魔法? んなもんねーよ   作:社畜系ホタテ

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第二話

その日の夜。

 

俺がゆっくりと風呂に浸かっている時のことだ。

 

なっちゃんの気配が家から消えた。いや、消えたというか、ただ単に外へと行ったらしい。

 

こんな時間にどうしたんだろう、と少しは思ったものの、俺もたまにアメリカンの特大ハンバーガーを求めてこの時間帯からアメリカに出発することがあるので、なっちゃんも似た様な感情に駆られて家を飛び出したんだろうと解釈。

 

女の子は男の子より精神年齢が早熟するって聞くからこの年齢から夜遊びもするのかも。まぁ、なんかあったら俺のスマフォか高町家の家電にかけるだろうから、心配はいらないだろう。

 

さて、そろそろ風呂から出るか。今日は学校の友達の田中山君とオンラインでぷよぷよをやる予定である。相手の連鎖を相殺する作業に勤しんで永遠に続けてやろうと思います。

 

だから、恭也さん。俺に木刀を突きつけて、なのはを探しに行け、って言わんでくんさい。

 

彼女は勝手に帰ってくるって。自分の妹なんだから信じてやろうよ。それにあの子も高町家の戦闘民族としても血を確実に引いてるから心配なんて皆無だし。

 

ほら、わかったらその木刀を静かに下ろして、俺にぷよぷよをやらしてください。バス停前高校って言う特殊な高校に通ってるお兄さんを持ってる田中山君が俺を待ってるんだって。

 

えっ、ダメ?ですよねー。

 

あっ、俺のスマフォ取ってください。……田中山君へ、今日は無理になったよごめんね、っと。送信ー。

 

 

 

 

『僕に少しだけ、力を貸してください』

 

そう私の心に直接声が聞こえた。脳内だったかもしれないけどここでは心ってことにしておこうと思う。だってなんだかシリアスな感じだし。

 

その声は夕べの夢と……そして、昼間の声と同じであった。最初は気のせいだと思った。

 

だけど、なんだかほっとけなくて気づいたらわたしはパジャマから着替えて家を飛び出していた。

 

クー君には相談したほうがよかったのかなと一度は思ったが、朝の夢のことを話したときに、「なっちゃん、あなた疲れているのよ」と優しい顔の生暖かい目で言われたのを思い出したので、すぐさま首を振って今の考えを頭から追いやる。

 

そのことで、夕食の際に少々きつい対応をしてしまったけど、それは彼の自業自得。泣いてる彼には多少なりとも罪悪感を感じたけどちょっとは反省して欲しい。っと閑話休題。

 

今は先ほどの声を優先しなくちゃ。たぶん、あの声は夕べ助けたフェレットさんだと思う。声に呼ばれて行った先にあのフェレットさんがいたから間違いない。

 

そう、あの声はフェレットさんで、決してわたしが不思議ちゃんなわけではないのである。談じてない。ないったらない。

 

……違ったら私の心の奥底で封印しよう。誰かに話しちゃうと黒歴史認定されてしまうので墓場まで持っていってやる。絶対に。

 

そんなことを胸の中で誓いながら走っているとようやく、動物病院に着いた。

 

中へ入ろうと一歩踏み入れた瞬間、耳へキーンと音が鳴り響いた。フェレットさん(断定)の声が聞こえる前にも響いた音。……またこの音だ。同じキーンなのに耳鳴りよりも質が悪い。

 

どうにかこの音に耐え、鳴り終わったと思ったら、今度は世界が変わった。

 

何を言っているかわからないかもしれないが、わたしもよくわからない。今ならポルナレフの気持ちがよくわかると思うの。というか本当になに、これ。

 

閉鎖空間? 閉鎖空間なの? 摩訶不思議なことが連続して起きているせいでわたしのキャパは崩壊寸前。混乱しているわたしにさらに追い討ちをかける様に今度は獣の声が響く。

 

獣? 神人じゃないの? そんな疑問もつかの間。まるでかなりの質量がある物が壁に激突したような、そんな轟音が響いた。

 

急いで敷地内に入ると、フェレットさんが病院内から出てきて、それを追うようにして黒い物体も這いずり出てきた。

 

黒い物体はフェレットさんを潰すかのように突撃する。避けたのからぶつかって吹き飛ばされたのかわからないけど、こっちへと飛んでくるフェレットさんをわたしはしっかりとキャッチした。

 

「来て……くれたの……?」

 

しゃ、喋ったー!

 

「や、やっぱりね。ふふん、わ、わたしが不思議ちゃんじゃなくて現実に喋るフェレットさんがいるって考えは正解……にゃあ!?」

 

わたしの予想が当たってて安堵している間に、体勢を立て直したのであろう黒い物体がその眼光をキラリーンと光らせながらわたしを睨みつけてきた。

 

とりあえず、あれがバックベアードさんだと仮定すれば、ロリっ子であるわたしは助かるはず。だって、バックベアードさんはロリコンを取り締まってくれる妖怪だからね。大丈夫大丈夫……にゃあ!? 襲い掛かってきたの!?

 

バックベアード、あなたもロリコンだったんだね、軽蔑します。

 

わたしはすぐさま立ち上がり、もと来た道を駆けた。体力には自信がないけど、逃げなきゃ危ない。

 

バックベアードロリコン説がわたしの中で上がった今、あれに捕まったらひとたまりもないの。

 

「君には資質がある。お願い、僕に少し、力を貸して」

「し、資質?」

 

逃げながらフェレットさんの話を聞いてみると、どうやらこの子はとある探し物のために別の世界から来たらしいく、だけど、この子一人の力ではどうにもならないので、資質をもった人にそれを探すのを協力して欲しいのだという。

 

この子が持っている力。それは魔法の力。それを扱う資質を持っているわたしに使ってほしいと、フェレットさんは頭を下げてきた。

 

……いつからわたしの周りがファンタジーチックになったのだろう。あっ、クー君が来たときからか。

 

そのとき、わたしのケータイが鳴った。画面を見たら、着信クー君、と書かれている。今、電話に出ている状況ではないのはわかっているが、クー君へとSOSを送るためにわたしは速攻で通話ボタンを押した。

 

『……俺だ。どうやら大変らしいな。状況を説明しろ』

「黒い物体が這いよるようにして襲い掛かってきてるから急いで逃げてるの! クー君助けて! へるぷみーだよ!」

『……ネタで言ったのに、本当に大変な事態に巻き込まれていて驚きな件』

 

今のクー君、絶対に呆然とした顔をしてるんだよなー、と画面越しの彼を思いつつ。

 

「どうやらこの状況から助かるためにわたしは魔法少女に変身しなきゃいけないみたい」

『魔法少女なのは☆マギカがはじまるんですね、わかります』

「わたしは魔女化とかしたくないし、魂をソウルジェム化にもされたくないの。だから早く助けて」

『あいよー。とりあえず、今どの辺?』

「え、わからないの?」

『ちょっと、なっちゃんの気がある箇所で忽然と消えてるんだよ不思議なことに。えーっと、この方角からすると……動物病院のほうか』

「うん! 今その辺りを走って逃げてるから……きゃあ!?」

 

空から降ってくるバックベアードもといロリコン。落下地点がわたしから離れていたため直撃はしなかったもののその余波が当たりに響いた。土煙が舞う。その隙にわたしは電柱の影に隠れた。

 

ケータイを耳に当ててみるも、聞こえるのは風の音と彼の多少荒れた息遣いだけ。多分、彼は今のわたしの悲鳴を聞いてすぐさまここへと向かったのだろう。まだ通話が繋がっているのに気づかず、一心不乱に。そう考えると少し頬が緩むのがわかった。彼は今、頑張って空を翔けてる。わたしはわたしのできることをしよう。

 

「ねぇ、フェレットさん。あなたのいう魔法って命や魂を消費するものなの?」

「違います! 僕達が言う魔法は科学の延長上にあるもので……こんな状況だから詳しく説明できないけど、命を代償とかそういった類のものじゃありません!」

 

ならよかった。この状況から助かるために、この先のわたしの未来を捨てるなんて出来るわけないから。言質は取れた。これで聞かれなかったから、なんて言ったらクー君からフルパワー無限パンチを受けてもらうことにしよう。

 

「わたしはどうしたらいいの?」

「これを!」

 

そう言って渡されたのは、赤いビー玉ぐらいの綺麗な宝石。少し光を帯びているそれは、なんだか暖かかった。

 

「それを手に、目を閉じて心を澄ませて。僕の言うとおりに繰り返して。……いい? いくよ」

 

わたしはフェレットさんのその言葉に頷いた。




なのはさんの変身はカット!(大嘘)

というわけで、魔法少女なのは☆マギカ、始まります。

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