゃ。無傷であるのはおかしいんじゃが……空閃」
「ん?」
名前を呼ばれて顔を上げると、ちょっとした衝撃を受けたと思ったら道場の壁に移動しているという不思議。なんというホラー。
この摩訶不思議現象の元凶であろう人物に目線を変える。
じじ様は先ほど俺達が話した位置で足を上げながらなんともいえない顔をしていた。例えるなら、そうだな。ボーボボに突っ込むビュティみたいな。多分驚愕している顔なんだと思う。そう思うことにした、うん。
「やっぱりじゃ」
「ん、なんぞ?」
じじ様の呟きに律儀に聞いてしまった。止めれば良いのに。いや、止めても俺のこれからの未来は変わらないか。
聞いても聞かなくても、本気のじじ様を誰も止められないのは未来永劫変わらない話である。
さてさて。んなわけで自分を入れて世界で初。俺の転生特典というか不思議体質に気づいてしまったじじ様はそれを口に出すのであった。
「空閃。お主は攻撃が効かない体質なんじゃ」
なにそれ怖い。割とマジで。
空閃くんは第五次バーサーカーでした!
っていうのは嘘ですけど十二の試練に少しだけ似ている能力です。
多分作中では、空閃の特典はこれだ! って確信づく事はないのでこの後書きでまとめますね。
特典1:気を従える能力。
特典2:戦闘になると身体能力+αが大幅に上がる。
特典3:受けた攻撃を無効化にする能力。
やったね空閃、平和が増えるよ!
攻撃が効かなきゃ平和にすごせるよな、って神様の考えです。私じゃありません。神様の考えです。
あとは降りかかった火の粉を軽く振り払える程度の戦闘力は必要だな。ということで戦闘関係の特典が与えられました。本多家に生まれたのもその関係で言うなれば神様のサービスです。
まぁこんなとこですかね。特典の説明は言葉通りなんでいらないでしょう。
ではでは、作者でした。