翔ける。翔ける。翔ける。
俺は空気の壁を蹴り、夜空を全力で翔けて行く。目指すはなっちゃんの気が忽然と消えたであろう動物病院。気の皆さんを総動員させている結果、いつも以上のスピードを出しており、その速さは流れていく光が今の速度を物語っている。
音よりも早い、光速。
なっちゃんとの電話の最後。地響きと破壊音となっちゃんの悲鳴。それだけで俺は必死になって、一心不乱で空を翔ける。
焦る。焦る。焦る。
速くもっと速くと気の皆さんにお願いするも速度は上がらない。それが俺に焦るを起こす。
とはいえ、光速での移動である体感時間は長くても他人からしたら一瞬だ。動物病院についた。
けど、そこは普通に病院があるだけで、どこか崩壊してるとかそんなことはなかった。
不思議になって、しかし耳に残っているなっちゃんの悲鳴を思い出し集中してなっちゃんの気を探してみる。
しかし、結果は変わらない。この動物病院の前であの子の気が消えている。それはもう忽然と。神隠しにあったように唐突に消えているのだ。
訳が分からない。
こんなことは初めてだった。もしなっちゃんが瞬間移動を取得していたとしても今の俺の詮索範囲はここから最大でアメリカまでだ。ジョニーやアントニーの居場所だって集中した状態の今なら手に取るようにわかる。
そんな俺の詮索能力に引っかからないのはいくらなっちゃんが化け物の卵だとしてもあり得ないことだ。それはもう別の世界にいっていたら話は別だが次元移動能力は俺でさえ身につけてない能力である。
そんなことができるのだったら俺に教えろください。
さて、焦りが一周したおかげで落ち着いてきた。とりあえず、だ。
「へい、東条君。そんな電柱に隠れてないで出てきたらどうだ?」
「空閃‥‥やっぱりお前だったのか」
私だ、と答えそうになるがなんとか踏みとどまる。つーか、こんな夜中に真っ黒な服装で電柱の影に隠れないでください怖いので。お化けとか無理なので。
「このタイミングでお前が来たってことはやっぱりお前も転生者だっか。薄々はそうじゃないかと思っていたんだ‥‥」
なんかブツブツ言っている東条君。とりあえずは正気に戻ってもらい、事情状況その他諸々を説明する。かくかくしかじか。
説明終了。てなわけでなんか事情を知ってるくさい東条君。なっちゃんはどこですか?
「なのはは結界に閉じ込められてるよ。誰が張ったかは予想がついているけどあいつならなのはに手を出すことはないだろう」
「おおふ、東条君も中ニ病にかかってしまった」
なんとも悲しいことかと思っていたがどうやらそうではないらしい。俺の態度に焦って説明してきた東条君がいうにはこの世界には魔法というものがあって東条君自身も魔法を扱うことが出来る魔導師というものらしい。
中ニ病もここまでくると‥‥‥と思っていたのに気づいた東条君は自身の右手に剣を出現した。なるほど、トリックか。
「いや、魔法なんだって。いい加減認めろ」
「あーい」
なんか涙目になってきた東条君が可哀相だったのでそういうものもあるんだと自分に言い聞かせて、
「で、なっちゃんはその結界(笑)に閉じ込められてると?」
「なんか言い方に違和感が‥‥」
気にせんといて。
「閉じ込められてるってのは語弊になるがなのはは結界内にいるよ。俺も入ろうとしたんだが、結界が強力すぎてな」
入れなかったんですねわかります。
やー、結界か。初めて結界というやつに携わるからようわからんけどもここに別の世界を広げているということか。
先ほども述べたとおり俺はまだ次元移動する術を持っていない。だから移動するのは困難だ。
んー、と頭を悩ませていると東条君の呟きが聞こえた。
「王佐のやろう。なのはの変身シーンを独り占めするためだけにまさか強力な結界を張るとは‥‥。嫁嫁言ってるからなのは自身には手を出さないし危なくなったら助けるだろうけども‥‥」
「今の話を詳しく」
なっちゃんの変身シーンだって? なにそれ面白そう。マジでなっちゃん魔法少女になるの?
「はっ? お前ここが『魔法少女リリカルなのは』の世界だろ。そんなの当たり前だ‥‥空閃まさかお前転生者じゃないのか!?」
なんか大声出してる東条を放っておく。
なっちゃんの変身シーン‥‥これをカメラで取るしかないでしょ!
そうと決まったら、俺はうんこ座りの要領で屈むと左手に気の皆さんを集中。そして、圧縮、圧縮、圧縮ぅ!
「空閃、お前何を?」
左手が黄金に輝く。それはもう太陽のように光輝いていた。ご近所迷惑かもしれないけど今だけは許してちょ!
そしてその左手を全力でフルパワーでこれでもかというくらいに地面へと叩きつけた。
「地球割り」
轟ッ! と鳴り響き、これまた近所迷惑。しかし、その成果もあって、
「な、なに!? 結界が割れていくだと!?」
ピシピシと世界に響きが空間にヒビが入った。なんか衝撃とかそんなので割れたんじゃね? この世界割と適当だし。ほら、地面殴ったのに結界だけ割れてるのが何よりの証拠。
つまり、結界というのを割ってみようとテンションとノリでやってみたら出来てしまう、そんな日常。
「ねーよんな日常!」
東条君に怒られてしまったけど仕方ない。反省も後悔もしてない。
さてさて、と。急いでスマフォの高画質カメラに切り替え今か今かと割れていく結界をワクワクしながら見守る。
そして、
ガシャーンッ!
よし割れた!
割れた瞬間になっちゃんの気を詮索。この感じは上!
詮索に引っかかったと同時にその方向へとカメラを向け、富竹フラッシュ! 富竹フラッシュ!
「あっ」
「あっ」
シャッター音で俺に気づいただろうなっちゃん。そして、同時に俺も気づいてしまった。
なっちゃんの格好はなっちゃん自身が通っている聖祥の制服みたいな服装だった。それはつまりスカート。そして彼女は俺の真上にいたということで。
「いくらなんでも黒は早い」ピチューン
言葉が終わる前にピンク色のレーザー的な何かに飲み込まれました。