天気のいい昼過ぎ。きもちのいい風が吹いていた。何事もなければ穏やかな時間が遅れただろう。
だが、心中全く穏やかでない少女が一人。
ルイズだった。
朝食後、紅魔館の敷地内の広場に呼び出された。そこには既に例の魔法使い三人組が何かの準備をしていた。そしてそれが、ルイズの魔法を調べるためのものだと教えてもらう。だが準備の最中にギャラリーが多くなってきた。面白そうな実験をやると知って、レミリアやフランドール。その世話をするために咲夜まで来ていた。ついでに、どさくさまぎれに美鈴までもが覗いていた。
人目はできる限り少ないようにと期待してたのに、何故か全員集合。注目度がMAX。少なくとも吸血鬼姉妹は来ないと思っていたが、こうしている。日の下に出てきてニコニコしている。信じられない。日傘はさしているが。
そんなどうでもいい事に頭を使っていると、やがて準備が完了していた。パチュリーから声がかかる。
「ルイズ。この円形の中心に立って」
「う、うん……」
ルイズは彼女の言われるまま、円形の複雑な図形の中心に立った。
足元の図形は調査のためのもので、特に何か魔法が発動する訳ではないそうだ。一番上の姉のエレオノールが魔法の研究をしているが、細かな事は聞いたことがない。彼女もこんなものを使っているのかも、なんて想像する。
「さ、はじめてちょうだい」
一瞬現実から逃げていたのに、引き戻された。ついでに魔理沙の要望が入る。
「とりあえず、それなりにハデなのから始めてくれ。反応読みやすいから」
だが、ルイズにとってでかいも小さいもない。なにやっても同じなのだから。
その後ろでは目をキラキラさせている吸血鬼達。
「天才魔法使いなんでしょ。ちょっと楽しみよね」
「うん。面白そうだよね」
スカーレット姉妹の容赦ない声援が胸に突き刺さる。しかも天才魔法使いは確定らしい。話が大きくなっていた。
ルイズは声を濁らせながら、一応宣言。
「そ、それじゃぁ始めるわ」
「ええ」
ルイズは杖を前に差し出す。方向はパチュリー達と反対側。つまり背を向けて。そして小声で詠唱した。
派手な爆発が発生。狙った小石は跡形もなく吹き飛ぶ。最初にやった錬金の魔法。
「おお~」
後ろから感嘆の声が届く。フランドールなんか手を叩いて喜んでいる。
だが。
一方、ルイズはそれどころではない。問題はこれから。というか後がない。
そんな彼女の気持ちなんて知らず、アリスが声をかける。
「今度は軽めのにしてくれる」
「わ、分かったわ」
苦笑いで返事。
だが、頭の中は、次をどうするかでぐるぐる回っていた。ディテクトマジック辺りなら、それほどおかしな事にならないかも、なんて淡い希望を抱く。だが、そんなものが何度も打ち砕かれたのは経験済みだが。
しかし、またも爆発。予想通りであったが。
不思議そうな顔がルイズに向く。やはり苦笑いを返す。
「ちょ、ちょっと間違っちゃった」
「そう。まあいいわ。今度はしっかりやって」
「う、うん」
だが、何度やっても爆発、爆発、爆発。そんな事は始めから分かっていた事だった。ルイズだけ。
さすがにこれだけ繰り返すと、全員が怪訝な表情になるのも無理はない。
そして爆発の連鎖が止まる。ルイズはゆっくりと全員の方を向いた。不思議そうな顔が目に入る。
「ご、ごめんなさい!ほ、本当は魔法使えないの!」
なんか涙目。みんなの顔がよく見えない。もう必死で平謝りするしかない。
やがて涙を拭いて、まっすぐ前を向く。きっと全員激怒しているか呆れているかだろうと、それは甘んじて受けると覚悟して。
だが、それでも不思議そうな顔は続いていた。今度はルイズが不思議そうな顔。
まず魔理沙が口を開いた。
「でも爆発してるぜ?」
「あれは……失敗したから」
「失敗すると爆発する?」
ますます難しい顔をする魔理沙。次に尋ねてきたのはアリス。
「あなたの世界では、魔法を失敗すると爆発するの?」
「違うけど……」
「どうなるの?」
「何も起こらないわ」
「それじゃ、失敗すると爆発するのはあなただけ?」
「そうだけど……」
「…………」
アリスは口元に手をやって考え込む。最後にパチュリー。
「初めて魔法を練習した時から、こんな具合?」
「えっと……。詠唱がまともにできるようになってからかしら」
「詠唱ができてなかった頃は?」
「う~ん……。何も起きてなかった気がする……」
「ふうん……」
やがて三人の魔女はなにやら話しだす。そして一斉にルイズの方を向いた。
「もう少し続けましょう。今度はあなたの知ってる魔法一通りやってもらうわよ」
「え?でも爆発ばかりだけど」
「別にいいわ」
「そ、そう……」
ルイズが首を捻る。いったい何を期待しているのか。
ただ、しっくりしない空気の中、一つだけ分かっている事があった。そして、それに一番うんざりしているのが二人いた。肩を落として。
「つまり、これから爆発しか起こらない訳ね」
「つまんな~い」
吸血鬼姉妹だった。
「せっかく早起きしたのに。あ~もう、寝なおすわ」
そう言って、二人は屋敷へ戻っていった。咲夜も当然ついていく。ちなみに美鈴は、途中で咲夜に見つかって、追い返されている。
そんな彼女達の後姿を、ルイズは申し訳なさそうに見ていた。パチュリーがとりあえずフォロー。
「気にする事ないわ。明日には忘れてるわよ。とにかく続けましょ」
「う、うん」
それから休憩を挟みながら、夕食前まで実験は続いた。いつのまにやら広場は穴だらけ。これだけ長時間やった成果がこれかと思うと、ルイズは悲しくなる。
一方の三人の魔女はまるで気にしていないふう。それどころかどこか楽しそう。
その後ろから、ルイズが俯いて声をかける。
「ごめんなさい。こんな穴だらけにしちゃって」
「ああ、構わないわ。すぐ直すから」
「直す?」
それからパチュリーが魔法を唱える。すると見る見るうちに地面は元通りになった。ルイズはそれを唖然として眺めていた。後で知った事だが、パチュリーは四系統どころか七系統もの魔法が使えると。四系統以外に系統があるなんてハルケギニアでは知られてない。せいぜい虚無か先住魔法くらいだ。ますますルイズは彼女に羨望の気持ちを抱いてしまう。もっともハルケギニアの四系統とパチュリーの七系統が、同じ意味を持つとは限らない。と彼女は言っていたが。
それから十日間、実験は続いた。時間帯を変え、場所を変え、早く、遅く、連続で、間を置いて、とにかくいろいろ魔法をさせられる。回数も多いのでまるで詠唱の耐久レース。終われば毎回ヘトヘトになっていた。実家で姉にしごかれたのを思い出す。
ただ実家、いやハルケギニアと違い、辛さはそう感じなかった。というのも、ルイズの失敗魔法、爆発という現象を彼女達は一定の評価をしていたからだ。理由は単純、同じ事ができないから。ルイズにとってこれはまさに目から鱗、発想の転換だった。今までのみんなが使う魔法ができない自分というのから、違った事ができる自分へと考えが変わりつつあった。
そんなある日。研究を詰めると言って、実験はなしとなった。ここに来てはじめての休日と言える日となった。
「暇ね」
バルコニーの縁にひじを突きながらこぼす。目の前には豊かな緑が広がっていた。それにしても人が他に住んでいる気配がない。まあ妖怪はいっぱい住んでいるのだろうけど。
「ふぅ……」
ため息を一つこぼす。
今までは忙しかったが、それはパチュリー達の魔法研究に協力していたからだ。もちろん彼女が帰るために必要な事だが、彼女自身が何かを目指していて忙しいというのとは違う。つまりルイズはここ幻想郷では、帰る以外にとりたてて目標がなかった。だからこうして休日を与えられると、やる事がない。趣味が多彩という訳でもなかったのもあって。
「あら、ルイズ様。どうされました?」
ふと声の方を向くとメイドが立っていた。この館のメイド長、十六夜咲夜だった。
「暇なのよ。急に休みを貰っちゃって、何をしようにも思いつかなくって」
「でしたら、ちょっと付き合いますか?」
「何?」
「人里に買い物にいくんですよ」
人里。人間が住んでいる村があると聞いている。こんな妖怪だらけの世界だ。人間が固まって身を守るように住んでいるらしい。妖怪はそこで人間に手を出すのはご法度だとか。逆に言えば、外で手を出すのはかまわないという事になる。もっともそれについてもルールがある。最初は妖魔だらけの無法な世界と思っていた幻想郷だが、意外に規則だっていたりする。ますます妖怪というのは妖魔とはかなり違う存在かもと、ルイズは考えていた。
それはともかく、せっかくだからその人里というのも見てみたくもあった。咲夜の誘いに、さっそくうなずく。
「うん。行く」
「それでは、身軽なお洋服でお待ちください。準備が出来次第迎えに行きますので」
「分かったわ」
そう答えると、ルイズは部屋に戻る。
タンスの中の服を選ぶ。もっともこの服、全部借りたものばかり。こっちに来た時の一張羅はみんなボロボロで、仕方なく処分するしかなかった。ただ、マントだけは取っておきたいとしまってある。
動きやすい服を引っ張り出した。そして着替えは自分で。トリステインならメイドに手伝ってもらう所だが、ここのメイドは咲夜を除いて、使い物にならない。妖精メイドは格好こそそれっぽいが、いい加減でアテにならない。一度、手伝わせて酷い目にあった。文句をパチュリーに言ったが、妖精なんてそんなものだと流された上、一人でやる事を覚えた方がいいとすら言われえた。こあは一応ルイズ専属となっているが、本職は司書なのでやっぱりいろいろと不得手がある。結局、着替えを自分でするハメに。
それにしてもルイズの貴族としての感覚が、こっちに来て少しずつズレてきていた。ハルケギニアなら粗相をした平民メイドは厳しく罰する。しかしここは幻想郷。しかもメイドは平民どころか人間ですらない妖精。しかも罰しても効果がない。階級のない幻想郷の社会。しかも人間の他に妖怪が溢れている。それと社会生活を送っているのだから、なんとも表現しづらいイメージ。ハルケギニアのそれとは別の社会感覚が育ちつつあった。
ちなみに妖精が本当にいると知ったのも、ここの妖精メイドが切っ掛け。もっともハルケギニアで言う妖精とここの妖精が同じかどうか分からないが。そもそも、イマイチ妖精と妖怪の区別がついてなかった。
やがてノックといっしょに声がかかる。
「ルイズ様、準備はよろしいでしょうか?」
「いいわよ」
開いたドアから、少し大きめの手さげかばんを持った咲夜が見える。
二人は連れ立って、玄関、そして門へとたどり着いた。するとたまに見かける顔がそこにあった。
「さ、いきましょ。咲夜さん」
門番の紅美鈴だ。やけに大きなリュックを背負っている。
美鈴は門番という仕事上、ルイズとあまり顔を合わせる事がない。せいぜい魔法調査の時、たまたま庭の世話をしていた彼女と顔を合わせるくらいだ。ただ話した回数はわずかだが、彼女にとっては好印象の人物。だがこんな感じのいい相手だが、これでも妖怪。見かけも性格も、人間以上に人間らしい。またもルイズには常識ってものが、少し崩れていた。
ともかく、美鈴もどうも買い物に付き合うらしい。ルイズは一つ尋ねる。
「門番の仕事はいいの?」
「はい。一番の難敵がこっちに入り浸りなんで」
「難敵?」
そこに咲夜が口添え。
「魔理沙ですよ」
「ああ……」
思わずうなずく。実験の合間に美鈴と話をした事があったが、彼女の仕事のほとんどが魔理沙についてだそうだ。ルイズは召喚されてからしか魔理沙を知らず、彼女のこの館での悪行を話でしか聞いてない。そもそも魔理沙もアリスも別に紅魔館に住んでいる訳ではない。住まいはちゃんと他にある。そしていつもの魔理沙だが、紅魔館にやってきてはいろいろとやらかすのだそうだ。しかし今はパチュリーとの共同研究のため、いろんなものの利用許可が出ている。許可が出ている以上争う理由はない。そのためか、このところの美鈴の仕事は庭いじりの方が多くなってきていた。
もっとも美鈴がついていくのには、もっと別の理由がった。彼女がルイズに近づく。
「さ、行きますよ。ルイズ様、背中向けてください」
「え?どうする……。う、わあああああ!?」
美鈴はルイズを抱え空に飛んでいた。
「ちょっと、我慢してくださいね」
「ちょ、ちょっとなんで飛ぶのよ」
「人里までは遠いですから。歩いて行けない事はありませんが、飛んだ方が早いですから」
「そ、そう」
これがもう一つの理由。咲夜も飛べるが、人ひとり抱えながら人里まで行けるほど腕力はないので、美鈴の出番となった訳だ。
人里までを飛んでいく。眼下には緑と、その隙間にその人里から紅魔館へ続く道が、ちらちらと見えていた。ルイズはその景色にただ見とれていた。
「うわあ……」
「飛ぶのは、あまりなされないのですか?」
彼女を抱えながら美鈴が話かける。ルイズは小さくうなずく。あまりというか全く飛べないのだが。魔法を使えない彼女にとって、学院でよく見かけた飛ぶという行為はコンプレックスであり同時に憧れでもあった。
「それじゃ、もう少しサービスしましょう」
美鈴はそう言うと、高度を上げ、そしてまた下げたりと、少しばかり違う景色の幻想郷をルイズに見せた。かと言って驚かせるようなアクロバットな飛行はしない。ルイズはただただ空の浮遊感に浸っていた。
「美鈴。ついたわよ」
すると咲夜から声がかかる。ルイズは前をみると、家々が密集している所が見えた。
ルイズが考えていたよりも意外と大きい。それに距離はそうでもない。馬があれば、行き来するのはそんなに難しくないだろう。もっともその馬がないのだが。紅魔館のみんなは飛べるので、使う必要がなかったりする。
ともかく空の散歩は意外に短時間で終わる。少しばかりルイズはがっかり。そんな彼女の気持ちを察したのか、美鈴が話しかける。
「ルイズ様、またお時間があったら、いっしょに飛びましょう」
「うん。その時はお願いするわ」
ルイズの答えに美鈴は、柔らかい笑顔を返す。
やがて三人は高度を下げ、人里の門の手前に降りた。
門の先には並ぶ家並みが見えた。だがそれはトリステインとはあきらかに違う。石ではなく木でできた街並み。ルイズはぽかん口を開け、ただ見入る。紅魔館はなんだかんだで洋式の館。彼女も馴染んだもの多いので、住人達を除くと異世界という感覚が弱かった。だがここは明らかに違う。道も建物も行きかう人々の姿も。江戸から明治初期の色合いのある人里は、これぞ異世界だった。なんともいえない真新しい感覚が頭に入り込んでくる。もっともしばらくするとルイズには、豪勢な物置小屋が並んでいるような妙な感じにもなったりした。トリステインでは木で作る建物なんて、平民の家か物置小屋や馬小屋とかくらいなものだから。
人里と中を咲夜の買い物に付き合いながら進んでいく。店も珍しいが何よりも人間ばかりなのが珍しい。幻想郷に来てからというもの、人間じゃないのばかり見てきたのもあって。
「妖怪がいないのね。入っちゃいけないの?」
「そういう訳ではありませんよ。妖怪もたまに買い物に来ます。それでも人里ではあまり見かけませんけど」
「ふ~ん……」
やがて、買い物も一通り終わり、一服つこうかと、三人は軽い食事ができる所を探した。大通りを進むと、それなりの店がいくつも目に入る。だが三人は脇道に入っていった。ルイズにとってはどこの店でも新鮮そのものだが、咲夜と美鈴はせっかくだから掘り出しものの店に案内しようと考えていた。どこに案内してくれるのか、ルイズはちょっとばかり楽しそうに期待している。
「あ!あんた!」
だが、水を差す不穏な声が届く。振り向くと、彼女に身に覚えのある顔があった。エルフと翼人のハーフみたいな姿。以前ルイズが食べ物を強奪した時、ぶっ壊した屋台の主の妖怪だった。その後ろにはあの時みたランプもとい、提灯がぶら下がっている。どうも彼女の店の前らしい。
思わず、たじろくルイズ。
「げっ!」
「どこに行ったのかと思ったら、ようやく会ったわね。さ、弁償してもらうわよ」
弁償……。パチュリーに以前聞いた話だろう。まあ、身に覚えありすぎだが。
「う……。わ、分かったわよ。でも私はお金持ってないの」
「だから何?」
「その……えっと……。な、なんでもするわ」
ルイズは腹を決めて言う。メイドみたいなのやらされたりとか、貴族として受け入れがたい事もありうるだろう。だが、そんな事は言ってられない。それに自らの咎なら、自ら償わねばならない。そう考えた。
もっともこうルイズに思わせたのも、ミスティアが妖怪というのが実はあった。もしハルケギニアで平民が同じ事を言ってきたら、さすがに踏み倒しはしないものの、貴族としての見栄を捨ててまで償おうとはしないだろう。この妖怪というカテゴリーが、自然と同等のものと付き合うような感覚にさせていた。
だが、この妖怪は、そんなルイズの気持ちは無視。
「は?何言ってんの?私の仕事手伝うとか言うつもり」
「う、うん……」
「何ができんのよ」
「えっと……」
何ができると聞かれ、実は何もできない事に気付いた。そう、メイドすらできるのか怪しい。そもそも生産的な事は今までした試しがない。魔法はできなくとも座学では優秀だったルイズ。まるで何もできないとは、考えた事がなかったりする。
身の回りの世話はみな使用人任せ、魔法関連は魔法が使えないので当然できない。その他の政治や経営なんかはただの知識。実感としてはまるで印象がなかった。想像以上に何もできない事を、いまさら思い知る。
そんな、まごまごしているルイズを他所に、ミスティアは文句を並べる。
「あのね、臨時の給仕とかいらないから。給仕が必要になるか分からないし。それに必要ならずっと働く人を雇うわ。あんたはその内帰るつもりなんでしょ?」
「うん……」
「じゃあ、ダメね。ちゃんとお金揃えて持ってきなさいよ」
「う……」
言葉がでない。どうすればいいのか。
その時、咲夜が一歩前に出る。
「ミスティア。ルイズ様は、紅魔館のお客様よ。言葉には気をつける事ね」
「え?」
紅魔館の名前を聞いて、今度はミスティアがたじろく。
そして咲夜はルイズの方を向いた。
「何でしたら、こちらで用立てましょうか?」
「…………。い、いいわ。なんとか自分でする」
ルイズ、咲夜の心使いを断固として拒否。
確かに紅魔館の客人あつかいだ。それにこっちに召喚されたのもパチュリー達のせいだ。ルイズの面倒を見るのは彼女達の責任かもしれない。しかし、衣食住をただで与えられそれなり豊かな生活ができている状態は、少々肩身が狭かった。これ以上の好意は許されない。
しかし、そんな決意の彼女を、ミスティアは訝しげな表情で見る。
「できるの?どうやって?」
「え、その……なんとかするわ!」
ルイズ、実は勢いだけ。少々あきれていたミスティアだが、何か閃いたのか、急に表情が変わる。何か悪巧みでもしているような。
「そうだ。あんた、私の屋台使いなさいよ」
「屋台?」
「あんたが壊したヤツよ。もう直したけどね。ただ、人里でもう店開いちゃったでしょ。使う事なくなっちゃったのよ。それを貸してあげるわ」
「借りてどうするのよ?」
「私のヤツメウナギの蒲焼を売るの。ウチから卸してあげるわ。もちろんお金はあんた持ち。ただ稼げばそれで返せるわ」
「だからお金持ってないわよ」
「ツケにしてあげる。借金は増えるけど、稼ぐ手立てがないよりマシでしょ」
「う~ん……」
確かにお金をなんとかすると心に決めたものの、方法がまるで思いつかない。渡りに船かもしれない。直接店頭に立つというのは、貴族としては抵抗があったが、暗中模索よりマシだ。
だが咲夜はこの提案を信用してないのか、やや脅し気味に尋ねる。
「ミスティア。あなた何考えてるの?」
「べ、別に何でもないわよ。こっちとしてもお金返ってこないと困るし」
紅魔館のメイド長の怖さを知っている身だが、商店主として下がるわけにはいかない。
だが、ルイズは決断する。
「いいわ。あなたの提案受けるわ」
「そ。商談成立ね。それじゃ明日の昼頃、ここに来て」
「分かったわ」
「それで、えっと名前だったかしら?」
「ルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ」
「ルイズね。私はミスティア・ローレライ。夜雀よ」
「ミスティアね。それじゃ、また明日」
そう言って、三人はヤツメウナギ屋を後にする。
「いいんですか?ルイズ様」
「いいの。決めたの。全部自分でやるわ」
「そうですか……」
咲夜はどこか不安そう。なんだか妙な空気になった所で、美鈴が明るい声を出す。
「それじゃ私も手伝いますよ」
「ダメよ。美鈴にも仕事があるでしょ?」
「それはそうなんですけど……。魔理沙に警戒しなくてよくなりましたし。ほら、ルイズ様はまだ幻想郷には慣れてませんから」
「これから慣れるわ」
なんだか意地になっているルイズ。この決意は梃子でも動かないといった感じのまま、人里から帰る事となった。咲夜と美鈴は苦笑いを浮かべながら、顔を向け合う。二人の間に、なんかマズイという空気が漂っていた。