東方虚真伝   作:空海鼠

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主人公の名前が、雲仙君と同じであることに昨日気がつきました。


前日

人妖大戦の前日の夜。

キッチンにあった酒を一本持って、ベランダに行く。

 

「永淋」

 

永淋がいた。

 

「…何かしら、冥利」

 

「いや、酒でも呑まないかと思ってね。明日月に行くそうだし、月見酒と洒落込もうと」

 

言いながら、永淋の隣に座り、酒を置く。

 

「……ええ、私もいただくわ」

 

それからお互い無言で、酒を飲み出す。度数が強いのか、少し頭が重く感じる。

長い沈黙を破って話しかけたのは、僕の方が先だった。

 

「永淋、知ってたんだよな」

 

「…………」

 

黙り込む永淋。しかしここで黙るのはおそらく肯定の意を表しているのだろう。

 

「…僕に穢れがあって、月に行けないこと」

 

「…………」

 

そう、僕には穢れがあった。機械でも探知できないほどの、微量の穢れが。月夜見ほどの実力者でないと、触ってもわからなかっただろう。だがそれほどの量の穢れでも、月に持ち込む訳にはいかないらしい。『嘘をつく程度の能力』でもどうにもできない。きっと、僕の『嘘』そのものが穢れだから。汚さも、醜さも、卑しさも、みっともなさも、見苦しさも、裏切りも、偽善も、嫌悪も、全て受け入れると『嘘』をついてしまったから。その嘘がなければ僕は、壊れてしまうから。

だから僕は、月には行けない。

 

「永淋…。何で教えてくれなかったんだ?」

 

「…………言えるわけ、ないでしょう」

 

「………」

 

「三年間も、一緒にいて、二人で……。楽しかった、から。家族みたいに、思ってたからっ!!」

 

とぎれとぎれに言葉を発する永淋の目からは、涙が零れていた。

以外だった。

永淋は僕のことをモルモット程度にしか思っていなかったんじゃないのか。

僕の家族と呼べるような存在は、みんなそうだったから。

父親と呼ばれた人は幼い僕を蹴りつけた。母親と呼ばれた人は僕を道ばたに置き去りにした。

叔父と呼ばれた人は僕を犬に喰わせようとした。叔母と呼ばれた人は僕に石鹸を喰わせようとした。

祖父と呼ばれた人は僕を容赦なく殴りつけた。僕を引き取ったおっさんは僕が苦しむ様子を楽しんで眺めた。

僕の為に涙を流してくれる人なんて、一人もいなかった。

 

「……あは」

 

実の親から捨てられようと、どんな人から暴力を受けようと、何度裏切られようと、

ひとりぼっちであろうと、死ぬ間際にさえ、流さなかったはずなのに。流れなかったはずなのに。

 

「何だ……僕、まだ泣けるじゃねえか」

 

始めて、人として涙を流した。

涙腺なんて、とうに乾いてるものだと思っていた。

 

「冥利……この薬を飲んで」

 

いつの間にか泣きやんでいた永淋が薬を差しだしてきた。

 

「本当は不死の薬を作りたかったのだけれど…。老いと寿命がなくなる薬しか作れなかったの。ごめんなさい」

 

そうか。最近筋肉がついてきたのは不老不死の薬の試験品を飲んだからだったのか。

そういえば蓬莱の薬は飲むと激しい痛みと苦しみが伴うって設定があったな。初期の薬の副作用はそうでもなかったが、最近の薬の副作用は強かったのはそのためか。

 

「ありがとう」

 

そう言って飲む、と同時に全身を激しい痛みと苦しみが襲う。

 

「ぐっががっがあっがああがががあああがっあああああががががあああああああああああああああああああああああがががあああががあががあああああああああ!!!!!!」

 

そして僕は、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると永淋の膝枕だった。

いやマジで。

 

「体は大丈夫かしら?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

くだらないことを言えるのなら大丈夫だろう。おそらく、これで僕は老いと寿命が無くなった。

しかし、老いと寿命か。つまり外的要因で死ぬことはあるんだな。

ん……?ということは…?

 

「永淋。きみは月に行った後何をするんだ?」

 

「そうね…。普通に研究とかかしら?そうして、地上に降りるチャンスがあれば貴方に会いに行くのもいいかもしれないわね」

 

今の反応でわかった。永淋はみんなが月へ行った後、地上に核が落とされるのを知らない。

 

「そうか、じゃあそれまで生きてるよう努力するよ」

 

嘘だ。

正直核を防げる気がしない。防ぐ気もない。

今の気持ちを的確に表すとしたら、『体が軽い…こんな幸せな気持ちで死ぬのなんて始めて…。もう何も怖くない――――!』と、いった感じだ。

ん?シリアス?ああ、おいしかったよ。

 

「ええ。待ってて」

 

にっこりと笑う永淋に少しだけ罪悪感が別にわかないな。嘘なんていつもついてきたし。

 

「そういえば永淋、明日…出発の時だけどその時、妖怪が一斉に襲ってくるっていうのを知り合いから聞いてね。できればその時の防衛戦を僕に任せて欲しいんだ」

 

「冥利、寿命が無くなったからって言って、貴方は不死じゃないのよ。普通の人よりも若干死ににくくなってるけどそれでも死ぬ時は死ぬの」

 

そう。死ぬ時は死ぬ。だからこそだ。

 

「大丈夫、実は僕にもまだ言ってない秘密があってね。僕の能力なんだけど――――――」

 

 

 

「『あらゆるものを喰らう程度の能力』っていう能力なんだ」

 

 

 

どうせ死ぬなら、格好良く死んでやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




※ネタバレ・主人公は嘘つきです。

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