魔法? んなもんねーよ   作:社畜系ホタテ

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第九話

小学校生活に大分慣れてきた今日この頃、五月の連休をだらだらと過ごしつつ、その最終日、どうやらなっちゃんが相談したいことがあるらしく、夜、俺の部屋でお悩み相談をしていた。

 

俺は自身のベッドに腰をかけ、なっちゃんは俺の勉強机から椅子を取り出し、それに座る。ナッパ発言事件からお馴染みの位置である。

 

少々の沈黙。雰囲気作りが大切なのか、なんの音も無い静かな部屋になっているせいで多少のシリアス感を醸し出しつつ、なっちゃんは真剣な顔で重い口を開くのだった。

 

「最近、ストーカーの被害にあっているの」

「被害妄想乙」

 

バッチーンっ!

 

「最近、暴力の被害にあってるんだけど」

「クー君が話をちゃんと聞かないのが悪いの」

 

いやいや、それでも暴力はないと思うのですが。

 

仕方なくなっちゃんの話を聞いてみると、どうやら、小学校の同じクラスにいる銀髪クラスメイトがしつこいくらいに話しかけてくるらしい。

 

しかも、その内容も内容で、なっちゃんとその友達のことを自分の嫁だと公言していて、「愛しているぜ」と毎日のように愛を語ってくるので困っているという。

 

なっちゃんが「私は君のお嫁さんじゃないよ」と否定しても「照れてるなのはもかわいいな」と言われるだけ。どうやら、その銀髪クラスメイトは難聴主人公をめざしているらしい。えっ、違う? あっ、そう。

 

最近では、連休ということもあって友達とよく外出していたなっちゃんの行く先々に、その銀髪クラスメイトが出没しているのだとか。これは完璧にあれだな、なっちゃん。

 

「愛されてんな」

「愛が重すぎて、凄く怖いの。部屋のロッカーとかに潜んでそうで毎日気が気じゃないんだよ」

 

うんざりしたように溜息一つのなっちゃん。どうやら相当参っているご様子。普段誰にでも優しいなっちゃんでも、流石にストーカーには優しくなれないらしい。

 

つーか、俺よりも警察に相談した方がいいんじゃね?

 

「うーん、証拠がないからね。彼、先生の前とかでは真面目だからとても信頼されてるの。多分信じてもらえないと思うよ」

 

苦笑いのなっちゃん。

 

証拠か。昨日、なっちゃんの部屋で遊んでいたときも別に変な視線とか感じなかったから、小型カメラが設置されてるなんて可能性は無いと思うし。

 

うーん、難しいね。士郎さんには言ったの?

 

「お父さん達には迷惑かけたくないから。クー君にしか言ってないよ」

「俺には迷惑をかけてもいいと申すか」

「クー君はわたしに迷惑かけているからいいんですー」

 

えー、迷惑かー。心当たりが多すぎて、一体どれのことを言っているのかわからない件。

 

……まぁ、いっか。

 

「現状は行った先々にそいつが待ち構えているだけだろ。それ以上何にもされてないんじゃ大丈夫なんじゃないか? それに嫁とかいってるんだから大切に扱ってくれるんだと思うし」

「何かされてからじゃ遅いよ。それとも、わたしが病んだ彼にめった刺しに殺されちゃってもクー君はいいって言うの?」

「大丈夫、それはない」

 

なんで? 視線でそう問う、なっちゃんに俺は。

 

「そうなる前に、この連休中に習得したヤードラット星人流、瞬間移動を使って駆けつけるから」

「……クー君がどんどん人間離れしていくの」

 

誰が人外じゃ。俺よりも神様ボディじゃないのに人間離れのことをやってのけるじじ様や士郎さんの方がよっぽど人外だ。

 

「でも、……そうだね。ふふっ、そのときはお願いしようかな」

 

なにが嬉しいのか。微笑んでいるなっちゃんに疑問を持ちつつ、このお悩み相談は幕を下ろしのだった。

 

「あとクー君も気をつけて。彼、わたし達に近くにいすぎる男の子には容赦なく襲い掛かってるの」

「なにそれこわい」

 

なっちゃん、最後の最後にそういうフラグを建てんといてください。

 

 

 

 

 

翌日、学校が終わって家でゴロゴロしていた俺は、桃子さんから晩飯の材料が足りないとお使いを頼まれた。さっさとスーパーで夕食の材料を買った俺はルンルン気分で家を目指す。

 

今日はカレー。俺のテンションはそれだけで天元突破。

 

機嫌よく口笛を吹きながら人ごみを歩く。夕方ということもあって、人がごった返しているが、流石は神様ボディの上で子供ボディ。右手に食材を持っているにも関わらず、狭い隙間をすいすい進んでいける。

 

そうして調子に乗って突き進んでいくと、いつの間にか誰もいなくなっていた。

 

何を言っているのかわからねーと思うがry。ポルナレフ状態もいいとこである。

 

振り返っても先ほどからすれ違っていた人もどこへやら。なにがなんだかさっぱり分からない件。

 

「なるほど、ここは鏡の中の世界『ミラーワールド』だな。ここから俺の仮面ライダーとしての戦いが始まるってわけか。アドベントカードはどこだ」

「おい、お前」

 

さっそくモンスターか。でもちょっと待ってください。カードないと変身できないんでちょっくら探しに行ってきやす。

 

「ちょっ、お、おい、待てよ!」

「なんだ。モンスターかと思ったらキムタク……わーお」

 

キムタクでもなかった。声の方へ振り返ると、なんというか、銀。圧倒的銀が俺の目の前に。

 

長髪で銀髪の少年。しかも、赤と金のオッドアイである。格好も西洋の甲冑みたいなものを着ていた。なにそれ、カッコいい。

 

「やっと見つけたのに逃がしてたまるかよ。お前、入学式だけでなく、ちょくちょく俺の嫁に纏わりついているやつだよな? 俺の嫁をストーキングするとはいい度胸だな、おい」

 

なんか知らんけど、俺の驚愕をスルーして話を進めてくる銀髪少年。

 

ん、俺の嫁? ここ最近で似たようなワードを聞いたような気がするけど、うーん。……まぁ、いっか。多分気のせいだろう。

 

「だんまりか。……もしや、お前もあいつと同じ転生者か?」

「誰が変質者だ。仮に変質者だとしても、変質者という名の紳士だよ」

「黙れ雑種」

 

ブオーンっと一本の剣が俺の真横を通過していった。やだー、冗談じゃないですかー。真面目に受け取って真剣ブッパせんといてくださいよー。

 

つーか、そのお前の後ろにある武器がちらっちら顔を覗かせてる金のゆらゆらはなんだ?

 

「誰が話していいと言った。ここでは俺がルールだ」

「スクープ! リアルジャイアンついに現る……おっと危ない」

 

どうやら癪に障ったらしい。銀髪の怒号と共に金のゆらゆらから武器を撃ってきた。おぉ、銀髪、カルシウム不足とは情けない。

 

何やら面倒事の予感。そう感じた俺はすぐさま、人差し指と中指以外はグーにして、伸ばしている指だけを額に当てる。イメージするのは、俺の部屋。

 

イメージ完了。たくさんの武器が怒涛の雨の如く、こっちに向かってきていることだし、さっさと行くか。

 

 

さて、じゃあよろしく、気の皆さん。せーのっ!

 

 

 

シュンッ!

 

 

 

あっという間に世界が変わり、見慣れた俺の部屋へと一瞬で到着した。何という便利技でしょう、瞬間移動。

 

それにしても、なんだったんだろう、あの銀髪は。カルシウム不足にもほどがあるだろ。今度会うときはもっと、ツッコミの技術を磨いてほしいもんだ。

 

そんなことよりも、今はこの食材たちを桃子さんに渡さねば。夕食の準備を遅らせてしまう。

 

気の皆さんを消費したせいか、今の俺って結構腹ペコなんだよね。

 

「桃子さーん、買ってきたよー」

「あらあら、ありがとうと言いたいところだけど土足なのはどうかと思うわ」

 

ありゃ、瞬間移動したから忘れていたでござる。今度から気をつけます。

 

その後、桃子さんの命令で、今まで歩いた場所を雑巾掛けをすることに。それをやり終える頃には、丁度晩飯が出来ていた。

 

動いたこともあって、今日の晩飯の美味しさはここ最近で一番だった。

 

カレー、圧倒的美味ッ!




やっとでてきた、他転生者。

彼の能力とは一体なんなのだろうか(棒)

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