魔法? んなもんねーよ   作:社畜系ホタテ

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第十四話

夜の一族の秘密というか正体を知ったものは契約を交わすか記憶を消すかの二択から選ばなければいけないらしく、それは知りたくもないのに流れで知ってしまった俺も例外ではなかった。

 

吸血鬼の契約という言葉を聞いて、悪魔的なものが連想されて「じゃあ、記憶を消す方向で」と答えた俺は悪くないはずだ。

 

紫幼女が何か泣きそうな顔していたけど俺の知ったことじゃない。答えたあとになっちゃんにまた減り込まされたけど。

 

理由を聞かれたので、「今日会ったばかりの人に自分の魂は売れんでしょ」って言うと、何故か周りからバカかこいつという表情で見られた。なんでやねん。

 

どうやら、俺の思い過ごしのようだった。契約とは悪魔的なものではなく、夜の一族のことを他人には話さない上で、これからの時間を友達として共に歩みましょう、という口約束。

 

なんだよもっと早く言ってよ。勘違いしていた自分が恥ずかしい。

 

そうと分かれば、話は変わる。

 

俺は契約をすることにした。というのが、後日談である。

 

お淑やか紫幼女こと、月村すずか。ツンデレ金髪幼女こと、アリサ・カムチャッカインフェルノ。雰囲気イケメン赤髪ショタっ子こと、東条悠斗とは今ではいいお友達です。

 

友達の輪が増えるっていいよね。

 

 

 

 

 

 

「明日、すずかちゃんの家のお茶会に誘われたの」

 

誘拐事件から数ヶ月。

 

夏休み明けから丁度一週間たったある日、なっちゃんが俺の部屋にやってきたかと思うとおもむろに、そんなことをいい始めた。なんだ、仲間はずれの俺に対する自慢か。

 

そんな俺に「何言ってるんだか」とジト目で見てくるなっちゃん。

 

「クー君、今まで誘ってるのに変なことを優先してたから全然来なかったでしょ。夏休みだってギアナ高地で東方不敗極めてくるって言ったきり最終日まで帰って来なかったし」

 

若気の至りって怖いよね。

 

「アリサちゃん怒ってたよ。だから、明日は強制的に連れてこいって言われちゃったの」

「おっ、それって俺も行っていいってこと?」

 

頷くなっちゃん。明日の午後一時くらいに迎えが来るらしく、それまでに準備をしておけとのこと。

 

了解と伝えると、なっちゃんは嬉しそうに頬を緩ませながら自分の部屋へと戻っていった。

 

あぁ。そういえば、なっちゃんとも久々に遊ぶんだなと思い、俺は遠足前の子供のようにワクワクしながら床に付くのだった。

 

 

 

そして、翌日。

 

「リムジンとは予想外デス」

「にゃはは、アリサちゃんの家はお金持ちなの」

 

目の前には、ブルジョア的カー。前世を合わせてもこんなに近くで見たことがなく、庶民には縁がないリムジンがあった。どうやらこれで、月村家まで送っていってもらえるとのこと。

 

驚く俺の反応に、苦笑いのなっちゃんと恭也さん。恭也さんはすずかのお姉さんの忍さんと付き合っているらしく、今日も今日とてイチャイチャするために月村家に一緒に行くのだそうだ。リア充爆発しろ。

 

「驚いているとこ悪いけど、今まで私やすずかの誘いを断ってたのどういう了見なのかしら」

 

リムジンから華麗に降りてきたアリサは、俺の顔を見るなりそう言ってきた。その後ろにはダンディな執事が控えている。多分、あれは金持ち特有の高性能執事だろうと予想。そうだったらいいなー。

 

「まぁまぁ、アリサ、そう言うなって。空閃にも事情があったんだろう。それに今日は来てくれたんだ。怒っていたらこれからの楽しい時間が台無しになるぜ」

 

アリサに続いてフォローと共にリムジンから降りてきた東条君。その言葉に、「わかってるわよ」と答えるとアリサの表情は笑顔に変わり。

 

「久しぶり、空閃。夏休み明けだからかしら。ちょっと焼けてるわね」

「おう。焼けてるのは活火山付近で修練していたせいだな。体洗ってるけどまだ焦げ臭い?」

「……焼けてるの意味が違うわよ」

 

「相変わらずの規格外さね」と呟かれても、否定できない自分の不思議体質が憎いです。悔しいのう、悔しいのう。

 

火山はギアナ高地で修練した後のこと。火山で修練ってなんか特訓してる気になるからやってみたかっただけです。

 

「お嬢様、そろそろ出ないと約束の時間に遅れてしまいます」

「そうね、鮫島。話は車内でも出来ることだし、すずかの家に向かいしましょ」

 

初リムジン! ワクテカが止まんないぜ!

 

ふっかふかの座席で寛ぐこと数十分、着いたのは木々に囲まれた大豪邸だった。アリサだけじゃなくてすずかもブルジョアだったのか。

 

恭也さんがインターホンを押すと、出迎えてくれたのはこれまた紫髪のメイドさん。どうやら、月村家は紫の一族らしい。

 

「皆様、いらっしゃいませ。……空閃様はお初にお目にかかります。私、月村家のメイド長をさせてもらってますノエルといいます。すずかお嬢様から色々お噂を聞いております」

「吸血鬼に使えるメイド長……ふむ、ここは紅魔館だったのか。なっちゃん、ちょっくら、妹様探してくるわ」

「月村邸の妹様はすずかちゃんなの」

 

ということは彼女はアーカードさんの身体能力の上、きゅっとしてドカーンが行えるのか。流石はなっちゃんの友達。類は友を呼ぶとはよく言ったもんだ。

 

「どうぞ、こちらです」

 

ノエルさんに案内されるまま、長い廊下を歩いていくと一つの部屋に通される。そこにはすずかと忍さん、あと紫髪メイド幼女がいて、月村姉妹は優雅に紅茶を飲んでいた。つまりはティータイム中。

 

「いらっしゃい皆。あっ、空閃君も来てくれたんだ」

「煎茶が飲めると聞いて来たんだけどまさかの紅茶だったでござる」

「ご安心下さい。煎茶もご用意しています」

 

そう言って出されるのは一つの缶。有名店のお茶っ葉である。さすがはブルジョア月村家。なんというおもてなし精神だろう。

 

「この人はまごうことなき高性能メイドだ。一家に一台はほしい」

「でも、お高いんでしょ?」

「いえいえ、そんなことはありません。このメイド長の他に幼女メイドも付け加えてお値段なんと19800円!」

「ええ!? そんなに安くて大丈夫なの?」

「はい、決して損はさせません」

「……二人して何やってんのよ」

「「通販番組ごっこ」」

 

皆さん、そんな呆れた顔しないでください。

 

「あれ、すずか? そういえば猫達はどうしたのよ?」

「わからないけどついさっきに皆この部屋から逃げ出しちゃったんだ……あれ、空閃君どうしたの?」

 

またか……、また逃げちゃったのか……。

 

「にゃはは……、クー君には動物避けのスキルがあるの」

 

動物達は俺を過剰に拒絶する傾向がある。俺のことが嫌いというか、動物的本能が圧倒的強者に平伏すだけの話。

 

過剰な力に反応して、動物達は俺を避けていくのだ、とじじ様から聞いた。どうやら、じじ様もそうだったらしい。視線を遠くに泳がせていたから。

 

「本人は大の動物好きだからね。そんな動物達に逃げられちゃうといっつもこうやって落ち込んじゃうの。おー、よしよし大丈夫だよー」

 

前のめりに倒れこみ、両手を地面へ。見るようによっては土下座をしているような態勢で落ち込んでいる俺。というか絶望に打ちひしがれている。

 

今の俺のソウルジェムはどす黒いと思うのです。というか魔女化してもおかしくないレヴェル。俺男だけど。

 

そんな俺の頭を撫でて慰めてくれるなっちゃんの優しさが心に染みます。

 

そして、皆さんから注がれている生暖かい視線が別の意味で心に染みるとです。




明日、私の職が決まるかもしれない大一番なのに、今日はこうして執筆に精を出すという現状。

なんという余裕。優雅に綾鷹を飲みながらすごしている私には緊張なんてものはありません。

あるのは、何故か異常に震えている両手のみ。病気かしら?

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