海鳴市に少し遅い冬が来て数週間。地球温暖化の影響なのか、最近の不安定な季節にはこの小さな体には優しくないと思ったが、慣れてしまえばどうということはない。
「コタツでまったり」
「ふわぁ……、ぬくぬくで眠くなるよー」
現在俺となっちゃんは二人してコタツでぐだぐだタイム。じじ様から送られてきたコタツが大活躍しているが、これを自分の部屋に置いたことで、最近なっちゃんが俺の部屋に入り浸っている。まぁいいけど。
コタツ。別名ニート量産機。人類が生み出した、最強の兵器である。どんなにお偉いさんでもその魅力に取り憑かてしまえば一溜まりもなく、仕事なんて放り出して毎日ゴロゴロしたい気分になる魔性の道具だ。
なっちゃんもその兵器にヌックヌクの骨抜きにされてしまったのは仕方ないこと。
「みかん剥いたけど食べる?」
「白いすじもちゃんと取って」
あいよー、とぷちぷち剥き、みかんを半分に割って片方をなっちゃんへと渡す。
ありがとうと、蕩けた顔で言いながら一つを剥いて、同時に口へ。
「甘いと思ったらすっぱかった罠」
「……一気に目が覚めたの」
どうやらはずれを引いたらしい。蕩けた顔からしかめっ面へと二人して変え、それでも頑張って残りも全部口へ入れ、お口直しにお茶を啜る。
「あっという間に12月ですね」
「うん。この前小学校に入学したと思ったら、もう12月だよ」
「キングクリムゾン!」
「学校生活の過程が吹っ飛ばされて新年を迎えるという結果が残る」
新年までもう少し。
ホント、あっという間である。
「というわけで今年一年を振り返ってみようと思います」
「唐突なの」
人生というのは唐突や予想外のことで満載なんですよ。
「で、どうだった?」
「うーん……、いろんなことがあった一年だったの」
「あー、誘拐事件とかあったしね」
「でも、あの事件のおかげで皆との友情が深まって、今まで以上に仲良くなったと思うの」
はにかんでそう言ったなっちゃんに俺も頷く。あの事件で俺はすずかやアリサ、そして東条君と友達になったんだ。
でも、すずかはそろそろ、生のきゅっとしてドカーンを見せてくれてもいいと思うのです。
「そういえば、例のストーカーの件どうなった?」
ふと思い出したことを口にしてみる。あの相談以来、なっちゃんの口からストーカーの話が出なくなったので、無事解決したのだろうか。野次馬根性丸出しで聞いてみた。
するとなっちゃんは先ほどのみかんを食べたときみたいに顔を苦くして。
「まだしつこいんだ。でも、今は東条君がメイン盾として機能してくれてるから前よりはましになったの」
「東条君の扱いの件」
前から思ってたんだけど、なんでなっちゃんはそんなに東条君に冷たいん?
言葉に棘がありすぎて、もう少し優しくしてあげてもいいと思うのです。
「初めて会ったときに『大丈夫か高町!? なんだか性格がおかしいぞ!』って物凄い形相で迫られたの。確かに自己紹介のときに『ただの人には興味ありません』ってネタに走ったのはやりすぎたと思ってるけど、さすがに初対面の人に自分の性格を否定されたら、自然と態度は冷たくなるよ」
「そりゃ、深夜アニメのネタなんて小一が知ってるわけないだろ。しかもそれを使ってるとか痛い人認定だろ」
「痛い人(笑)」
俺を指差すんじゃありません。
「まぁ、東条君のことはダストシュートに置いておくとして」
「東条君をごみと申すのか」
「クー君はどうだったの? 休日とか家を空けることが多かったと思ったんだけど」
俺? 俺の今年一年の出来事か。うーん……。
さすがにいろいろやりすぎて覚えていない件。
「漫画読んで、聖地巡礼して、しこたま修練してたぐらいしか覚えがないな。あっ、そういえば、最近やっと六式全部極めたよ」
「……クー君は一体何と戦ってるの」
俺が聞きたい。
「実際クー君はなんのためにそんなに鍛えてるの?」
「そりゃ、おめぇ、健康のために決まってるだろ」
「……健康のために鍛えた結果で世界一の武道家になるとか笑えないの」
まだ、世界一ではないし。あーたのお父さんとか、家のじじ様とか上にはまだまだ化け物がたくさんいる。彼らから勝ち越せる日はまだまだ遠そうだし、骨が折れそうだ。
「というか俺は戦うよりもこうやってまったりしてたほうがいい」
「それには同感なの」
二人して、コタツ机に顎を乗せてダラーン。
来年もこんな感じのまったりした一年をすごしたいものだ。
次は原作である三年時にとびます。
日常編を書くのが辛いとか、そんなしょうもない理由ではないと思います。多分。